
意思決定のための 「分析の技術」 - 最大の経営成果をあげる問題発見・解決の思考法 という本をご紹介します。
本書の特徴
著者は元マッキンゼーの後正武氏です。分析技術の理論と具体例を体系的に説明しています。
初版は1998年です。現在までにビジネスや分析環境は変わっていますが、内容に全く古さは感じず、本質的なものでした。
本書の 「分析の定義」 「分析の目的」
本書では、「分析とは物事の実態・本質を正しく理解するための作業の総称」 としています。
強調するのは、何のために分析をするのかです。
本書には、分析とは、正しい認識と判断により、正しい対応をするためと書かれています。分析の目的は、正しい対応をするという 「次のアクションを明確にすること」 です。
分析の4つの基本
分析の基本は4つあるといいます。
- 大きさを考える
- 分けて考える
- 比較して考える
- 時系列を考える
以下、それぞれについて見ていきます。
1. 大きさを考える
分析の最初のステップでは、これから分析する対象がどの程度の大きさなのかをまず把握すべきと言います。大きさを捉え、全体での意味合いをつかみます。
分析ロジックの緻密さ等を論ずる前に、全体として大きさの程度・施策の利きの程度をおおまかに把握します。大きさにより重要度を判別し、優先順位に従って、あるいは大きいものだけ着手する、という考え方です。
大きさを考えるとは、別の表現をすれば 「分析の全体像を把握する」 ことでもあると理解しました。
分析をする際には全体を頭の隅にでも置いておかないと、ついつい小さいところに入り込んでしまいます。木の幹ではなく枝葉ばかりに目がいってしまい、ふと気づくと全体にあまり影響しないことに注力してしまわないよう注意が必要です。
まず大きさを考え全体像を理解し、その中でどの部分が重要なのかを判断します。見落とさないようにしたい分析の第一ステップです。
2. 分けて考える
分析の中にある 「分」 という字は、八 (左右に分ける意味がある) と刀が組み合わさっています。1つのものを2つ以上に分け、別々にすることを表した字だそうです。
分析で必ず行なうのが、要素に分けることです。分けることは分析の定石です。だからこそ、「何のために、どのように分けるのか」 の工夫が大事です。
どう分けるかに唯一の正解はありません。あるとすれば、何のためにという目的に応じて分けることです。
分けるときに注意したいのが、単なる知的興味からの思いつきで分解をしないことです。常に目的、つまり、何がわかれば意味のある結論を出せるのか、正しい次のアクションに結びつくのかを意識することです。
目的を達成するために、どういう分け方が必要なのかを考えることです。いくらきれいに 漏れなくダブりがない MECE に分けられたとしても、その結果が有効な打ち手につながらなければ、分け方がよくないのです。
分けることは、分析の重要な手段であるがゆえに、分け方が正しいか否かによって、その後の作業に要するエネルギーと成果とに大きく影響します。
3. 比較して考える
何かと何かを比較することも分析では必ず行ないます。
比較をする際に考えないといけないのは、それは意味ある比較ができるかです。Appe to Apple と表現するように、そもそも比較をしてよいものなのか、同じリンゴ同士を比較しようとしているかを考えます。
比較においても、何のために比べるのかの目的を明確にします。
比較をすれば何かしらの違いが出てきます。その差が分析には意味のある差かどうかです。2つのリンゴを比べれば、大きさ・色・形・味などを対等な条件で比較でき、意味のある比較です。しかし、比較がリンゴとミカンであれば、そもそも比較条件の前提が違うため、比べた結果からわかることに意味はありません。
本書は、比較をする際に、以下が注意点であると書かれています。
- できるだけ同じものを比較すること
- 異なるものを比較するときは、意味がありかつ比較できる指標を探すこと
- 似たもの同士を比較する場合も、同じ要素と異なる要素を正しく見分け、異なる部分の影響を勘案しつつ合理的な比較を心がける
何の目的で比較するかという明確な自覚を持つことです。
4. 時系列を考える
比較の指標に用いられるのは、前年比や前月比です。過去と現在を比較し、どう変化しているかを理解しようとするものです。
時系列分析の目的は、今の姿を過去という歴史に照らして把握し、将来に備えることです。分析で明らかになるのは現在と過去の違いですが、そこから未来はどうなるのかを考えることです。
時系列分析のポイントとして本書に書かれていたのは、過去から現在までの傾向や全体の流れを追いつつも、そこにどのような変化が起こりつつあるかを敏感に読み取る工夫や努力をすることでした。絶対量と変化に注目する、変化の意味を考える・要因を説明する習慣をつけておくなどです。
最後に
本書には分析の理論とともに、多くの事例が書かれています。具体例は筆者がコンサルティング案件で扱った内容が基になっています。本書からコンサルの分析手法が学べるのも特徴です。
一読で終わらすにはもったいないと思った本でした。
最後に、分析についての関連エントリーをご紹介します。
- 書評: 会社を変える分析の力 - データ分析をする時の4つの自問自答 (河本薫)
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