
2015年現在、人工知能 (AI) で最も注目されているのはディープラーニング (Deep learning / 深層学習) です。
ディープラーニングを使った Google の 「ネコ認識」 研究
ディープラーニングとは何かを理解するには、グーグルが2012年に発表した 「ネコ認識」 の研究がわかりやすいです。
- グーグルの公式発表 (2012年6月) Official Google Blog: Using large-scale brain simulations for machine learning and A.I.
- 発表論文 (PDF) Building High-level Features Using Large Scale Unsupervised Learning - unsupervised_icml2012.pdf
研究で実施されたことを簡単に書くと、次の通りです。
- YouTube 内の動画から約1,000万枚の画像を任意に抽出
- 画像をディープラーニングにかける
- コンピュータは、画像の中から人間やネコの顔の 「特徴」 を自らつくった (下の画像) 。その特徴から、人間やネコを判断できるようになった

引用:Official Google Blog: Using large-scale brain simulations for machine learning and A.I.
ディープラーニングの学習プロセス
何がすごいかと言うと、コンピュータが人間から 「ネコの顔の特徴はこう」 と教えられることなく、自らがネコの顔を学習し、ネコの顔の概念を獲得したことです。
ディープラーニング以前のマシンラーニング(機械学習)で同じことをやる場合、入力情報として 「これがネコの顔である」 と人間がコンピュータに示す必要がありました。
具体的には、ネコの画像だけを大量に見せ、そこからネコの特徴を理解するプロセスです。人間から教わりコンピュータは学習し、ネコの特徴を獲得したわけです。
ディープラーニングはこのプロセスと似て非なるものです。
学習へのインプット情報として与えられたのは1000万枚の画像で、その中にはネコの入っていない画像もあり、様々な情報が混在する大量の画像です。
そこから、コンピュータは自らの学習を通じて、人間に指示されることなく猫の顔の特徴を理解し、その特徴から猫の特徴を一般化したイメージを獲得し、それを画像としてつくることができたのです。その画像が上に示したものです。
自ら学習するディープラーニング
ディープラーニングがこれまでの人工知能と一線を画しているのは、自らが 「特徴」 を学習することにあります。
これによって、どんなインパクトがあるのでしょうか。
例えば、人とのコミュニケーションロボットがディープラーニングを持っている場合です。ロボットは自分の行動と、その結果に起こることの関係を学ぶことができるようになります。
人間に対して何をすれば人はやすらぎを感じるのか、何をすれば不快な気持ちを抱くのかです。こうしたことを、いちいち人間が教えることなく、ロボット自らが、自分で経験を重ね学習していきます。
人間で言うところの 「やってみてコツがわかるようになる」 という感覚が、ロボットも同じようにできるようになるのです。
因果関係を見つけられるか
もう1歩考えてみると、コツがわかるようになるというのは、ものごとの 「因果関係」 をロボット自らが獲得することを意味します。
例えば、マーケティングにディープラーニングを使うとどうなるでしょうか。
マーケティングには目的 (例: 売る) があります。その目的のために、アクションを取ります。マーケティング行動 → 結果という因果関係があります。
この因果関係をいかに発見し、実行し、結果を出すかこそがマーケティングの醍醐味です。
ここに、ディープラーニングが適用できれば、売るという目的を達成するための要因をコンピュータ自らが学習により発見することが期待できます。これまでは人間がやっていたマーケティング活動をコンピュータがするのです。将来的には、マーケティングの完全自動化も実現されることも考えられます。
企画書をつくり人を説得することについても、ディープラーニングによって、どうすれば説得力のある企画書に仕上げるかまでもコンピュータがやってくれるかもしれません。人が指示するのは、目的 (何のために誰を説得するか) を入力することだけです。あとは勝手に企画書ができあがります。
もっと進めば、コンピュータが知識を獲得していくでしょう。例えば、コンピュータに本を読ませ、どういうストーリーで書けば、人間が魅了される小説になるのかのコツを学ぶことができるはずです。
それを応用すれば、ヒット小説がコンピュータによって書かれる時が来るかもしれません。同じことを言うのでも、どういう文章で表現すれば読み手の琴線に触れられるのかです。そうしたコツをコンピュータは学習を通じて獲得するのです。
ディープラーニングという、コンピュータがものごとの 「特徴」 を自ら発見し、高次の特徴をつくり出すことができます。人工知能のこの可能性は、とても大きなものだと思います。様々な産業に応用でき、ひいては日常生活にも影響を与えるでしょう。
おすすめの関連本
ディープラーニングを理解するためにおすすめの本は、人工知能は人間を超えるか - ディープラーニングの先にあるもの です。
この本は、ディープラーニングについて、人工知能のこれまでの歴史、ディープラーニングの技術的な説明および課題、ディープラーニングの社会的な影響が、わかりやすく書かれています。
内容紹介より引用します。
グーグルやフェイスブックが開発にしのぎを削る人工知能。
日本トップクラスの研究者の一人である著者が、最新技術 「ディープラーニング」 とこれまでの知的格闘を解きほぐし、知能とは何か、人間とは何かを問い直す。