投稿日 2015/10/07

書評: ビジネスに役立つ 「商売の日本史」 講義 (藤野英人)




過去の歴史を学ぶ意義はどこにあるのでしょうか?過去の人間の営みを知り、現代に役立つ教訓や知恵を得ることです。

今回ご紹介したい本は ビジネスに役立つ 「商売の日本史」 講義 です。



エントリー内容です。

  • 本書の特徴
  • 外向きと内向きが繰り返す日本の歴史
  • 歴史から学ぶ現代への教訓


本書の特徴


この本は、日本史を、商売やお金の動き、つまり経済という切り口で書かれているのが特徴です。日本の学校教育での歴史は、主に政治観点で教えられます。政治の視点から歴史を解釈することも大切です。

しかし、本書を読んでわかるのは、政治という切り口だけでは、政治的な出来事が起こった背景が十分に理解できないことです。

政治と経済は密接に結びついており、政治的な動きのバックグラウンドには、経済の変化が起こっています。あるいは、時の権力者 (例: 幕府) による経済施策が人々の生活に強い影響を与え、それが政治の変化につながります。例えば、幕府の力が弱まり、倒幕に至った歴史です。


外向きと内向きが繰り返す日本の歴史


本書のベースとなっているのは、著者である藤野英人氏の大胆な仮説です。

「日本のお金は "外向き" と "内向き" の間を時代ごとにスイングする」 という仮説です。

本書では、内向きを 「ヤマヒコ」 、外向きを 「ウミヒコ」 と表現します。ヤマヒコとウミヒコは、古事記や日本書紀に登場する兄弟の神さまです。2人は対照的な性格をしています。


ヤマヒコ政権 (内向き) の特徴


ヤマヒコは国内志向です。経済は内需が栄えます。

典型的なのは鎖国を敷いた江戸幕府です。他には鎌倉時代や戦後の自民党政治にもヤマヒコの要素を見ることができます。昭和においては、道路などのインフラ整備が国家政策として推進されました。田中角栄の日本列島改造論がまさにそうです。


ウミヒコ政権 (外向き) の特徴


ウミヒコは、海外志向です。貿易に力を注ぐ傾向があります。

例えば、日宋貿易で権力を得た平清盛、日明貿易の室町時代、織田信長や豊臣秀吉などの戦国時代です。本書によれば、開国後の明治以降から戦前までもウミヒコの特徴があったと言います。


ヤマヒコとウミヒコが影響されたもの


日本が、ヤマヒコまたはウミヒコとなることに強い影響を及ぼした1つに、その時代の中国大陸の政権がありました。大陸に権力の強い政権や漢民族政権であればウミヒコ政権 (外向き) に、一方で弱い政権や非漢民族政権であればヤマヒコ政権 (内向き) になったようです。

政権がどの地域に基盤を置いたかにも影響を与えました。外向きや中国大陸との関係が強いウミヒコでは西側地域に、内向きのヤマヒコでは東京などの東側地域が中心となります。


時代ごとにヤマヒコとウミヒコが繰り返した


日本史を大きな流れで見ると、時代ごとでヤマヒコの性格が強い日本、ウミヒコの性格が強い日本が現れます。おもしろいと思ったのは、それぞれの特徴が交互にスイングするかのように、現代に至るまで歴史を重ねてきたことです。

ヤマヒコとウミヒコの時代・特徴を本書から引用すると、以下のようになります。




歴史から学ぶビジネスへの教訓


本書のもう1つの特徴は、各時代の出来事について、経済視点からの教訓を筆者が示してくれることです。「歴史に学ぶ経済法則」 として20個の教訓が書かれています。

歴史を学ぶことの意義は、過去の人間の営みを知り、現代に役立つ教訓や知恵を得られることです。本書では、現代への特にビジネスへの示唆が多くあります。本書のタイトルには 「ビジネスに役立つ」 とあります。


お金の流れの方向を見極めよ


印象深かったものを1つご紹介します。著者が示す経済法則として 「お金の流れの方向を見極めよ」 です。


プラットフォームを構築した平清盛


武士として初めて律令の最高位である太政大臣となった平清盛の話です。

平清盛は現代にも通じることを先駆的に行ないました。瀬戸内海を支配し、物流とそこでのマネーサプライを握ったのです。

清盛は貿易のための港を整備しました。当時の中国大陸を支配していた宋との日宋貿易から、多額の富を生み出しました。

瀬戸内海というお金とモノと人が集まるプラットフォームを構築したのが平清盛だったのです。平家は、貿易から様々なものを輸入しました。宋銭、陶磁器、薬品、香料、書籍などです。


お金の集まるところで経済は発展する


現代への示唆として、よりお金の多く集まる分野で経済は発展することです。どこに、どういう意図でお金が向かっているのか。企業レベルでも、個人レベルでもこの視点は大切です。

中世に琵琶法師が語り継いだ 「平家物語」 で、源平の戦いでは平清盛は悪役として語られました。しかし、「経済」 という視点で見ると、平清盛は違った一面を見せてくれます。

平清盛は、瀬戸内海での貿易活動を活性化させることで、「お金の流れをつくり、それを支配する」 ことを先駆的に行った稀有な人物だったのです。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。