2016/03/09

書評: エクサスケールの衝撃 - 次世代スーパーコンピュータが壮大な新世界の扉を開く (齊藤元章)




エクサスケールの衝撃 - 次世代スーパーコンピュータが壮大な新世界の扉を開く という本がおもしろかったので、ご紹介します。



興味深く読めたのは、書かれている未来です。エクサコンピュータ以後の世界です。

2016年現在からすると、にわかには信じがたい世界でした。その一方で、読み進めるうちに、未来の社会として、書かれている全てにではないものの実現を強く望む自分に気づきます。

本書で示される未来を簡単にご紹介します。


エネルギーが無尽蔵で手に入る


まず衝撃を受けるのは、近い将来にエネルギーがフリーになるとほぼ断定されていることでした。

人間の社会生活の原動力のベースとなるエネルギーが、ほぼコストなしに無尽蔵に算出されるようになると言います。

2016年現在、地球上の世界で抱えるエネルギー問題が、エクサスケールのコンピュータの恩惠でなくなると著者は断言します。それも容易に解消されるだろうと。しかも、100年後などの遠い未来ではありません。2030年頃という見通しです。

人類がエネルギー問題から解放されるだけでも驚くべき内容でした。興味深い内容はさらに続きます。


生活に必要なモノが無料で提供される


エネルギー問題というボトルネックが解消されることで、次にもたらされるのは、人々の生活の基礎となる衣食住が無料になることです。

生活必需品の全てが事実上無料で提供されるということは、生活者の立場で見ればお金を使う必要がなくなります。これにより、そもそもお金を稼ぐために働く必要がなくなると書かれています。

お金を得る以外の労働へのモチベーション、例えば社会貢献や自己実現のために働くことは残るので、労働が全くゼロにはならないはずです。

それでも、人類誕生以来、生きていくために自分の時間の多くを費やしていた 「仕事」 から解放されるとしたら、人類史上の大きな転換点になります。


病気や老化がなくなり、寿命からも解放される


エクサスケールのコンピュータがもたらすであろうもう1つの恩惠は、病気や老化がなくなり、そして寿命からも解放されることです。

病気の予防や診断、治療方法の進化により、人は病気にならなくなります。老化を制御することで不老が実現すると言います。

さきほどの働かなくてもよい未来と合わせて、不労と不老という2つのフロウからの解放がエクサスケールコンピュータによって実現されるだろうと書かれています。

お金や資本主義という社会形態も変わり、そもそもとしてお金を稼ぐために働くことも不要になります。

こうした、一読した段階ではとても信じられない未来が詳細に描かれています。


エクサスケールのコンピュータの貢献


興味深いと思ったのは、こうした未来が実現されるための技術的なアイデアは、すでに多くが存在している点でした。

しかし、研究や開発、あるいは実証実験が十分にできていない現実があります。そこにエクサスケールのコンピュータの活用が期待されています。

スーパーコンピュータによって、これまでは膨大な時間がかかっていた演算処理やシミュレーションを短時間で行えるようになります。

今までは時間がかかりすぎたために、現実的にできなかった技術の研究や製品の開発ができるようになるのです。


最後に


本書は総ページ数が 600 ページほどあります。内容は興味深く、一気に読み終えました。全ての箇所は精読しなかったので、もしじっくりと読めばある程度の時間は必要です。

もちろん、書かれていることが本当に、数十年以内くらいのタイムスパンで起こるかどうかはわかりません。

それでも、壮大なスケールで書かれている本書からは考えさせられることが多く、読んでよかったと思える内容でした。

一読の価値ありです。

最後に、内容紹介からの引用です。

2014年夏、ある新しい半導体が日本で誕生した。純国産プロセッサとして独自開発された同半導体は、画期的仕様と性能に加え、特筆すべき省電力性を備えている。

その大規模プロセッサを京速計算機 「京」 と同じ8万8128個使用した場合、理論上は 「京」 の128倍に上る性能を持つスーパーコンピュータが実現される。この性能は1.28エクサフロップスと言い表され、人類が初めて 「エクサ」 という数値単位の演算性能に到達することになる。

その数値単位の性能によるコンピュータ処理は 「エクサスケール・コンピューティング」 と呼ばれ、新たに 「前特異点」 とも定義すべき大きな変革をもたらす可能性を秘めている。

「エネルギーがフリーになる」 「働く必要のない社会が出現する」 「人類が不老を得る」 ……。

世界コンピュータ・ランキング消費電力性能部門 「Green 500」 で、独自技術により世界第2位を獲得した研究開発者が描きだす鮮烈な未来。



最新エントリー

多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にてマーケティングリサーチ マネージャー (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝 8km のランニングとピアノ。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。