#マーケティング #利用シーン #顧客拡大
ビジネスを成長させるには、既存顧客の満足度を高めるだけでなく、新たな顧客層を獲得することが欠かせません。では、どうすればいいのでしょうか?
ヒントは、すでにある既存商品の 「意外な使われ方」 や 「思いがけない利用者」 の中に隠れているかもしれません。
今回は、ユーグレナの事例をもとに、既存商品の意外な活用実態から着想を得て新たな市場を切り拓くポイントを紐解きます。
ユーグレナの子ども向けドリンク
ユーグレナ社が展開する 「からだにユーグレナ」 は、その名のとおりユーグレナ (和名: ミドリムシ) を原材料とした食品・飲料ブランドです。
ユーグレナにはビタミン、ミネラル、必須アミノ酸など、59種類もの栄養素がバランスよく含まれています。からだにユーグレナは、これまでは主に健康意識の高い中高年層に向けで展開していました。
ユーグレナが行った顧客アンケート調査では、子どもと一緒に飲んでいたり、子ども用に買っているという利用者 (親) の声が少なからずあることが判明しました。そこでユーグレナは、2024年8月に子ども向けドリンク 「いちごミックス」 と 「フルーツミックス」 を新たに発売しました。
子ども向けのユーグレナは、味の調整やパッケージデザインも子ども向けにあしらい、保存料や甘味料、着色料は不使用とし、カフェインやトランス脂肪酸も入っていません。さらに SDGs から資源循環への配慮を伝えるメッセージを表記するなどの工夫が盛り込まれています。
売上も好調に推移しているとのことです (参考情報) 。
ではユーグレナの事例から、どのような学びを得られるのでしょうか。
顧客の利用用途や利用シーンから得る新商品への着想
子ども向けのユーグレナで注目したいのは、お客さんの利用用途や利用シーンから新商品への着想を得たという点です。
親子で一緒に飲んでいるという声
ユーグレナは、さまざまな栄養をバランスよく補給したいと思う消費者をメインターゲットとしています。想定したい顧客層は高齢者が中心で、コアなユーザーの6割以上が60代を超えていたという状況でした。
しかし、実施したアンケート調査からは 「子どもと一緒に飲んでいる」 や 「子どものために買っている」 というお客さんが少なからず存在していることがわかりました。
想定していなかったお客さんの利用シーンに注目したことがきっかけに、子ども向けユーグレナのドリンク開発につながったのです。
一般的には、どの商品やサービスにも 「想定する注力顧客」 が設定されます。ただし、発売後にしばらく経ってからお客さんの利用状況をあらためて調べると、注力顧客ではなかった人が買ってくれていたり、一部のお客さんが売り手が想定していなかった使い方をしていることが判明するケースは珍しくありません。
顧客の利用シーンを元に商品やサービスに反映する
重要なのは、新しい顧客理解から得られた発見を、商品開発やマーケティングに反映する姿勢です。
調査によって、注力顧客として見落としていた層 (今回の場合は子ども) がよく飲んでいるという事実がわかっても、注力顧客ではないから関係ないと捉えてしまうのは機会損失です。
ユーグレナ社は、顧客アンケートや利用者の声をしっかりと受け止め、子ども向けに新たにユーグレナのドリンクを開発し、パッケージの刷新を行うことにより新商品をつくりあげました。
利用用途や利用シーンが新たな発見につながる
ビジネスでは 「誰が・いつ・どこで・どのような目的で・どんなふうに使うか」 という、お客さんの利用文脈への理解が大事です。
実在する一人ひとりのお客さんが実際にどんな場面で自社商品やサービスを使うかという利用用途や利用シーンを理解することによって、新しい発見につながります。
たとえば飲料ならば、大人向けの商品を想定していなかった子どもも使っていることがわかれば、「子どもが飲む際にはどんな味や容量が好まれるのか?」 や 「安心・安全面の基準は大人向けとは異なるのでは?」 といった問いが生まれ、商品企画に結びつきます。
ユーグレナは、子どもでも飲みやすいフルーツ系の味わいを用意し、甘味料や保存料を使用しないことで親にも安心を提供します。これらは実際の顧客の利用シーンを発見し理解したからこそできたアプローチです。
顧客層を広げることの重要性
新たに顧客層を広げたケースとしても、今回のユーグレナの事例には学びがあります。
従来の顧客層以外にも市場拡大を狙う
ユーグレナ社がこれまで培ってきたブランドイメージは、高齢者層の健康を気づかった食品・飲料の商品によって築かれました。
今回の事例でユーグレナが子ども向けの商品ラインアップを投入したことは、60代を中心とするコアユーザー以外に、ファミリー層という新たな顧客層を獲得する試みにほかなりません。
ビジネスを拡大し継続していくためには、既存顧客のリピートやロイヤルティを高めるだけでなく、新たな顧客層を取り込むことが必要になります。継続的な顧客拡大がビジネスの成長を支えるからです。
商品が持つ本質的価値 (コアバリュー) を異なる顧客層にも提案する
ユーグレナという素材は、栄養素が幅広く含まれていることが何よりの魅力です。ユーグレナの強みである 「59種類の栄養素」 というコアバリューは、高齢者の健康維持だけでなく、これから成長し大きくなる子どもにとっても価値があります。
だからこそ、健康意識の高い高齢者層だけでなく、子育て世代に対しても違和感なくアピールできます。豊富な栄養素をバランスよく手軽に摂れるという点を打ち出し、広い世代にアピールすることによって自社商品の持つ可能性を最大限に広げることができます。
また、SDGs や環境配慮への関心が高まる中、ユーグレナの資源を循環させるパッケージやプラスチック削減への取り組みは親にも子どもにも共感を得やすいポイントです。こうした自社商品のコアバリューを軸にし、アピール先を広げることが顧客層拡大につながります。
顧客設定の細分化
子ども向けのユーグレナでは、親と子どもを分けて捉え直し、親にも子どもにも飲みたくなる商品設計になっています。
顧客を細分化し、それぞれのニーズに対応する
子ども向けの商品開発を考えたとき、ファミリー層向けという大きなくくりとするケースは少なくありません。一方で今回の事例では、子どもと親ではニーズが異なることが意識されています。
親が重視するのは、子どもに摂ってほしい栄養価があり、保存料・着色料・人工甘味料が入っていなく安全性が高く飲んでも安心でき、また環境にも配慮されていることです。子どもは、味がおいしく飲みやすく、見た目もかわいらしいものを望みます。
このように、購入する人 (多くは親) と、実際に飲む人 (子ども) の双方にメリットがある設計を丁寧に行うことにより、親は安心して子ども用に買え、子どもは自分から冷蔵庫から取り出して飲みたいと思う商品が生まれるのです。
ターゲット顧客をともするとぼやかしてしまい、例えばファミリー向けとするよりも、「親 + 子ども」 と分けることで具体的になります。複数の顧客目線を併せ持つ細分化のアプローチです。
SDGs の要素を入れたパッケージ
子ども向けのユーグレナは、SDGs に紐づけたパッケージデザインになっています。"畳んでくれてありがとう" といったメッセージが表記されているので、紙パッケージをごみとせず、資源として循環させる SDGs の目標12 「つくる責任 つかう責任」 にかないます。
SDGs への意識が高まるトレンドでは、環境や社会貢献に配慮している商品への支持度は高まりつつあります。機能的な 「栄養素が豊富でおいしい」 だけでなく、感情的・社会的な 「サステナビリティや環境を大事にしている」 というブランドイメージを打ち出すことも、消費者への訴求点になります。
まとめ
今回は、ユーグレナの子ども向けのドリンクを取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ビジネスの成長には、既存顧客の維持や満足度向上だけでなく、新規顧客の獲得が欠かせない
- 既存商品の使われ方や顧客の利用シーンを定期的に見直すことで、想定外のニーズを発見できることがある。想定外の使われ方や利用者層に注目し、新たな商品開発のヒントを得る
- 商品が持つ本質的な価値 (コアバリュー) を、異なる顧客層の顧客文脈に合わせて提案することによって、新しい顧客層に訴求できる
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