#マーケティング #お試しのエンタメ化 #顧客体験の価値化
自社商品やサービスに、お客さんが 「欲しいけど、あと一歩が踏み出せない」 と感じる隠れた壁はないでしょうか?
商品自体は良いはずなのに、なぜか売上につながらない。その原因は、売り手が気づいていない買い手のちょっとした不安や試すにはハードルが高いという心理的・物理的な障壁にあるのかもしれません。
今回は、ドン・キホーテの 「100円プロテイン自販機」 を取り上げます。購入への見えない壁を打ち破り、本体商品の売上を2倍にした事例です。
ドンキの戦略には 「お試し」 を 「楽しい体験」 に変え、お客さんの心をつかむヒントが隠されています。
ドンキの100円プロテイン自販機
ドンキが 「プロテイン自販機」 を全国の店舗に設置を拡大しています (リリース) 。
まだ設置は一部店舗に限定していますが、ドンキのプロテイン自販機の特徴は1杯100円という手軽な価格で、その場でシェイクされたプロテインを試せるというものです。
数十秒で自動シェイクされたプロテインドリンクが紙コップで手に入ります。マイプロテイン、グロング、バルクス、アルプロンといった人気ブランドから、ココア、チョコレート、抹茶など色々な種類のプロテインが選べます。
プロテインは、買って飲むまで 「味がわからない」 「量が多すぎて気軽に買って試せない」 といった理由で、特に初心者にとっては購入のハードルが高い商品です。
ドンキのプロテイン自販機は、そうした消費者の困りごとを解決します。試験導入した店舗ではプロテイン本体の売上が2倍になるという成果を上げました (参考情報) 。
では、ドンキのプロテイン自販機の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
買うのをためらう 「購買障壁」 の特定と解消
ドンキの事例から学べる一つ目のポイントは、お客さんは欲しいという気持ちはあるのになぜ買うのをためらうのか、その要因である購買障壁を理解することの重要性です。
プロテインの場合、欲しいと思いながらも購入をためらう人の購買障壁を心理的な要因と物理的な要因に分けて見ていきましょう。
心理的な購買障壁
人の心の中にある心理的な障壁として、プロテイン商品に対して多くの人が抱くのは、味に対する不安です。「もし、まずかったらどうしよう」 「自分の好みに合うだろうか」 といった心配です。
プロテインはココアやバナナ、抹茶などの同じ味の表示でもブランドによって味が異なるため、買ってからイメージした味や自分の好みとは違ったと後悔する可能性を感じてしまいます。
また、選択肢の多さも心理的な購買への障壁となります。プロテインには 「ココア」 「ストロベリー」 「抹茶」 など無数のフレーバーが存在し、どのブランドのどの味が自分に合うのかは、実際に買って飲んでみるまでわかりません。選択肢が多すぎることが、かえって選ぶことへのストレスを生み出してしまうわけです。
他には、価格へのハードルもあります。一般的なプロテインは3000円から4000円ほどで売られていることが多く、味を試すだけのためにこの金額を支払うのは、プロテインの初心者にとってはハードルです。
物理的な購買障壁
心理的な要因に加えて、物理的な購買障壁も存在します。
プロテインの多くは 1kg などの大容量で売られています。もし自分の好みに合わないものを買ってしまったら、捨てるのももったいなく、かといって膨大な量を我慢してまで飲み続けなければならないという状況は精神的負担となります。
お試しをエンタメ化する
ハードルが高い商品の前に、手に取りやすいお試し商品を用意する。このアプローチ自体は珍しくありません。
ドン・キホーテのやり方で注目したいのは、プロテインを少量で自販機で販売することを単なるお試しにとどめなかったことです。
化粧品やシャンプー、サプリなどのサンプル (試供品) で通常されているような1種類の商品を試供品として提供するだけでは、消費者は複数の商品やブランドを比較検討することはできません。
ドンキは、グロング、バルクス、マイプロテイン、アルプロンといった複数の人気のプロテインブランドの多様なフレーバーを一つの自販機に集約しました。これにより、新しい購買体験になります。
選ぶ楽しみが生まれました。「今日はチョコレート味にしようか、それとも抹茶味に挑戦してみようか」 「この前は A 社のを飲んだから、今日は B 社を試そう」 といった、選ぶ行為そのものがエンタメになります。
比較する楽しみもあります。友人と一緒に来店し、「俺はこっちの味にするから、お前はあっちの味にしてみて、後で少し交換して飲み比べてみよう」 といったふうにです。変わりだねのフレーバーだとしても怖いもの見たさで試せます。
大容量のプロテイン商品では難しかった比較検討が、友人との楽しいイベントに変わります。
そして、これは 「新しい習慣の創出」 にもつながります。部活帰りの学生たちがジュース感覚でプロテイン自販機を利用するといったように、これまでプロテインに縁がなかった消費者層にとっても、気軽に立ち寄ってプロテインを試すという新しい機会への入口となっているのです。
このように、ドンキのプロテイン自販機は 「お試し」 という行為を 「選んで、比べて、楽しめる」 という体験自体が価値を持つエンタメ行為として機能しています。
顧客の困りごとの解決による価値実現
マーケティングの本質は、お客さんの困りごとを解決し、お客さんに価値を提供することです。ドンキのプロテイン自販機の事例は、この本質を体現しています。
トレーニングや健康に関心があり、プロテインを試してみたいと思っている人々。彼ら・彼女らの置かれた状況は、どのプロテインが自分に合うか分からず、失敗するリスクを考えると購入に踏み切れない。金銭的なリスクだけでなく、心理的なリスクも大きかったというものです。
ドンキが提供した解決策と価値
ドンキは1杯100円という手軽な値段と量で、複数の人気ブランドのプロテイン商品をサクッと試せる自販機を設置しました。
プロテイン自販機によって、安心という価値が生まれました。味を確認してから大容量の本商品を買えるため、買って後悔するかもという不安から解放されます。
次に発見という顧客価値もあります。今まで知らなかったブランドや、試す勇気がなかったプロテイン商品に出会え、自分のお気に入りを見つけることができるようになるという価値です。
そして楽しさという価値も加わります。選んで飲み比べるという行為自体がエンタメのようになり、購買体験そのものが楽しくなります。
顧客価値の創造がビジネスを成長させる
ドンキのアプローチは、単に商品を小分けにして低価格で売るのではなく、見込み顧客が抱える困りごとを見出し、欲しい気持ちはあるのに心理的・物理的な購買への障壁があることを理解し、馴染みがなかったり買うのを躊躇している人への 「きっかけ」 を提供するものです。
こうしたお客さんの目線になった価値提案と価値実現の結果として、プロテイン自販機を設置したことでプロテイン商品本体の売上が従来の2倍に伸びたという企業側の利益がもたらされたわけです。
ドンキの事例は、お客さんが困っていることは何かを洞察し、問題を解決することこそが最も強力な販売促進となり、ビジネスを成長させる原動力になることを教えてくれています。
まとめ
今回は、ドンキの100円プロテイン自販機の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 購買障壁の解消: 興味や欲しい気持ちはあるものの、プロテイン購入のハードルとなっていた 「味がわからない」 「高くて量が多い」 といった顧客の不安 (心理的・物理的な購買障壁) を、ドンキは自販機で1杯100円で気軽に試せるようにした
- お試しのエンタメ化: よくあるサンプル提供とはせず、複数の人気ブランドから 「選ぶ楽しみ」 や 「比較する楽しみ」 を提供。試す行為そのものをエンタメ性のある楽しい体験へと変えた
- 顧客価値の創造: ドンキはプロテイン自販機によってお客さんに 「失敗しない安心感」 「新しい発見」 「選ぶ楽しさ」 という顧客価値をもたらした。お客さんの困りごとを解決し、新しい価値を提供することこそがマーケティングの役割
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