#マーケティング #コミニュケーション #インフルエンサー
マーケティング担当者は、どうすれば自社のメッセージが生活者に届くのか、日々頭を悩ませているものです。
というのも、情報過多の消費者環境において、企業からの一方的な広告はますます人々に届きにくくなっているからです。
そうした中、味の素がユニークな取り組みを行いました。インフルエンサーを巻き込み9000万人の消費者と接点を持とうという意欲的な挑戦です。
今回は味の素の事例から、コミュニケーション戦略について考えます。
味の素中学校
味の素は年に2回、「食のワンダーランド」 と題したユニークな新製品発表会を開催しています。2025年春のテーマは 「味の素中学校」 でした。
イベントがユニークだったのは、参加した対象者と中身にあります。
招待されたのは、メディア関係者だけではなく、約30人のインフルエンサーでした。イベント会場では、味の素の社員がスーツではなく教師の格好をし、インフルエンサーは学校机に座って新商品のストーリーを学ぶという風景が見られました。
授業の後には 「文化祭」 と称した体験コーナーが用意され、「野球部の背徳飯」 「芋掘り体験」 といった7つのブースで、インフルエンサーは試食や撮影を楽しみました。
味の素の社員85人が直接参加して手作り感を演出し、商品への想いや熱さを直接伝える場にするイベントでした。
では、味の素中学校の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
企業やブランドからのコミュニケーションをどう手を打っていけばいいかに示唆があります。
PR first, advertising second
アル・ライズは、著書 「広告でブランドはつくれない」 で、"PR first, advertising second" という考え方を提示しました。
PR first, advertising second とは、ブランド構築において PR (Public relations) を最初に展開し、その後に広告 (Advertising) を活用するという順番を重視する考え方です。
PR によって、企業や商品情報であってもメディアからの第三者的な発信によって世の中への空気感や機運をつくり、下地を整えてから企業やブランドからの広告によって商品の認知や好意度を高めていくというアプローチです。
広告の前に広告が好意的に受け入れられやすい舞台をつくっておくことの重要性です。
企業から一方的に、顧客文脈に合わない広告は、受け手である生活者や見込み顧客にとっては 「ノイズ」 でしかありません。
せっかくの少なくない広告予算を使うのだからこそ、広告が雑音や邪魔な存在にならないためにも、下準備を整えておくことが大事です。
PR First の実践
では、今回の味の素のイベント事例を 「PR first, advertising second」 に当てはめてみます。
鍵となったのは、インフルエンサーを第三者的発信者として活用する戦略です。
インフルエンサーという第三者的なメディア
PR の本質は、信頼できる第三者からの発信によって、企業やブランドに対する好意的な空気感を世の中につくることです。
従来、その役割は新聞やテレビといったマスメディアが担ってきました。味の素の今回のイベント事例では、信頼できる第三者としてインフルエンサーに白羽の矢を立てたわけです。
ただし、単にお金を払って商品を宣伝してもらう 「案件」 では、その発信はインフルエンサー自身の声ではなく、企業の広告として受け取られてしまいます。そこで味の素は、「食のワンダーランド」 という特別な体験イベントの場を、PR のための舞台装置として用意しました。
ユニークで SNS に投稿したくなる体験を提供することにより、インフルエンサーに自発的に語ってもらうことを狙いました。
「案件」 ではなく 「ファン化」 を目指す意図
味の素のコミュニケーションで重要な点は、インフルエンサーとの関係構築にあります。
味の素は顔が見えないお金だけの関係になりがちな 「案件」 となってしまっては、愛着や熱量が生まれないと認識し、イベントによって 「ファン化」 に重きを置いたとのことです。
ファン化を実現するために、イベントは広告代理店任せにしませんでした。今回の 「味の素中学校」 では、味の素の研究所や事業部などから85人の社員が参加し、自らが教師役となって商品の魅力を伝えました。
社員の熱量や手作り感が、インフルエンサーの心を動かし、感情的なつながりを生み出したことでしょう。参加したインフルエンサーからは 「社員の皆さんのエンタメ魂が伝わってきて、味の素さんのファンになりました!」 という声が聞かれました。
お金で買われた言葉ではなく、心からの 「ファンになりました!」 という一言。これこそが、何よりも信頼性の高い第三者の声の源になるのです。
イベント開催中の2日間で約260人のインフルエンサーが基本無償で参加し、延べフォロワー数9000万人超への拡散が実現しました。
Advertise second の実践
PR によって好意的な土台が築かれた後、いよいよ広告の出番です。この段階での広告はもはやノイズではありません。
広告は 「ノイズ」 から 「待っていた情報」 へ変わる
例えば、この食のワンダーランドの後に味の素が 「野球部の背徳飯」 で使われた新商品のテレビ CM や Web 広告を流したとしましょう。
PR を体験していない人にとってはそれはただの新商品の広告です。しかし、インフルエンサーの投稿を見た人にとって、その広告は 「あ、あの時に ○○ さんが楽しそうに投稿していたイベントの商品だ!」 という文脈で受け取られます。
広告は企業から一方的に送りつけられるノイズではなく、すでにある好意的な消費者文脈と結びつき、答え合わせや待っていた情報に変わるわけです。インフルエンサーの投稿で生まれた興味や好意が、広告によって具体的な商品情報と結びつき、購買意欲を強く後押しします。
集中投資による広告効果の最大化
味の素は、インフルエンサーという 「レバレッジ (テコの原理)」 の効く接点に集中的に投資し、9000万人以上のフォロワーの中に味の素ファン予備軍をつくり出したと言えます。
広告予算を使うのだからこそ、広告が雑音となるノイズや邪魔な存在にならないための下準備が大事です。土台があるからこそ、その後の広告は高い費用対効果を発揮することが期待できます。
人々は広告を好意的に受け入れ、シェアし、商品を購入する可能性が格段に高まります。
まとめ
今回は、味の素が開催したイベント 「食のワンダーランド - 味の素中学校」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 企業から一方的に顧客文脈に合わない広告を出すと、受け手となる消費者にとっては広告はノイズや邪魔な存在になってしまいかねない
- そこで広告の前に土台をつくる。ブランド構築には 「PR が先、広告が後 (PR first, advertising second) 」 という順番から、まず PR 活動でブランドに対する好意的な空気感や文脈を世の中につくる
- 信頼できる第三者 (メディア, インフルエンサーなど) からの発信によって、企業やブランドへの好意度を高める
- PR で醸成された興味や関心に対し、広告は 「あの話は、この商品のことだったのか」 という 「答え合わせ」 のように機能させる。広告をノイズではなく 「待っていた情報」 へと変える
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