投稿日 2026/01/29

試して納得、買って愛着。Anker に学ぶ利用シーンをつくっての体験起点マーケティング

#マーケティング #利用体験 #価値実感

自慢の商品なのに、なぜか価格でしか比べられない⋯。自社商品がそんな状況に陥っていないでしょうか?

どんなに優れた商品を開発しても、その真の価値をお客さんに伝えるのは簡単ではありません。では、どうすればいいのでしょうか?

その答えは、お客さんが買うまえに体験してもらう仕掛けにあります。

今回は、モバイルバッテリーなどの製品群を展開する Anker (アンカー) の事例から、売り手が積極的にお客さんに使ってもらうという、商品の利用シーンを提供することの重要性とその方法を見ていきます。

Anker を使ってもらう仕掛け


出典: Anker

ご紹介したいのは、充電器ブランド 「Anker (アンカー) 」 の事例です。

飲食店、タクシー、ホテル、自社カフェなどで自社商品を使ってもらう仕掛けを展開しました。

具体的に順番に見ていきましょう。

飲食店での充電体験

Anker は、吉野家などの外食チェーンと連携し、来店客が Anker の充電器の性能を直接体験できるようにしています。

利用者である吉野家の来店客は、食事中の約 15 分間で自分のスマートフォンを実際に充電してもらうことにより、「こんなに速く充電できるなら、自宅でも欲しい」 と具体的な利用イメージや商品価値がわかります。

テーブル上に設置された USB Type-C ケーブルを通じて、iPhone 16 なら 0% から 25% まで一気に充電できるスピードを無料で体験できる仕組みを Anker は整えたわけです。

吉野家にとっては、設備投資を抑えながら、お客さんへの付加価値サービスが提供でき、「うまい、やすい、はやい」 に加えて食事中の快適さでも顧客価値を生み出せます。

タクシーなどの移動時間での利用体験

Anker は、日本交通のタクシー内のドライバー座席背面に Anker 充電ケーブルを設置し、タクシーの乗客が移動時間を有効活用して Anker 製品を試せる環境もつくっています。

移動中という限られた時間の中で、乗客は自然な流れで Anker 製品の充電スピードや使い勝手を実感できることでしょう。

タクシー会社にとっても、乗客満足度の向上につながるサービス向上が実現でき、他社との差異化要素となります。

ホテル客室での Anker 体験

Anker は、品川プリンスホテルや全国 5 ヶ所の 「変なホテル」 にも体験の和を広げています。Anker の充電器だけでなく、プロジェクターやスピーカーなどを配置した 「Anker Room」 です。

ホテルの宿泊客は、滞在中にスマホの充電はもちろん、保存してある動画や音楽を存分に楽しめる空間で、幅広く Anker 製品群を体験できます。

一方のホテルにとっては、Anker Room があることによって、客室の付加価値向上や宿泊料金やリピート率の増加も期待できます。

Anker カフェでの体験

Anker は、2025 年 5 月に東京・汐留に 「Anker Store & Cafe 汐留」 をオープンしました。

全席に充電ケーブルとワイヤレス充電器を設置し、Web ミーティング可能な会議室も用意。会議室内にはヘッドホンやスピーカーなど、いたるところに Anker ブランドの製品を配置しています。

カフェ利用者は、お店での休憩時や仕事でも Anker 製品を気兼ねなく使え、Anker の製品を知ったり、自分の日常生活や会社のオフィスでの利用イメージを実感できます。

カフェの中に Anker 製品がある空間というアプローチで、自然に商品が溶け込んだ環境をつくりました。

期待できる恩恵


Anker のような技術的な性能差が重要な製品カテゴリーは、実際の使用感を体験してもらうことが購入を後押しします。

そのために効果的なのが、企業が能動的に利用シーンをつくり出すことです。店頭でのお試し利用程度以上の、次のような意義メリットがあります。

いくつかあるので、順番に見ていきましょう。

五感での体験価値の提供

1 つ目は 「五感での体験価値の提供」 です。

商品の機能やスペックの説明だけでは伝えきれない充電スピードや使い勝手を、製品を実際の利用シーンで触れ、使い、感じてもらうからこそ、見込み客は本当に良いものかどうかを知ることができます。

購入への心理的ハードルの低減

2 つ目は 「購入への心理的ハードルの低減」 です。

見込み顧客からの 「本当に充電が速いのか」 や 「安全に使えるのか」 というモヤモヤ感や不安は、一度でも体験する機会があれば和らぐことでしょう。

食事中や移動中、宿泊中など、実際の利用のシチュエーションで無料で気軽に試せることで、購入への心理的なハードルを下げることができます。スムーズな購買プロセスを進んでもらえます。

第一想起の強化

3 つ目は、「第一想起の強化」 です。

吉野家やタクシー、ホテルで実際に Anker 製品を使ってみて、「こんなに充電が速いのか」 「普段使っている充電器とは全然違う」 と実感してもらえれば、「充電器といえば Anker」 という第一想起を高める流れをつくれます。

ブランド価値の向上

4 つ目が 「ブランド価値の向上」 です。

有名飲食チェーン店やホテルが、当たり前のように Anker 製品を採用している状況を見て、Anker へのブランドイメージが 「信頼できるブランド」 となることが期待できます。

そして 「ブランドロイヤルティの形成」 もあります。

いきなり買う前に、まずは実際に試してみて気に入ったから安心して購入したというプロセスを経ることによって、お客さんからのブランドへの信頼感は高まりやすくなります。

試して、買った後も 「良い買い物をした」 と肯定的に思ってもらえれば、お客さんは長くその商品やブランドを使い続ける可能性が高まります。広告や説明だけではなく、リアルな使用体験を通じての納得感は、ブランドへの愛着や親近感を生み、ファンになってくれることが期待できます。

ユーザー層の拡大

5 つ目に期待できることは、「ユーザー層の拡大」 です。

飲食店やタクシー、ホテルなどで Anker を試しに使った人から口コミや SNS 拡散の誘発され、その情報が Anker の新規顧客に届くことへの恩恵です。

お客さんが直接試したときに、期待以上の充電スピードや便利さがあれば、写真や動画とともに SNS にシェアされることが期待できます。

吉野家やタクシー、ホテルなどの日常的な場面だからこそ、「◯◯ で充電してみたら、すごく速くて驚いた!」 という投稿は、自然な口コミとしてまわりの人にも伝搬していくでしょう。

企業からの広告コミュニケーションとはまた違った、実際のユーザー体験ならではの信頼性があり、共感を呼びやすくなります。

パートナー企業との関係強化

そして、6 つ目の恩恵は 「協業先の収益増・サービス向上」 と 「パートナー企業との関係強化」 です。

これは自社の単独ではなく連携する相手企業がいる場合です。今回の事例では Anker にとってだけではなく、吉野家、タクシー会社、ホテルなど提携・導入先にとっても、Anker 製品を設置することで新たな付加価値をお客さんに提供でき、顧客満足度向上やサービスの差異化が見込めます。

顧客満足度が向上すれば導入先の売上やリピート率向上につながるので、自然ともっと有効活用できないかという姿勢になり、Anker とパートナー企業の双方が協力して販促に取り組む好循環を生み出します。

Anker とパートナー企業、さらには消費者とも Win-Win となるビジネスモデルが成立します。

* * *

このように、製品の利用シーンを能動的につくることは、購入障壁を取り除き、実際に体験した人が納得の上で購入や継続利用をしてくれるという流れをつくります。

SNS 拡散や口コミなどを通じて新規顧客を呼び込み、企業と導入先の両方において収益機会を拡大する歯車がまわります。

まとめ


今回は、Anker の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントとして、利用シーンを能動的につくる意義をまとめておきます。

  • 売り手が積極的に商品・サービスの利用体験を提供することにより、商品説明だけでは伝わらない使用感や効果を顧客自身がリアルに体験し、商品の本当の価値を理解してもらえる

  • 購入への心理的ハードルを下げる。自分に合うか、本当に良いものかといった購入前の不安を実際の体験で解消できる。購買を後押しする

  • ブランドへの信頼と愛着を育てる。試して納得して買うというプロセスがブランドへの信頼感を高め、長く使い続けてくれるロイヤルカスタマーになってくれることが期待できる

  • 利用体験によるリアルな体験談が、売り手からの広告とは異なる自然な口コミや SNS 投稿がされれば、それが新たな顧客を呼び込む

  • 体験の場を提供するパートナー企業がいれば、相手にも集客や顧客満足の向上に貢献すれば Win-Win の関係を構築できる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。