投稿日 2026/02/02

マーケターは "仲人" であれ。「顧客」 と 「魔法」 を結びつけるマーケティングのはじめ方

#マーケティング #顧客理解 #仲人

ことの 「本質」 を見失ったまま 「手段」 に走っていないか――。

今回は、マーケティングの本質とは何か、そしてマーケターに求められる本当の役割とは何かについて考えます。

マーケティングとは


社長や事業責任者から 「マーケティングを強化するぞ!」 という号令がかかった時、多くの企業では決まってこんな話になります。

マーケティングを強化したものの…

最新のマーケティングオートメーション (MA) ツールを導入しよう、 Web 広告の予算を増やそう、インフルエンサーを探そう、SNS でバズる投稿を考えよう、見栄えのいいホームページにリニューアルしよう。

もちろん、これらは間違いではありません。しかし、これらは全て 「手段」 でしかないのです。

料理に例えるなら、最新の調理器具や高級な食材を買い揃えている状態です。でも、肝心の 「誰に、どんな料理を届けたいのか」 が決まっていなければ、最高の料理は作れません。

手段から始めてしまうと、最新の高価なツールを導入したけど使いこなせない、広告費をかけたのに全く反応がない、ホームページを外注して作り直したのにアクセスされないといったことが起こることでしょう。

ここには、最も大切な 「本質」 が抜け落ちています。

では、マーケティングの本質とは何でしょうか。

マーケティングの本質は 「選ばれる理由」 をつくること

マーケティングとは、「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。活動全般と言っているように、マーケティングを広く捉えています。

お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。こうしたことへの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていけます。ひいては自分たちのビジネスも存続できます。

お客さんから自分たちが選ばれるのを偶然に頼るのではなく、自社商品やサービスが意図的に選ばれる確率を高めるのがマーケティングの役割です。

お客さんの立場になることの重要性

ビジネスで忘れてはならない前提があります。

選ぶという行為の最終的な決定権は、常にお客さんにあるということです。企業側の論理だけで 「これが良い製品だ」 「この機能が優れている」 と主張しても、それだけではお客さんの心は動きません。

マーケティングの出発点は、常にお客さんです。

 「誰に」 価値を届けたいのか、そしてそのお客さんは 「なぜ」 他の商品ではなく自社の商品を選んでくれるのか (あるいは、選んでくれないのか) 。お客さんの立場に立って、深く、そして具体的に理解することが大事です。

マーケターに求められる役割


では、どうすればお客さんに選ばれる状態をつくれるのでしょうか?

ここで紹介したいのが、「Knowing the user, knowing the magic, and connecting the two.」 という考え方です。

Google のマーケティングの考え方

私の前職は Google でした。Google には 5 年 5 ヶ月いてマーケティング部に所属していました。

Google のマーケティングの考え方に、こんな言葉があります (参考情報 / 詳しくは Google のグローバル マーケティング担当責任者とマッキンゼーとのインタビュー対談記事に書かれています) 。

英語ですが、「Knowing the user, knowing the magic, and connecting the two.」 です。

顧客を知り、自社の魔法を知り、その 2 つを結びつける――。

この考え方を一言で表すなら、「マーケターとは顧客と商品の縁をつくる "仲人 (なこうど) " のような存在である」 ということです。

腕のいい仲人さんを思い浮かべてみてください。お見合いをする 2 人の片方のプロフィールだけを見て、「この人は年収が高いからオススメですよ!」 なんてことは決して言わないはずです。

その人の価値観として大切にしていること、人生プラン、家族に対して抱いているイメージなどを深く理解しようとします。同時にもう一方の相手のことも、その人の素敵なところ、ユニークな魅力、譲れない想いを深く理解しようとするでしょう。

そして、両方を深く知っているからこそ、「この 2 人なら、きっと素晴らしい関係を築けるはずだ」 と確信をもって引き合わせることができるわけです。

マーケティングも、これと全く同じ構造を持っています。

Knowing the User - お客さんを、本人以上に深く知る

仲人としてマーケターの 1 つ目の仕事は、お客さんを本人以上に深く知ることです。

お客さんを中心に据える 「顧客起点」 や、「顧客理解」 という言葉は、今や聞き飽きるほど耳にします。しかし、本当にできている会社は実は多くないのが現実です。

顧客理解には、大規模なアンケート調査や予算をかけた市場調査は必要ありません。今日からできることがあります。

  • 長く商品・サービスを使ってくれているお客さん 5 人に、 1 時間ひたすら話を聞きに行く。「どのように使っていますか?」 「他ではなく、この商品を選んでいただいているのはなぜですか?」 と
  • 営業担当者の商談に同席させてもらう。お客さんがどんな言葉で悩みや喜びを語るのかを直接感じる
  • 問い合わせメール、 SNS のコメント、お客様窓口の記録、営業担当者の日報を、宝物だと思って読み返す


そこには、「価格が安いから」 といった表面的な理由の奥にある、お客さん自身も気づいていないような心の奥底の心理が隠されているはずです。

このように、愚直にお客さんに会いに行って、お客さんのことを深く理解することが 「Knowing the user」 で、マーケティングの最初の一歩なのです。

Knowing the Magic - 自社の 「魔法」 を言葉にする

マーケター (仲人) の 2 つ目の仕事は、自分たちのことを知ることです。

Knowing the magic と Google では表現しますが、ここでいう 「Magic (魔法) 」 とは、自社商品やサービスが持つ、お客さんの問題解決への貢献や日常生活をより良くする特別な力を指しています。商品やサービスはお客さんに魔法をかける存在であると捉えるわけです。

そして 「魔法を知る」 とは、商品・サービスへの理解です。

機能や使い方はもちろんのこと、なぜこの商品は生まれたのか、開発者はどんな想いを製品に込めたのかという背景情報も含まれます。他のどこにも真似できない、自分たちだけの強み、こだわり、商品コンセプト、譲れない哲学は何か。

これは会社の内部にいる人ほど気づけないものもあることでしょう。自社商品の存在が 「当たり前」 になってしまっているからです。

創業者や社長に 「この事業を始めた時の想い」 をあらためて訊いてみると、熱い物語が出てくるはずです。工場や開発室にいる職人気質のベテラン社員に 「仕事の一番のこだわりは何ですか?」 と聞いてみると、普段は無口なその人が目を輝かせて語り出すかもしれません。他には、製品が新発売された当時のニュースリリースがあれば、そこには製品に込めた想いが書かれているはずです。

こうした物語にこそ、自社が持つかけがえのないお客さんへの 「魔法」 が眠っているのです。

Connecting the Two - 2 つを結びつけ 「選ばれる理由」 をつくる

お客さんの置かれた状況や心の奥の気持ちと、自社だけが持つ魔法。両方を深く理解すれば、2 つを結びつける運命の赤い糸が見えてきます。

例えば、ある地方のメーカーのこんな話がありました。

顧客の声に耳を傾けると、「海外製の安い部品はすぐ壊れる。納期も不安定で困っている。高くてもいいから、とにかく頑丈で、絶対に納期を守ってくれる部品が欲しい」 というニーズを知りました。

一方、その会社の魔法は何だったか。それは、創業以来、どんなに非効率と言われても守り続けてきた 「安全な製品を作る」 「絶対に手抜きをしない」 という職人たちの誇りと、求められた納期は納期を守るという誠実な企業文化でした。

この 2 つを結びつけたとき、新しいコンセプトが生まれます。「御社のビジネスを絶対に止めない、という約束と信頼」 。これが、この会社がお客さんから選ばれる理由になります。

お客さんから選ばれる理由があって初めて、「このコンセプトを体現するために、どのツールを導入するか」 「このメッセージを届けるために、どんな広告を打つか」 という手段の話が意味を持ちます。

マーケティングのはじめとおわり


マーケティングのはじめ方は、いきなり最新ツールを導入することでも、闇雲に広告を打ったり SNS をはじめることでもありません。

マーケティングのはじめ方

お客さんと自社商品の縁を結ぶ 「仲人」 として、まずはお客さんと自分たちのことを深く知ることからです。

マーケティングをこれまで本格的にやってこなかった企業も、顧客起点になりたいと願っている企業も、まずはたった 1 人でいいです。1 人のお客さんに 「最近、いかがですか?」 と話を聞きに行くことからはじめられます。

そして、この 「仲人」 という仕事は、なにもマーケティング部だけのものではありません。

お客さんの最前線にいる営業担当は顧客理解のプロのはずです。製品につくる開発担当は魔法を生み出すプロです。

 「うちの商品は誰にどんな魔法をかけているのか?」 。この問いを社内で共有し、対話をはじめることが、会社を強くする本当のマーケティングを実行するはじめの一歩になります。

どんなときも、まずはお客さんに向き合うこと。自らお客さんと向き合い、何が顧客価値になるのかを考え、仮説をつくり、施策に落とし込みんで実行する。失敗したらそこから学んでいくことが大事です。

マーケティングは続く - 終わりなき顧客理解の旅

最後に、ビジネスをやっていく上で忘れないようにしたいことがあります。

それは、「お客さんの理解にはどこまでいっても終わりがない」 ということです。

生活者環境やビジネスの世界は常に変わっています。諸行無常の世界です。その環境に身を置く生活者や企業も影響を受けて変わります。

仮に今の時点でお客さんのことをよく理解できたとしても、その直後から少しずつでも確実にお客さんは変化していきます。よって、顧客理解ができたからといってそこでやめてしまうと、変わり続ける 「お客さんの行動や心理の実態」 と 「自分たちの認識」 のギャップが生まれ、かい離していくのです。

マーケティングは顧客理解に始まり、決して完璧になることはありません。だからこそ、お客さんの理解は続いていきます。

マーケティングとは 「終わりなき顧客理解の旅」 のようなものです。旅に終わりはありませんが、その旅をやめないことで、お客さんから選ばれ続ける理由をつくり続けられます。

まとめ


今回は、あらためてマーケティングとは何かについて考えてみました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 

  • 選ぶという行為の最終決定権はお客さんにあり、マーケティングの出発点は常にお客さんである

  • マーケターは 「仲人」 のような存在。顧客を知り (Knowing the user) 、自社の魔法 (顧客価値) を知り (Knowing the magic) 、その2つを結びつける (Connecting the two) という役割を担う

  • 顧客理解は表面的な事象や言動だけではなく心の奥の気持ちまで、自社商品の理解は機能や使い方にとどまらず想いや哲学まで深く知ることが大切

  • マーケティングは 「終わりなき顧客理解の旅」 。環境とお客さんは常に変わり続けるため顧客理解に終わりはない


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。