#マーケティング #新規事業 #戦場の選択
今回はビジネスで重要な 「戦場の見極め」 について、予備校大手である河合塾の事例から掘り下げていきます。
戦力と戦い方が活きるのは戦場次第
ビジネスで重要なのは、「どこで戦うか」 という戦場の見極めです。「どうやって戦うか」 の前に、「どこで戦うか」 という戦う場所を定めることが大事です。
ビジネスにおいて、どこで戦うのかという戦場を選ぶのは戦略の前提になります。
戦いの前提となる 「戦場」 の選択と理解
戦い方という方法論の前に、前提としてどういった環境や状況に身を置いているのかという戦場の特性を理解することが大切です。
戦い方は、それを取り巻く環境や状況という戦場によって変わります。自分たちがいるのはどのようなビジネス環境なのかという 「戦場」 の特性、持っている 「戦力」 を把握することが先決なのです。
自社の強みを活かせる戦場を選択することで、大きな企業ではない小さな企業や商品が生き残り、成長する道を見つけることができるのです。
自分たちが注力する戦場は、顧客ニーズと競合の動向、そして自社の強みにもとづいて、柔軟に進化し続ける必要になります。
戦場の次は 「戦力」 の把握
戦場の後に戦力がきます。
戦場を理解した後で次に考えるべきは自身の戦力、すなわち、持っているスキルや利用可能なリソースのことです。
戦場によって活かせる戦力は変わり、逆に言えば自分 (たち) の戦力を理解し、戦力をどの戦場で活かすかを考えることが重要だということです。
戦場と戦力があっての 「戦い方」
戦場の特性と自らの戦力を理解した上で、戦い方を決めることが大事です。
「どこで」 「誰に」 「何を」 「どうやって」 という、戦場、戦略、戦術、そして実行まで整合性を持たせることが大切です。
では、具体的な事例として、学習塾大手の河合塾の新規事業をケーススタディに、「戦場を決める重要性」 について詳しく当てはめていきます。
河合塾の事例に学ぶ 「戦場」 の見つけ方
日本では少子化の波は容赦なく教育業界を襲っています。河合塾も例外ではありません。
そこで河合塾は、既存の予備校市場から新たな市場に果敢に挑戦しました (参考情報) 。
[事例 1] 試験運営代行サービス
河合塾が最初に目をつけたのは、試験運営のアウトソーシング市場でした。
予備校市場が縮小する一方で、各種団体は深刻な人手不足に悩まされています。国家資格試験から検定試験まで、あらゆる試験の運営に必要な人材確保が困難になっているわけです。
河合塾はこの状況に着目し、試験運営の外注ニーズが急速に高まっている市場を新たな戦場として選択しました。
この市場はまだ成熟しておらず、「試験運営の外注と言えば河合塾」 というポジションを確立できる可能性が十分にあるということです。
河合塾は、まずは国家資格試験や検定試験という明確なニーズがある領域から参入し、徐々に市場での存在感を高めていく戦略をとりました。
河合塾には70年以上にわたる模試運営の実績があります。
全国各地で実施される模試のために構築してきた会場確保ネットワーク、試験監督スタッフの育成・管理システム、不正防止や緊急時対応のマニュアル、そして大規模試験を滞りなく運営する能力。これらは一朝一夕には得られない貴重な事業資産です。
自社の予備校事業で当たり前のように行ってきた業務が、他社から見れば高度な専門性を持つサービスでした。
試験運営代行サービスでの河合塾の戦い方は明確でした。
会場手配から当日運営まで、試験に関するすべてを丸投げできるワンストップサービスとして展開することです。
発注側にとっては、複数の業者とやり取りする必要がなく、すべてを河合塾に任せられる利便性は大きな価値となります。
さらに、教育機関としての長年の実績は、試験の公正性・正確性を担保する上で信頼の証となります。既存の事業資産を活用することで、新規参入企業よりも低コストでサービスを提供できる点も競争優位性につながりました。
[事例 2] 非認知能力測定テスト
次に、教育分野の新しいニーズを捉えた河合塾の非認知能力測定テストの事例を見ていきましょう。
従来の偏差値中心の評価から、粘り強さや協調性といった数値化しにくい能力の評価へ。教育改革の流れとともに、この市場は急速に拡大しています。
予測困難な未来への対応力を測りたいという新たな需要が生まれ、河合塾は、この教育評価の転換点を新たな戦場として捉えたのです。
河合塾がこれまでの受験生への模試作成で培ってきた問題設計・採点・分析技術は、非認知能力の測定にも応用できました。
膨大な受験生データから能力を測定する統計的手法、そして全国の学校との強固なネットワーク。これらの事業資産は、認知能力の測定から非認知能力の測定へとシフトする上での基盤となりました。
テストを作るという本質的な能力は変わらず、測定対象を変えるという発想の転換が新市場への参入を可能にしたのです。
河合塾は段階的な市場開拓を選択しました。
まず中高生向けに非認知能力測定テストの実績を作り、その後に大学生や社会人へと対象を拡大していくというアプローチです。
教育心理学の知見を活用し、測定の妥当性を科学的に示すことで、新しいテストへの信頼を獲得していきました。
河合塾の特徴は、認知能力と非認知能力の両方を測定できる機関というポジショニングです。偏差値も非認知能力もどちらも河合塾で測定できるという包括的なサービス提供です。
[事例 3] 海外展開 (ウズベキスタン)
3つ目は、国内から海外へと戦場そのものを移した事例です。
国内の少子化市場から海外に目を転じると、新興国では基礎教育の質向上を求める声が高まっていました。
河合塾は JICA (国際協力機構) の事業提案に採択され、ウズベキスタンという具体的な国から海外展開をスタートさせました。
JICA という公的機関を通じた参入は、教育という繊細な分野において信頼性を確保する上で重要な意味を持ちました。
日本では当たり前とされる教育方法が、実は世界的に見れば独自の価値を持っていることに河合塾は気づきました。
全員が一定レベルに到達することを目指す日本式教育システム。基礎計算力を身につける体系的カリキュラム、教師育成のノウハウ、そして学力測定・評価システム。これらはすべて、河合塾が長年かけて磨き上げてきた戦力でした。
ウズベキスタンでの事業展開は、本格的なコミットメントを示すことから始まりました。
河合塾は現地法人の設立により、一時的な支援ではなく継続的な事業として取り組む姿勢を明確にしました。JICA を通じた公的支援として展開することで、営利目的だけでない教育への貢献という側面も打ち出しています。
将来的には、ウズベキスタンでの成功モデルを他の新興国へ横展開していく戦略を描いています。
河合塾が示す戦場選択のポイント
河合塾が展開する3つの新規事業には、成功に至る共通の戦略パターンが見えてきます。
既存事業の延長線上でありながら、まだ強力な競合がいない新しい市場 (戦場) を的確に見つけ出している点です。
そして、予備校事業で培ってきた自社の「戦力」を、新しい戦場の文脈に合わせて巧みに転用しています。特定セグメントで小さく始めて成功モデルを確立し、そこから大きく育てていくアプローチも共通します。
戦略の根幹にあるのは、「予備校と言えば河合塾」という既存のブランドイメージに安住するのではなく、「試験運営と言えば河合塾」「非認知能力測定と言えば河合塾」 などの新たなイメージを次々と構築しようとしている点にあります。
戦場ごとに異なる顧客ニーズを把握し、自社の戦力を最適な形で展開する。データや実績が少ない新しい市場であっても、既存事業で築き上げた事業能力や信頼性をテコにして参入障壁を乗り越える。
河合塾の事例は、縮小する市場で戦い続けるのではなく、自社の戦力が最大限活きる新たな戦場を見つけ出し、そこでの戦い方を最適化することの重要性を示しています。
まとめ
今回は、河合塾の新規事業を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 「戦場」 を決めることが戦略の前提。どう戦うかという方法論より先に、どこで戦うかを定めることで、顧客への価値の出し方が決まる
- 戦場の特性と自社の戦力を適合させる。選んだ戦場の環境 (競合状況や顧客ニーズ) を理解し、自社が持つスキルや資源などの事業資産を棚卸し 「どこで・誰に・何を・どうやって」 を一貫させる。戦力は戦場によって活き方が変わる
- 戦力に合った戦い方を設計する。戦場の特性と自社の戦力を理解した上で、最適な戦い方を決定する。自社の強みが最大化される場所で戦えば、限られたリソースでも勝ち筋が見えてくる
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