投稿日 2026/01/28

JINS の壊れないメガネ 「JINS 360°」 に学ぶ、お客さんから 「選ばれる理由」 のつくり方

#マーケティング #顧客設定 #価値実現

自社の商品やサービスは、なぜお客さんに選ばれているのか、その理由を自信を持って説明できるでしょうか?

もし少しでも答えに詰まるなら、日々のマーケティング活動が 「点」 で終わっているのかもしれません。広告や商品開発はしていても、ひとつひとつがつながらず、お客さんに 「選ばれる決定的な理由」 まで昇華できていないという状況です。

ヒット商品には、お客さんに選ばれ続けるための共通した "型" が存在します。今回は JINSの 「壊れないメガネ」 を題材に、その型を6つのステップで解き明かします。

JINS の壊れないメガネ 「JINS 360°」 


出典: JINS WEEKLY

JINS が発売した 「JINS 360° (ジンズサンロクマル) 」 は、壊れにくさを徹底的に追求したメガネです。

生まれた背景には、顧客の切実な悩みがありました。

JINS がアプリユーザー約3,000人を対象に実施した調査で、ひとつの事実が判明しました。

JINS のアプリユーザーなので、メガネを使っている人の 94% の人がメガネを破損した経験があり、そのうち 45% (1,336人) がヒンジ部分の破損を経験していたのです (参考情報) 。

破損の原因として多かったのは 「寝起きでうっかり踏みつけてしまった」 「暗くて床に落ちていることに気づかず踏んだ」 「子どもが踏んだ」 といった日常的な事故でした。

この問題を解決するために開発されたのが、上下左右にツルが動く JINS 独自の 「全方位可動ヒンジ」 です。

ヒンジ内部にバネを搭載することで、踏みつけなどで強い力がかかっても衝撃を分散させ、破損を防ぎます。その耐久性は約150kgの荷重にも耐えるほどです。

JINS 360° は定番のボストンやウェリントンなど12種類を展開しています。価格は標準のクリアレンズ込みで12,900円と、特別な技術を使いながらも手頃な価格です。

* * *

では、JINS の壊れないメガネ 「JINS 360°」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

今回の話は、マーケティング活動のお手本となる事例です。

マーケティングとは


あらためてマーケティングとは何でしょうか?

 「マーケティングとは何か」 を言語化しておきましょう。

マーケティングの本質

マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 です。活動全般と言っているように、マーケティングを広く捉えています。

お客さんに選ばれるとは、商品を買ってもらえる、使ってもらえる、来店してくれる、指名されることです。こうしたことへの 「選ばれる理由」 をつくり、商品やサービスがお客さんから選ばれ続けることによって、商品は生き残っていけます。ひいては自分たちのビジネスも存続できます。

お客さんから自分たちが選ばれるのを偶然に頼るのではなく、ビジネスの文脈では自社商品やサービスが意図的に選ばれる確率を高めるのがマーケティングの役割です。

選ぶという行為の主体者はお客さんです。誰に、なぜ選ばれるのかを解像度高く理解することが重要になります。

全社的な活動

以上のようにマーケティングを捉えると、マーケティングは専門化された機能にとどまらず全社的に関わる活動だと言えます。マーケティング活動をするのはなにもマーケティング部だけではなく、マーケティングにはマーケティング部以外の企業内のあらゆる人が関わり、かつ実践したい考え方とスキルなのです。

先ほど、マーケティングとは 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 と定義しましたが、「活動全般」 と表現にしたのは、マーケティングは社内の一部門だけでやるのではなく、会社全体で取り組む活動という意味を込めてのことです。

マーケティング活動の全体像



✓ マーケティング活動の全体像
  1. 注力するお客さんを決める
  2. そのお客さんのことを理解する
  3. 困りごとを解決する商品を用意する (なければつくる) 
  4. お客さんに商品の魅力を伝え、買ってもらう
  5. お客さんに商品を使ってもらうことで価値を生む
  6. お客さんに他ではなく自社商品を選んでもらえる状態をつくる


では、JINS の壊れないメガネ 「JINS360°」 に当てはめて順番に見ていきましょう。

[Step 1] お客さんを決める

JINS が最初に行ったのは、明確なターゲット設定でした。

メインターゲットは 「メガネを壊した経験がある人」 。JINS の調査結果ではメガネを使っている人の 94% という多数の人たちが該当しており、市場規模の大きさが確認できました。

その中でも特に JINS が注力したのは子育て世代です。子どもがいる家庭では、メガネが壊れる可能性が高まります。実際の販売データでは、当初想定より女性の購入割合が高いという結果も出ており、日常生活でメガネの破損を心配している層の存在が浮き彫りになりました。

[Step 2] お客さんのことを理解する

次に JINS が取り組んだのは顧客理解でした。

アプリユーザー約3,000人を対象とした大規模調査により、メガネユーザーが抱える具体的な困りごとや不都合な点が明らかになりました。先ほども触れたように 94% がメガネを破損した経験があり、45% がヒンジ部分の破損を経験していたわけです。

破損シーンも分析されました。「寝起きでうっかり踏みつける」 「暗くて床に落ちていることに気づかず踏む」 「布団の上に置いてお尻で潰す」 「子どもが踏む」 といった、誰もが経験しそうな日常的な事故が原因でした。

こうした消費者調査により、メガネの破損は特別な事故ではなく、日常生活の中で起こりうる身近な問題であることが明らかになったのです。

[Step 3] 困りごとを解決する商品を用意する

注力顧客の困りごとが明確になったところで、JINS は商品開発に着手しました。

解決策として開発されたのが 「全方位可動ヒンジ」 です。ヒンジ内部にバネを搭載し、上下左右にツルを動かせる構造により、約 150kg の荷重に耐える設計を実現しました。

商品展開も戦略的に進められました。ボストン、ウェリントンなど定番型を中心にラインナップを12種類を用意し、幅広い顧客ニーズに対応。価格も標準クリアレンズ込みで12,900 円と、他社にはない技術を採用したメガネながらも、手に取りやすい価格に設定されました。

さらに 「JINS 無敵コーティング」 という傷に強いレンズもセットで提案し、フレームだけでなくレンズの耐久性にも配慮したメガネを提供しています。

[Step 4] お客さんに商品の魅力を伝え、買ってもらう

商品の魅力を伝える方法として、JINS が採用したのが体験型マーケティングでした。

店頭では、プレス機で実際にメガネを潰す様子が体験できます。来店したお客さんからは 「本当に潰しても大丈夫なのか?」 と不安そうな声が上がるものの、実際に試して元の状態に戻ることを目の当たりにし、納得感が得られその場で購入する人もいることでしょう。

JINS はデジタル施策も充実させました。JINS 360° の専用ウェブサイトを開設し、YouTube 動画でプレスで潰す様子を公開。視覚的にも強度の高さを訴求します。

商品名においても、「JINS 360°」 という覚えやすい名前は、ツルが360度動くという商品特性を端的に表現します。「全方位可動ヒンジ」 の商標登録も出願し、技術的優位性を確保しています。

[Step 5] お客さんに商品を使ってもらうことで価値を生む

販売後の顧客価値をいかに実現するかが重要なポイントです。

JINS 360° を使うことにより、お客さんは日常生活でメガネは壊れないという安心感が得られます。踏んでも壊れない、子どもがいても安心、寝起きの事故でも大丈夫という価値が、実際の使用シーンで実感されるのです。

この価値提供が功を奏し、発売以来、売上は計画比 10% 増で推移。特に子育て世代から高い評価を得ており、想定以上の成果を上げています。

[Step 6] お客さんに他ではなく自社商品を選んでもらえる状態をつくる

最後のステップは、お客さんから継続的に選ばれる仕組みをつくることにあります。

JINS 360° は全方位可動ヒンジという JINS の独自技術により、技術的優位性を確立しました。お店でのプレス体験という他のメガネ店舗にない購買体験も、強力な差異化の要素です。そこから 「壊れないメガネ = JINS 360°」 というイメージも確立されていくことでしょう。

JINS の自社アプリを通じたお客さんとの継続的な顧客接点を持っておくことにより、今回の商品開発のようなお客さんの声を反映した取り組みを続けられます。

* * *

JINS 360° は、マーケティングを 「お客さんから選ばれる理由をつくる活動全般」 として捉え、全社的に取り組んだ好例と言えます。

マーケティング部門だけでなく、商品開発から店頭販売まで一貫して 「壊れにくさ」 という価値を体現し、消費者に実感してもらう仕組みをつくり上げました。

まとめ


今回は、JINS の壊れないメガネ 「JINS 360°」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめとして、マーケティング活動の全体像です。

  1. 注力するお客さんを決める
  2. そのお客さんのことを理解する
  3. 困りごとを解決する商品を用意する (なければつくる) 
  4. お客さんに商品の魅力を伝え、買ってもらう
  5. お客さんに商品を使ってもらうことで価値を生む
  6. お客さんに他ではなく自社商品を選んでもらえる状態をつくる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。