投稿日 2010/06/27

LEGOに見るユーザーイノベーション

デンマーク語で「よく遊べ」を意味する"leg godt"。この言葉がもとになる社名の玩具メーカーがあります。世界130ヶ国以上で販売を展開しているLEGO。デンマークに本社を置くレゴは、世界に4億人ものレゴブロックユーザーを持つそうです。

日経ビジネス2010.5.24号に「4億人が遊ぶ最強玩具『レゴ』 ヒット商品は素人(ユーザー)に学ぶ」という特集が組まれていました。この記事の中で、「ユーザーイノベーション」というレゴが考えるマーケティングが取り上げられています。



■ユーザーイノベーションのきっかけ

日経ビジネスの記事では、レゴの商品開発について書かれていました。商品のアイデアを外部、つまり顧客であるユーザーにも求めており、同社のクヌッドストープ社長は「レゴのニーズは誰よりもファンが知っている」と言います。個人的に注目したのは、顧客から欲しい商品のアイデアを聞くだけではなく、一部の商品では実際の開発まで顧客に関わらせている点です。

ですが、もともと同社は積極的に顧客の声を活用しているわけではなかったようです。分岐点になったのは、98年に発売された「マインドストーム」。マインドストームとは、レゴでロボットを組み立てられる商品セットで、ロボットを制御するソフトウェアが組み込まれています。レゴはプログラムを内蔵させ、実際にロボットを動かす仕組みを用意していました。

同社にとって予想外だったのは、一部のファンがこのブログラムを解析し自分の好きなように書き換え、さらにはそのコードがネット上に公開されたことでした。こうなるとコード情報は瞬く間に広まり、次々にオリジナルな動きをするロボットがユーザーの間で開発されます。当初、この状況にレゴ経営陣は激怒し訴訟も辞さない構えまで見せたそうです。

しかし、この流れに逆らえないと見るや、レゴはある決断をします。ひとまず様子見をし、さらにはソフト改良を奨励する姿勢までとったのです。今では、レゴが開設するネットサイト「LEGO CUUSO(レゴ空想)」にユーザーが自分の欲しいレゴ製品を提案し、他の会員からの一定の支持が得られればレゴが商品化を検討するというビジネスモデルに取り組んでいます。このように、レゴが認定したファンを開発メンバーに迎えるような関係を築いているのです。これについてクヌッドストープ社長は「我々は顧客の欲しいレゴを提供する。それを、レゴが作ったか、顧客が作ったかということにこだわりはない」と言っています。



■ユーザーイノベーションとは

上記はレゴの例ですが、ここではユーザーイノベーションをもう少し一般化してみます。日経ビジネス記事には以下のような「レゴが考えるマーケティングの3ステップ」が記載されていました(図1)。


前述のマインドストームの開発者であるソレン・ルンド氏は、企業のマーケティングには顧客との関わり度合により、3段階があると解説します。

(1)マスマーケティング
*定量・定性調査により消費者データを集め、それらを基に商品を開発
*今でも主流のマーケティング手法

(2)コミュニティマーケティング
*商品やサービスの固定ファンの声を拾い上げ、商品開発につなげる

(3)ユーザーイノベーション
*企業と顧客が一体となって商品開発を行なう
*顧客との距離を縮めるのに重要なのは、双方向のやりとりを繰り返すこと



■ユーザーイノベーションの実践

記事にもあり個人的にも同意なのは、「ユーザーイノベーションは新商品を開発する上でのあくまで1つの手法にすぎない」という点です。これは例えばアップルの事例を考えると、その企業内に確固たる哲学があり圧倒的な使いやすさやサービス提供などの商品力があれば、不要ですらあるように思えます。

一方で、企業だけでは顧客の求めているニーズに必ずしも沿った商品開発ができるとは限らないこともあり、この場合にはレゴのようなユーザーを商品開発に巻き込むことも有効なのではないでしょうか。

無論、言うが易しで実践するにはリスクも当然存在します。このような中、リスク以上のリターンをを得るために重要なこととして、記事では次のように書かれています。
・ 中には苦情の声もあるが、真摯に対応すること
・ 企業として顧客に何を提供したいかのメッセージを明確にする
(世界観をしっかりと顧客に提示する)

企業としての顧客への提供価値。これがぶれることなく顧客との双方向の対話ができて、初めてユーザーイノベーションが実践されるのではないでしょうか。


投稿日 2010/06/26

政府の役割と成長戦略とは



「断絶の時代」という著書において、ドラッカーは政府の役割を次のように言及しています。
The purpose of government is to make fundamental decisions, and to make them effectively. The purpose of government is to focus the political energies of society. It is to dramatize issues. It is to present fundamental choices. 
政府の仕事は、意思決定を行うこと、しかも意味ある正しい意思決定を行うことである。社会における政治的なエネルギーを結集させることである。問題を浮かび上がらせることである。選択を提示することである。  
「断絶の時代」p.252から引用

日経新聞の10年6月24日付の朝刊の「経済教室」は、「新成長戦略 ~方向性を問う~」という企画で、早稲田大学・谷内満教授の投稿でした。タイトルは「『供給サイド』こそ重視を」。サブタイトルは「カギ握る規制緩和 法人減税は財源が必要」でした。

記事内容はとてもわかりやすく、かつ簡潔にまとまっていたように思いました。記事内容を参考にしつつ、状況整理をしてみます。

■日本の課題 (低成長・低生産性国)

1990年代の日本経済について、「失われた10年」と評してきましたが、最近では00年代も合わせて「失われた20年」という表現を目にします。

このように過去20年の間、日本は長期的な低成長国に陥っています。一方で、「経済教室」記事では、日本は欧米諸国と比べ、低生産性国である指摘しています(図1)。


従って、谷内教授は「高齢化が急速に進む日本では、生産性を高めて経済成長を引き上げることが、極めて重要な課題」であると述べています。

■政府の役割

○民主党の「成長戦略」

では、日本が経済成長を図るうえで、政府の役割はどのようなものなのでしょうか。6月18日に閣議決定された「新成長戦略」が公表されました。その中で、「強みを活かす成長分野」として以下の7分野を挙げています。
  1. グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略
  2. ライフ・イノベーションによる健康大国戦略
  3. アジア経済戦略
  4. 観光立国・地域活性化戦略
  5. 科学・技術・情報通信立国戦略
  6. 雇用・人材戦略
  7. 金融戦略

○政府には成長産業は選べない

上記の各分野の専門家ではないので、中身の詳細の是非は省略しますが、そもそもの論点として「政府が今後の成長産業を選定できるのか」という議論があります。

正直なところ、個人的にはこれは難しいと思っています。というのも、成長産業はわざわざ政府が選ばなくても、市場原理に任せておけば自然と投資資金が回ってくるはずで、それを政府がやるということは税金が使われることにもなり、リスクをとって失敗した場合も結局は国民が負担することになります。

ちなみに、「経済教室」で谷内教授も以下のように主張をしています。
  • 政府が将来の成長産業を選び出す政策(ピック・ザ・ウィナー政策)には限界がある
  • すべての産業、すべての企業・個人事業者が、経済全体の成長を支える可能性を持っているという視点が重要

○政府の役割

そこで、政府の役割です。記事では、「政府がとるべき政策は、そうした民間の創意工夫と競争を促進することである」と書かれていましたが、その通りだと思います。

その理由は記事に書かれている以下の通りだと思うからです。
  • 経済活動の中核を担っているのは民間企業
  • 民間企業の創意工夫と競争が、生産性向上と、活発な投資による資本の量・質の向上を通じて、成長を高める
  • 成長政策は経済の供給サイドに働きかけるべき

■成長促進政策

記事では、現在の日本に求められる成長促進政策として、規制緩和、法人税引き下げ、労働政策が取り上げられています。以下、簡単ですが、書いておきます。

規制緩和
  • 成長促進政策として、規制緩和は重要
  • あらゆる分野で不要な規制を撤廃・縮小することが重要だが、中でも農業、医療、介護といった分野は規制が特に厳しい
  • 規制緩和によって民間の活力を引き出す余地が大きい

法人税
  • 法人税率を引き下げるべきだと主張
  • ただし、法人税減税で財政がさらに悪化することになれば、成長促進とはならない。なぜなら、すでに先進国で最悪の日本の財政をさらに悪化させれば、いずれ長期金利の上昇につながり、民間の投資が抑制されて、低成長に追い込まれるから
  • 従って、法人税率引き下げは、消費税率引き上げと、歳出削減とのセットでの抜本的な見直しが必要になる

労働政策
  • 派遣労働者などに対するセーフティーネットの拡充は必要
  • だが、正社員が正しい働き方で、非正規は望ましくないから規制するという考え方は問題
  • 多様な働き方と、企業や産業の浮き沈みに対応できる弾力的な労働移動が、今の日本に求められている
  • 解雇時の金銭補償のルール化などにより正社員の解雇規制を緩和して、正規と非正規の不当な格差を縮めることが求められる

★  ★  ★

冒頭で記載したドラッカーが言うように、政府の仕事は、「意思決定を行うこと、しかも意味ある正しい意思決定を行うこと」だとすると、実行は競争環境に身を置いている民間企業だと思います。

政府の役割は民間企業が正しく競争できる環境を用意することまでで、成長分野までを政府が選ぶことは不要ではないでしょうか。

今回の日経「経済教室」は、そんなことをあらためて考えさせてくれるものでした。


※参考資料

「新成長戦略」についてPDF (6/18閣議決定内容)
http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/04/06/20100618_shinseityousenryaku_honbun.pdf



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投稿日 2010/06/19

マーケティングとイノベーション(と超サイヤ人)

■マーケティング

マーケティングについて、P.F.ドラッカーは次のように述べています。

The aim of marketing is to make selling superfluous. The aim of marketing is to know and understand the customer so well that the product or service fits her and sells itself.
(マーケティングの目指すものは販売を不要にすることである。つまり、顧客を理解し、製品やサービスを顧客に合わせることで自ら売れるようにすることである。)

補足ですが、ドラッカーの著書である「断絶の時代」には次のように書かれており(p.51)、上記の「マーケティングは販売を不要にする」というのは、おそらくこの状況も念頭に入れてのことではないかと思います。
「ほとんどの企業は、マーケティングのことを、製品を売り、引き渡すことによって報酬を得るための体系的な活動としか理解していない。」

書籍「断絶の時代」には、二つの意味でのマーケティングが必要であると説きます(p.51)。すなわち、(1)顧客の観点からのマーケティング、(2)イノベーションとしてのマーケティング。それぞれポイントを引用すると以下のようになります。

(1)顧客の観点からのマーケティング
わが社の製品のための顧客という考え方をしてはならない。「わが社の製品」を考えているかぎり、マーケティングではなく販売について考えているにすぎない。重要なことは、顧客の期待・行動・価値観である。
顧客は、求めているもの・必要としているもの・期待しているものにしか関心をもたない。顧客の関心は常に、この製品あるいはこの企業が自分に何をしてくれるかだけである。

(2)イノベーションとしてのマーケティング
真に新しいものには出来合いの市場はない。新製品は期待を生み、満足をもたらす。したがって、市場を創造するためのイノベーションがマーケティングには必要である。
新技術は新市場を必要とする。しかし、それがいかなる市場となるかは、実際に需要が生まれるまでは見当がつかない。



■イノベーション

このようにドラッカーが言うマーケティングには二種類があり、後者にはイノベーションが必要であるとしています。ではイノベーションとは何でしょうか。

「ゴールは偶然の産物ではない FCバルセロナ流 世界最強マネジメント」(フェラン・ソリアーノ アチーブメント出版)という本にはイノベーションについて興味深い言及があります。この書籍には、イノベーションについて以下のような表が記載されています(p.237)。



■最後に (ネタ)

イノベーションについてちょっと考えていたのですが、ふと超サイヤ人ってイノベーションではなかったかと思いました。超サイヤ人が登場した場面を少し振り返ってみると、超サイヤ人が登場したのはフリーザ編でした。フリーザの圧倒的な強さの前に次々の悟空の仲間がやられていきましたが、親友のクリリンがフリーザに殺されたことで、ついに悟空が伝説の超サイヤ人となります。ちなみにWikipediaによると、超サイヤ人になると戦闘能力が50倍になるそうです。

超サイヤ人は上記のイノベーションの表で言うところの、例えば「2.新しい見方」が当てはまる気がします。超サイヤ人が登場する前の「変身」は、満月時の大猿化であったりフリーザやザーボンの変身がありましたが、超サイヤ人の登場以降、セル編の超サイヤ人が第三段階まで変化したり、魔人ブウ編では「超サイヤ人3」まで発展しており、これらの変身に伴い戦闘能力は飛躍的に増加しています。ちなみにベジータが地球に襲来した時の戦闘力は1万8000、フリーザ第一形態は53万でしたが、超サイヤ人になってからは戦闘能力は何百億レベルとかになっているはずです。

悟空が超サイヤ人となったのはコミックス27巻でした。その後、42巻まで続きましたが、超サイヤ人がなければここまで長い作品にならなかったかもしれません。こう考えると、クリリンがフリーザによって爆発させられた死は、大きな分岐点だったのではないでしょうか。

・ 超サイヤ人登場以降、戦闘能力は飛躍的に増加
・ ストーリーに厚みが増し、長期連載を可能にした(?)
・ 超サイヤ人はイノベーションではないか


※参考情報
超サイヤ人 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%A4%E4%BA%BA#.E8.B6.85.E3.82.B5.E3.82.A4.E3.83.A4.E4.BA.BA


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 合同会社の代表 (会社概要はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。