2011/01/23

ポケベルのブームとソーシャルという功績




2011年の今から15年ほど前の1996年当時、女子高生を中心に大ブームを巻き起こしていたものがありました。

ポケベルことポケットベル(無線呼び出し)です。

今回のエントリーでは、ポケベルについてのブームの現象や功績について取り上げてみます。

■ 当初のユーザーは営業マン

ポケベルでできることはいたってシンプルです。ポケベル自体が固有の電話番号を持っており、今でいう携帯電話のメールの機能のうち、メッセージ受信・表示のみでした。

その歴史は意外に古く、1968年からサービスが始まっています。

サービス開始当時のユーザーは官公庁や医療関係者で、緊急時の連絡用だったようです。その後ユーザーは外出の多い一般企業の営業担当者に拡がり、使われ方はポケベルに呼び出しが入ると、出先の公衆電話から事務所へ電話を入れるというものです。

当時は携帯電話の元となった自動車電話は高額で普及しておらず、外出している営業マンとの連絡手段として活用されていました。

■ 若者で流行ったベル文字

ところが、思わぬユーザーが現れます。

それが冒頭でも挙げた女子高生などを中心とした若者です。

ポケベルについてまとめられたNTTドコモレポートにはこう書かれています。「語呂合わせで意味をつけた数字を文字制限いっぱいに工夫してメッセージを送るという一種の『言葉遊び』が大流行し、新しいコミュニケーション文化が始まりました」。

数字の語呂合わせは、例えば以下のようなものです。

0840 (おはよう)
0833 (おやすみ)
3476 (さよなら)
724106(7 (何してるかな)
14106 (愛してる)

() 内の読み方と見比べると今でも読めなくもないでしょう。

ただ、当時は次第に語呂合わせは、多様な表現を生み出したようです。Yahoo!知恵袋には「当時のベル文字が読めないのでわかりますか?」という質問トピックに次のような数字が並んでいました。

084- 101052160[7 ]03106 864107
0[86- 1051210100[7
210 1442 14-7

一見すると数字がランダムに並んでいるだけのように見えます。このような数字の語呂合わせでもわかる人には読めるようです。読み方はこちらです。

084- 101052160[7 ]03106 864107
おはよー いまどこにいるのかな? これみたらベルしてね

0[86- 1051210100[7
おかえりー どこに行ってたのかな

210 1442 14-7
ずっと いっしょに いよーね

どうやら「10」と表記しても読み方がいろいろあるようです。

1と0 で「いま」、10 で「と」または「ど」、英語(Ten:て)として読んだりと、多様な表音を持っていたことがうかがえます。後に、ポケベル画面の表示は数字以外にもひらがなや漢字も可能になっています。

■ 若者がポケベルメインユーザーに

以下は、1996年当時のドコモのポケベル新規契約者の年代別のグラフです(図2)。

ドコモのポケベル新規契約者の性別・年代別構成比 (1996年)
(出所:NTTドコモレポート

1996年の新規契約者数が書かれておらず母数は不明ですが、それを考慮しても10代女性だけで64%、20代も含めると女性の85%、男性10~20代でも80%近い割合は、当時のポケベルがそれだけ若者の支持を集めていたのかがわかります。

ちなみに、1996年当時のトータルのドコモ契約数の内訳は以下の通り(図3)です。

男性は法人利用もあり、わりとどの年代でも使用されていますが、女性では圧倒的に若者中心です(約80%が10~20代)。

ドコモのボケベル契約者の性別・年代別構成比 (1996年)
(出所:NTTドコモレポート

当初は完全にビジネスユースが想定されていました。しかし、いつの間にかポケベルが高校生や大学生などの若者がメインユーザーになったのは興味深い現象です。

ポケベルを発売していた2つのキャリアであるドコモやテレメッセージ、あるいは製造メーカーにとっては、当初は全く意図していなかったユーザーだったのではないでしょうか。

ターゲットユーザーを拡大させるための若者向けのマーケティングなども行われずに、若者に浸透していったのではと思います(その後、ドコモは広末涼子や加藤あいなどをイメージキャラクターに起用している)。

■ ポケベルを4Pで考えてみる

マーケティングの4P(Price・Promotion・Place・Product)のフレームワークで見てみます。

Price(価格)は、おおよそ月額3,000円程度で契約ができたようです。これくらいなら高校生であっても気軽に持てる設定です。

ただし、ポケベルへのメッセージ送信のためには屋外からは公衆電話を使うことになったので、その費用が別途必要です。

次にPromotion(販促・プロモーション)。ドコモではイメージキャラクターとして広末涼子を起用していたこともあります(図4)。ここからも、ポケベルのターゲットユーザーとして、高校生などの若者を設定していたことがうかがえます。



Place(販売場所)についてです。

現在の携帯ショップのように、ポケベルショップがあったようです。

どれくらいの規模でショップが存在していたかはわかりませんが、それなりに身近な場所にも出店していたとすれば、消費者も訪れやすい環境だったのでしょう。

最後にProductはどうだったのでしょうか。

実物がないので、あくまで少し調べた印象ですが、だいたい現在の折りたたみ携帯くらいの大きさです。カバンやポケットにも十分入るサイズです。

つまり、モバイル性に優れていたのだと思います。

機能面ではなんと言っても、友達や彼氏・彼女あるいは面識がなくポケベルだけでつながっている「ベル友」とコミュニケーションができる点が、当時の若者に受けた点ではないでしょうか。

■ なぜポケベルは若者で流行ったのか

今でこそ、携帯電話は当たり前のように持っていますが、ポケベル全盛の1996年当時は、携帯電話は一般には普及していませんでした。

ポケベルを持つ以前の友達との連絡手段は、家の固定電話に電話するか手紙を出すかくらいしかない時代です。

そこへ、ポケベルが全く新しいコミュニケーションを生み出します。前述のように、ひらがな等が画面に表示される前は数字だけの受信でしたが、それだけでもとても新鮮なコミュニケーションだったのです。

一言で表現すれば、いつでもどこでもメッセージが受信できることです(受信できるエリアに制限があったようですが)。

今では当たり前のコミュニケーションのモバイル性を、初めて享受できるものがポケベルでした。

ふとした時に自分のポケベルが鳴り、そこには友達からのメッセージが表示される。寝ようと思った頃に彼女からくる「0833」。彼氏に送ったメッセージへの返信。

携帯電話がなかった時代には単にそれだけの他愛のないことでも、今までにはない「つながり」を体感させてくれ、かつ持ち歩けたことが、ポケベルの最大の功績です。

■ ポケベルブームの終焉

そんなポケベルですが、ブームの終わりはあっけなく訪れます。下図はドコモのポケベル契約者数の時系列推移を表したグラフです(図5)。


 ドコモのポケットベルの契約数の推移
(出所:NTTドコモレポート

赤い線がポケベルで、1996年までは順調に契約数を増やしています。1996年6月のピーク後は、ユーザーが激減しているのがわかります。

その一方で、緑色の携帯電話が一気に普及し始めています。携帯ほどではないものの、PHSもポケベルの減少と同じタイミングで増加しています。

携帯電話でメッセージを交換できるようになり、ポケベルは取って代わられたのです。その後の携帯電話普及状況はもはや語るまでもないでしょう(図6)。


携帯電話の世帯普及率
(出所:社会実情データ図録

ポケベルの不便さは、メッセージが受信できても送信ができない点にありました。

当時、ポケベルにメッセージを送るために公衆電話を使うのが一般的で、高校では休み時間には公衆電話に行列ができたそうです。

しかし、携帯電話は、メールを受けることも送ることもできます。ポケベルの比較優位性が失われたことで、その結果は上記の通りです。

今では携帯でのメール以外にも、FacebookやツイッターなどのSNSもスマホから使え、コミュニケーションの手段は多様化しました。

「つながり」を持ち歩けることが当たり前になった状況です。今から振り返れば、ポケベルがそれを初めて、普通の若者にもたらした功績は大きかったのではないかと思います。


※参考情報

「ベル友」ブームを巻き起こした「ポケットベル®(現クイックキャスト®)」の歴史|NTTドコモレポート http://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/info/news_release/report/070313.pdf

無線呼び出し|Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%84%A1%E7%B7%9A%E5%91%BC%E3%81%B3%E5%87%BA%E3%81%97

Yahoo!知恵袋
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1319386393

携帯電話世帯普及率|社会実情データ図録
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/6350.html


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多田 翼 (書いた人)