2012/01/21

「グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ(In the Plex)」から考えるデータ至上主義とGoogleの描く未来

グーグルというのは、図のような無料でサービスを提供する代わりに、膨大なユーザーデータを取得し、それをさらなるサービスの利便性向上や、ユーザーデータをグーグルの主要ビジネスモデルであるネット広告事業に活かしています。この集まってくる膨大なデータ活用がグーグルの本質的な部分だと思っています。


ここ最近読んだ中ではダントツでおもしろかったものに「グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へ」という本があります。なぜこの本がおもしろかったかというと、書かれている内容がとてもリアルだったから。著者はグーグルの中に入ることを許可され取締役会などにも参加し、延べ数百人にもわたる関係者への取材から書かれています。だからグーグル創業から検索ビジネスはどう立ち上がったのか、検索エンジンのロジック、現在もグーグルの収益の大部分を支える広告事業はいかにして生まれたのか、自分も使っている多くのサービスのローンチ経緯、中国進出・撤退の経緯、等々、その時々に何を考え、どう意思決定しその後のプロセスがどうなったかが生々しく描かれています。著者がグーグルという巨人の内側に密着取材をしたからこそ完成したドキュメントであり、グーグルの歴史がよくわかりました。

で、あらためて考えさせられたのが上のモデル。他にも本書から考えたことはあるのですが、今回のエントリーではグーグルとデータというテーマに絞って書いてみたいと思います。

■Googleのデータ至上主義

本書で印象的だったことの1つに、何よりもデータを重視するというグーグルの考え方でした。これは「データ至上主義」と表現してもいいくらい確固たる信念のようもの。グーグルはデータからユーザーについて学び、サービスをさらに便利にし続けてきました。例えばグーグルの検索エンジン。グーグルはユーザーがどういう検索をしたのかの全ての行動履歴(ログ)を持っています。検索のために入力されたキーワード、その組み合わせ、入力された回数、検索結果のどれをクリックしたのか、など、ユーザーのあらゆる行動データが手に入る。グーグルはこれらの膨大なログを解析しユーザーを知り学ぶことで、検索精度をさらに高めています。具体的には、検索キーワードを間違って入力しても「もしかして」と正しいであろうキーワードが表示されますし、あるキーワードを入力すると関連のあるワードが自動的にいくつか表示されたりします。例えばGoogleと打ち込むと、Google map、Google カレンダーなどと自動で表示されますが、これは多くのユーザーがこのような組み合わせで検索をした結果から学んだ結果です。

もう1つ、グーグルがユーザーデータから学んだ事例としておもしろいものがありました。音声認識についてで、グーグルはあるサービスを使って人間の話し言葉をデータから学習しました。無料の電話番号案内を開始し、ユーザーが連絡したい相手の企業名などを伝えれば、グーグルは番号を教え希望すれば相手先につなげるというもの。ユーザーメリットはこれを無料で使えるというものですが、一方のグーグルはその見返りとして人間がどう発話するかを学習していたのでした。人が声で何かを尋ねる時の声のトーンや大きさ、話すスピード、聞いた言葉の認識の正解/不正解は相手とのやりとりでわかり、間違った場合は相手の反応でどこで間違ったかも判断できたそうです。こうしてユーザーから学習することで、音声認識技術に活かされるのです。

グーグルはデータを取得することで学びサービス改善や新しいサービスを開発する、それによりユーザーは利便性を享受できますます使うようになる。グーグルはさらにデータを取得する・・、という好循環があり、これが冒頭でのモデル図の意味するところです。

■Googleの描く未来

グーグルの創業者の1人であり現CEOのラリー・ペイジはグーグルの未来像について「人間の脳の一部になるのでは」と言っています。もう1人の創業者であるセルゲイ・ブリンもこれに同意し、「現時点では検索で文字を入力する必要あるが、将来的にはもっと操作を簡単にし周囲の状況から自動的に有益な情報を提示するかもしれない。最終的には脳内に機器が移植され、質問を考えただけですぐに答えを教えてくれるだろう」と語っています(本書102-103ページあたり)。

脳への移植はさすがにすぐの実現は難しそうですが、すでに自分で何を探しているのか明確でなくてもグーグルが勝手に教えてくれるサービスは提供されていることに気づきます。グーグルインスタントという機能がそれで、検索ワードを入力している最中に候補がいくつか表示され、かつ検索結果が打ち終わる前に表示されます。(参考:Google インスタント検索について|Google

■未来を描き直しはじめたGoogle

ブリンとペイジは創業当初からグーグルは人工知能の会社であると定義し、2人の目標は膨大なデータを集め自動学習アルゴリズムから処理することで、人間の脳を補強するものを開発することであったと書かれていました。グーグルが検索エンジンロジックを考案する時、検索結果の判定を人間の判断で行なうのではなく、データに基づいてアルゴリズムを活用したほうが偏見のない公平な結果が得られるはずと考えたようです。

しかし、今、グーグルは岐路に立たされていると思います。「世界中の情報を整理してアクセスできるようにする」ことを使命としていて、ウェブ上のデータをかき集めてアルゴリズム処理から実現しようと邁進してきたものの、そのために必要なのに、一部で集められないデータが増えてきているのです。それがフェイスブックなどでユーザーがやりとりする、近況や写真の共有などの情報。これはグーグルが思い描いてきた情報収集と整理をテクノロジーで実現する世界とは異なる未来でしょう。

グーグルのロジックは非常にシンプルなものでした。人々がネットを使えば使うほど、グーグルの提供する検索などのサービスを使う機会も増えユーザーの役に立つことができる、そして、そこに表示される広告からマネタイズもできる。しかし、SNSで過ごす時間が増えることでネットを使うことが増えても、増加する大部分はグーグルの領域の外で、このロジックが成り立たなくなってしまうのです。

本書の最後のほうでは、グーグルの一部の社員がソーシャルの可能性に気づき、サービス開始や拡大を主張するものの、結局はグーグルという会社としては積極的な姿勢を打ち出すことはなかったことが書かれていました。そこにはツイッターやフォースクエア、フェイスブックのようなアイデアやサービスが生まれようとしていたのです。現実は、それを横目にフェイスブックは拡大を続け、ツイッターや他のソーシャルサービスもグーグル以外のプレイヤーが展開しています。

1つ前のエントリーでグーグルがなぜソーシャル検索に取り組むかを取り上げました(参考:Googleがソーシャル検索にシフトするのはウェブの世界が変わりつつあるから |思考の整理日記)。別の表現をすれば、ソーシャルというユーザー同士のつながりデータも使うという、これまでのグーグルの考え方から大きく舵を切ってきている印象です。前回エントリーで書いたように簡単なことではないと思いますが、それでもグーグルの未来はGoogle+に託されました。本書では執筆時点はグーグル+という名称はまだ明らかになっておらず、「エメラルドシー」という開発コードネームが使われていました。本書の続きは今後どうなっていくのか。これからも冒頭のグーグルのモデルが成立するのか。複数のグーグルサービスを重宝している自分としては興味深いテーマです。


※参考情報

Google インスタント検索について|Google
Googleがソーシャル検索にシフトするのはウェブの世界が変わりつつあるから |思考の整理日記
Googleが検索の歴史を6分のビデオにまとめる–9.11のときはニュースが検索できなかった!|TechCrunch Japan

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