2012/10/27

KOMTRAX:コマツ建機の美しいビジネスモデル




なぜ、あの会社は儲かるのか? - ビジネスモデル編 という本で取り上げられていたビジネスモデルの1つに、小松製作所の KOMTRAX (コムトラックス) がありました。



小松製作所


小松製作所は日本の世界に誇る建設機械・重機械メーカーで。 Wikipedia を見ると、建設機械の日本でのシェアは1位、世界で2位です。日本以外にも南北アメリカ、ヨーロッパ、CIS、中近東、アフリカ、東南アジア、オセアニア、中国にグループ企業を展開しています。TOPIX Core30 銘柄の一社に選ばれています。

紹介されていたコマツのビジネスモデルは、KOMTRAX という IT サービスを中心にしたものです。そこには、建機というモノの販売からもう一歩踏み込んだ秀逸なビジネスモデルがありました。


良いビジネスモデルの条件


ビジネスモデルが成り立つ条件として、以下の2つが重要だと考えています。

  • エンドユーザーや顧客に既存のモデルよりもより高い価値 / 低いコストが提供される
  • ビジネスモデルの関係プレイヤー (ステークホルダー) 全員に Win-Win が成立する

今回のエントリーでは、冒頭で書いたビジネスモデルが成立する2つの要素について、コムトラックスを例にして考えてみます。


KOMTRAX とは


コムトラックスは、コマツが独自に開発した建設機械の情報を遠隔で確認するためのシステムです。KOMTRAX とは Komatsu Machine Tracking System の略です。

特徴は次の通りです。

  • 仕組みは、GPS と各種センサーで建機の位置情報を収集し、建機のモニタリングやエンジンを止めるなどの遠隔制御を可能にする。建機の現在位置、稼働時間や稼働状況、燃料残量、故障情報などがわかる。情報のやりとりは、通信衛星回線または携帯電話回線 (規制で衛星回線が使えない中国など) を使用
  • コムトラックスはコマツ負担で標準装備されている。搭載費用は約10万円のようで、建機は1000万円程度などで負担額は決して少なくない。しかし、コストアップ分を建機価格には上乗せしていない
  • その理由は、コムトラックスを単なる情報収集ツールではなくマーケティングツールと位置づけているため。コムトラックスから実現できる顧客提供サービス (詳細は後述) を通じて顧客との関係を強めている

ではここからは、コムトラックスに見る2つのビジネスモデル成立条件を考えます。


既存のビジネスモデルよりも高い価値が提供される


顧客にとってのコムトラックスの価値は何でしょうか。まずは建機ユーザーから見た提供価値についてです。一言で表現すると、コムトラックスは 「コマツの建機でなくてはいけない理由」 です。

  • 盗難防止:もともとは盗難防止の目的で開発された。建機は時速 40km 程度しかスピードがでないのに、夜中にそれ以上で勝手に動き出したらトラックなどに積まれて盗難された可能性があると判断できる。コムトラックスにはエンジンをかけられなくする遠隔ロック機能もあり、ロック中にエンジンを始動しようとするとアラームが鳴る仕組み。コマツ建機の盗難率が下がり、建機の保険料も低下
  • サービスレベルの向上:建機に故障などのトラブルがあると、コムトラックス情報からコマツ側ですぐに発見できる。GPS で建機の場所もわかるのですぐに修理に現場にかけつけられる。また、常時モニタリングしているので、オイルやフィルタ等の交換時期も予測できる。故障発生前に適切な対応が可能で、このような保全方法を 「予防保全」 と呼ぶそう
  • ユーザーにとってのコスト削減:建機は導入の初期コストよりも、メンテナンス/維持などのランニングコストのほうが数倍~10倍程度高い。燃費向上などのランニング管理をコマツがコムトラックスで管理・支援することで、顧客のコスト削減に寄与。コマツの建機本体価格は中国製に比べて安くはないが、壊れにくく故障前に修理してもらえる。結果、中古価格も高くなるなど、導入-維持-売却までのトータルコストでは中国製よりも安くなる
  • 中国での代金回収:中国では建機は個人で所有するケースが多く、建機所有者が現場に貸し出している。問題は、貸出代金が支払いされないことがたびたび発生すること。KOMTRAX によって支払いがない貸出建機に対しては遠隔操作でエンジン止めるなどの処置をすることで代金回収率が上がった

建機の使用シーンは工事においてです。もしトラブルや故障で建機が動かなくなってしまったら、その間、予定していた工事がストップしてしまいます。場合によっては、工事全体の納期遅れにつながります。従って、常日頃から故障しないように建機のメンテナンスをしておくことが重要になるわけですが、コムトラックスはしっかり貢献できているのです。


全員に Win-Win が成立する


コムトラックスはユーザーにとってメリットがあるだけではなく、コマツやコマツ建機の販売代理店にとっても価値のあるものです。コマツにとっての KOMTRAX の価値は次の通りです。

  • 建機が故障する前にこちらから適切に対応できることで、メンテに必要な交換品はコマツ純正品を使ってもらえる可能性が高い。純正品が適正な価格で売れるのでコマツの利益率の向上に寄与
  • KOMTRAX で世界中でどの機械がどれくらい稼働しているかが把握できる。リアルタイムデータにより現場の実態がわかるだけではなく、建機の仕事量から景気動向もつかめる。コムトラックス情報を今後の注文需用予測や生産計画に活かしている
  • 故障情報により設計の不具合がわかる。例えば、特定の地域 (高地や暑いところ) でのみ起こるエラーなども把握可能。これらは次回のモデルチェンジ設計に活用される

建機販売代理店にとっての価値としては、効率のよい顧客対応です。建機のトラブル状況は販売代理店でも共有・管理されています。

建機が故障した際にユーザーから連絡が来てあわてて対応するのではなく、故障情報は連絡が来なくても手元でわかるのでトラブル時は迅速対応が可能です。

コムトラックスがなければ現場に行ってまずは故障状況確認、一度戻り必要な交換部品を持って現場に再び戻って対応となります。コムトラックスがあれば、このような二度手間が省けるので現場巡回の効率化でコスト減になります。

このようにコムトラックスは、ユーザーにとってメリットがあるだけではなく、コマツ、販売代理店のステークホルダー間でウィンウィンが成立しているのです。


KOMTRAX の本質


先ほど、コムトラックスはマーケティングツールであると書きました。

コムトラックスという仕組みが有料オプションでつけられる、コムトラックスが搭載された建機は付いていない建機よりも高い値段で売る、という戦略もあり得るわけです。しかし、コマツは無償での提供サービスと位置づけています。

コムトラックスの装備や、コマツ側での情報管理などの運用、コムトラックス情報をもとにした燃費向上アドバイスなど、これらには当然コストが発生します。コストを回収するために有償提供だったり、建機価格に上乗せしても不思議ではないのですが、それをやっていません。

ここにコムトラックスという IT サービスを中心にしたコマツのビジネスモデルのポイントがあります。

コムトラックスが無償で着くということは、コマツのどの建機にも標準装備できることになり、結果、あらゆるコマツ建機ユーザーの情報が集まってきます。

全ての情報が収集できるというのがポイントです。

データから建機状態や故障状況の把握、予防保全ができて顧客満足を実現できるだけではなく、純正交換品販売から利益が生まれ、注文需用予測・生産計画まで立てられるのです。もし一部の建機にしかついていなければ、データの偏りからこうしたメリットを享受できるのは限定的になります。

コムトラックスに見るコマツのすごさは、各建機のデータを収集する仕組みをつくっただけではなく、集まってくる大量データをうまく活用し、ユーザーや販売代理店への提供価値を上げ、自社の利益向上にもつなげている点です。

昨今流行りのビッグデータ活用という点において好例です。建機というモノを販売して終わりではなく、生産 - 販売 - アフターサービス というサービスバリューチェーン全てに貢献でき、中古価格も下落しにくいことからコマツ建機の価値が維持できています。

データ収集の仕組み構築と、データをうまく活用し価値を生み出し、ビジネスモデルの中心的な存在になっています。ここにコムトラックスの本質があります。


最後に


最近読んだ本で、時間を忘れるくらい読みふけってしまうのが なぜ、あの会社は儲かるのか? - ビジネスモデル編 でした。

様々な企業のビジネスモデルが紹介されています。他の類似本と違うのは単にビジネスモデルを紹介しているのではなく、ビジネスモデルの事例紹介 → 仕組みの一般化 → 他業界にある同様のモデル紹介と、具体例 → 抽象化 → 他の具体例、で説明されている点です。

同じビジネスモデルでも違う業界に適用されているのでモデルの本質的な仕組みがわかります。そのビジネスモデルを自分の業界や、自分の仕事に活かせないかと考えさせられます。


※参考情報

小松製作所|Wikipedia
KOMTRAX - サービス&サポート|コマツ建機販売
的確なサービスと環境負荷低減を実現するKOMTRAX
記者の眼 - コマツが実現したこと、トヨタが目指すこと|ITpro
編集長インタビュー - [前編]基幹部品は日本だけで造る 儲けるシステムにも注力|ITpro
コマツの建機はなぜ新興国で売れるのか|日経ビジネスオンライン



最新エントリー

多田 翼 (書いた人)