#マーケティング #利用シーン #顧客価値
自社商品は、誰にとって、どんな場面で使われるものですか?
こう問われて、解像度高く答えられるでしょうか。
商品やサービスをお客さんに買ってもらうために大切なのは、商品が使われるシーンを具体的に描けているかどうかです。
今回は、透明ディスプレイ型の翻訳機 「VUEVO Display (ビューボディスプレイ) 」 の事例をもとに、お客さんの利用シーンを起点とした価値提案の方法を紐解きます。
VUEVO Display
VUEVO Display (ビューボディスプレイ) は、透明ディスプレイを用いたリアルタイム翻訳機です。
開発したのは、筑波大学発のスタートアップ企業のピクシーダストテクノロジーズです。
VUEVO Display は、話した内容を自動翻訳して字幕のようにディスプレイへ映し出します。ディスプレイは透明なので、お互いの視線を遮ることなく相手の表情や、手元を見ることができます。
秋葉原や大阪にあるメイドカフェの 「あっとほぉーむカフェ」 が、VUEVO Display を導入しています (メイドカフェのような場所でニーズがあるというのがおもしろいです) 。
狙いはインバウンド (訪日外国人) 対応です。VUEVO Display の透明の翻訳ディスプレイを試験導入し、話す内容が字幕のように表示されるようにしました。
メイドカフェは店員 (メイドさん) のパフォーマンスによる接客が重要な要素です。インバウンド客が増えるなか、言葉の壁を越えてメイドカフェの世界観をより深く楽しんでもらいたいわけです。
メイドカフェの接客シーンで翻訳ディスプレイの VUEVO Display があれば、メイドさんのかわいらしいパフォーマンスを目の前で楽しみつつ、VUEVO Display に表示される自国語でメイドさんが話す意味をリアルタイムに理解できます。外国人観光客が店員さんとコミュニケーションを取る際にも、スマホアプリの翻訳機能を見せ合う手間がかからず、映画の字幕を観るように自然なやり取りができます。
では、VUEVO DISPLAY の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、お客さんの商品やサービスの 「具体的な利用シーン」 を捉え、利用用途において既存商品が満たせていないニーズをカバーし、自社商品が新たな顧客価値を生み出すためにどうすればいいかに学びがあります。
利用シーンを捉える
利用シーンを具体的に把握する方法を、メイドカフェの例をもとに考えてみましょう。
誰がどういう状況に置かれているのか?
メイドカフェは、日本独自の萌え文化を体験できる場所として、外国人観光客からも人気が高い観光スポットです。
メイドカフェでフードやドリンクなどを注文したときに、メイドさんがおまじないをかけるパフォーマンスは、メイドカフェを代表するエンターテインメントのひとつです。
メイドの女の子が 「おいしくな~れ」 や 「萌え萌えキュン!」 というセリフは、メイドカフェを訪れたことがない人でも、一度は聞いたことがあるフレーズでしょう。メニューによっては、ゲストも一緒にかけ声をかけて楽しむ場合もあります。
日本人のお客さんであれば差し支えはですが、インバウンドの外国人観光客にとっては、多言語対応が十分ではないと楽しめないという問題が発生します。
その状況下で生じているニーズや未解決の問題は何か?
ビジネスでは、お客さんの置かれた状況で、どんなニーズが生じているか、未解決のまま残っている問題は何かを捉えることが大事です。
メイドカフェの例では、カフェでメイドさんから接客をしてもらうという独自の体験と世界観を売りにしています。
しかし、外国人のお客さん相手に翻訳をして伝えたい場合は、メイドの店員さんは、
- "萌え萌えキュン" などのパフォーマンスをする
- その後にスマホの翻訳アプリ等に入力して翻訳
- 結果を相手に見せる
- 相手が話す
- また翻訳
というプロセスを繰り返す必要があります。
事務的なやり取りになり、これではライブ感はなく、テンポや楽しさが減ってしまいます。
メイドスタッフの全員が英語だけではなく、中国語、スペイン語などの複数の言語に堪能であることは難しいでしょう。翻訳がないと日本語の意味が伝わらず、翻訳アプリや翻訳機を使ったとしても、スマホアプリに入力や話しかけたり、画面を見せ合ったりするなどの一コマがいちいち入るので接客の流れが不自然になり、せっかくの雰囲気が失われます。
こうした状況下で生じる顧客ニーズは、言語の壁を簡単に超えたいというものです。メイドさんは必ずしも外国語に堪能なわけではなく、外国語のできるスタッフを増やしたり、教育したりするには手間や時間、コストもかかります。
短期的かつコストの効率が良く、この壁を乗り越えることが求められていました。
既存商品 (競合商品) では満たせていない未充足ニーズは?
競合商品として、次のようなものが挙げられますが、メイドカフェでの先ほどのニーズを十分に満たせていませんでした。
スマホ翻訳アプリや携帯翻訳端末は、会話のたびに翻訳操作をする手間があり、メイドカフェでのパフォーマンスの演出を邪魔してしまいます。翻訳結果を見るまでワンクッションあるので、その間のライブ感が途切れてしまいます。
他には、通訳スタッフを入れるという手もありますが、追加の人件費がかかり、何よりパフォーマンスをするメイドさん本人ではない別の人が演出をするので、どこまで完成度高く同じことができるかという課題が残ります。メイドとお客さんとのコミュニケーションの間に第三者 (通訳スタッフ) が入ると、世界観や演出が壊れてしまうでしょう。
このように、他の方法では、パフォーマンスを継続しながら言葉の壁を超えて楽しむニーズは、未充足ニーズを解決できていませんでした。
その利用シーンでの最適な商品を目指す
そこで登場するのが、透明ディスプレイのリアルタイム翻訳機である 「VUEVO Display」 です。
VUEVO Display が提示する解決策
透明ディスプレイを介してリアルタイムで字幕を出すという発想が、メイドカフェの事情にぴったりハマります。
視線を遮らない透明ディスプレイなので、メイドさんとお客さんの視線が完全に外れることがなく、ディスプレイの字幕を目で追うことができます。メイドさんの表情や仕草が隠れることもないので、パフォーマンスを見ながらその場で翻訳から相手のセリフの意味がわかります。
話した瞬間にリアルタイムで翻訳が表示されるため、会話の中断も起こりません。いちいちスマホや端末を操作する、画面を見せるという動作がなくなり、スムーズなやり取りができます。
ピクシーダストテクノロジーズによると、VUEVO Display では 100 以上の言語に対応できるよう開発が進められています。多言語対応が充実すれば、どの国の観光客が来店しても、基本的には VUEVO Display ひとつで対話を完結できます。
ニーズを満たすことでもたらされる本当の顧客価値
VUEVO Display が導入されることによって、メイドカフェの世界観と顧客体験を失うことなく、メイドと外国人客が自然に会話やパフォーマンスを楽しめるようになります。その結果として、もたらされる顧客価値は以下のように整理できます。
1つ目はコスト効率の良い多言語対応です。店側にとって、通訳スタッフの常駐や、全員に英語研修を行うといった大掛かりな人材投資をしなくても、VUEVO Display を導入すれば複数言語へすぐに対応できます。
2つ目はメイドカフェでのエンタメ体験の最大化です。メイドカフェは、飲食店でのライブショーのようなパフォーマンスが魅力です。VUEVO Display のリアルタイム字幕によってコミュニケーションのストレスが減り、外国人のお客さんは純粋に演出を楽しめます。
それにより、3つ目のメリットとして高い満足度につながります。言語の壁を感じにくいメイドカフェでの体験は、外国人観光客にとって魅力です。さらに、メイドカフェに行って楽しかったと思ってもらえれば、その評判が SNS や口コミなどによって広がり、新規顧客の集客にもつながります。
利用シーンに沿った価値訴求
今回の VUEVO Display の事例から学べるのは、商品・サービスがお客さんに実際に使われる現場の状況や利用シーンなどの 「顧客文脈」 に目を向けることの重要性です。
次のポイントを押さえると、自社のサービスや製品をより魅力的に打ち出せます。
誰が、何に困っているのかを明確にする
メイドカフェなら外国人観光客が言語の壁でパフォーマンスを楽しめないこと。ここが問題だった既存の解決策の未充足ニーズを把握する
スマホアプリや携帯翻訳端末の操作が、メイドカフェの演出のライブ感や世界観を邪魔する弱みを理解した上で、そこを突く解決策を用意する。既存商品にはない強みを打ち出す自社商品の解決策がもたらす顧客価値を訴求する
メイドカフェでは、メイドさんと目を合わせながら楽しめる、パフォーマンスが盛り上がるなど、自社商品を使うことでのリアルな利用シーンを描き、お客さんにとって得られる顧客価値を伝える
以上のように、実際のお客さんの利用シーンに根差した価値提案ができれば、その商品・サービスは競合と比較しても魅力的に見せることができます。
まとめ
今回は、透明ディスプレイのリアルタイム翻訳機 「VUEVO Display(ビューボディスプレイ) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 顧客の具体的な状況を把握する。誰が、どのような環境で、どのような問題に直面しているのかを捉え、顧客の行動や感情の文脈を理解する
- 既存の商品やサービスの未充足ニーズを見出す。現状で顧客が感じているストレスポイントや不便さ、既存の商品・サービスでは解決できていない問題を具体的に洗い出す
- 利用シーンに最適な解決策を考える。既存商品の弱点を補い、お客さんの体験を向上させるような解決策がもたらす 「お客さんにとっての本当の価値」 を明確にする
- 顧客の状況や文脈に沿ったメッセージをつくり、商品・サービスが顧客にもたらす具体的なメリットをリアルな使用シーンとともに提案し、顧客価値を訴求する
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