2013/01/27

ちゃんと役に立っている 「働かないアリ」 が教えてくれた3つのこと




アリと言えば働き者というイメージがあります。地面に目を向けて見れば自分より大きな虫を運んでいたり、律儀に列をつくっていたり。真面目というか愚直というか。イソップ童話のアリとキリギリスでも、アリはそういう象徴です。

ところが、様々な研究からわかってきたのは、働きアリの中には全く働いていないアリが存在しているということです。

ある瞬間だけを見ると、なんと巣の中の7割くらいの働きアリは何もしていないそうです。さらに、ずっと1つの巣を継続観察すると、全く働かないアリも1割くらいいるとか。「働きアリじゃないだろ」 と思わずツッコミを入れたくなります。

そんなことが書かれているのが 働かないアリに意義がある という本でした。蟻の生態系の他にも蜂だったりと、昆虫社会の意外な特徴がわかりやすく紹介されています。時に私たち人間社会との共通点や違いも説明があり、身につまされる。虫たちも生きていくために集団をつくって、彼らは彼らの社会を形成している。奥が深いなと。


「働かないアリ」 はなぜ働かないのか?


この本を読もうと思ったのは 「なぜ働かないアリがいるのか?」 を知りたかったからです。

まずわかったのは、働かないアリたちは 「働きたくないから働かない」 のではないそうです。働きたいけど動かない、というほうが正しいとのこと。ここは働くアリと働かないアリが存在する以下のメカニズムに関係しています。

アリやハチは 「反応閾値」 という機能を持っているそうです。反応閾値とは、行動を起こすのに必要な刺激量の限界値です。反応閾値という限界ラインを超えた刺激が与えられると行動に移せるけど、下回れば反応しないというメカニズムです。イメージとしては、刺激に対する反応の感度とか、仕事が入ってきた時にすぐに行動に移せるかどうかの腰の低さ、という感じ。反応閾値が低い=すぐ行動に移す、反応閾値が高い=行動に起こせない。

で、働きアリにはそれぞれが持つ反応閾値に個体差があるのです。例えば、人間が落としたクッキーのかけらを巣に運ぶという仕事があったとします。この仕事に対して反応閾値の低いアリAは反応し行動するけど、別のアリBは反応閾値が高いので同じ仕事なのに働かない (反応しない) わけです。つまり、反応閾値の高くて腰が重いアリが 「働かないアリ」 。

反応閾値の説明で納得感があったのは、「よく働くアリだけを集めてきても、結局その集団の中には働かないアリが一定数存在してしまう」 こと。反応閾値はあくまで個体間での相対的なもので、よく働くアリの中でもやっぱりそれぞれが持っている反応閾値には差がある。だから、働くアリだけの集団内でも行動する・しないが現れ、一定数は働かない。

さっき書いた、「働かないアリは、働きたくないのではなく働けない」 のも反応閾値に達せないと動けないから。自分の閾値を超えるような刺激 (仕事) が入ってくれば、それまで行動しなかったアリたちも働くようになるのです。


働かないアリの存在メリット


働かないアリが一定数で存在するメカニズムは反応閾値の差によるものですが、次の疑問は、働かないアリが存在するメリットはあるのか?単純に考えると、働かないアリはゼロのほうが集団としてより多くの仕事ができる気がします。

ところが、アリたちの答えは逆なのです。全員が一斉に働くのではなく、あえて非効率性を保っている。理由はバッファーを持っておくこと。働かないアリ=余力、とみなしているのです。

人間の会社で例えると、日常業務で全メンバーがフルで対応していると、突発的な急ぎの仕事が入ったとたんに逼迫し、組織がまわらなくなります。それを避けるために、急な案件の対応ができるように普段からバッファーを持っておくイメージです。余力を持っておけば夕方くらいに 「これ今日中にお願い」 という営業メンバーから振ってきた仕事も残業することなく対応できる、これが働かないアリが存在するメリット。

他にもメリットがあり、各個体がそれぞれの反応閾値を持っていることで、上司の指示がなくても各自が仕事に反応し、組織全体で見ると仕事が効率良くまわります。実際に働きアリたちには特に上司のような仕事の振り分けや仕事量をコントロールする存在はいませんが、反応閾値の仕組みがあることで司令塔がいなくても労働分配ができているようです。

働きアリの中にも反応閾値の違いという個性があり、働かないアリも 「余力」 として存在意義がある。多様性を持っておくことでアリの社会はうまくまわってきた。なかなかおもしろいですよね。


働かないアリを会社に当てはめてみると


働かないアリの話は人間社会にも応用できるものです。組織においては、メンバーに個性があり多様性のあったほうがよい、という。各部署からエースだけを集めてきた組織よりも、メンバー間で仕事ができる/できないに差があったほうがチームとしては実はいいのかもしれません。

もちろん、サボろうとして働かないメンバーがいるのは話が違いますが、仕事ができるようになりたいと思っていても実際は失敗もするメンバーと、仕事はなんでもソツなくこなすメンバーがいるチーム。お客さんとのコミュニケーションが得意なメンバーがいて、データを集めてきたり分析が得意なメンバーなど、それぞれが別の強みを持っているチーム。

一見すると非効率だけど、長い目で見ると効率の良い組織だと思います。自分の得意な仕事があって、メンバーが互いに不得意なメンバーに知っていること・得意分野を教え合う。組織全体が底上げされ向上していく。常に全員がしゃかりきに働き余裕がない組織よりも、バッファーを用意しておいて緊急時にも対応できるチーム。確かに自分がその組織に責任を持つ上の立場だったとしたらこのほうが安心感があります。


個人のあり方に当てはめてみる


働かないアリの考え方は個人のあり方にも参考になると思っています。働かないアリの話からの示唆をあらためて整理すると、

  • 働かないという余力/バッファーを持っておく
  • 個性とか多様性が大事
  • 短期的には非効率でも長期では合理的

この3つを個人レベルに当てはめてみます。


働かないという余力やバッファーを持っておく

常に目いっぱいの状態よりも、ギアを1つ落としておく。余力を持っておくことで急なことにも対応できる。フルスピードにするのは本当に必要な時。仕事でもプライベートでも。見方を変えれば、自分で自分の限界をつくらないこと。いつでも1つ余裕を持っておく意識。


個性とか多様性が大事

自分は人と違っていてよい、という考え方。個性があることで組織全体に多様性ができてメリットになるのだから。


短期的には非効率でも長期では合理的

今やっていることがこの先に何の役に立つのかわからなくても、後からその経験が活かせることってよくあります。つまらない仕事でも、それをやっていたから今があるというか。

同じ経験でも活かせるかどうかは、表面的な知識・スキルではなく、仕組みやメカニズムの理解による。本質理解が重要。幹ができているのでいろんな花が咲かすことができる。


最後に


働きアリなのに 「働かないアリ」 がいる。なかなか奥の深い話でした。

アリたちも集団をつくって自分たちの社会を形成している。働かないアリという個性が、集団としては余力になっていて、非常時には活躍する。結果、社会全体が存続する。普段はなかなか目を向けない地面の中で、うまくできているこんな仕組みがあったのです。


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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にて 「シニア マーケティングリサーチ マネージャー」 (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝1時間のランニング。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。