#マーケティング #ブランディング #顧客体験
ブランドは、お客さんに 「好き」 「共感」 「誇り」 といった感情を呼び起こす存在です。
強いブランドには他にはない特有の 「らしさ」 があり、それが 「これがいい」 と選ばれる理由になります。
今回は、星野リゾートの 「界」 の事例から、ブランドのつくり方を考えます。
ホテルリゾート 「界」 の風呂敷
出典: TABIZINE
星野リゾートが展開する温泉旅館ブランド 「界」 では、アメニティーとして提供している風呂敷がファンの間で注目を集めています。
ご当地風呂敷がファンに人気に
もともとは 2011 年に一部施設で宿泊特典として導入されたものでした。これが好評で、2017 年から界の全施設で共通アメニティーとして採用されたという経緯です。
風呂敷の柄は共通ですが、色は各施設ごとに異なり、その土地の文化やコンセプトを反映しています。風呂敷には歯ブラシやヘアブラシ、ヘアゴムの 3 点セットが包まれており、持ち帰ることもできます。
星野リゾートの界のアメニティーの風呂敷には、風呂敷の 「包んで結ぶ」 という所作を通じて、滞在中にゆとりある時間を演出する狙いも込められています。
界が用意している風呂敷は、宿泊体験の記念品にとどまらず、ファンにとってはコレクションの対象にもなっているようです。SNS では自分が訪れた施設の色を紹介したり、収集状況を報告したりする投稿が見られます。
中には異なる色をつなぎ合わせて洋服を仕立てる人も登場し、「界めぐり」 をして全国の界の温泉旅館を旅しながら風呂敷を集めるファンも少なくありません。いまや界のアメニティーの風呂敷は、界の宿泊体験を彩る 「推し活アイテム」 となっているのです。
風呂敷を使った体験の提供
星野リゾートの界は風呂敷を使った体験も充実させています。
2024 年 9 月に開業した岐阜県・奥飛騨温泉郷にある 「界 奥飛騨」 では、飛騨地域の伝統木工技術である 「曲木 (まげき) 」 を活かしたバッグハンドル作り体験が用意されています。
出典: 日経クロストレンド
曲木は 100 年以上前にドイツから伝わり、日本では飛騨の匠のもとで発展した木を蒸して曲げるという木工技術です。曲木は、主に椅子の曲線部分などに使用されます。
バッグハンドル作り体験は 「界 奥飛騨」 の宿泊者なら誰でも無料で参加できます。自分の手で曲木のハンドルを作り、界の風呂敷を組み合わせてオリジナルの風呂敷バッグが完成させます。
奥飛騨の風呂敷は木をイメージしたライトブラウンとくすみピンクで彩られており、ここでしかないデザインです。
出典: 日経クロストレンド
宿泊者の中には、他の界の施設で手に入れた風呂敷を持参して組み合わせるファンも現れるなど、新たな楽しみ方も広がっています。
このように界の風呂敷はアメニティーの枠を超えて、宿泊体験を深め、お客さんとの感情的なつながりを生み出す存在になっています。
* * *
では、星野リゾートの界の 「ご当地風呂敷」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、ブランディングに示唆があります。
ブランドとブランディング
まずは、そもそものブランドとは何かです。
ブランドとは
ブランドは 「お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業」 です。
好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ちで、こうした感情が深いほど商品やサービスは強いブランドです。
ブランドは商品やサービスを超えた、独自の価値観やイメージ、ストーリー、体験の総体を指します。ブランドは長年にわたる一貫した品質と信用の積み重ねによってつくられ、商品体験からつくれます。そして、お客さんの心の中に根付いた信頼の証のような存在となります。
ブランドは特有の 「らしさ」 を持つことで他とは違うものだと認識され、かつその違いがお客さんにとって価値となります。だからこそブランドはお客さんから 「これ “が” いい」 と選ばれる存在となるわけです。
ブランドが持つ 「らしさ」 とは、ブランドが体現するブランドの理念や価値観、品質や価値へのイメージ、感情的な結びつき (例: 共感, 憧れ, 誇りなど) などで形づくられます。
ブランドが持つ固有の 「らしさ」 は、競合他社には簡単に真似のできない、ブランド独自の資産です。
アメニティーを活用したブランディング
ここで、星野リゾートの温泉旅館ブランド 「界」 の 「ご当地風呂敷」 の事例を見てみましょう。
この事例は、アメニティーという顧客接点がいかにしてブランド体験を生み出すかを示しています。
ホテルや旅館のアメニティーは、一般的には宿泊すれば無料で手に入るものです。一方の界の風呂敷はそれにとどまりません。
アメニティーグッズをご当地風呂敷という存在にして、宿泊したお客さんに驚きや感動、共感などの感情移入を呼び起こす機会をつくり出しています。
アメニティーの風呂敷が界のブランド体験をもたらすための重要な顧客接点として機能し、忘れられない宿泊体験となっているわけです。
具体的には、次の 3 つの体験がお客さんの感情を動かします。
1 つ目は、発見と収集の 「驚き」 と 「喜び」です。
界の風呂敷は、施設ごとに色が異なります。宿泊客は部屋に入ったときに、その土地ならではの色 (例: 箱根の緑, 海の青) の風呂敷と出会う 「発見の驚き」 を体験します。
ご当地ごとで色が違うという仕掛けは、「この旅館はどんなの色だろう?」 という期待感を生み、全国の界を巡って全色のコンプリートを目指すという 「収集の喜び」 を生みます。この体験は、宿泊客を界というブランドを応援する 「ファン (推し) 」 へと変える力を持っています。
2 つ目は、文化体験による 「共感」 です。
星野リゾート・界は宿泊客の全員にアメニティーの風呂敷を用意し、風呂敷を使ってもらうことで 「包んで結ぶ」 というひと手間をお客さんに促します。これは、界が大切にする 「ゆったりとした滞在」 や 「日本文化の体験」 というブランド体験を、お客さん自身が手を動かして実感する機会となります。
一手間を 「ゆとり」 と捉えるブランドの価値観に触れることで、お客さんは界というブランドへの共感につながることが期待できます。
3 つ目は創造する体験による 「感動」 です。
先ほどご紹介した岐阜の 「界 奥飛騨」 では、風呂敷と組み合わせる 「曲木のバッグハンドル」 を作るアクティビティがあります。
風呂敷というアメニティーを起点に、より能動的で創造的な体験へと宿泊客を導く試みです。自分のお気に入りの風呂敷と、自ら作ったハンドルを組み合わせ、世界に一つだけのバッグを完成させる。お客さんに 「感動」 や 「愛着」 をもたらします。
このように星野リゾートの界の風呂敷は、無料のアメニティー備品ではなく、発見、収集、共感、感動といった一連の感情を伴う 「ブランド体験装置」 として機能しているのです。
五感ブランディングの意義と重要性
ここで、さらにブランディングについて考察を深めるために、「五感」 という切り口で掘り下げていきます。
記憶に残る体験の創出
人の五感を刺激することで、お客さんは一時的な商品やサービスの利用を超えた、忘れがたい体験を得ることができます。
界の事例では、風呂敷が五感を通じた記憶の創出に貢献します。
視覚として、各地域の自然や文化を表現した美しい風呂敷の色合いは、旅の情景を鮮やかに記憶させます。集めた風呂敷を並べた時の色彩の豊かさは、旅の思い出そのものになります。
次に触覚ですが、風呂敷そのものの手触りや、風呂敷に何かを包んで結ぶという行為による指先の感覚。さらに 「界 奥飛騨」 での曲木体験では、木材に触れ、自らの手で曲げるという独特の触覚体験が記憶をより深いものにします。
聴覚や嗅覚もあります。風呂敷を使ったときのわずかな音、香りも思い出のひとつのピースです。
このような五感による体験は、ブランドを独自のものとして記憶に深く刻むことでしょう。お客さんからの親近感や愛着、応援したいなどの心理的な熱量を高めることが期待できます。
感情との強い結びつき
五感を通じて提供される体験は、感情と直接的に結びつきます。
たとえば、ある特定の香りや音楽が懐かしさや幸せ、安心感といった気持ちを呼び起こすことにより、その感情がブランドイメージに結びつきます。
感情的なつながりは、次にお客さんがブランドを選択する際の動機や後押しになるでしょう。
五感ブランディングは、お客さんがブランドとのあらゆる接点で経験する全体的な顧客体験を向上させます。
温泉旅館 「界」 の風呂敷の (視覚や触覚) の記憶は、滞在中に味わった料理の味覚、温泉の嗅覚といった他の感覚的な記憶と結びつけば、より強固な体験となります。旅先から戻り、家で風呂敷を目にするたびに、楽しかった界での滞在全体の 「気持ちのいい記憶」 がよみがえることでしょう。
五感とは "互感" である
ブランドとは、商品やサービスにまつわるイメージや直接の体験が組み合わさり、トータルとして結果的に 「お客さんの頭の中」 に価値イメージとしてできあがるものです。
五感からのブランディングという働きかけは、5 つの感覚が独立するというよりも相互作用の関係にあります。五感での豊かな体験を通して、5つの感覚が相互でつながるというイメージです。
五感での豊かな体験を通して、5つの感覚が相互でつながり "互感" となるわけです。
界のご当地風呂敷の事例のように、視覚や触覚に訴える優れた顧客接点がお客さんの体験価値を高め、結果として 「らしさ」 が際立つ一本の軸の通った強いブランドをつくり上げるのです。
まとめ
今回は、星野リゾート界がアメニティーで用意している 「ご当地風呂敷」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- ブランドとは、お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業。好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ち
- 強いブランドは、他社にはない特有の 「らしさ」 を持っている。らしさが顧客にとっての価値となり 「これがいい」 と選ばれる理由になる
- ブランド構築では、商品やサービスの顧客体験を通じてブランドの 「らしさ」 を一貫して提供する。結果としてお客さんの頭の中にブランドイメージが定着する
- ブランド体験を豊かにする五感ブランディングは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚を刺激して顧客体験を形成する
- 五感とは "互感" である。ブランドの強さは、五感による豊かな体験が互いに連携することによって、全体としての 「らしさ」 を形成する互感にある


