#マーケティング #戦略 #クリティカルコア
なぜその戦略は、競合に決して真似されず輝き続けるのか――。
その裏には、ビジネスの本質を突くクリティカルの要素と、常識の盲点を突くしたたかな仕掛けが隠されています。
大型スーパー 「A-Z」
出典: A-Z
出典: 日経ビジネス
大型スーパーの 「A-Z (エーゼット) あくね」 。
鹿児島県阿久根市という、人口約 1 万 7000 人、高齢化率 4 割超のこの街に、全国から小売関係者が視察に訪れるお店です。
圧倒的な品揃え
横 200m × 縦 100m、東京ドーム 3.6 個分という巨大な売り場を 24 時間営業で運営する A-Z あくねですが、驚くべきは、その品揃えです。
約 40 万点もの商品が並びます。一般的なスーパーの品揃えが 1 万点程度なので、その規模は文字通り桁違いです。
A-Z あくねは日常使いの店なので、生鮮品や総菜を含めた食品類が充実しています。それに加えて、日用品、化粧品、医薬品、雑貨、衣料品、家電、玩具、書籍、アウトドア用品、釣り具、DIY グッズ、園芸用品、生花、楽器、カー用品、自動車、仏壇、鍾乳石、ともはや何でもある感じです。
これらの商品は売れ筋だから置いているわけではありません。「希望する人が 1 人でもいるならまず置いてみる」 という方針で、来店客の声を聞くたびに商品が増えていった結果です。開業当初 23 万点だった品揃えが、今では 40 万点を超えています。
ユニークな店舗運営
A-Z を展開するのはマキオという会社です。A-Z は鹿児島県内に 3 店舗があります。A-Z あくね、A-Z かわなべ、A-Z はやとです。
注目したいのは、A-Z の巨大な店舗には、仕入れを統括する部署が存在しないことです。
A-Z は、取扱商品をカテゴリーに応じて 36 ~ 38 程度の部門 (売り場) に分けて管理しています (参考情報) 。
それぞれに部門長がいて、販売の管理だけでなく、業者の選定、商品ラインアップや価格、数量、割引販売の販促計画に至るまで決定権を持ちます。
部門長は一部の売り場の担当者でありながら、それぞれが商店主のような役割を担います。A-Z は 3 店舗なので、A-Z は 120 弱の個人商店の集合体という存在です。
各部門や各店舗には、売上や収益の数値目標はあえて設定していないのも特徴的です。
A−Z 全体では 「来店客数」 と 「買い上げ点数」 などをチェックはしているものの、全体として黒字であれば問題はないというスタンスです。売上や利益率での管理は行わないとのことです。
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では、スーパーマーケット 「A-Z」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、戦略の観点で学びが得られます。
戦略とストーリー
戦略とは
戦略とは、目的を達成するための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごとです。
もう少しだけビジネス的な表現にするなら、戦略とは目的達成のリソース配分の方針です。リソースとは人・物・金です。個人でも同じで、何に時間やエネルギーを使うかです。
目的達成への 「やること」 と 「やらないこと」 において、戦略の肝は後者の 「やらないこと」 にあります。何をやらないかが明確だからこそ、残ったやることにリソースを注力できるわけです。この意味において、戦略をつくるのは 「やらないこと」 を明確にするためと言ってもいいくらいです。
戦略としてやることを 「あれもこれも」 と考えうる全てのことに手を出すのは、戦略的ではありません。戦略の要諦は意志を持って何を捨てるかだからです。
戦略では 「あれもこれも」 ではなく、「あれかこれか」 という A or B です。算数で表現すれば足し算でやることを積み上げるのではなく、引き算の発想をします。
A-Z の戦略
6:20A-Z の目的は明確です。「地域住民のあらゆる生活ニーズに応え、暮らしのインフラとなること」 です。
この目的を達成するために、A-Z が徹底して 「やらない」 と決めたことがあります。
それは、多くの小売企業が常識とする効率化の追求と短期的な利益の最大化です。売れ筋商品に絞って、在庫回転率を上げるというセオリーを捨てました。
一般的なスーパーマーケットが行う店舗管理は、本部が主導して全店の品揃えや価格を標準化し、効率的な仕入れを行うというやり方ですが、A-Z はこの常識も捨てました。従業員を数値目標で管理し、利益率を追求させることも 「やらないこと」 としたのです。
一見すると、40 万点もの商品を扱う A-Z は 「あれもこれも」 と足し算の発想で事業を行っているように見えます。
しかし、その根底には引き算の思想があります。効率化に使うはずだった人材とエネルギーを、現場での顧客対話と品揃えの充実に振り向けたのです。
これは 「効率か、地域密着か」 という問いに対して、明確に後者を選んだ戦略的決断です。「やらないこと」 を明確にしたからこそ、人、物、金というすべてのリソースを 「地域のニーズを徹底的に満たす」 という一点に集中させることができるのです。
クリティカルコア
良い戦略にはストーリー性が色濃く出ます。その中心にあるのは 「クリティカルコア」 です。
クリティカルコアは、戦略のストーリーを他にはないユニークなものにします。
クリティカルコアは "賢者の盲点" を突きます。というのは、クリティカルコアは、「一見すると非合理、全体では合理」 だからです。
なぜそれをやるのかが外部の人にはわからないクリティカルコアが、戦略ストーリー全体ではカギを握ります。
クリティカルコアがあるから戦略ストーリーは成立し、競合他社はマネできず、あるいはそもそも優位性に気づかなかったり、知っていても非合理に見えるので意図的に避けようとします。
クリティカルコアは差異化の源泉です。クリティカルコアによって他から簡単にはマネされず、中長期で持続可能な戦略ができます。
A-Z のクリティカルコア
A-Z の戦略とやっていることには、他社から見れば非合理にしか見えないことでしょう。しかし、戦略全体を支えるクリティカルコアが存在します。
その最たるものが 「仕入れ部署の不在」 と 「数値目標の撤廃」 です。
超が付くほど巨大な店舗を運営しながら、仕入れの専門部署を持たず、現場の各部門長に全権を委ねる。さらに、経営の根幹であるはずの売上などの数値目標を設けない。
効率化と管理体制を重視する同業他社から見れば、非効率でリスクの高い、理解不能な経営手法に映るでしょう。スケールメリットを活かせず、管理コストも増大し、在庫リスクも高まります。
本社機能を集約し、店舗はオペレーションに専念させることで、仕入れコスト削減、商品・サービスの標準化、経営効率の向上を目指すチェーンストア理論から見れば、明らかに非合理です。
しかし、一見非合理な仕組みこそが、A-Z 全体の合理性を生み出しています。
仕入れ部署を無くし現場に権限を委譲することにより、消費者の声をダイレクトに反映した、地域に深く根ざした魅力的な売り場が生まれます。また、数値目標を撤廃することによって、従業員は目先の利益に追われることなく、「地域のためになるか」 という純粋な価値基準で行動できます。
現場のそれぞれの判断が売り場に個性と動きを生み、「A-Z はいつ来ても楽しい」 という買い物体験を生み出しているわけです。
A-Z の姿勢である 「1 人でもその商品が欲しいと言えばお店に置く」 というのも、単品での採算性を考えれば非合理ですが、それによって来店客も 「A-Z のお店の共同の作り手」 のようになり、A-Z への愛着と集客力を生むという全体最適につながります。
仕入れ部署不在や数値目標撤廃というクリティカルコアは、A-Z の理念のレベルで結びついています。
競合他社が表面的にその仕組みだけを真似しようとしても機能しないでしょう。効率化を追求する一般的な小売業には理解しがたく、仮に理解できても 「そんな非効率なことはできない」 と避けることでしょう。
だからこそ、A-Z は誰にも真似できない持続可能な優位性を築けているのです。
戦略をストーリーにする
戦略が 「全体を通してひとつの物語になっているか」 という視点も大事です。総論の正しさと各論の難しさをつなぐのが戦略だからです。
ストーリー化された戦略では、まず総論の意義が明確に語られ、次にその意義を実現するための具体的な各論が丁寧に描かれます。
ストーリー性のある戦略は、単なる施策の羅列に終わらず、具体的な課題の背景や問題解決の道筋を全体として示すことで、関係者に納得感と共感をもたらします。関係者が戦略の背景と目的を深く理解し、協力しやすくなります。
課題の羅列は戦略ではないという観点も戦略をストーリーにする際に欠かせません。ただ課題を箇条書きで並べただけでは、戦略の意味合いや優先順位が見えづらく、リソースを注力しての実行が難しいものになってしまうからです。
戦略をストーリーにするには、個々の課題の優先順位やその因果関係を明確にし、どういったプロセスと時間軸で目的を達成するかを物語として語れることが重要です。
やることを 「あれもこれも」 ではなく、全体を統合し、事業戦略の方向性と価値が伝わる一貫した物語に統合することで、戦略が初めて効果を発揮するのです。
A-Z の戦略ストーリー
A-Z の戦略で興味深いのは、個別の施策が点の集合ではなく、ひとつの大きなストーリーとして、すべてが線で結ばれていることです。
A-Z は品揃え拡大、効率化、デジタル化など課題をただ並べるのではなく、すべてを 「地域のため」 という一本の軸に沿って統合しています。
A-Z の戦略ストーリーの "総論" は、創業者である故・牧尾英二氏の 「小売店として日々の生活のお手伝いがしたい」 という、どこまでも純粋で揺るぎない思いです。この思いが、「地域の暮らしを支えるインフラとなり、最後の砦となる」 という壮大なビジョンへと昇華されています。
そして、この総論を実現するための "各論" として、「40 万点の圧倒的な品揃え」 や 「現場への権限委譲」 、「たとえ災害時でも 1 日も休まない 24 時間営業」 といった、数々の非常識な施策が存在します。
これらは、バラバラな課題への対症療法ではありません。すべてが 「地域のインフラになる」 というひとつの物語の中で関連しあって結びついています。
例えば、「数値目標の撤廃」 という各論がなければ、現場は利益の出ない商品の導入をためらい、「圧倒的な品揃え」 という各論は決して実現しません。豊富な品揃えがなければ、「地域のあらゆるニーズに応える」 という総論は、ただの美辞麗句で終わってしまいます。
このように、A-Z の戦略は、「なぜ自分たちはこれをやるのか」 という問いに対し、創業者から従業員、取引先、そして顧客に至るまで、すべての関係者が納得できる一貫した物語として語ることができます。
だからこそ、組織内で 「総論賛成、各論反対」 のような分断が起きることなく、全員が同じ物語の登場人物として、非常識とも思える戦略を推進できるのです。
方針、対処すべき課題や施策をただ並列に並べるのではなく、すべてを自分たちの物語に引きつけて意味合いを再定義する。創業者亡き後も 「A-Z は未完。完成することはない。」 という言葉を胸に、A-Z は今日も、地域と共に物語を紡ぎ続けているのです。
まとめ
今回は、鹿児島にある大型スーパーの 「A-Z」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 戦略とは、目的達成のための 「やること」 と 「やらないこと」 の決めごと。リソース (人, 物, 金) を配分する方針となるもの
- 戦略の大事なのは 「やらないこと」 を明確にすること。意思を持って 「やらないこと」 を定めることで、初めて限られたリソースをやるべきことに集中させることができる
- クリティカルコアは 「賢者の盲点」 を突く。一見すると非合理に見えて競合が避ける選択こそが、実は全体では合理的となるクリティカルコアが、他社が真似できない・しようとしない独自の競争優位の源泉となる
- 優れた戦略は一貫したストーリーを持つ。なぜその選択をするのか、どう目的達成につながるのかを物語として語ることができれば、組織に納得感と実行力をもたらす
- 課題を並べるだけでは戦略にならない。個々の課題の因果関係、優先順位、時間軸を明確にし、「あれもこれも」 ではなく 「あれかこれか」 の取捨選択をして初めて実効性のある戦略となる

