#マーケティング #戦わない戦略 #弱者の戦略

大きな資本による規模や効率化で勝負する大手に対し、小さなプレイヤーはどのように生き残り、ファンをつくっていけるのでしょうか?

そのヒントになるのが 「弱者の戦略」 です。局地戦や一点集中といったアプローチを実践することにより、大手とは異なる土俵で存在感を放つことができます。

今回は、あるユニークなコンビニを事例に、戦略への具体的な学びを掘り下げます。

ヤマザキショップ代田サンカツ店

出典: note

小田急線世田谷代田 (だいた) 駅から徒歩 2 分。住宅街に入った角地に、赤と黄色の看板が目立つヤマザキショップの 「代田サンカツ店」 があります。

もともとは酒屋 「三勝酒店」 として創業したお店でした。三勝酒店は地域に根を張り、今も酒の配達や卸を続けながら、山崎製パンのボランタリーチェーン (加盟店が独自の運営を維持しながら、山崎製パンからサポートを受ける) であるヤマザキショップとして営業しています。

現在は 「サンカツさん」 の愛称で呼ばれる 3 代目の池田勝彦さんと母の多伎子 (たきこ) さんが切り盛りします。

ヤマザキショップ代田サンカツ店に入ると、店内にはクラフトビールや地酒がずらりと並びます。

全国から仕入れた銘柄を池田さんが一つひとつ語れるそうです。冷蔵庫の陳列は 「苦味の少ない順」 に並べられるなど、来店客と池田さんとの会話のきっかけになる工夫が随所にあります。

代田サンカツ店には駅前の大手コンビニと違う魅力があります。「ここに来れば誰かに会える」 「声をかけてもらえる」 という人と人とのつながりです。

池田さんの母の多伎子さんが、お店に入ったお客さんに 「おかえりなさい」 と声をかける。その一言が常連客をつくり、遠方からわざわざ訪れる人もいるほどです。

池田さんはヤマザキショップ代田サンカツ店の商売を 「3 割戦略」 と表現します (参考情報) 。

世の中の全員に便利な店を目指すのではなく、来てくれる人の 3 割に強く好かれれば十分だという考え方です。

駅前にはセブンイレブンやローソンなどのコンビニ大手があって、品ぞろえや仕組みでは自分たちは勝てない。だから張り合わない。うちでしか置いてないものを並べ、自分が語れる商品を仕入れる。それで良いという見立てです。

* * *

では、ヤマザキショップ代田サンカツ店の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

代田サンカツ店の事例は、強者に対してどう戦うか、より正確に表現をすれば 「正面から戦わないか」 という観点で示唆に富みます。

弱者の戦略

ランチェスター戦略には大きく 2 つの法則があります。第一法則が 「弱者の戦略」 、第二法則が 「強者の戦略」 です。

弱者と強者では戦略として 「やること」 と 「やらないこと」 が逆になります。

簡単に整理すると、弱者の戦略は、局地戦、接近戦、一点集中。一方の強者の戦略は、総力戦、広域戦、全方位と反対のアプローチになります。

前者の弱者の戦略についてもう少し解像度を上げると、次の要素が実践するためのポイントです。

  • 市場やカテゴリーを絞る [局地戦]
  • リソースを注力する (商品・ターゲット顧客・エリア等) [一点集中]
  • 直接対決する相手はなるべく少なくする [一騎打ち戦]
  • エンドユーザーや顧客に直接アプローチをする [接近戦]
  • 大手プレイヤーにはできない時には泥臭い打ち手 [ゲリラ戦]

ヤマザキショップ代田サンカツ店の戦略

ヤマザキショップ代田サンカツ店は、大手コンビニチェーンという 「強者」 に囲まれながら、地域に深く根差し熱烈なファンを持っています。ランチェスター戦略の 「弱者の戦略」 を見事に体現している事例です。

先ほどの 5 つの要素を当てはめて詳しく見ていきましょう。

[局地戦] 特定領域で No.1 を目指す

ヤマザキショップ代田サンカツ店は、コンビニ業界全体で大手と戦うことをせず、戦う市場とカテゴリーを絞り込んでいます。

世田谷代田という地域において、「代田くさい」 と言えるような地域特有の濃い人間関係を好む人たちが中心的なお客さんです。

代田くさいというのは、世田谷代田のいい意味で濃い人たちのこと。近所で立ち話をしたり、イベントで顔を合わせたり、人との距離が近い関係です。サンカツ店の池田さんいわく、そういう人が代田には多く、外から来た人も、しばらくすると自然に代田くさくなるのだそうです。

サンカツ店が重視する 「3 割戦略」 も、局地戦につながります。

全員に便利な店を目指したら、大手に勝てません。「みんなにウケなくても、"代田くさい人たち" が『ここがいい』と思ってくれれば、それで店は続いていく」 という、3 割の人に本当に好きでいてもらえれば十分という考え方です。

これは、効率や拡大を前提とする大手チェーンの発想とは真逆です。

サンカツ店は駅前の大手コンビニとは異なる、代田の人々の居場所となるようなポジションで No.1 を目指しています。それは便利なコンビニ No.1 ではなく、サンカツさんに会える店、こだわりのクラフトビールが買える店、世田谷代田で一番居心地の良い店といった、ニッチな消費者文脈での No.1 を狙います。

[一点集中] 強みを一点に集中投下する

ヤマザキショップ代田サンカツ店は限られたリソースを分散させず、勝てるポイントに注力しています。

店主の池田さんと母親の多伎子さんという経営資源を、お客さんとの直接的なコミュニケーションに一点集中させています。効率的な店舗運営よりも、一人ひとりへの声かけや会話を優先しているわけです。

店頭に並べる商品の品揃えを闇雲に広げてはいません。

壁際の棚には焼酎やワイン、日本酒がずらりと並び、奥の冷蔵庫には、全国から仕入れたクラフトビールが置いてあります。これらは店主の池田さん自身が好きで語れるクラフトビールや地方の品といったものという共通点があります。

ヤマザキショップ代田サンカツ店はコンビニチェーンではあるものの、池田流のセレクトショップというイメージです。

池田さん自身が目利きした商品を仕入れるからこそ、商品にエピソードを持たせられます。商品知識という情報リソースもその一点に集まり、お客さんへの提案力が高まるわけです。

お店の冷蔵庫前でアルコール類の商品を選んでいるお客さんがいると、クラフトビールを取り出し 「これは香りが強いから、こんな料理に合う」 「今の季節にぴったり」 などと笑顔で差し出す。別の銘柄を手に取り 「こっちはラベルがおもしろい。飲むときにちょっとしたネタになる」 と他では売っていない商品を勧める。商品説明は決して売り込みではなく、会話を広げるためのきっかけにもなります。

[一騎打ち] 直接的な競争を回避する

代田サンカツ店は大手チェーンとの正面対決を避ける戦略をとります。

大手とは張り合わず、幅広い品揃えや低価格といった強者が得意とする戦場では戦いません。「 店主との会話が楽しい」 「顔を見るとホッとする」 といった情緒的な価値や、「ここでしか手に入らないおもしろいお酒」 という希少価値を提供できる環境をつくり出しています。

競争相手がいない独占的なポジションを確立し、話すのが楽しくて、つい予定より多く買ってしまうというお店を目指しています。

[接近戦] 直接的な顧客接点をつくる

代田サンカツ店では、池田さんの母親の多伎子さんによる究極と言える接近戦が展開されています。

店先での 「こんにちは」 「元気?」 といったお客さんへの声かけがそれを象徴しています。平日の夜、帰宅を急ぐ人々が通る道で、不意に声がかかる。ふと見ると、店先に立つ多伎子さんが穏やかな笑顔を向けてくれる。この何気ない日常の積み重ねが、お客さんとの心理的な距離を縮めることでしょう。

一度声をかけられ顔見知りになり、また来てくれる。昔の八百屋さんやお魚屋さんと同じです。

店主の池田さんによる商品説明を通じた深い会話も重要な顧客接点です。

クラフトビールの特徴を気さくに親切に説明する行為は、お客さんとの会話を弾ませ、関係を深めます。

常連客の 「サンカツさんの顔を見ると元気になる」 という言葉が示すように、代田サンカツ店では、例えば疲れて帰る途中に寄って、顔を見てひと言交わすだけで気持ちが和らぐという関係性が育まれています。これはマニュアル化された接客では決して生まれない接近戦の賜物です。

東日本大震災時には、停電で街が真っ暗になる中、代田サンカツ店のお店の明かりを頼りに人が集まりました。特別に避難所をつくったわけではありませんでしたが、顔見知りが多かったから自然と声をかけ合えたそうです。

普段からの関係があるからこそ、非常時のいざという時に助け合えるという信頼関係の深さを証明しています。

[ゲリラ戦] 小回りを活かした独自戦術をとる

ヤマザキショップ代田サンカツ店は、大手には真似できない非効率な打ち手を積極的に実行しています。

例えば、来店客一人ひとりの顔と名前を覚え、日々の会話を重ねていくという、手間と時間がかかる泥臭い活動がそれです。効率と標準化を重視する大手には導入は難しいことでしょう。

多伎子さんが 「暇だから」 ということで店先に立ち続けて声をかけるという、人件費を度外視するような接客。商品陳列を苦味が少ない順に並べるなど、会話のきっかけづくりへのこだわり。15:00お弁当購入時にお茶を付けるなどのサービスです。

出典: 日経クロストレンド

他には、クリーニングの取り扱いやお酒の配達など、手間がかかるサービスもやり続けるなど、現在はヤマザキショップとしての看板を掲げながら、コンビニらしからぬサービスを提供しています。

さらに 「サンカツアー」 という店主自ら街を案内するイベント企画も実施しています。池田さん自らが旗を持ち、常連や地域の人を連れて代田の街を練り歩くというイベントです。

住宅街の小道を抜けながら小ネタを交え、笑いを誘う。観光地ではない日常の景色も、池田さんの軽妙な案内によって魅力へと変わります。

このツアーに参加した人は 「普段何気なく通っている道だが、話を聞くと街の歴史やおもしろさを感じられた。代田に住んでよかったと思える」 と話します。地域への深い理解とお客さんとの強いつながりがある代田サンカツ店だからこそ実現できる、ユニークなゲリラ的イベントです。

まとめ

今回は、ヤマザキショップ代田サンカツ店の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 特定領域で No.1 を目指す。戦う市場やカテゴリーを限定し、圧倒的な No.1 のポジションを築くことに注力する [局地戦]
  • 強みを一点に集中投下する。自社の限られたリソース (人・物・金・情報) を、注力顧客、商品に集中し、効率を最大化する [一点集中]
  • 直接的な競争を回避する。価格競争や強者がひしめく戦場 (市場) を避け、価値を提供できる市場で、競争相手を限定する [一騎打ち]
  • 直接的な顧客接点をつくる。お客さんとの物理的・心理的な距離を縮め、直接的なコミュニケーションや個別対応から信頼関係を深める [接近戦]
  • 小回りを活かした独自戦術をとる。大手が参入しにくい手間のかかることや、ニッチなニーズに応えるなど、小規模ならではの柔軟性や機動力を活かしたゲリラ的な打ち手をとる [ゲリラ戦]