#マーケティング #顧客設定 #買う人と使う人
市場によっては、商品を 「買う人」 と、実際に 「使う人」 が異なるケースがあります。
大切なのは、買う人と使う人をひとくくりにせず、それぞれの視点から理解することです。
今回は、子ども服のナルミヤの V 字回復の事例から、買う人と使う人、双方の心をつかむ顧客設定と価値創出のヒントを探ります。
ナルミヤ
子ども服ブランドのナルミヤ・インターナショナルは、2000 年前後に一世を風靡しました。
出典: 東洋経済オンライン
派手な色使いと個性的なキャラクターが特徴の 「エンジェルブルー」 や 「メゾピアノジュニア」 といったブランドが、当時の小学生高学年から中学生の間でブームになりました。
当時の 「モーニング娘。」 や 「SPEED」 といった人気アイドルグループへの積極的な衣装提供をし、ファッション誌での派手な露出というアプローチも見事にはまりました。「モーニング娘。」 の辻希美さん、加護亜依さんといった中学生メンバーがエンジェルブルーを愛用していたことは、同世代の女の子たちにとって憧れとなったのです。
しかし、栄光は長くは続きませんでした。ブームは、ある戦略をきっかけに終わりを迎えます。
ナルミヤは主力のジュニア向けブランドから派生させる形で、3 歳から 9 歳向けの低年齢層ブランドを新たに展開しました。
ところが、それまでの主要顧客だったティーンのジュニア層から 「イメージが子どもっぽくなった」 と思われ、ブランドから離れていきました。売上高はピークから 5 年でほぼ半減し、2009 年 1 月期にはナルミヤ・インターナショナルは営業赤字に転落してしまったのです。
その後、経営体制の変化やブランド再編を経て、ナルミヤは再起を図ります。復活の背景には 「親と子どもの両方のニーズを満たす」 という新たな戦略がありました。
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では、ナルミヤの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、顧客設定について学びがあります。
「買う人」 と 「使う人」
顧客設定で忘れてはいけないのは、自社製品・サービスを 「買う人」 と 「使う人」 が同じではないのがあり得るということです。
分けて捉える
買う人はお財布の権限を持っています。子ども服の場合は買う人は親です。
判断基準は価格にシビアだったり、商品やサービスの品質、他には安全性や耐久性などの現実的な要素も重視されることでしょう。
それに対して、使う人は実際に服を着る子どもです。 子どもの基準はかわいさ、流行、憧れ、友だちに自慢できることなどです。
マーケティング視点で考えるナルミヤの失敗要因
2000 年代後半のナルミヤの失速は、「使う人」 である子どもに偏りすぎた結果でした。
2000 年代前半のナルミヤは、子どもたちの気持ちに訴えることに長けていました。
アイドルグループの 「モーニング娘。」 が着ていることで生まれる憧れ、友だちに自慢できるデザイン、キャラクターの可愛らしさ。これらは確かに子どもたちからの人気を呼んだ理由でした。
しかし、実際に財布の紐を握っているのは親です。「買う人」 である親の存在を、どこかで見過ごしてしまったのではないでしょうか。
子どもにとっての 「この服が欲しい!」 という強い感情 (利用文脈) が、親の 「本当にこの価格の価値があるだろうか」 「こんな派手な服、いつ着るのかしら」 という冷静な判断 (購入文脈) を上回っている間は、ナルミヤは売れ続けます。
ですが、ナルミヤが 3 ~ 9 歳へのブランド拡張をしたことでブランドイメージが 「子どもっぽい」 と感じられるようになったことで、子どもたちの熱狂は冷めました。
小学校高学年から中学生という 10 代前半の年代は、「もう子どもじゃない」 という意識が強い年頃です。その心理を見誤ったことが、ブランド離れを起こしました。
親の冷静な判断が相対的に強くなります。「デザインはかわいいけど、高すぎるし普段使いしにくい」 「もっと他に良い服がある」 と。子どもの熱狂を頼りにビジネスを成立させようとした結果、購入の決裁権を持つ親の視点が抜け落ちていたのです。
復活の理由
その後、ナルミヤは見事な復活を遂げています。
成功の要因は、親と子ども両方を 「お客さん」 として明確に定義し直したことでした。
2023 年に代表取締役執行役員社長に就任した國京 (くにきょう) 社長は明確に宣言しました。「子どもが欲しいと思うこと、親がお金を払ってもよいと思うことをマッチングさせる」 という方針です。
この方針のもと、ナルミヤは徹底的な現場主義を導入しました。
デザイナー自らが月に一度はお店に立ち、服を選ぶ親子の会話に耳を傾けました。
そこで聞こえてくる消費者の声、たとえば 「このチュールの袖がかわいい!」 という女の子と、その横で 「でも、こういうのって毛玉ができやすいのよね…」 と呟くお母さん。この両方の声こそが、本当に応えるべきニーズでした。
ここから生まれるのは、「子どもがときめくチュール袖のデザイン (利用文脈) 」 を、「親が納得する毛玉ができにくい丈夫な素材 (購入文脈) 」 でつくるという解です。デザインのかわいらしさは子どもの心をつかみ、素材の耐久性は親の納得を得る。子どもと親の両者が共に 「これなら」 と思える最適解を追求したのです。
他には、ナルミヤは直接の顧客接点を積極的につくりました。
中学生を交えた顧客参加型施策の一環としてファンミーティングを開催し、そこで新作の服を試着してもらいました。これにより、子どもたちの 「利用文脈」 をより深く理解することができます。
ナルミヤはブランドポートフォリオも再構築しました。
出典: PR TIMES
百貨店向けの高価格帯ブランドだけでなく、ショッピングセンター向けの 「petit main (プティマイン) 」 のような手頃な価格帯のブランドも展開し、大人向けの 「petit main LIEN」 (プティマイン リアン) で親世代の共感も得られることを目指しました。
こうした施策により、売上高は 2024 年 2 月期に約 375 億円を達成し、営業利益とともに過去最高を更新しました。
得られる学び
ナルミヤの事例は、ビジネスへの教訓を教えてくれます。
お客さんは一枚岩ではない
私たちはつい、「お客さん」 とひとくくりにしてしまいがちです。しかし、一般消費者向けの BtoC ビジネスであっても、「買う人」 と 「使う人」 が異なるケースは数多く存在します。
今回のような子ども服はもちろん、他には、祖父母が買うこともあるランドセル、親が契約する学習サービス、誰かのために選ぶギフト商品などです。そこには複数の人間の意思決定が介在します。
購入文脈と利用文脈を分けて理解する
「買う人」 と 「使う人」 の二者を分けて捉える上で重要なのが、それぞれの 「文脈」 を理解することです。
買う人の例えば親が持つ 「購入文脈」 は、価格・耐久性・品質・安全性といった、合理的でシビアな視点にもとづいています。
一方で、使う人である子どもが持つ 「利用文脈」 は、かわいい・流行・憧れ・自慢・友だちからの承認欲求といった、感情的でエモーショナルな視点で見ています。
購入と利用のふたつの文脈は異なるということを理解することが大事です。
両方を満たさなければ購買は成立しない
買う人と使う人が分かれている場合、どちらか一方の文脈に応えるだけでは、商売はうまくいきません。
子どもの利用文脈だけを追求すれば、親の財布が開かない。かといって、親の購入文脈だけを追求した実用的な服は、子どもが 「イヤ!」 と着てくれない。親と子の間で繰り広げられる、静かな "バトル" の光景が目に浮かぶようです。
たとえ購入が成立しても使ってもらえない、もしくは、そもそも売れない。このジレンマを解決しない限り、安定した成長は望めないでしょう。
現場観察が欠かせない
では、どうすれば購入と利用のふたつの文脈をつなぐことができるのでしょうか?
その答えは、やはり現場にしかありません。
ナルミヤのデザイナーが店舗に立ったように、親子の会話や、実際に商品を使っている場面を観察すること。そこから、両者の本音や、言葉にならないニーズのズレ、そしてそれを乗り越えるためのヒントが見えてくるはずです。
オフィス内や机上の空論ではなく、リアルな現場の観察こそが 「お客さん」 の解像度を上げる方法なのです。
お客さんをひとくくりにせず、自社のお客さんの解像度を高めるほど、それはすなわち自社のビジネスの特徴を知ることにつながります。
顧客を決めることはビジネスの一丁目一番地です。最初にはっきりさせるべきなのは 「自分たちのお客さんは誰か」 なのです。
まとめ
今回は、ナルミヤの子ども服の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 「買う人」 と 「使う人」 が異なる市場では、買う人 (予算・意思決定者) と、使う人 (利用者) を個別のターゲットとして分け、それぞれの役割と影響力を把握する
- 理解する深さとして、買う人の 「購入文脈」 と使う人の 「利用文脈」 まで掘り下げる。それぞれが重視する判断基準や選ぶ理由を理解する
- どちらか一方に偏るのではなく、両者の間に生じがちなニーズの対立を解消し、双方が納得し満足できる価値をつくり出すことを目指す
- データ分析に加え、実際の購買場面や利用シーンを観察する。両者の会話や力関係、言葉にならない本音を捉え、戦略の精度を高める
- お客さんをひとくくりにせず、自社のお客さんの解像度を高めるほど、それはすなわち自社のビジネスの特徴を知ることにつながる。最初にはっきりさせるべきなのは 「自分たちのお客さんは誰か」

