#マーケティング #顧客設定 #顧客文脈

製品やサービスが本来持つ価値をどう伝えるか――。

その答えは、年齢や性別といった表面的な属性情報にとどまらず、生活者が日々大切にしているライフスタイルや価値観、悩み、望みなどの 「顧客文脈」 に寄り添うことにあります。

顧客文脈に合わせて価値を翻訳することで、潜在顧客に自分ごととして受け入れられる道筋が見えてきます。

着圧ソックスのメディキュット

出典: メディキュット

20 年以上の歴史を持つメディキュットは、英国の医療用ストッキングをルーツとしたレッグケアブランドです。

日本の着圧ソックス市場を開拓し、No.1 ブランドとしての地位を築いてきました。

メディキュットの強みは 「手軽さ」 と 「品質」 にあります。

寝ながら脚をケアできる便利さ、そして英国規格に基づいた段階圧力設計による確かな品質。この 2 つによって、特に若年女性の間では認知率がほぼ 100% に達し、一度は使ったことがある人という使用経験率も 7 ~ 8 割を占めるほどの存在です (参考情報) 。

しかし、その強さゆえにメディキュットは課題に直面していました。

  • 若年女性市場はすでに飽和状態にあり、成長余地が限られている
  • 少子高齢化によって若年層市場そのものが縮小傾向にある
  • EC を中心に新興ブランドが次々と参入し、競争が激化している

若い女性の美脚ニーズに依存するだけでは、ブランドの持続的な成長は難しい。この危機感が、次の一手を打つ原動力となりました。

新たな戦略とマーケティング

2025 年、メディキュットは決断を下します。

ブランドコンセプトの再定義

従来のメディキュットは 「美脚」 という、若い女性特有のニーズに特化していました。

しかし消費者調査を進める中で、ユーザーの口コミやインタビューから、美脚以外の使用目的も存在することが明らかになりました。

例えば、男性は仕事へのコンディショニング管理とパフォーマンス向上のために、シニア層は筋力維持のためにといった具合です。

それぞれの潜在顧客層が異なる理由で脚のケアを必要としている。メディキュットには、そうした多様なニーズに応えられるポテンシャルがある。そう確信したブランドチームは、年齢や性別という枠組みを超えて、「脚の悩み」 という汎用的なニーズから顧客を理解し直すことにしたのです。

すべての脚悩みに応えるブランドへの進化

 「若い女性のためのブランド」 から 「すべての脚悩みを抱える人のためのブランド」 へ。この転換を落とし込んだのが 「メディキュット for ALL」 という戦略です。

この 「メディキュット for ALL」 の戦略には、2 つの狙いがありました。

ひとつは既存ユーザーである若年女性の再獲得です。一度は使ったことがあるけれど離れてしまったユーザーに、あらためて自分に合った商品があることを伝えることです。もうひとつは、これまでアプローチできていなかった男性やシニア層という新規市場の開拓でした。

興味深いのは、「メディキュット for ALL」 の戦略が単なる注力顧客の拡大ではないという点です。「内側から美しく、健やかな体へ」 というメディキュットのブランドの存在意義に立ち返り、美脚だけではなく健康という普遍的価値を軸に据え直したのです。

顧客文脈を反映したマーケティング

メディキュットが実践したのは、年代や性別という表面的な属性ではなく、想定するお客さんの生活文脈にもとづいたアプローチでした。

注力顧客の各グループを 「20 代女性」 や 「60 代男性」 といった括り方ではなく、「日々のコンディションを整えたい人」 「毎晩の脚のケアを習慣にしたい人」 というふうに捉えました。これがメディキュットが打ち出した顧客文脈ターゲティングです。

具体的な文脈を見てみましょう。

  • 毎晩の脚のケア (全世代) : 美容や健康のためにナイトルーティンを大切にする人には、「寝ながらケア」 という手軽さを提供
  • 足を細く美しく見せたい (若年女性) : 美脚を追求する人には、従来からの着圧ソックスの価値を引き続き提示
  • 日々のコンディションを整える (特にビジネスパーソン) : 仕事や趣味で最高のパフォーマンスを発揮したい人に向けて、疲労回復や翌日のコンディション管理のためのケアを提案
  • 推し活のための自分磨き (若年層) : ライブやイベントに向けて自分を磨きたい人には、特別な日のためのスペシャルケアを提案
  • 筋力の維持・向上 (シニア層) : 加齢による脚の衰えを不安に思う人には、脚の動きをラクにするサポートや履き心地を重視した商品を提供

このように、脚という共通テーマに集中しながらも、各世代のライフスタイルや価値観に深く入り込みました。それぞれのライフスタイルに即したストーリーを描き、マーケティングコミュニケーションを展開したのです。

学べること

メディキュットの挑戦は、マーケティングのあり方を示唆します。

単純な年齢や性別などの消費者属性によるターゲティングから、一歩進んだ顧客文脈ターゲティングの好例です。

表面的な属性だけではなく、内面的な顧客文脈の反映

お客さんのことを表面的な属性情報だけで終わるのではなく、顧客文脈まで踏み込むことの重要性です。

例えば 「30 代女性」 と一括りにするのではなく、「ナイトルーティンを大切にする人」 と捉えるというふうにです。他には 「60 代男性」 ではなく、「いつまでも自分の脚で旅行を楽しみたい人」 というように顧客像を描きます。

このようなお客さんの属性の奥にある価値観やライフスタイルを深く理解することで、初めてお客さんの心に響く提案ができるようになります。

メディキュットは、脚という身体の一部に着目しながらも、もっと広く生活者の願いや不安を丁寧に汲み取りました。

消費者やお客さんの奥にある、ライフスタイル、価値観、悩みや願いといった心理的な要素までを深く理解することが大事です。生活の中で解決したい問題、対処したい課題などの 「顧客文脈」 からお客さんを捉え直すことで、初めて心に響く提案につながります。

顧客価値を多様な切り口で提示する

メディキュットが提供するのは、「脚を健やかに保つ」 という顧客価値に集約できます。

しかし、価値の見せ方を、若い人たちには 「自分磨き」 、女性には 「足を細く美しく見せる」 、男性には 「コンディショニング」 、中高年の人たちには 「健康寿命」 といったように、相手が使う言葉や関心事に合わせて翻訳しました。

美容、コンディショニング・パフォーマンス、快適さなど、複数の便益に翻訳して提示することにより、同じ製品でも相手の消費者文脈によって異なる意味を持ち始めます。それにより、より多くの人々が 「これは自分のためのものだ」 と感じられるようになるのです。

この翻訳は、ただの言葉の言い換えではありません。それぞれの生活者が大切にしている価値観までをしっかりと理解し、生活者文脈の中で製品の意味を再定義する創造的な行為です。

固定観念を打ち破るコミュニケーション

メディキュットのコミュニケーションにも学びが得られます。

これまでにあった 「着圧ソックス = 若い女性のもの」 という着圧ソックスカテゴリーに根付いていた固定観念に対して、メディキュットは果敢に立ち向かいました。

具体的には、男性向けに機能性を訴求する製品パッケージを別につくったり、高齢者向け製品に 「60 歳からの脚ケア」 とはっきりと明記したりすることで、それぞれの顧客向けに 「これは、あなたのための着圧ソックスです」 というメッセージを発信しました。

固定観念を変えることは簡単ではありません。だからこそ、お客さんの本質的なニーズに応えるためなら、既存の枠組みを壊すことを恐れてはいけないのです。

* * *

メディキュットは 「脚」 という共通テーマを軸に、消費者の生活文脈に寄り添いながらブランドを進化させています。

単なるターゲット拡大ではなく、年齢や性別といった分かりやすい区切りを超えて、顧客の生活文脈を理解する。顧客文脈に寄り添いながら、自分ごと化できるブランドの価値を届けていく。

メディキュットが示したマーケティングには、可能性が広がっています。

まとめ

今回は、着圧ソックスのメディキュットの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 年齢や性別といった表面的な属性情報で顧客を区切るだけではなく、ライフスタイルや価値観、悩み、何を実現したいかといった顧客文脈で顧客像を深く捉える
  • 製品やサービスが持つ中心的な価値を、それぞれの顧客層が使う言葉や関心事などの顧客文脈に合わせて価値の見せ方を翻訳し、自分ごと化を促す
  • より多くの人々に受け入れられる普遍的なブランドの存在意義を定義し、戦略の土台とする。ブランドコンセプトと顧客文脈をつなげる