#マーケティング #人生 #本
今回ご紹介したい本が 「アキラとあきら (池井戸潤) 」 です。
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対照的な環境で育ったふたりのアキラの物語です。
貧困から這い上がった青年と、大企業の創業家の宿命に抗い自らの道を選ぼうとする御曹司。ふたりの 30 年にわたる人生は、仕事観や人生観への学びが多くありました。
本書の概要
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小説 「アキラとあきら」 は、同名異字のふたりの主人公、山崎瑛 (やまざき あきら) と階堂彬 (かいどう あきら) の半生を丹念に描いた青春物語です。
時代設定は高度経済成長後から、バブル期・バブル崩壊を経た 2000 年代前半までの約 30 年にわたります。
山崎瑛は中小企業の息子として育ち、幼少期に父の町工場が倒産する辛い経験を持つ青年です。家族は夜逃げ同然に故郷を離れ、父とも離ればなれになるなど過酷な少年時代を送りました。
しかし父が窮地に陥った際、ある若手銀行員の尽力で会社が救われたことで、瑛は銀行員への道を志します。
一方、階堂彬は、日本有数の大手海運会社 「東海郵船」 の御曹司 (長男) という、恵まれた環境で育ったエリートです。
周囲から見れば順風満帆な王道を歩む彬の人生には、莫大な資産と権益を巡る父と叔父たちの骨肉の争いと確執が渦巻いていました。彬自身は跡継ぎが約束された人生を嫌い、自力で道を拓く人生を選びます。
幼少期に一度だけ偶然すれ違っていたふたりは、やがて大人になり運命的な再会を果たします。
池井戸潤のこの小説は、銀行業界の内実を知り尽くした作者ならではのリアリティと、人間洞察が融合した読み応えのある作品です。
テーマ
本書がおもしろく読めるのは、銀行業務や企業再生のビジネスの専門的な話だけではありません。
小説の人間ドラマを通して、仕事観や人生観に深く関わるテーマが描かれているからです。
宿命と運命
人は生まれる環境を選べません。しかし、その後の人生は自分次第で変えられるはずです。
本書ではふたりのアキラの対比によって、「宿命」 と 「運命」 が鮮明に描かれます。
山崎瑛は幼少期に父親が経営する工場の倒産という、自らではどうすることもできない過酷な状況に翻弄されます。しかし逆境をただ嘆くのではなく、「自分のような境遇の人々を救うバンカーになる」 という強い意志を持ち、自ら運命を切り開いていくのです。
一方、階堂彬は大企業の創業一族で、社長の長男という、生まれた時から決められたかのような宿命を背負っています。ですが、レールに抗うように、自らの意志で運命を切り拓こうとします。
物語の終盤、彬は逃げることなく宿命に正面から向き合うという大きな決断を下します。
ふたりの生き様は、私たちにこんなことを教えてくれます。
与えられた境遇 (宿命) には責任を持つ。しかし、それに決して呑まれてはいけない。自分の意志と行動で未来 (運命) は変えていけるのだ、と。ふたりの姿は、明日へ一歩踏み出すための静かな勇気を与えてくれます。
バンカーの矜持 「金は人のために貸せ」
銀行を舞台にした本書には、銀行員のあるべき姿を問う理念が登場します。
それは、「金は人のために貸せ。金のために金を貸したらそれはただの金貸しだ」 というセリフに象徴されます。あるバンカーが主人公たちに教える信条であり、この考え方は物語の中で繰り返し出てきます。
企業の業績や数字だけを見るのではなく、その背後にいる人を見て融資せよという銀行員の矜持が示されており、バンカーとなった山崎瑛はこの言葉を胸に 「困っている人や会社を救いたい」 という信念で行動します。
このテーマから、金儲けのためだけではなく、社会や人の役に立つために仕事をすることの大切さを学べます。金融の本質を突いたものとして心に残ります。
仕事は、何のため、誰のためにあるのか。利益を追求するその先に、どんな価値を生み出しているのか。日々の業務に追われる中で忘れがちな、仕事で大切なことを思い出させてくれます。
間違いに気づき、軌道修正する
登場人物たちは様々な局面で意思決定を迫られますが、そこでの教訓のひとつが誤りを認めて正す勇気です。
階堂彬の父・一磨は経営者として成功を収めてきましたが、自身を 「成功の囚人」 になっていたかもしれないと後に省みます。過去の成功体験に固執すると判断を誤り、失敗につながるという戒めです。
また一磨は 「間違ったと思ったらすぐ引き返せ」 「継続すれば損失がさらに膨らむ時は、損して得取れで撤退を決断せよ」 と息子である彬に語り、経営判断の厳しさを教えます。
現実のビジネスでも、「これまでうまくいっていたから」 という理由で同じやり方を続けることがあります。
一度始めてしまったプロジェクトを、今さら止められない。これまで投資した時間やコストが惜しい。そう考えてしまい、結果的にさらに大きな傷を負ってしまうことは少なくありません。
環境は刻々と変化しています。過去の成功にとらわれず、もし失敗をしたら直視し、間違いに気づいたらすぐに軌道修正することが、次の成功への道を開くのです。
顧客理解と謙虚さ
ストーリーの中で、階堂彬が営業幹部に対して痛烈な叱責をするシーンがあります。
長年続いた取引先を失った原因を巡り、彬は 「お客様に対するリスペクトが決定的に欠けている」 と指摘します。自社の不手際や不誠実な対応をしても謝罪や反省をせず、「これからも取引は切れないだろう」 と高を括って顧客を侮る態度の幹部に、顧客の信頼は二度と取り戻せないと断じるのです。
その後、彬は 「現場の不満や顧客の声こそ次の経営のヒントになる。都合の悪い情報を隠せば社長は裸の王様だ」 と述べ、徹底した顧客目線と現場を重視する姿勢をとりました。
老舗の看板、古くからの取引相手、安定した業績などに胡座をかいて自らを省みない振る舞いは、お客さんから見放されます。逆に言えば、お客さんの声に真摯に向き合うことで、無自覚だった自分たちの傲慢や慢心に気づくことができ、改善の機会を得られるのです。
これはあらゆるビジネスに通じる教訓です。自らでは気づけない傲慢や慢心を顧客に教えられるということです。
この本の登場人物たちの成功と失敗を通じて、お客さんの立場に立ち、相手の声に謙虚に耳を傾けることの大切さが心に刻まれます。
終わりに
小説 「アキラとあきら」 は金融ビジネス小説の枠を超え、多様なテーマを内包する人間ドラマです。
山崎瑛と階堂彬という対照的な主人公の人生を幼少期から丹念に描き、ふたりがそれぞれの宿命にどのように向き合い、自らの運命を切り開いていくかという普遍的な問いを提示しています。
宿命と向き合う。運命は変えられる。 そして、仕事を通じて人を救うことによって、自分自身も救われていく。
本書を読み終えたとき、きっと自分の仕事の意味を問い直したくなるはずです。
まとめ
今回は、書籍 「アキラとあきら (池井戸潤) 」 を取り上げ、考えさせられたことを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 銀行業界を熟知する著者・池井戸潤さんならではのリアリティと人間洞察が融合した作品
- 銀行業務や企業再生のビジネスの専門的な話だけでなく、人間ドラマを通じて人生観・仕事観に関わるテーマで描かれている
- 人は生まれる環境を選べないが、その後の人生は変えられる。与えられた宿命に責任を持ちながらも、それに呑まれず自らの意志と行動で未来を変えられることを示す
- 「金は人のために貸せ」 。数字ではなく人を見て融資することの大切さ
- 成功や現状に慢心せず、顧客の声に真摯に耳を傾けることが驕りの気持ちや態度をなくす。改善や信頼構築にもつながる
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