投稿日 2010/07/24

書籍「新聞消滅大国アメリカ」

新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)「新聞消滅大国アメリカ」(鈴木伸元著 幻冬舎新書)という本を読みました。気になった部分を中心に、自分なりに整理してみます。


■新聞消滅大国アメリカ

アメリカでは新聞が想像を絶する勢いで消滅しているそうです。「新聞消滅大国アメリカ」はこのような書き出しで始まります。具体的をそのまま紹介すると、「新聞消滅大国」とした状況が見えてきます。
  • 04-08年の5年間で、廃刊になった有料日刊紙は49紙(アメリカ新聞協会)
  • 同5年で発行部数は5460万部から4860万部に減少。10%超の600万部の落ち込み
  • 09年の1年間で同水準の46紙が廃刊(調査機関ペーパーカッツ)
  • NYタイムズ・メディアグループは、06年からの3年で全社員の3割の約1400人を削減
  • ワシントン・ポストは全ての支局を閉鎖

上記のような状況について、オバマ大統領は、「新聞のない政府、活力あるメディアが存在しない政府は、アメリカの選択すべき道ではない」と語りました。大統領がこのように発言するほど、アメリカの新聞業界は危機的な状況にあるようです。


■日本の状況は

「新聞消滅大国アメリカ」ではその大部分をアメリカの新聞やメディアについて書かれていますが、最終章では日本の新聞についても言及されています。

まず挙げているポイントは、アメリカと日本では新聞社の収益モデルが異なるという点です。具体的には、アメリカは収入の8割を広告から得ているのに対して、日本は3割のようです。日本の場合は残りの7割は新聞の販売収入、つまり、新聞代を読者が支払うことで成り立っています。2つ目のポイントとして、戸別宅配率の違いを挙げています。アメリカの74%に対して日本は95%(それぞれ日米の新聞社協会の発表による)。これらの数字を見ると、日本の新聞社の収入は安定しているようにも見えます。

しかし、新聞協会の「新聞研究」による新聞社41社(サンプリングにより抽出)の営業利益を見ると、
  • 06年度:955億円 (対前年比 -4.4%)
  • 07年度:672億円 (対前年比 -29.6%)
  • 08年度: 74億円  (対前年比 -89%)「新聞消滅大国アメリカ」p.183から引用
という減益傾向が見られます。

また、電通が発表した「日本の広告」によれば、09年のメディアの日本の広告費および対前年比は以下のようになっています。
  • テレビ:1兆7139億円 (対前年比 -10.2%)
  • インターネット:7069億円 (対前年比+1.2%)
  • 新聞:6739億円 (対前年比-18.6%)
  • 雑誌:3034億円 (対前年比-25.6%)

広告収入はアメリカの8割に比べ日本は3割とはいえ、09年に新聞はついにインターネットに抜かれた状況です。


■新聞がなくなったら何が起こるのか

では、もし新聞がなくなってしまうとどうなるのでしょうか。本書では、新聞廃刊に関するある調査結果が引用されています。プリンストン大学のサム・シェルホファーによる、07年の新聞が廃刊となったある地方選挙についての統計学的な分析です。それによると、以下のような記述があります。
  • 選挙での投票者の数が軒並み減少した
  • これは新聞廃刊による情報減少で、有権者の政治への関心低下が考えられる
  • 立候補する候補者の数も減少
  • 競争が起きにくくなり、現職に有利な状況が生まれる

地元の新聞が完全に消滅したケンタッキー州コビントンのある住民は、次のように嘆いています。「とにかく地元のニュースが入ってこなくなった。」


■新しいメディアのかたち

一方で、「新聞消滅大国アメリカ」では新聞に取って代わりつつあるメディアについても紹介しています。以下、4つほど書いておきます。

グーグル・ニュースやヤフー・ニュースでは、様々なニュースの見出しや本文が無料で閲覧できます。アメリカン・オンライン(AOL)は新聞社をリストラされた記者をリクルートし、ニュースの発信を行っています。グーグルやヤフーは自らが取材をしているわけではないのに対し、AOLは自ら取材し情報を提供しています。

ニュース記事などの情報に対して「課金」を行う動きもあります。日本では日経新聞電子版が代表的ですが、アメリカではウォールストリートジャーナルは1996年のサービス開始当初から有料で配信し、課金制の成功事例とされています。

もう一つ、アメリカで議論になっているものとして、新聞社をNPO(非営利団体)とし政府による救済を行うというものがあるそうです。併せて、税制上の優遇措置を与えることや新聞社への寄付についても税制上の優遇を与えることについても議論になっているとのこと。しかし、新聞社のNPO化については反対意見が多いのが現状のようです。理由は政府による支援を受けることで言論の自由が妨げられるのではないか、あるいは、そもそも新聞社を救う必要があるのかというものです。寄付についても同様で、寄付の出資先に対して時には批判的な記事も書くことになりますが、果たして書けるのかどうかという懸念もあります。

アメリカのジャーナリズムの方向性の1つに調査報道があります。これは、長期間に及び取材を重ねることで事実関係を積み上げ、最終的には社会の隠れた問題や政治問題を暴くという取材スタイルです。新聞が衰退する一方で、注目を集めていると本書では書かれていました。


■ジャーナリズムと新聞

本書で印象的だったのは、ジャーナリストの立花隆氏による、新聞が担うべきジャーナリズムの定義についてです。

「もし新聞がただひとつだけの機能しか果たさないものであると仮定した場合、新聞は社会において正義が行われているかどうかということをモニターする、絶えず監視する役目をつとめなければならないということになるでしょう。(中略) 現代社会では、ジャーナリズムが正義の夜警役をつとめなければならないわけです」 (p.190から引用)

個人的には、報道機関が正しく情報を報道し、それが社会における監視役となることは期待したいですが、ただ一方で、その役目は必ずしも新聞でなければいけないとは思わないです。これまでは最も手軽であった新聞が、インターネットによりその立場が難しくなっていると思います。アメリカで起こっている新聞業界の衰退や相次いで廃刊する状況と同じことが日本でも起こるかもしれません。新聞が他の情報媒体との「強み」を再構築する時が来ているのではないでしょうか。


※参考情報

09年「日本の広告費」 (電通)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2010/pdf/2010020-0222.pdf


新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)
鈴木 伸元
幻冬舎
売り上げランキング: 26053


投稿日 2010/07/19

書籍 「トレードオフ」

トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか「愛される商品」となるか、「必要とされる商品」になるか。

成功したければこのどちらかを選択しなければならず、両方を追い求めることは幻想にすぎない。また、決して中途半端ではいけない。

書籍「トレードオフ」(ケビン・メイニー著 プレジデント社)には、このような主張がされています。

この本は、「愛される商品:上質」、「必要とされる商品:手軽」と位置づけ、「上質」か「手軽」のどちらをとるか(トレードオフ)が大事であると説明されています。

■ 上質とは

上質の例として、音楽のコンサートが考えられます。

好きなアーティストのコンサートに行くことで、アーティストの演奏だけではなく、照明や音響効果、観客との一体感、あるいはコンサートに行ったことを知りあいに自慢できることも含め、これらの経験が音楽における「上質」であるとこの本では説明されています。

このように上質であることの要素に「経験」が挙げられますが、上質は以下の式に分解できるとしています。

上質 = 経験 + オーラ + 個性

上質な商品が醸し出す「オーラ」や、自分に合うか・自分らしさを引き立ててくれるかかどうかという「個性」です。これらがそろっていることで上質であると説明されています。

著者は、上質なものを換言すると「愛される商品」かどうかだと言います。

■ 手軽とは

上質とトレードオフにあるのが「手軽」です。

手軽とは、望むものの手に入りやすさ・使いやすさ、つまり、簡単に手に入るという意味としています。音楽の例では、上質はコンサートでしたが、手軽は iTunes でのダウンロードとなります。手軽を要因分解すると、次のようになります。

手軽 = 入手しやすさ + 安さ

上質の式と見比べることで、手軽な商品やサービスには上質の要素である個性やオーラが入り込む余地はほとんどないことがわかります。逆も同様で、すなわち、両者はトレードオフの関係にあり、上質と手軽を天秤にかける必要があることを意味します。

著者は、手軽なものを換言すると「必要とされる商品」かどうかだと言います。

■ トレードオフ

本書には、iPhone、キンドル、スターバックス、COACH、格安航空会社、ATM など、数多くの事例が取り上げられています。中には期待された商品であったにもかかわらず、すぐに廃れてしまったものもあります。著者は、上質と手軽のどちらか一方を極めることが非常に難しいことであると主張します。

なぜ、それほどまでに難しいのか。その理由は2つあります。

(1)上質と手軽の定義は時間の経過とともに変わる
理由の1つ目として、上質・手軽ともにあくまで相対的なものだからです。上質や手軽を引き上げるのは、テクノロジーやイノベーションです。新しい商品やサービスが従来の市場を壊してまったく新しい市場を創造し、上質さと手軽さをめぐる人々の選択を一変させる場合があるのです。

(2)上質か手軽かは企業が自ら判断できない
もう1つの理由は、上質か手軽かの判断はあくまで消費者がするという点です。さらに言えば、同じ商品やサービスでもそれを上質と感じるか、手軽なものだと思うかは人それぞれだということです。ここで示唆されることは、上質と手軽はセグメントごとに考えなくてはならない点です。

■ 個人にあてはめる

本書の最終章は「あなた自身の強み」です。すなわち、上質か手軽かの概念を自分自身の持ち味や強みの考え方にも適用できると書かれています。著者曰く「世の中で活躍著しい人々は、上質または手軽のどちらかをきわめているものだ」。

注意しなければいけないのは、個人の場合でも上記の上質/手軽を極めることが難しい理由が当てはまることです。(1)上質/手軽は時間とともに変わる、(2)上質/手軽の判断は自分でできない。個人的には、(1)に留意したいと思いますし、故に企業や個人に関係なく、ライバルに追い抜かれないためには、成長が欠かせないと言えそうです。


トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか
ケビン・メイニー(著) ジム・コリンズ(序文) 内田和成(解説)
プレジデント社
売り上げランキング: 284


投稿日 2010/07/14

ソフトバンク孫社長の「300年ビジョン」から考えたこと

少し前の話になりますが、6月25日にソフトバンクの孫正義社長による「ソフトバンク新30年ビジョン発表会」が実施されました。

発表会はユーストリームでも中継され、多数のブログでも関連記事がエントリーされています。発表内容は、孫さん自身が「僕の人生の中で、おそらく今日が一番大切なスピーチ」「30年に一度の大ぼら」と発言したこともあり、なかなかおもしろかったです。今回の記事では、発表内容の気になった部分や考えたことを書いてみます。



■「新30年ビジョン」の概要

発表の目的は、この先30年のビジョンを示すことで、「ソフトバンクをどんな会社にしたいのか」「どういう思いで事業を行っていきたいのか」の発信および共有だと思います。

アジェンダはソフトバンクの、①理念(何のために・どんなことのために事業を行っているのか)、②ビジョン(この30年先の人々のライフスタイル展望と、それに対する取り組み)、③戦略(成し遂げたいことをどのように行うか)でした。



■おもしろかった300年ビジョン

「新30年ビジョン」の発表の中に、この先の300年に対するビジョンがありました。個人的にもおもしろかったなと思う部分です。ちなみに、発表会の主題は「30年ビジョン」なのに、なぜ300年ビジョンも取り上げているかというと、孫さん曰く「30年というのは300年の中での1つのステップに過ぎない」という位置づけで、まずは300年という大きな方向性を定めてから30年を考えるという趣旨だからです。発表資料スライドには、「迷ったときほど遠くを見よ」とも書かれていました。

300年ビジョンの中で興味深かったのは、次の項目です。
・ コンピューターが人間の脳を超える
・ 脳型コンピューターについて
・ その他の技術進歩 (クローン、人体間通信(テレパシー)など)

以下、それぞれについて簡単に記しておきます。


○コンピューターが人間の脳を超える

コンピューターでの計算には二進法が用いられています。コンピューターがトランジスタ化され、このトランジスタがくっつく・離れるという原理です。一方、脳細胞にあるシナプスでは、シナプスがくっつく・離れるというこれも二進法と捉えることができます。つまり、コンピューターと脳細胞は二進法という同じメカニズムを持っているのです。

我々人間の大脳には約300億個のシナプスがあると言われています。コンピューターのワンチップの中に入っているトランジスタの数は増加し続けており、いつかはこの300億という数字を超えます。ソフトバンクの試算では、それが2018年に起こると言います。ここでは、2018年という時期は大きな意味はなく、いずれトランジスタの数が人間の脳が持つ300億のシナプスの数を超えるということが重要だと思います。つまり、コンピューターのワンチップが、人間の脳細胞の能力を超える能力を持つ可能性があるのです。



○脳型コンピューターについて

孫さんは脳の定義を、「データとアルゴリズムを自動的に獲得するシステム」としました。ここでいうデータとアルゴリズムはそれぞれ、知識と知恵を指しています。そして、人間の脳の働きとしては、知識(データ)、知恵(アルゴリズム)、感情(ゴール)の3つがあると説明しました。孫さんは、300年以内にこの脳の働きをするコンピューター、つまり脳型コンピューターが出現すると言います。


○その他の技術進歩 (クローン、人体間通信(テレパシー)など)

300年ビジョンで紹介された技術にはクローンがありました。これ以外にも、テレパシーのような人体間通信についても言及しています。脳と通信するチップを持ち、そのチップが他人の持つチップと無線で通信する仕組みです。すなわち、チップが媒体となり脳と脳が結ばれるようになります。



■300年ビジョンから考えたこと

目の前の仕事など普段とは全く異なる、ちょっと大きな視点で考えることは結構楽しかったりします。


○人間を超える脳型コンピューターと人類の存在意義

知識、知恵、感情の3つのうち、人間が現在のコンピューターに勝っているのは知恵、感情の部分だと思っています。知識、すなわち保存できるデータ量や、計算速度はもはやコンピューターには絶対に勝てません。しかし、知識と知識を紐づけたり、情報の体系化、仮説立案、新たな発想・アイデアの考案など、この領域はコンピューターに対する人間の脳の強みと言っていいものです。

しかし、仮に孫さんの言うように、コンピューターが知識、知恵、感情を持ち、その能力で人間を超えた時、果たして、人間の強みは何になるのでしょうか?

人間は地球上ではあらゆる生物の頂点に立っている存在です。高度に発達した知能とそれに基づく科学技術によるところが大きいと思います。しかし、「脳型コンピューター > 人間の脳」ということになれば、これまでの人間が頂点にいるという図式が変わってしまうのではないでしょうか(脳型コンピューターを持つロボットが人間などと同様の「生物」として扱っていいかどうかの議論はさておき)。

もしこのような状況になったとすると、これこそが「人類史上最大のパラダイムシフト」だと思わずにはいられません。少し大げさかもしれませんが、これまで当たり前のように君臨していた頂点を譲る時、人類の存在意義があらためて問われるような気がします。


○クローンとテレポーテーション

技術的には例えば髪の毛一本から人間の複製ができてしまうと言います。孫さんがクローンについて触れた時にふと思ったのが、クローン技術を応用すれば人や動物の移動手段に使えそうだなということです。例えば、A地点からB地点に移動したい場合に、
・ A地点で採取したDNA情報をB地点へデータ送信
・ そのDNAデータからB地点でクローンを瞬時に作製
・ クローンの作製が確認できれば、A地点のクローン元を消去する
という感じで、ほぼ瞬間移動の完了です。要はPCの中でやっているファイルとかの「カット(切り取り)&ペースト」を、クローン技術を使って現実世界で行なうイメージです。

もちろん、現在各国の政府が人間のクローンだけは禁止していることからも、それ以上にこの話は全くの非現実的な考えです。何かの不備で移動に失敗すれば怖すぎる話ですし、PC内でファイルが壊れるのとは訳が違います(でもたぶん、DNA情報が残っているので、クローンでの復元ができそうですが)。



■最後に

科学技術はともすればもろ刃の剣だと思います。人や動物を殺す道具にもなり、地球を破壊してしまう力も持ちます。一方で、現在の我々には解決できないであろう大地震などの自然災害、未知のウイルス、テロ、隕石、など、科学技術はこれらのものを解決する可能性も持ちえます。孫さんの言う「情報革命」により、もっと便利な世の中になるかもしれません。

変化の激しい世の中ですが、時々は上記の30年・300年のような大きい視点で考える機会を持ちたいなと思います。



※参考資料

ソフトバンク孫正義社長による「新30年ビジョン」書き起こし Part1
http://kokumaijp.blog70.fc2.com/blog-entry-87.html

ソフトバンク孫正義社長による「新30年ビジョン」書き起こし Part2
http://kokumaijp.blog70.fc2.com/blog-entry-88.html

「新30年ビジョン」プレゼン資料 (PDF)
http://webcast.softbank.co.jp/ja/press/20100625/pdf/next_30-year_vision.pdf

動画&プレゼン資料 (ソフトバンクHP)
http://webcast.softbank.co.jp/ja/press/20100625/index.html

USTREAMでの動画アーカイブ
http://www.ustream.tv/recorded/7882795


最新記事

YouTube (ビジネス系の動画配信)

Podcast - 10分で磨けるビジネスセンス

note - #ビジネスセンスを磨くノート

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 合同会社の代表 (会社概要はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

note, Twitter, theLetter, YouTube, Podcast, Google Podcasts, Amazon music, Spotify, stand.fm, も更新しています。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。