2013/01/20

やりたいか、やりたくないか:財政破綻をした夕張市長を目指すという決断

火中の栗をひろう。

このことわざは、他人の利益のために危険をおかすことの例えとして用いられます。当時、東京都職員を自ら退職し、人生においてある決断をした1人の若者はまさにこんな覚悟だったんだと思います。

その決断とは、事実上の財政破綻をし財政再生団体となった夕張市の市長を目指すというもの。退職金はゼロ、仮に市長に当選したとしても年収は安定していた東京都職員の時よりも200万も下がる。

選挙に勝つのに必要と言われる三バン、①地盤:地元有力者とのつながり、②看板:知名度、③鞄(お金)を持ち合わせていない。夕張市長にそもそも当選するかどうかもわからない状況でした。選挙に落ちれば無職です。

もう1つ、東京都職員を辞し、夕張市長を目指す決断を決めかねることがありました。婚約者との結婚話がかなり進んでいたことです。すでに相手の両親には挨拶をすませ、ローンを組んで埼玉に買った家がある。自分の親も実家近くに息子が住んでくれることを喜んでくれている。

周囲も当然、反対の声しかなかったそうです。「馬鹿なことをするな」、「もう少し冷静になれ」、「休みを取って落ち着いて考え直せ」。

それでも、夕張市長を目指すという気持ちに至ります。「なぜ、そんな決断をしたのか」、これがやらなきゃゼロ!――財政破綻した夕張を元気にする全国最年少市長の挑戦 (岩波ジュニア新書)という本を読もうと思った時に浮かんだ疑問でした。

■やりたいか、やりたくないか

不安をあげればきりがなかったと思います。選挙に勝てるのだろうか、当選しても自分の生活はどうなるんだろう、結婚は、もし落選すれば無職になってしまう。市長を目指す夕張市は、日本一お金がない市とも言えるような事実上の財政破綻の状態にある。夕張は故郷でもなく、都庁から派遣され2年しか住んだことのない土地。

しかし、悪条件ばかりがそろっているのに、自分に「やりたいか、やりたくないのか」を問うた時、「やりたくない」という明確な答えがない自分がいたそうです。不安や心配は「やりたい」気持ちを邪魔しているだけなのではないか。そんな時に後押ししてくれたのが、英国元首相であるウイストン・チャーチルの言葉でした。
お金を失うことは小さく失うことだが、名誉を失うことは大きく失うことだ。しかし、勇気を失うことは全てを失うことだ
本書「やらなきゃゼロ!」の著者は現在の夕張の鈴木直道市長です。夕張市長を目指すという一大決心の後、苦難の道を経て2011年4月に市長に当選、現在に至ります。この本で印象に残っている内容の1つに、鈴木さんの決断があります。同世代ということもあり、もし自分が同じ状況だったらと置き換えると、とても大きな意思決定だと思いました。

何かを決める、特に自分のキャリアのターニングポイントになるような状況では、「できるか、できないか」を考えがちです。でも、そうではなくて、鈴木さんは「やりたいか、やりたくないか」という視点でした。そして「やりたい」と強く思った。チャーチルの言葉にあった勇気を決して失わなかったのです。



■市の財政破綻の現状:自治体が貧しくなるということ

「やらなきゃゼロ」という本に書かれている内容は、次の4つです(もくじがこの通りになっているわけではありません)。
  • なぜ夕張市長を目指すことにしたのか。著者の迷いや決断への経緯
  • 立候補から市長当選までの選挙活動
  • 夕張市長になってからの取り組み
  • 夕張市について。栄枯盛衰の歴史、財政破綻の現状
2007年3月に夕張市が財政再建団体に移行した時、夕張は353億円の赤字を抱えていました。この赤字額は、標準財政規模(自治体が裁量で使える財源)の8倍にものぼる規模。財政再建には歳出のカットと歳入の増加が必要で、夕張は「全国最低の行政サービス、全国最高の住民負担」と揶揄されるほど。行政サービスを徹底的に圧縮せざるを得ない状況なのです。

財政再生計画では毎年26億円の返済を17年間続けるというもの。夕張市の標準財政規模が50億円なので、家庭に例えれば500万の年収から毎年260万の借金返済が必要になります。食費や水道光熱費などの必要な生活費を確保しつつ。

なので興味深かったのは、夕張市の現状、すなわち自治体が財政破綻をするとどうなるのか。個人が貧しくなるというのはまだイメージができます。でも、市という自治体レベルで財政破綻となったら生活状況はどうなるのか。

歳出削減のため、公共サービスが削減されます。夕張市には小学校がたった1校しかないそうです。ところが、夕張市の面積は東京23区よりも広いのです(約1.2倍)。夕張では東京のように交通機関が充実しているわけではありません。夕張の小学生は通学にバスを使うそうです。冬には毎朝マイナス10度を下回るような寒さのなか。

除雪車の出動基準も厳しくなりました。市では積雪が一定レベルを超えれば除雪車を出し雪どけをしていたのですが、その基準が積雪10cm⇒15cmに変更。たった5㎝と思うかもしれませんが、夕張市は高齢者の割合が高いこともあり(高齢化率44%超)、除雪車が来てくれるかどうかは通院や買い物にも支障をきたすような影響の大きなものです。(なお、除雪車の出動基準はその後、積雪条件も考慮し柔軟に対応できるよう変更されたとのこと)

他にも市の職員の給与大幅カット、水道料金の値上げ、等もありました。自治体レベルで貧しくなるとは、このように今までは当たり前のようにあったものがなくなったり縮小されたり、あるいは値上げしないとやっていけないのです。

■夕張は日本のモデルケース

鈴木夕張市長が誕生して2013年の今年は3年目。本書では市長となってからの具体的な取り組みもいくつか紹介されており、夕張市のホームページでは政策の進捗上も公開しています。

ただし、夕張市の再生への道のりはまだまだ先は長い。財政を再建しつつ、一方で地域の活性化も図っていかなければいけません。財政再建を果たしてもその時に人々が住みよいところと思わなければ、なんのための再建かもわからなくなってしまう。そんな難しいかじ取りをしなければいけないのが現状です。

鈴木さんが東京都庁職員を辞めることを当時の石原慎太郎東京都知事に報告に行き、辞職し夕張市長を目指す言った鈴木さんに石原都知事から「お前はとんでもない勘違いやろうだな!」と言われます。

しかし、その後にこんな言葉をかけられたそうです。「いや、何事も勘違いから生まれる。後先を考えずにがむしゃらにやるうちに、当時は『勘違い』と言われていた『夢』が現実になる。裸一つで夕張に行く。そういうお前を俺は殺しはしない。」

鈴木さんの夢とは夕張という地を良くしたいという思い。これが人生の目標でもあり、市長としての目標と個人としての目標が一致しているそうです。

夕張の取り組みは、ある意味、これからの日本のモデルケースとも言えると思います。




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多田 翼 (書いた人)