2015/02/25

書評「夜の経済学」(飯田泰之/荻上チキ)

「性風俗」や「売春」。これらは本当の実態はあまり語られず、なんとなくのイメージでしか捉えられている世界ではないでしょうか?



風俗業界の市場規模はどれくらいなのか?

自らの体を売る女性はどういう人たちで、一方の買う男性はどうなのか?どのくらいのお金のやりとりがされているのか?

性風俗と売春ではどんな違いがあるのか?

「夜の経済学」という本が興味深く読めたのは、「夜の世界」について、自分たちでデータを集め、統計的な処理をし、データ分析結果から見えてくることを考えるスタンスにあったからでした。

■性風俗と売春の価格

本書の中で、特に興味深いデータであり考察だと思ったのは、性風俗と売春の「価格比較」についてでした。

性風俗と売春の2つの価格データの共通点がありました。経済水準が高い地域ほど、性風俗も売春の価格は高くなる。要は、東京や大阪などのエリアは高いという、これ自体、驚きは少ないデータです。

一方で、「価格差のばらつき」については、興味深いデータ結果でした。

地域ごと(県別)で、①経済水準(県民所得)の差、②性風俗の価格差、③売春の価格差を比べると、
  • 性風俗の地域ごとの価格差は、地域間経済格差よりも小さい
  • 売春の価格差は、地域間経済格差と同程度 or それ以上に大きい
つまり、地域ごとの価格差(ばらつき)を比較すると、次のような関係にあることがわかったのです。

売春の価格差 ≧ 経済水準の格差 > 性風俗の価格差

■地域価格差はなぜ発生するのか?

これは何を意味するのか?

本書での考察のポイントは「移動」でした。一般的に、供給者や受給者の移動がある場合には、地域間の価格差は小さくなります。

例えば、
  • 東京にいる受給者(買う側)が、より安く買うために安いエリア(地方)に移動すれば、移動先の安かった地方の価格は上がる
  • 逆に、地方の供給者(売る側)が、今のエリアよりも高い都市エリアで売ろうとすると、それまでは高かった都市での価格は下がる
供給者と受給者の双方が、より有利な条件を求めて移動することで、地域間の「価格差」は小さくなります。

逆に、移動が難しいと価格差は大きいままで固定されます。

■調査データから見えてくる「売春市場における移動性の低さ」

本書では、この経済学的な仮説をもとに、データから検証し、なぜ性風俗と売春の価格差に違いがあるのかを、調査とデータから考察しています。

自分たちで実施した調査とデータから、売春における供給者(売る女性)と、受給者(買う男性)のそれぞれで、移動が困難である実態が見えてきます。性風俗と売春の女性の違い、性風俗を利用する男性と買春をする男性の違いを、調査データに基づいて比較がされています。

データを集めた調査方法は、それぞれ以下の方法からとのことです。
  • 性風俗の女性:インタビュー調査
  • 売春をする女性:インタビュー調査
  • 性風俗を利用する男性:インターネット調査
  • 買春をする男性:売春女性に対して「自分を買った男性」にあらかじめ用意した質問項目を聞いてもらう調査方法
4つ目の、買春をする男性の調査方法がユニークです。彼らのデータを集めるにはネット調査では難しいと判断し、売春女性に対して「自分を買った男性」に調査するという売春女性を経由した方法でした。

これは間接的な調査方法であり、そもそもの調査データとして妥当なものかどうかは突っ込みどころはあるでしょう。データ結果を見る際にはこの点を考慮に入れる必要があります。それでも、個人的には貴重な調査データであり、そこから見えてくることは価値のあるものだと思いました。

調査データからの比較の結論として、性風俗に比べて売春における供給者(女性)と受給者(男性)のそれぞれで、移動性の低い人たちが多かったという実態でした。

ここで言う移動性とは、一時的な移動や引越しなどの住環境を変えることも含め、より魅力的なエリアに移動できるかどうかを指しています。移動性が低いというのは、主にその人の経済/家計事情で、そのエリアにとどまらざるを得ない環境という状況でした。

具体的には、風俗嬢と売春をする女性の収入には大きな違いが見られ、学歴にも差がありました。

一方の男性側でも、性風俗に行く男性の職種や学歴は一般的な成人男性のそれとあまり変わらない調査結果でしたが、買春をする男性は低学歴であったり職業構成の差が大きく出ていました。

以上のような実態から本書では、売春について「売春は経済問題」と指摘しています。

★  ★  ★

本書を興味深く読めたのは、データにもとづいて考察し語ろうという一貫したスタンスだったからでした。

データを集めるために、自ら調査設計をし、自分たちの足で直接インタビューもする。データ集計も自分たちでやっています。

現場やローデータ(生データ)を肌で知っているからこその結果データの見方であったり、考察がされていました。単にデータ集計をして終わりではなく、その結果が意味するものはなにか、背景には何があるかまで議論されています。それでいて小難しい印象は受けない点も、本として読みやすいものでした。

調査については、色々な制約があり、本書でも言及しているように必ずしも厳密な調査設計ではないものもあります。調査や得られるデータが変わったりデータが増えれば、考察や見解もまた変わってくる可能性もあります。

それでも、自分たちでできることをやり、そこから得られた価値は傾聴に値します。




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