2015/02/14

書評: 普天間問題 (小川和久)




2015年2月12日、安倍首相が施政方針演説を行ないました。

【首相施政方針演説全文】 「日本は変えられる。昭和の日本人にできて、今の日本人にできないわけがない」 - 産経ニュース


施政方針演説で普天間基地に言及


演説の中で、沖縄の普天間基地移設についても言及しています。安倍首相は、普天間飛行場 (基地) の辺野古沖移設への実現に、あらためて強い意欲を示しました。

以下は、上記リンク先からの引用です。

現行の日米合意に従って、在日米軍再編を進めてまいります。

3月末には、西普天間住宅地区の返還が実現いたします。学校や住宅に囲まれ、市街地の真ん中にある普天間飛行場の返還を、必ずや実現する。そのために、引き続き沖縄の方々の理解を得る努力を続けながら、名護市辺野古沖への移設を進めてまいります。

今後も、日米両国の強固な信頼関係の下に、裏付けのない 「言葉」 ではなく実際の 「行動」 で、沖縄の基地負担の軽減に取り組んでまいります。


普天間基地の何が問題なのか


普天間基地問題とは、一体何が問題なのでしょうか。

そもそも、普天間基地とはどんな基地なのか?なぜ移設するのか?移設先は沖縄県内なのか県外なのか、それとも国外なのか?

こうした疑問が解消でき、普天間基地についての理解に参考になったのが、書籍 この1冊ですべてがわかる 普天間問題 でした。著者は軍事アナリストの小川和久氏です。



米軍にとっての普天間基地


普天間飛行場、通称は普天間基地と呼ばれます。普天間基地の特徴は以下の通りです。

  • 日本の沖縄県宜野湾市にあり、アメリカ合衆国軍海兵隊の飛行場
  • 第36海兵航空軍のホームベース (根拠地) 。航空基地として、ほとんどの航空機を支援できる機能を総合的に備えている
  • 滑走路のほか、駐留各航空部隊が円滑に任務遂行できるための諸施設がある
    • 格納庫、通信施設、整備・修理施設、司令部、部品倉庫、部隊事務所
    • 消防署、PX (売店) 、クラブ、バー、診療所、教会など

普天間基地は、海兵隊のホームベースというのがポイントです。

海兵隊は、航空母艦とともに 「攻撃部隊」 にあたります。本書によれば、海兵隊は命懸けの勇猛な部隊とのことです。海兵隊を頼りにし誇りに思うアメリカ人が少なくないそうです。

普天間基地は、アメリカにとっては空軍 (第18航空団) の嘉手納基地と並んで、沖縄におけるアメリカ軍の拠点なのです。


なぜ普天間基地は移設されるのか


海兵隊の根拠地として機能しているのが普天間基地です。であれば、基地の中でも、根拠地である基地はそう簡単に移設するものではないはずです。しかし、現実は普天間基地は 「移設問題」 として扱われています。

なぜ普天間基地は移設する必要があるのでしょうか。

移設が叫ばれるようになったのは、2つの事件が起こったからです。

日本側から強く移設の必要性が言われたきっかけは、1995年 (平成7年) の沖縄米兵少女拉致 / 強姦事件でした (一般的には 「少女暴行事件」 と言われますが、本書では 「少女拉致 / 強姦事件」 と強く主張している) 。

この事件を契機に、沖縄では米軍基地に反対する運動や普天間基地の返還要求をする運動が起こります。

さらに、2004年 (平成16年) に米軍ヘリコプターが沖縄国際大学内に墜落するという事件が起きました。これにより、地元からの返還要求は一層強まりました。

普天間基地の根本的な問題は、基地の周りに住宅地が密集していることです。以下の写真は普天間の航空写真です。基地 (滑走路) のすぐ周囲を家々が取り囲んでいます。市街地のど真ん中にあるのです。


普天間市の上空写真


ゆえに、普天間基地は、国内外のアメリカ軍基地において 「世界一危険な基地」 と言われています。

本書によれば、2003年に沖縄を訪問したラムズフェルド米国防長官 (当時) は、上空から普天間を視察し 「こんなところで事故が起きないほうが不思議だ」 と述べたという報道があったようです。普天間基地の危険性を認識しているのは地元住民や日本側だけではなく、アメリカにとっても同じ認識なのです。

市街地にある普天間基地の問題として、基地による地元住民へ騒音問題があります。本書によれば、自治体が調べた結果、普天間では年に2万回を超える環境基準を超える騒音が発生したとのことでした。単純平均で1日に50~60回、1時間に2回を超える騒音です。

もう1つの問題は、基地が宜野湾市の中央部を占有しているため、道路交通網の遮断、公共施設や下水道などが非効率な配置を余儀なくされていることです。結果、地元経済に経済的な損失を与えています。

まとめると 「なぜ移設なのか」 に対しては、次のように整理できます。

普天間基地は基地として重要な拠点である一方、周囲への深刻な危険性と騒音問題が、地元住民のみならず、アメリカにとっても許容できない問題だからです。


アメリカにとって在日米軍基地は世界戦略の根拠地


本書には、米軍にとって普天間基地や沖縄、日本をアメリカ側がどう位置づけているかが説明されています。日本だけではなくアメリカ視点も知ることができ、理解が深まりました。

アメリカ、特に米軍にとっての日本列島はどういう位置づけなのでしょうか。

アメリカにとって、日本の軍事的な地理的位置づけは、日本全体を 「戦略的な根拠地 (Power-projection platform) 」 とし、それを前提に世界全体を視野におさめた外交や安全保障戦略を考えている、とのことでした。

在日米軍基地は、世界の半分、特に中東から朝鮮半島までの 「不安定な地域」 を、日本の横須賀や佐世保を母港とする第7艦隊と、沖縄に司令部を置く海兵隊が担当しているという構図です。

アメリカ軍にとっての位置づけを例えると、沖縄には手足の強力な筋肉に相当する機能が集中していて、筋肉を動かす頭脳・心臓・中枢神経に相当する機能は日本本土 (横須賀など) にあたります。

日本の米軍基地は、アメリカが世界のリーダーであり続けるために必要不可欠な戦略的根拠地です。

ここから言えるのは、アメリカは戦略的な根拠地としての日本の米軍基地を、そう簡単には手放すことに同意できないことです。

逆に言えば、普天間基地の移設や、沖縄にある米軍基地の縮小、あるいは将来的な全ての在日米軍基地の返還を実現するためには交渉の余地があるのではないでしょうか。今後もアメリカのプレゼンスが維持できるという条件での基地移設や返還です。


普天間基地移設は2000年代前半には完了しているはずだった


普天間基地の移設が本格的な議論になったきっかけは、前述のように1995年でした。

翌年の1996年、日米会談で 「普天間基地の移設条件付返還」 が合意されます。その合意を踏まえ、SACO 中間報告では 「5年後から7年後までの全面返還を目指すこと」 などが明記されていました。

この通りであれば、遅くとも2000年代の前半までには普天間基地は返還され、別の場所に移設がされてはずです。ところが、2015年現在でも、いまだに移設は完了しておらず、「普天間移設問題」 として解決がされていません。

2015年現在の普天間基地の移設候補先として有力なのは、沖縄の名護市辺野古沖です。

辺野古沖への移設反対理由は、基地をつくることによる自然環境破壊、基地があることへの地元住民の暮らしへの影響や不安があります。


普天間問題をどう解決するか


今回のエントリーでは、普天間基地の 「問題」 を取り上げました。

問題とともに重要なのは、どうやって解決するかです。本書 この1冊ですべてがわかる 普天間問題 では、具体的な解決策がその根拠とともに詳細に書かれています。

著者の小川氏のポイントは、基地を移設するにあたり以下の3つを満たすことでした。

  • 普天間基地の危険性除去
  • 日米地位協定の改定
  • 沖縄経済の活性化

その上で、普天間問題の解決を日米間の基地問題を解決する最初のステップとして位置づけ、今後の米軍基地の整理・統合_縮小に向けたロードマップを作ることが極めて重要であると言います。ロードマップ終着点は日米関係を壊すことなく、沖縄の軍事基地を全て廃止することであるとします。

普天間基地の移設、沖縄米軍基地、日本にある米軍基地を、日本としてどうするのかが問われます。

この問題は日本だけではなく、アメリカという交渉相手が常に存在します。交渉なので、いかにお互いの win-win とできるかです。相手あっての交渉ですが、日本として国益のために主張すべきことは堂々と言い、相手に迎合ばかりではいけないでしょう。

最後に、本書で印象的だった内容を引用します。

日本が戦後にアメリカと同盟関係を結んだアメリカは、日本が組むのにベストの相手だったと私は考えています。しかし、組んだ相手がベストだったことと、現在の日米同盟の中身がベストかどうかは、まったく別の話です。

アメリカとの同盟関係を日本としてどう国益に生かすかという観点から日米同盟の中身を整理し、問題があれば修正し、健全化していくという不断の取り組みが必要です。



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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にて 「シニア マーケティングリサーチ マネージャー」 (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝1時間のランニング。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。