
今年2015年は、終戦70周年という節目の年です。
2015年が始まって1ヶ月、戦後70年ということで注目を集めているのは、安倍首相の 「談話」 がどういった内容になるのかです。
もちろん、時の政権が先の戦争に対してどういったスタンスなのかを注目されるのは当然でしょう。しかし、文言をどうするかなど、あまりに細かい点がフォーカスされすぎています。
戦後70年というタイミングで振り返るべきは、その70年という中身であるべきです。すなわち、1945年から現在までの日本の歩みを総括することです。政治家や政権に任せるのではなく、日本国民の一人ひとりが戦後の歴史を知ることです。
日本の戦後史を2つの軸で俯瞰する
戦後70年をいかに俯瞰するかについて、読んでよかったのが 戦後史の正体 という本でした。
本書の特徴は、戦後の歴史の全体像を見るにあたって、優れた切り口を提供してくれることです。日米関係でアメリカに対して日本の政権が 「自主独立派」 と 「対米従属派」 のどちらだったのかという視点です。
- 自主独立派:少々アメリカとの間に波風を立てでも、日本の国益上守るべきものがある時や、アメリカの言いなりになると国益上マイナスになる時ははっきりと主張する
- 対米従属派:常に米国との関係を良好にすることを目指す。できるだけ言うとおりにし、その中で日本の国益を最大化することを考える
歴史を学ぶのは、現在起こっている問題を理解するため
本書を読むと、戦後70年間で日本の政権は自主独立派と対米従属派がせめぎ合い、時に入れ替わってきたことがよくわかりました。
自主独立路線 vs 対米従属路線の視点から、戦後の国内政治だけではなく、外交、産業政策、軍事の理解が進みます。「歴史は過去を知るために学ぶのではなく、現在起こっている問題を理解するために学ぶものである」 とは著者の言葉です。
アメリカの対日本方針の変遷
本書を通して興味深いと思ったことは、アメリカの日本に対する方針が時代ごとに何度か変わったことでした。戦後のアメリカの対日方針の変遷は、大まかには次の通りです。
- 終戦後の占領期:日本を二度と戦争のできない国にする (日本の経済や軍事力を徹底的に排除) 。民主化は進める
- 冷戦時代:共産国 (特にソ連) に対抗するために日本を防波堤として利用する。そのために経済復興を優先
- 冷戦後: 経済的に日本を脅威と見なす。台頭する日本の経済力にどう対応するか。一方で、世界の警察としてのアメリカの軍事戦略において、同盟国として日本の貢献を必要とする
それぞれで方針が大きく変わったものの、共通しているのは、いかにアメリカにとって自国の国益のために、日本とどう向き合うか (どう扱うか) です。
一方で日本は、対米自主派と対米追随派が国内でせめぎ合い、自主派が優勢だった時、追随派が優勢だった時を繰り返したのです。
自主独立派の政権は短命の傾向
本書では、対米従属の政権は傾向として長期政権であり、自主独立派のほとんどの政権が短期で終わったと指摘しています。
対米従属の長期政権の例としては、吉田茂、池田勇人、中曽根康弘、小泉純一郎です。また、安倍晋三も従属派に含めています。
対して、何らかの形で自主独立を主張した首相は、重光葵、石橋湛山、芦田均、岸信介、鳩山一郎、佐藤栄作、田中角栄、福田赳夫、宮澤喜一、細川護熙、福田康夫、鳩山由紀夫です。彼らの意図せざる形で退陣させられています。本書では、その裏でアメリカが動いていたことを示唆しています。
全てにおいて、アメリカが関与したのかの決定的な証拠があるわけではありません。従属派においても短期政権に終わった首相もいます。必ずしも自主独立か対米従属の1つの要素だけで政権の運命が分かれたわけでもないことは注意が必要です。
もう1つ、自主路線 = 善、従属路線 = 悪、という単純な構図で見てはいけないと思います。
戦後の日本の歴史を見る時に、日米関係は欠かすことのできない要素です。良くも悪くもアメリカの力がなければ、日本の戦後復興は成し遂げられなかったでしょう。少なくとももっと年月がかかったはずです。
最後に
冒頭の問題意識に戻りますが、大切なのは戦後70年というタイミングで、日本は戦後をどのように歩んできたのかを総括することが大切です。その歴史にあらためて一人ひとりが向き合うことです。戦後70年のタイミングで、現在を知るために、過去の歴史、特に戦後70年間を学ぶよい機会です。
ブッシュ政権の後半からオバマ政権にかけて、アメリカの世界への影響力はかつてよりも相対的に弱体化しているように見えます。その状況で、今後、日本はどうあるべきなのかが、今議論されるべきです。