2015/02/28

書評: 日本人が知らない集団的自衛権 (小川和久)




集団的自衛権をどう考えるかについて参考になるのが、日本人が知らない集団的自衛権 という本です。



日本の集団的自衛権を考える2つのポイント


著者は軍事アナリストである小川和久氏です。本書で提起されているのは次の2つです。小川氏は、この2点に尽きると強調しています。

  1. 国家の平和と安全をどう確保するのかを考えること
  2. 日本の防衛力の現状を直視すること

問われているのは、どんな防衛力によって平和と安全を保つのかです。


そもそも国家の平和と安全をどう確保するのか


日本の安全保障を確保するための防衛力には、小川氏は選択肢は以下の2つしかないと言います。

  1. どの国とも組まず、自前の軍事力で平和と安全を実現する武装中立
  2. アメリカのような国と同盟関係を結び、協力して平和と安全を手にする道

なお、小川氏は、憲法9条を前面に出すような 「非武装中立」 は非現実的であるとして、そもそもの選択肢から除外しています。

2つの選択肢について、本書でのスタンスは後者です。既存の日米同盟を活用することが現実的だとします。


日本の安全保障を維持するためのコスト


根拠は費用対効果です。上記選択肢1 (自前での武装中立) で、日米同盟をベースにした現状と同レベルな体制を維持するためには、日本の年間の防衛費は22兆~23兆円になるとのことです。なお、現在の日米同盟にかかる費用は年間で約4.8兆円です。

この数字のソースは、書籍 コストを試算!日米同盟解体 - 国を守るのに、いくらかかるのか です。



  • 直接経費が4.2兆円、間接経費が20兆~21兆円
  • この2つを足し、日米同盟解体コストを除いた試算結果が、22兆~23兆円
  • 一方の選択肢2である現在の日米同盟にかかる費用は、年間で約4.8兆円

日米同盟を解消し、かつ同水準の国家安全保障レベルを維持するためには、防衛費が5倍程度必要ということです。

とはいえ、年間4.8兆というのは、日本の2014年名目 GDP は約490兆円なので、1% ほどに相当します。4.8兆円の中身を精査し、本当に必要なコストなのかは常に見ておくべきですか。もともとのお金の出処は、私たち日本人一人一人の税金からです。


日本の防衛力の現状


小川氏が本書で上げた、集団的自衛権を考える重要ポイントの2つ目は 「日本の防衛力の現状を直視すること」 です。

日本の主要な防衛力は自衛隊です。自衛隊の現状を把握し、日本の安全保障をどうすべきかです。

小川氏は日本の自衛隊について 「憲法9条を絵に描いたような軍事力しか持っていない」 と表現します。軍事用語でいう戦略投射能力を持っていないのです。


戦略投射能力

  • 多数の戦略核兵器によって敵国を壊滅させる能力
  • 日本のような島国においては、海を渡って数十万規模の陸軍を上陸させ、敵国の主要地域を占領して戦争目的を達成できるような構造を備えた陸海空軍の能力


自衛隊の特徴は、ある部分は世界的にもトップクラスの能力で突出している一方、それ以外は足りていないということでした。


自衛隊の世界トップクラスの戦力

  • 海上自衛隊の 「対潜水艦戦」 能力。対潜哨戒機・対潜ヘリ・護衛艦・潜水艦などを使い、敵の潜水艦を捕捉や探知する。必要とあらば攻撃する
  • 掃海能力。海中や海底に敷設された機雷を除去する
  • 航空自衛隊の防空戦闘能力。アメリカやイスラエルの空軍に次ぐ水準


備わっていない自衛隊の戦力

  • 海上自衛隊は空母・巡洋艦・原子力潜水艦は持っていない。トップクラスである対潜水艦戦と掃海能力以外は持っていない 「単能海軍」
  • 航空自衛隊の戦闘機は、大半が防空戦闘のための要撃戦闘機。対地攻撃や対艦攻撃能力は限定的


以上の状況から、小川氏は、日本の自衛隊には本格的な海外派兵や戦力投入で外国を占領する軍事力はなく、侵略戦争などそもそもとして能力的にできないと指摘します。


自衛隊の能力が一部のみ突出している理由


では、なぜ自衛隊は一部の能力が突出し、それ以外は持っていない存在なのでしょうか。

本書で書かれている理由は、第二次世界大戦後にアメリカがそのように日本に求め、日本もそれに応えたことでした。アメリカは、第二次大戦で唯一最後まで抵抗した日本を恐れ、旧帝国陸海軍の復活を懸念したのです。

日本の自衛隊は、全体の戦力能力を考えると自立できていない構造であると小川氏は言います。自衛隊の前提には、アメリカとの日米同盟の存在があります。

日本の平和と安全を高いレベルに押し上げているのが日米同盟です。日本の防衛力は、自立できない構造の自衛隊と日米同盟 (アメリカの軍事力) の二本柱で成立しているのです。逆に言えば、自衛隊だけでは日本の防衛はできないのが現実です。


現状を直視した上での大局的な議論を


本書を読んであらためて思ったのは、こうした現状の直視し理解をした上で、日本の安全保障をどうやって確保するのかという視点が大切だということです。

もちろん、自らだけの武装中立の道もあります。ただし、そのためには現状の自衛隊を中心とした能力では足りません。それはつまり、既存の能力でまかなえる安全保障レベルに下げるのか、それとも能力を拡大し今の日米同盟による安全保障レベルにまで押し上げるのかです。

単に集団的自衛権の行使に賛成か反対という白か黒かの議論ではなく、一歩も二歩も踏み込んだ議論が必要でしょう。


机上の空論に見える日本人人質救出の議論


もう1つ思ったのは、2015年2月現在で国会で議論になっている、海外での日本人人質救出のために自衛隊を活用するかどうかの議論についてです。具体的には、議論の論点が法整備ばかりであることです。

法整備を軽視するわけではありませんが、本書で指摘された自衛隊能力を踏まえると、そもそも現状の自衛隊に、海外の人質救出能力があるのかどうかを見る必要があります。国会での議論を見ていると、法整備さえすれば自衛隊はすぐにでも人質救出ができるような印象すら抱いてしまいます。

邦人救出を考える場合に、例えば自然災害に会った人の救出であれば、東日本大震災後の自衛隊員の活躍を見ると自衛隊の活躍は期待できます。

一方、人質救出というのは ISIL などのテロ集団を相手に動く必要があります。人質救出は、アメリカでさえも失敗する状況です。

そのような任務を、法整備を満たしさえすれば自衛隊ができるようになるのでしょうか。

今の自衛隊が能力的にどこまでできて、何ができないのか。今後、何を改善すればどこまでできるようになるのか。改善しても限界はどこなのか。

法整備とともにこうした議論はもっとするべきです。




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多田 翼 (書いた人)


外資系 IT 会社にてマーケティングリサーチ マネージャー (LinkedIn) 。

1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身。学生時代は京都。家族4人で東京23区内に在住、2人の子どもの父親。気分転換は毎朝 8km のランニングとピアノ。

書いている内容は、所属組織や会社の正式見解ではなく個人の見解です。