投稿日 2024/07/10

日清カレーメシ。マーケティングリサーチから “マーケティングアイデア” へのジャンプをおこす方法

#マーケティング #マーケティングジャンプ #マーケティングリサーチ

簡易カレー調理市場において、レトルトが主流だった時代、日清のカレーメシは、事前調査での否定的な反応にも関わらず、斬新な商品コンセプトを貫き、市場に新しい風を吹き込みました。

今回は、画期的であるがゆえに理解されにくい商品を、どのように打ち出していくかを考察します。

具体的な事例を通じて、マーケティングリサーチから 「マーケティングアイデア」 にジャンプする秘訣を、ぜひ一緒に紐解いていきましょう。

日清カレーメシ


日清の 「カレーメシ」 シリーズは2022年度に売上100億円を突破し、今も日清食品の看板商品の1つです。

カレーメシは、カレーのレトルトとは違って、カップラーメンのような形状のカップに水を入れてレンジでチンするというものですが、2014年に新発売された当時は、世の中にはない斬新な商品でした。

発売前の調査では否定的な結果に


カレーメシの開発にあたって、日本人にとって国民食と言っても過言ではないカレーを、小腹が空いたときや時間がないときにさっと食べられるカレーメシは、市場性を考えれば、ニーズは大きいと考えられました。

しかし、発売前に日清が調査を行ったところ、カレーメシの商品化に否定的な結果が相次いだとのことです (参考記事) 。

当時は、手軽に食べられるカレーと言えばレトルトカレーしかありませんでした。レトルトを使うときには白飯を別に用意するのが当たり前で、レトルトカレーに対する消費者の不満は見られませんでした。

調査では、それどころか、水を入れてレンジでチンするだけで、カレーライスになるというカレーメシの商品化には、強い疑いを抱かざるをえないような意見もあったようです。

その一方で、カレーメシの味の調査をしてみると、味の評判は良かったとのことで、日清にとっての課題は、カレーメシという今までにない全く新しい商品の魅力を消費者にどう伝えるかになりました。

開き直ったような CM で勝負


普通に考えるなら、商品特性がお客さんにとってわかりにくければ、商品の説明を中心にするマーケティングコミュニケーションからプロモーション施策をとることでしょう。

しかし日清がやったのは違いました。消費者が理解できない存在を、そのまま理解できないような内容でテレビ CM を出したのです。


こちらは2014年のカレーメシの初代テレビ CM です。

CM では、商品の説明は 「ご飯は入っている、水を入れてレンジで温める、おいしいカレーライスが食べられる」 といった訴求のみでした。

商品特性のことよりも、印象に残るのは、カレーメシと書かれた黄色い米粒の着ぐるみが突然に表れて暴れ回るという展開です。今見ても、思い切った内容で衝撃的です。

では日清はなぜ、マーケティングコミュニケーションで定石とは違うアプローチをとったのでしょうか?


学べること


日清カレーメシの事例から学べるのは、調査結果をマーケティング施策にどう活かすかです。「マーケティングジャンプ」 を起こす重要性を学べます。

マーケティングジャンプとは


 「マーケティングジャンプ」 とは、マーケティングリサーチの調査からの顧客理解をベースに、非連続なアイデア発想を試みることを指します。

マーケティングリサーチで得られた洞察をもとに、既存の枠組みにとらわれない発想をします。調査結果をそのままアイデアにするのではなく、一ひねりや二ひねりを加え、創意工夫を入れた非連続にジャンプするようなアイデアをつくっていくのがマーケティングジャンプです。

日清カレーメシのマーケティングリサーチからのテレビ CM 展開は、まさにマーケティングジャンプが体現された事例です。

新商品コンセプトが受容されなかった調査結果


マーケティングリサーチでわかったのは、カレーメシは当時の商品コンセプトや食べ方がそれまでにはないもので、レトルトカレーとは一線を画していました。

その斬新さゆえに、消費者調査では商品の良さを正確に伝えることが難しいことを示唆するものでした。食べてもらわなければ商品の良さが伝わらず、マーケティングリサーチからは商品化に否定的な結果となってしまったのです。

逆手にとった斬新な CM に


こうした結果になると、通常ならば商品の説明を詳しく展開する広告やプロモーション施策をとるのが一般的ですが、日清はあえてそうしたアプローチをとりませんでした。

消費者が理解できないのであれば、くどくどと説明するよりも、むしろ理解できないことを逆手にとるような斬新な CM にしたわけです。

波及効果を狙ったターゲット層への狙い撃ち


日清が CM に込めた意図は、広告で尖ったクリエイティブ表現にすることで、めずらしいものをまずは試してみたいというアーリーアダプターが手に取ることだったのでしょう。

そして実際に食べてみればカレーメシのおいしさを実感してもらえ、そこから次第に口コミで広がり、マス層に到達するという展開を狙ったのではないかなと。

カレーメシの初代テレビ CM では、商品説明は最低限にとどめ、振り切ったキャラクターやストーリーが描かれました。ネットや SNS でバズり、ヤフートピックスに掲載されるなど話題を呼び、多くの人々の関心を引きつけることに成功しました。

マーケティングジャンプの成功事例


カレーメシの事例から学べるのは、マーケティングリサーチの結果が必ずしも直接的な商品開発やマーケティング施策に結びつかない場合でも、リサーチ結果を受けて、従来の思考を飛び越えるような独創的なアイデアを生み出すことの重要性です。

日清カレーメシの話は、マーケティングリサーチの結果を全てそのまま使うのではなく、結果から一歩踏み込んだ洞察をし、創意工夫を凝らしたアイデアにつなげるという 「マーケティングジャンプ」 の大切さを教えてくれます。

カレーメシは、マーケティングリサーチの結果からマーケティングアイデアへのジャンプを試みたことで成功したおもしろい事例です。


まとめ


今回は日清カレーメシの事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • カレーメシは、当時は簡易的に食べるカレーはレトルトくらいしかなかった状況で、斬新な商品コンセプトだったが、事前調査では需要評価は否定的な結果だった

  • そこで、理解されにくいことを利点とする逆手のユニークな CM で注目を集め、各種メディアで取り上げられるなど話題性を高めた

  • カレーメシの事例は、マーケティングリサーチの結果をそのまま施策に展開するのではなく、創意工夫による非連続なアイデアに昇華させる 「マーケティングジャンプ」 を生み出す重要性を示す


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。