#マーケティング #マーケティングリサーチ #購入意向
新商品の発売前にどれぐらい売れるかを把握したいけれど、アンケートなどの調査で本当にわかるのか――?
今回は、商品の新発売前のタイミングで、消費者の本当の購買意向を調査するためのマーケティングリサーチの方法をご紹介します。
商品コンセプトの明確化と提示資料の作成
調査の前にやりたいことは、商品コンセプトの明確化、調査での提示資料の作成です。
商品コンセプト設定
新商品を開発するには、まず注力顧客となる特定の消費者の理解からです。
具体的には、何に価値を見出しているかの価値観、普段の行動や習慣、置かれた状況、その状況下で生じているニーズ、一方で既存商品・サービスでは満たされていない未充足ニーズ、奥にある隠れた消費者自身も気づいていないような本音である消費者インサイトなどです。
こうした消費者理解にもとづいて、商品の基本コンセプト、主要な特徴、マーケティングコンセプトを固めます。
シンプルなビジュアル資料の作成
商品やブランドのコンセプトが決まったら、コンセプトをわかりやすくイメージできる資料を作成します。
デザインの完成度や完璧さにこだわりすぎる必要は必ずしもありません。発売前の早い段階であれば、手書きに近いレベルでもよく、商品の概要や特徴、利用シーンなどを視覚的に伝えられるモックアップやチラシを作るといいでしょう。
完成度にこだわらなくてよい理由は、あくまでも 「コンセプト段階の仮説」 を消費者に提示し、反応を知ることが目的だからです。早い段階でラフな状態を見せ、より率直なフィードバックを得ることを目指します。
二段階のアンケート調査実施
ここからは、アンケート調査の実施です。アンケート内での購入意向の質問は二段階で訊きます。
初見での購入意向
消費者や注力顧客層に対してオンラインアンケートなどを実施し、商品の初見での第一印象を探ります。ここで尋ねるのは 「この商品があったら買いたいですか?」 という質問です。
直感的な興味関心の度合いを把握することを目的に、購入意向を例えば5段階で聴取します。回答の選択肢は 「非常に買いたい」 「やや買いたい」 「どちらでもない」 「あまり買いたくない」 「全く買いたくない」 の5つです。
この質問では、興味があると思った人もあまり深く考えずに 「買いたい」 と答える可能性があります。なので、興味関心と実際の購入とはギャップがあることが想定され、単純な購入意向のアンケート回答の結果だけで判断をすると誤った結論に至るリスクがあります。
ここでは 「なんとなく興味を持っている人の割合」 くらいの把握にとどめるといいでしょう。
価格提示後の購入意向
次に、第一段階で 「買いたい」 と答えた人に対して、具体的な価格を提示して再び購入意向を訊きます。「この商品は ○○ 円ですが、この価格で購入したいと思いますか?」 というふうにです。
商品コンセプトや特徴だけではなく、価格情報を加味した場合の購入意向を確認することが目的です。回答の選択肢は先ほどと同じ5段階とします。
最初の購入意向を示した消費者の中には興味がある程度の人もいますが、そうした人は現実的な金額を提示されて買うのを躊躇する消費者もいることでしょう。買いたいと思った人たちの間で、価格への反応となる価格受容性の違いによるものです。
価格情報を提示しての購入意向も訊いておくことで、実際に商品を発売した後に思ったほど売れないという事態をなるべく避けられるので、このような工夫した訊き方がポイントです。
自由記述による理由
マーケティングリサーチでのアンケート調査を行う場合、定量的な数字だけではなく、自由記述形式の定性的な質問を設けることをおすすめします。
定性情報の重要性
選択式の回答による定量データだけでは、捉えきれない消費者の本音や内面の感情が自由回答にはうかがいしれます。
たとえば、先ほどの二段階での購入意向の質問のあとに、「なぜこの商品を買いたいと思いましたか?」 や 「なぜ買いたいと思いませんでしたか?」 といった問いを設け、自由記述によって答えてもらいます。
自由回答には、消費者の状況や抱えている具体的な悩み、商品を見て感じた印象や潜在的な懸念点、他社商品との比較ポイントや検討基準 (そのカテゴリーで何を重視して商品・サービスを選ぶか) など、リアルな言葉で消費者の声が垣間見れます。
自由記述の回答形式
自由回答では、できるだけ調査対象者が気軽に書き込みやすい形式にします。
オンラインフォームでも、なるべく記述欄を広めにとり、回答者が思いつくままに書けるようにしたり、システム的にできるなら、ここだけスマホやパソコンのマイクから声で話すように回答してもらうというのも有効です (音声データは機械的に自動で文字起こしをする) 。
文章にして打ち込むよりも、自然な回答が期待できます。選択肢による定量的なな回答だけでなく、こうした定性的な情報があることで後の分析の深さがでます。
ここまでがアンケート調査でのデータ収集です。
購入意向と理由の分析
では次に、調査データの分析方法についても見ていきましょう。まずは定性情報の分析からご紹介します。
集めた自由記述を分析するにあたって、大きく 「自分主語の理由」 と 「商品主語の理由」 に分けて考えると効果的です。
自分主語の理由 (自己起点の理由)
例えば 「私は何々だからこの商品がほしい」 という内容が自分主語の理由です。
個人的な悩みやニーズ、生活上の課題に直結しているため 「私はこれに悩んでいて、その悩みにぴったりの商品だからほしい」 のよう自分を起点とする理由、文章で言えば自分が主語になっている理由です。例えば 「私は敏感肌なので、この商品を使えば敏感肌の自分にもこういう理由で合いそうだから」 といった具体的な記述です。
このように、自分自身の抱える問題や状況が起点となり、文章は自分が主語で商品が自分ごととして結びついてしている場合、実際の購買につながりやすいと判断します。
商品主語の理由 (商品自体の優位性にもとづく理由)
一方の商品主語の理由とは 「この商品はこうこうこうだから魅力」 などの商品が主語で表現される購入理由です。商品の特徴や他社製品との比較による魅力を挙げるケースです。
例えば、「この商品は性能が高く、他より優れていそうだから」 や 「商品がおしゃれなデザインでかわいいから」 というように、商品そのものの特徴を挙げる理由が商品主語の理由です。
商品主語の理由を挙げての購入意向は、確かに買ってくれる可能性はありますが、実際のところは購入検討時に他の選択肢と客観的に比較されたりなど最終的な購買には至りにくい傾向があるため、本当に買ってくれるかは慎重に見ることが必要です。
定量データと定性データの統合分析
分析では、定量データと定性情報を統合的に分析することが重要です。
二段階の購入意向の設問から得られる数値データ、すなわち 「初見での購入意向」 と 「価格提示後の購買意向」 は、市場でのポテンシャルを示す指標になります。数字で大まかなボリューム感を把握することで、少なくともどれくらいの消費者が興味を持っているかを客観的に把握できます。
定量データに加え、自由記述で集めた定性データを読み込むこともポイントです。購入理由を 「自分主語の理由」 と 「商品主語の理由」 に分けましたが、特に前者の自分起点の購入理由の内容がどれだけ具体的か、熱量を感じさせるかという視点で見ます。
ここで具体的かつ切実な理由が多いほど、実際に購入に踏み切ってくれる可能性が高いといえます。
逆に商品理由ばかりが多い場合には、価格や他社製品との比較による自社商品を本当に買ってもらえるかはわからず、定量での購入意向の結果をそのまま受け取ることには注意が必要です。
このように定量と定性を組み合わせて総合的に判断すると、商品が本当に必要とされているか、この値段で買ってくれるかをより正確に見極められます。定量データだけではわからない消費者の声を定性情報から補足的に汲み取ることによって、発売に向けての課題、マーケティングでの訴求ポイントが見えてきます。
この方法の利点
では最後のパートでは、ここまで見てきたマーケティングリサーチの方法の利点を整理して終わります。
- 早い段階での市場性評価: 発売前に消費者の購買意向や価格受容性を確認できる。もし想定と違うことがわかれば、商品企画の方向性や価格設定を再考する機会を早いタイミングで得られる
- 定量と定性の両面からの洞察: 数値データだけでなく、定性の自由記述から消費者の本音を掘り下げることで洞察を得る
- リスクの低減: 事前にアンケートで購買意向の度合いを把握しておくと、発売後の需要予測がしやすくなる。供給量や在庫管理のリスク (不確実性) を最小限に抑え、余計なコスト削減も見込める
こうした一連の調査と分析のプロセスを進めることにより、「事前の調査ではこれくらい売れると期待できたけど、フタを開けたらそれほど売れなかった」 という事態を未然に防ぎやすくなります。
商品コンセプトの提示と二段階の購入意向の評価、そして購入意向理由の自由記述を丁寧に分析する手法は、新商品の市場導入において汎用的に活用できます。
まとめ
今回は、新商品の発売前に行うといいマーケティングリサーチについて考察しました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 購入意向調査は 「初見での反応」 と 「価格提示後の反応」 の2段階で行うといい。単なる興味と実際の購買意向の差を見極める
- 定量的な購入意向データだけでなく、自由記述による定性テータも収集する。定性情報から選択式の回答だけでは把握しきれない、消費者の本音や内面の感情、具体的な悩み、印象などからより深い消費者理解を得る
- 購入理由を 「自分主語の理由 (個人の悩みやニーズにもとづく理由) 」 と、「商品主語の理由 (商品特徴にもとづく理由) 」 に分類する。前者の 「自分主語の理由」 を挙げる消費者のほうが実際の購買につながりやすい
- 定量データと定性データを組み合わせて分析することによって、より正確な市場性評価と需要予測が可能になる
- 商品企画や価格設定の見直しも行え、発売後の 「思ったほど売れない」 というリスクを低減できる
マーケティングレターのご紹介
マーケティングのニュースレターを配信しています。
気になる商品や新サービスを取り上げ、開発背景やヒット理由を掘り下げることでマーケティングや戦略を学べるレターです。
マーケティングのことがおもしろいと思えて、すぐに活かせる学びを毎週お届けします。レターの文字数はこのブログの 3 ~ 4 倍くらいで、その分だけ深く掘り下げています。
ブログの内容をいいなと思っていただいた方にはレターもきっとおもしろく読めると思います (過去のレターもこちらから見られます) 。
こちらから登録して、ぜひレターも読んでみてください!