投稿日 2025/07/29

丸亀製麺 うどーなつ。利用シーン拡大でお客さんの 「きっかけ」 を増やす戦略

#マーケティング #利用シーンの拡大 #きっかけ

うちのビジネスはもう成熟期、これ以上の伸びしろはないのでは…。少なくないビジネスに共通する課題でしょう。

見落としているのは 「利用シーンの拡大」 にあるかもしれません。例えば、ランチのお昼ごはんの時間だけ混雑し、午後は閑散…そんな時間帯の偏りをなんとかすることに課題を感じている飲食店も多いのではないでしょうか。

ご紹介したい丸亀製麺は 「うどーなつ」 というドーナツを発売し、うどん屋さんのドーナツという意外性で話題を呼びました。その背後には利用シーンを拡大するという戦略が隠されていました。

お客さんの利用シーンを広げることで、どんな効果が生まれるのか?今回の事例から、そのヒントを探っていきましょう。

丸亀製麺 「うどーなつ」 


出典: PR TIMES

丸亀製麺の 「うどーなつ」 は、うどん専門店が作ったドーナツです。

見た目はピンポン玉より少し大きい丸いドーナツで、5個入りで販売されています。味は2種類で 「きび糖味」 (5個300円) と 「チョコ味」 (5個350円) です。2024年6月の発売から、わずか数ヶ月後の11月末時点で900万食を突破しました (参考記事) 。

開発の背景

丸亀製麺がドーナツを作ろうと考えたことには狙いがありました。それは 「昼のピーク以外の時間帯でも、デザート感覚やおやつ代わりで利用してもらえないか」 という発想です。

うどん屋さんの混雑する時間帯はお昼ごろが中心です。店舗を運営する以上、午後の閑散時間帯に少しでもお客さんが来店するきっかけがあれば、売上の底上げにつながります。

うどん専門店だからできること

丸亀製麺には 「店内設備を活かしたドーナツづくり」 というケイパビリティ (事業能力) がありました。

天ぷら用のフライヤーやディッシャーといった既存の器具を使えば、特別な追加設備なく丸亀製麺の各店舗でドーナツの調理ができます。大きな初期投資が不要なうえ、作りたてを提供できるというお客さんへのメリットが打ち出せます。

うどーなつのもうひとつの特徴は原材料です。製麺済みのうどんをペースト状にして生地に混ぜ込み、白だしも隠し味として投入することによって、なんともいえないもっちり感を実現しています。うどん店ならではのドーナツになっていて、他のドーナツ専門チェーンやコンビニのドーナツとは一線を画した独特の食感です。

食べてみればもちもち感が強く、ドーナツから連想される洋菓子というよりは和菓子に近いしっとり感とコシのような食感があり、ふわっとしたドーナツとはまったく別物という印象を受けます。

利用シーンを広げることの意義


では、丸亀製麺の 「うどーなつ」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

得られる学びとして注目したいのは、利用シーンを広げることの意義です。

丸亀製麺のこれまでの主な利用シーンは、昼食や夕食時に 「うどんを食べる」 というものでした。ここに 「うどーなつ」 を新たに導入したことで、おやつ目的やカフェタイムといった時間帯での利用が期待できます。

マーケティングの視点では、消費者やお客さんが特定の商品やサービスを利用するときに思い出すシチュエーションや顧客接点が増えるということです。例えは、コーヒーを飲んで一息つきたいとき、小腹が空いたとき、屋外で友人とおしゃべりする場所がほしいときなどです。

丸亀製麺の場合は、今までの丸亀製麺を利用するきっかけは、「ランチに麺類を食べたいと思ったとき」 、「和食のファストフードを食べたいとき」 などが中心でした。

そこに 「甘いものを食べたい」 や 「午後のスキマ時間にちょっと休憩しておやつを食べたい」 、「ドーナツを食べたい気分」 といった需要に応えられる可能性を広げたのが 「うどーなつ」 なのです。

これまでの昼食や夕食に加えて、丸亀製麺へのカフェ利用につなげようという狙いは、エントリーポイントを増やそうとする取り組みです。

もっとも、うどーなつという単品だけでゆっくりカフェのように滞在しているお客さんはそれほど多くないかもしれません。店内のオペレーションや、コーヒー・紅茶などの飲み物のラインナップが充実しているわけではないため、他のカフェやドーナツ専門店に比べるとカフェっぽい利用シーンは限定的でしょう。

ただ、実際に商品を導入したことにより、午後の時間帯にも足を運ぶ人が少しずつ増えたり、既存顧客が 「今日はドーナツだけ買いたいから立ち寄ろうかな」 と思ったりする新たな入口ができることは期待できます。

利用シーン拡大がもたらす効果


では利用シーンが増えることによって、どんな効果が生まれるのでしょうか?

最後のパートではこの論点を考えてみましょう。

閑散時間帯や閑散期の客数底上げ

飲食店にとって悩みのひとつは、ランチやディナーのピーク以外の時間帯の客足が落ち込むことです。特に午後2時 ~ 5時あたりはどうしても空席が目立ちます。

飲食店の運営では売上の安定化が課題です。特定の時間帯だけ混雑しても、それ以外の時間があまりに空いていては稼働率が下がり、利益率にも影響が出てしまいます。

そこで、おやつタイムやカフェ利用といった利用シーンを提案することによって、平日の閑散時間帯の客数を底上げにつながります。

たとえば午後2時以降をターゲットにドリンクとのセットメニューを打ち出すなど、午後のティータイム利用を誘導する仕掛けを用意し、来店数が増えれば、その間は手持ち無沙汰でやることがなかったスタッフのモチベーションを保ちやすくなる効果も期待できます。

既存顧客の来店頻度向上

利用シーンを新たに増やすと、既存のお客さんも 「今までの食事のためだけでなく、ランチ以外の午後の時間にも食べに行きたい」 、「今日はうどんと一緒に甘いものを楽しもう」 など、今まで以上に通いたくなる理由が生まれます。

既存顧客は、お店の雰囲気や価格帯、味などをすでに知ってくれています。そこに 「おやつタイムも楽しめる」 や 「仕事終わりに軽く甘いものが食べられる」 という新たな利用用途が加わると、さらに多くの 「行く理由」 が生まれます。期間限定フレーバーやサイドメニューとの組み合わせなどを知れば、お客さんの中で 「違う味を試してみたい」 という心理が働くことでしょう。

結果として一人あたりの来店頻度が上がり、その分だけ売上アップになります。

丸亀製麺の場合は 「うどん」 と 「うどーなつ」 のセット買いがされるようになり、客単価が上がります。一回あたりの注文額が数百円増えるだけでも、長い目で見るとお店全体の売上増加に貢献します。

新規顧客の獲得

そして、利用シーンの拡大は新たなお客さんとの接点づくりにも効果を発揮します。

これまでに丸亀製麺に行ったことがなかった人も、うどーなつのことを 「ユニークなドーナツがあるらしいから食べてみたい」 といった興味を持って来店してくれるかもしれません。他には、子どもがお腹が空いたとねだるので、うどんも食べられてドーナツもある丸亀製麺なら行ってみてもいいかもしれないと思うケースもあるでしょう。

このように、新しい商品と新たなきっかけをつくることで、新しい層を引き込む効果が期待できます。

新商品の投入や利用シーンの拡大というのは、今までとは異なる顧客層にアピールするチャンスです。たとえば普段はドーナツ専門店やコンビニスイーツを利用している人が、「うどんを使ったもちもちドーナツってどんな味なんだろう?」 と興味を持ってくれれば、一度は試しに足を運んでくれるでしょう。

実際に食べてみて 「意外においしい!」 「リーズナブルでコスパがいい」 といったポジティブな印象を持ってもらえれば、もう一度買ってもらえるというリピートも十分ありえます。さらに、SNS で話題性のある商品が瞬く間に拡散されることも可能性があることを考えると、新しいお客さんがさらにお客さんを呼び込むという好循環が期待できます。

まとめ


今回は、丸亀製麺の 「うどーなつ」 を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

✓ 利用シーンを拡大することの意義と期待される効果

  • 既存リソースの有効活用。現状の設備やケイパビリティを活用した新しい顧客価値を生み出すことにより、投資対効果の高い事業拡大につながる

  • 新たなきっかけをつくる。従来とは異なる利用動機や目的を提案することによって、既存顧客の来店頻度向上と新規顧客層の開拓につながる。お客さんが商品やサービスを思い出すきっかけを増やし、利用の機会を増やす

  • 客単価の向上が期待できる。新たな利用シーンに対応した商品・サービスを提供することで、追加購入による客単価アップの機会が生まれる

  • 時間帯の分散による収益安定化にも寄与する。ピーク時間以外の集客を増やすことで、事業全体の稼働率が向上し、より安定した収益構造を実現できる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。