投稿日 2025/07/30

違和感や想定外を見逃さない。"だったらいっそのこと" の逆転の発想で、新食感を打ち出したカンロの飴

#マーケティング #顧客起点 #発想の転換

自社商品の 「理想の使われ方」 を前提に、商品やサービスを設計していないでしょうか?

しかし、お客さんは常に売り手の思惑通りに行動したり商品を使うわけではありません。むしろ、想定とは異なる使い方をされることもあるでしょう。それを売り手が 「誤った消費行動」 として片付けてしまうと、ビジネスチャンスを逃してしまうかもしれません。

多くの企業なら 「正しい使い方」 をお客さんに啓蒙しようとするところですが、カンロは発想を180度転換しました。「それならいっそのこと」 という決断をしたのです。

消費者の 「想定外の行動」 をどう新たな価値創出につなげるのか――。カンロの挑戦から、マーケティングのおもしろさを紐解きます。

カンロの 「かんでもおいしい飴」 


コンビニやスーパーの棚を見渡すと、色とりどりのグミが並んでいます。柔らかい食感や独特の歯ごたえ、さらにはキャラクターとのコラボなど、グミは幅広い層、とりわけ若い世代に人気です。

そんなグミ全盛の中で、実は隣のカテゴリーである "飴" にも新たな動きがあることをご存知でしょうか?

老舗キャンディメーカーのカンロが、センターインキャンディというユニークなアプローチで 「かんでもおいしい飴」 という新たな切り口を生み出しています。

具体的な商品例として 「じゅるるシャインマスカット」 「魔性の生クリームキャンディ」 「#チョコじゃねーよアメだよ」 という3つの商品をご紹介します。

じゅるるシャインマスカット



 「じゅるるシャインマスカット」 は、2024年に発売されると SNS を中心に話題となり、製品供給が追いつかず一時販売休止にまで至ったヒット商品です。

一見するとシャインマスカット味のキャンディですが、特徴は食感にあります。外側はパリッとかための飴なのに、中にとろりとしたジュレが入っています。飴をかんだ瞬間に口の中にジュワッと果汁感が広がります。

飴といえばなめ続けるものという先入観がありますが、この 「じゅるるシャインマスカット」 は飴をかむ派の消費者を意識し、かんだ瞬間においしいという体験になるよう開発されました。飴はかんで食べたいという気持ちを満たします。

魔性の生クリームキャンディ



 「魔性の生クリームキャンディ」 は、2024年末に発売された冬季限定のセンターインキャンディです。

飴の中に生クリームペーストを閉じ込められており、外側のカリッとした食感と中のとろける生クリームのコントラストがスイーツ感覚で楽しめます。

魔性という印象的な商品名は、飴の背徳感と食感のかけ合わせをから一度食べたらハマってしまう魅力をアピールします。濃厚なクリーム系の味と食感を組み合わせ、一般的ななめる飴とは違ったリッチな体験をもたらします。

#チョコじゃねーよアメだよ



カンロが大学生たちとコラボして誕生した商品です。専修大学の学生と一緒に Z 世代がワクワクする飴を考案し、誕生したのが 「#チョコじゃねーよアメだよ」 。独特な商品名ですよね。

ビターチョコ味のキャンディの中に、とろけるジュレを封入した飴です。パリッとしたチョコ風味の外側をかむと、甘みとほろ苦さのバランスが絶妙なジュレが口の中に広がり、ちょっとしたサプライズを楽しめます。

個包装には 「# ○○ じゃねーよ ○○ だよ」 という文字が多数プリントされています。SNS で写真をシェアするときや、友人との話題作りを後押しするような仕掛けです。

 消費者や顧客の嗜好変化を逆手にとった 「発想の転換」 


ご紹介したカンロの3つの飴は、いずれも 「外はパリッ、中はとろり」 というセンターインキャンディの特性を存分に活かした新しい飴です。

グミが好きな若者が飴はかんで食べることを前提にし、どう飴をかんでもらえばおいしさを最大化できるかを追求した結果、新感覚スイーツ系のユニークな飴が誕生したわけです。

では、今回の事例から見えてくるポイントをさらに深掘りしてみましょう。

売り手の固定観念より、消費者の実際の行動を優先する

飴のメーカーであれば、今までは 「飴は最後までなめて味わうもの」 と考えるのが当たり前だったかもしれません。しかし若年層に目を向けたとき、彼ら・彼女らは飴を途中や最初からポリポリとかんでいます。

売り手がこれは飴の望ましくない食べ方と否定するのではなく、むしろ 「事実としてそうしているなら、消費者に合わせた飴を自分たちで作ってしまおう」 と柔軟な発想をしたのがカンロです。

具体的には 「じゅるるシャインマスカット」 は、かんだ瞬間に広がるジュレが特徴的でした。飴をなめ続けることを前提とした飴では味わえない、飴を食べる新しい体験をつくり出しました。SNS では 「これはクセになる!」 といった投稿が見られ、飴をかむ派の若者だけでなく、飴ををなめる派にも興味を持たせる存在になりました。

売り手が固定観念や作り手としての理想的な食べ方に固執するのではなく、実際の消費者行動や顧客ニーズを優先させた形です。

顧客の嗜好変化に乗る

消費者やお客さんの趣味嗜好は絶えず移り変わるものです。飴で言えば、かつては当たり前だった飴はなめるものという常識も、グミ人気の高まりも相まって変化しました。

売り手である企業が往々にして陥りがちなのは、自分たちが望む形で商品やサービスが消費されるのが理想と考えること、そしてそれを消費者やお客さん押し付けてしまうことです。

飴の場合は 「なめてこそ、飴の本来のおいしさが味わえる」 という主張は決して間違いではありません。しかし、実際に若者が最初から飴をかむことを楽しんでいるのであれば、否定しても消費者に広く受け入れられないでしょう。

カンロは 「若者はかむ派が多い?だったら、飴をかんだときのおいしさをむしろ打ち出そう」 と発想を変えました。世の中の流れに逆らわずにムーブメントに乗り、その結果として、斬新なセンターインキャンディが生まれました。

飴をなめるか飴をかむのかという二択ではなく、飴の二通りのおいしさを提供する形で飴を進化させたのです。

 "だったらいっそのこと"の姿勢で新たな市場を切り拓く

お客さんの行動が予測や希望と違うとき、売り手は 「それは違う」 とか 「 (自分たちがベストだと考える) 正しい使い方をしてほしい」 となりがちです。特に伝統的な業界では 「昔からこうやって使うもの (味わうもの) 」 というプライドやこだわりを抱えるケースも少なくないでしょう。

そうしたジレンマに対し、カンロが示したのは 「だったらいっそのこと、飴をかむおいしさを追求しよう」 という発想の転換でした。もちろん、すべてを投げ捨てるわけではなく、自社の強みである飴づくりを活かしながら新しい形に仕上げました。

こうした 「だったらいっそのこと」 という姿勢は、新たな市場を切り拓くために重要です。

もし、飴はなめるものという固定観念の中にとどまっていたら、カンロのユニークなセンターインキャンディである 「じゅるるシャインマスカット」 や 「魔性の生クリームキャンディ」 のような商品は誕生していなかったことでしょう。

消費者のほうに企業が歩みより、自分たちの商品を変化させるきっかけにしたわけです。

 「新しい価値観 × 自社の強み」 の掛け合わせ

カンロは長年培ってきたキャンディづくりのノウハウを活かしています。

飴の製造には、砂糖の溶解や煮詰めの技術、風味の閉じ込め方など職人技とも言えるノウハウが詰まっています。カンロは、現代の若者は 「飴をすぐにかんで食べるもの」 という新しい価値観が存在していることを受け入れ、「新しい価値観 × 自社の強み」 をかけ合わせました。「外はパリッ、中はとろり」 を実現し、かつ食べたときのフレーバーの一体感を高める飴を商品化しました。

自社の強みの中には、カンロのグミ事業での知見やケイパビリティ (能力) もあります。グミならではの食感の研究や若年層へのマーケティングノウハウは、飴の事業に活用できます。グミでヒットを飛ばしてきたスタッフが、飴に応用できるアイデアを持ち寄るというふうにです。

自社の強みを最大限に活かしつつ、新しい潮流を取り込み、「自分たちが想定していた使われ方とは違うが、うまくを作り込めばきっとおもしろいはず」 と挑戦する姿勢は、商品開発やマーケティングへの示唆を与えてくれます。

お客さんや消費者が勝手に変わってしまったことをネガティブに捉えるのではなく、「消費者が変わったなら、それを前提に最大限活かしてみよう」 と前向きに気持ちを切り替えられるかどうかです。

まとめ


今回は、カンロの 「かんでもおいしい飴」 であるセンターインキャンディを取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 固定観念にとらわれず、実際の消費者や顧客行動を観察する。実際にお客さんがどのように使っているか、楽しんでいるかを理解する

  • お客さんが邪道とも言える使い方をしていたり、想定外の方法を取っているなどを発見した際は、売り手は 「どうして理想通りに商品・サービスを使ってくれないのか?」 ではなく 、「その行動を活かせないか?」 と考えるといい

  • 想定と異なる事象と洞察を得たら、それを否定するのではなく、むしろ新しい価値創造のきっかけにできる。消費者やお客さんの予想外の振る舞いに対して嘆くのではなく、ポジティブな発想に転換する

  • 消費者や顧客の行動に合わせた商品・サービスの進化を常に模索する。生活者の価値観や嗜好は時とともに変わる。継続的に消費者やビジネス動向をキャッチし、洞察をして意味合いを捉え柔軟に対応する姿勢を持つ


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。