投稿日 2015/08/19

書評: 聞き方の技術 - リサーチのための調査票作成ガイド (山田一成)




聞き方の技術 - リサーチのための調査票作成ガイド という本をご紹介します。



エントリーの内容です。

  • 本書の内容
  • 回答者はウソをつく!?
  • アンケートは回答者とのコミュニケーション


本書の内容


アンケートの質問は奥が深いとあらためて考えさせられた本でした。以下は内容紹介からの引用です。

あいまいな回答が返ってこない質問はどのようにしてつくる?マーケティング・リサーチャーのみならずビジネスピープル一般に欠かせない的確な調査票作成のツボを、実務に即して手取り足取り解説する待望の解説書。


ウソが混じっているかもしれない回答の扱い


この本の帯には 「回答者はウソをつく!?」 と書かれています。

確かにアンケート回答者が嘘をつく可能性はあります。しかし、本書を読み進めると、それよりも大切な視点を気付きとして与えてくれます。以下は本書からの引用です。

ウソがあるかもしれない調査データを、どのように扱ったらよいのでしょうか。 (中略)

問題にすべきなのは、ウソがあること自体ではなく、ウソが混じっているかもしれないデータから、どうすれば意味のある情報や役に立つ情報を取り出すことができるか、ということなのです。

ポイントは、アンケート結果データで問われるのは、ウソをつく可能性がある回答者側ではなく、アンケート実施者/分析者側にあることです。

もちろん、理想としてはウソのない回答データであることです。ただ、現実的にウソやバイアスのないデータは存在しないと言ってよいでしょう。であるならば、この現実の中で分析者はデータの集計結果から何を読み取るかです。ここが問われます。


調査回答データに答えを求めない


一人のリサーチャーとして自分が大切にしたいと思っているのは、アンケートなどの調査データに 「答えそのもの」 を直接に求めないことです。

アンケート結果データから、アンケート実施者は自分の知りたいことを見つける。想定と違うことに驚き、そこからまた新しいアイデアや仮説を発見する。

対象者に聞いて答えを出してもらうのではなく、答えを見つけ出し、何かしらの発見をするのはあくまで自分です。


アンケートは回答者とのコミュニケーション


本書に書かれていた、アンケート調査について印象的だった考え方がありました。

調査は言葉を介して行われる回答者とのコミュニケーションです。従って、フェイス・トゥ・フェイスのコミュニケーションと同様、さまざまな誤解やすれ違いがあって当然だと思わなければなりません。そして、それに気づくところから、リサーチャーの本当の仕事が始まります。

アンケートを 「コミュニケーション」 と捉えれば、質問のつくり方の意識も変わります。普段の自分と誰かとの会話で、言葉や態度に失礼がないようにするのと同じです。

アンケートにおいても、不適切な表現やわかりにくい書き方、相手への尊重なき言い方は避けるべきです。


誘導質問


人と人とのコミュニケーションでは、質問の仕方によって相手の受け答えを誘導することが起こりえます。

アンケートにおいても同様です。誘導質問 (leading question) です。本書では誘導質問を次のように説明します。

「誘導質問とは、回答者に回答者自身が思っていることとは異なる回答をさせやすくする質問である」 。また、回答者の視点から見ると、こうした誘導質問は 「質問者や質問者の意図をうかがい知れるように思われる質問」 であると同時に、「どう答えるかが、あらかじめ決まっているように思える質問」 でもあります。

本書で紹介されている誘導質問は、例えば以下のような設問です。

このサプリメントには脂肪を燃やす成分が含まれており、ダイエットにもよいといわれていますが、あなたは今後、飲んでみようと思いますか。

アンケート調査として問題なのは、質問文にサプリについてのポジティブのみの情報が入っていることです。単に 「あなたはこのサプリメントを今後、飲んでみようとおもいますか」 と聞くことに比べ、飲んでみたいという回答を誘導させる設問になります。


マスコミの世論調査に見る誘導質問


誘導質問は私たちの身近なところでも見かけます。例えば、マスコミによる世論調査です。特に、政治からみの調査。

朝日新聞社が、2015年1月17~18日に行った世論調査で次のような質問がありました。

民主党に、自民党に対抗する政党として、立ち直ってほしいと思いますか。そうは思いませんか。

引用:世論調査 - 質問と回答 (1月17日、18日実施):朝日新聞デジタル (2017年8月追記:リンク先ページが削除されていたため、こちらも削除しました)

「自民党に対抗する政党として」 という文言を入れ、「立ち直ってほしい」 という回答を誘導しています。

読売新聞でもありました。読売新聞が2015年6月5~7日に実施した世論調査で、安保関連法案への質問は以下でした。

安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか。

引用: 「内閣・政党支持と関連問題」 : 特集 : 読売新聞 (YOMIURI ONLINE)

朝日と読売は政治思想は逆ですが、自分たちの主張に沿った回答を得ようとしている点は共通しているようです。

世論調査の全てにおいて、このような誘導質問があるとは言いません。しかし、世論調査を見る際に結果の数字だけではなく、どういう方法で聞いているのかは注意が必要です。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

ブログ以外にマーケティングレターを毎週1万字で配信しています。音声配信は Podcast, Spotify, Amazon music, stand.fm からどうぞ。

名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。