投稿日 2025/11/28

検索は "知性の拡張" へ。Google が仕掛ける検索のリブランディングとパーセプションチェンジ

#マーケティング #ブランディング #パーセプションチェンジ

どれだけ改善を重ねても、消費者や顧客企業からの見られ方や認識そのものが良くなければ、本当の価値は伝わらないものです。

今、Google はこの課題に挑んでいます。Google は AI を駆使し、中核サービスである検索のイメージを根底から変える、壮大な挑戦を始めました。

この事例から、自社のブランド価値を再定義し、お客さんから選ばれ続けるためのヒントを考えます。

Google が描く検索と広告の未来


2025 年 7 月、Google の Search & Commerce Global Ads Solution VP である Brendon Kraham 氏が語った内容は、検索ビジネスの未来図でした。

年間 5 兆件を超える検索クエリを処理する Google は今、AI の力で人々の検索体験を根本から変えようとしています。


Google の独自 AI の Gemini の高度な推論力と Google 検索のウェブ理解力を融合させることで、検索を 「情報を探す場所」 から 「知性を刺激し、拡張する場所」 へと進化させる。これが Google の描くビジョンです。

広告においても、Google は 「ユーザーの情報探索を妨げない、自然な形での商品・サービスとの出会い」 という理想を AI で実現しようとしています。

AI による概要や AI モードに表示される広告では、購買意欲が不明確な検索でも潜在ニーズを汲み取り、適切なタイミングで価値ある提案を行っていくことでしょう。

* * *

では、Google の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

今回の話にはブランディングへの示唆があります。Google による検索のリブランディングと見ることでマーケティングへの学びが得られます。

ブランドとブランディング


まずは、そもそものブランドとは何かです。

ブランド

ブランドとは 「お客さんからの好ましい感情が伴った商品やサービス、あるいは企業」 です。

好ましいとは、好き、満足、共感、誇り、憧れ、応援したい気持ちで、こうした感情が深いほど商品やサービスは強いブランドです。

ブランドは商品やサービスを超えた、独自の価値観やイメージ、ストーリー、体験の総体を指します。ブランドは長年にわたる一貫した品質と信用の積み重ねによってつくられ、商品体験からつくれます。そして、お客さんの心の中に根付いた信頼の証のような存在となります。

ブランドには他にはない "らしさ" があります。らしさとは、ブランドが体現するブランドの理念や価値観、品質や価値へのイメージ、感情的な結びつき (例: 共感, 憧れ, 誇りなど) などで形づくられます。

ブランドは特有の "らしさ" を持つことで他とは違うものだと認識され、かつその違いがお客さんにとって価値となります。だからこそブランドはお客さんから 「これ “が” いい」 と選ばれる存在となるわけです。

ブランドが持つ固有の "らしさ" は、競合他社には簡単に真似のできない、ブランド独自の資産です。

ブランディングとは

次に、ブランディングについて見てみましょう。

ブランディングとは、お客さんが商品に感じた価値を思い出してもらったり、忘れられないようにするための活動です。ブランディングにより、お客さんの商品からの離反やプロダクトの忘却を防ぐわけです。

ブランドは、商品のユーザー体験による価値評価があって初めて成り立ちます。ブランディングによってお客さんが商品の価値を思い出すきっかけを提供するのであって、ユーザー体験がない中でブランディングを行っても、それは機能しないでしょう。

パーセプションチェンジ

もうひとつ、ブランディングと関連する用語で取り上げたいのが 「パーセプションチェンジ」 です。

パーセプションは、日本語に訳すと認識や知覚を意味しますが、マーケティングの文脈では 「お客さんが商品やサービスに対して抱く価値イメージ」 のことです。

パーセプションチェンジとは、商品への価値イメージをお客さんにとってどんな価値があるのかという切り口で再定義し、打ち出してお客さんの持っているそのイメージを変えることを意味します。パーセプションを変え、価値イメージをより良い方向へ書き換えていくわけです。

お客さんの持つ価値イメージが変わると、購買基準もアップデートされます。つまり、お客さんにとっての 「良い商品とは何か」 という定義が変わるということです。

パーセプションチェンジは一度の施策で終わるものではありません。継続的なコミュニケーションへのアプローチが、パーセプションチェンジでは重要です。

マーケティングの役割は、お客さんが持つカテゴリーや自社商品への価値イメージをより良いものに変え、「お客さんから選ばれる理由」 をつくり出すことです。

Google が仕掛ける再定義


ここまで見てきたブランドとパーセプションチェンジの考え方を踏まえると、Google の今回の取り組みがいかに戦略的であるかがわかります。

Google は 20 年以上にわたり、「世界中の情報を整理し、誰もが簡単にアクセスできるようにする」 というミッションのもと、"Google らしさ" を確立してきました。その上で、検索と広告というふたつの領域において、大胆なパーセプションチェンジを試みているのです。

検索を 「情報収集」 から 「知性の拡張」 へ

今までのネット検索は、何かを知りたいという目的を持ち、キーワードを入力すると、Google はその答えが載っていそうな Web ページのリストを提供するというものでした。

それに対し、検索に AI (Gemini) が統合されることにより、Google は検索のイメージを書き換えようとしています。検索はもはや単なる道具ではなく、ユーザーの 「思考のパートナー」 へと進化するのです。

例えば、「小型犬を飛行機に乗せる方法」 という検索には、検索結果画面で AI が表示するのは航空会社の規定だけでなく、「おすすめのキャリーバッグ」 まで提案するでしょう。検索利用者自身も気づいていなかった潜在的な知りたい情報やニーズを掘り起こし、知的な発見やひらめき (インスピレーション) を与える体験です。

検索という行為が答えや情報を見つける作業から、知性を刺激され、世界を広げる体験そのものに変わるわけです。

Google が検索を再定義し、「情報収集」 から 「知性の拡張」 への壮大なパーセプションチェンジと言えるでしょう。

広告は 「探索の妨げ」 から 「発見を後押しする体験」 へ

広告体験でも Google はパーセプションチェンジを狙っています。

多くのユーザーにとって、これまでのウェブ広告は情報探索の途中で表示される邪魔なもの、中断させられるものというネガティブな認識があることでしょう。

しかし AI がユーザーの意図を汲み取り、なぜ探しているのかをより的確に理解することによって、広告は最適なタイミングで、最適な形で現れる有益な提案へと変わる可能性を秘めています。

先ほどの例で言えば、キャリーバッグの検索広告は、ユーザーの 「犬と安全に旅行したい」 という文脈に沿った内容になるというふうにです。従来の広告とは違い、新たな発見をもたらす親切な情報として認識されるようになることが期待できます。

広告はユーザー体験を妨げるものではなく、ユーザーの探索や発見の体験より豊かにするものとして再定義されます。

ブランドができる流れ


Google のリブランディングプロセスを、ブランド形成の流れに沿って見てみましょう。

  1. ユーザー体験
  2. 体験からの感情移入
  3. 価値イメージの形成


Google は 「AI モード」 や 「かこって検索」 、「バーチャル試着」 といった機能により、これまでのテキスト中心のものを超えた、新しいユーザー体験をつくり出しています。視覚や聴覚に訴えるリッチな体験は、ブランド形成の出発点です。

次に、新しい体験によって、ユーザーは 「Google は自分の意図をちゃんと理解している」 「優秀なアシスタントがいるようだ」 といったポジティブな感情を抱きます。

こうした感情移入の結果、ユーザーの頭の中には 「Google = 自分の知性を拡張してくれるパートナー」 という新しい価値のイメージが形成されるわけです。

そして、新しい知覚価値が定着すると、Google のロゴや、スマホのホーム画面やパソコンのブラウザページの検索窓といった 「ブランド資産」 の意味合いが変わります。

これまではキーワードを入れる枠だった検索窓は、「思考を拡張してくれる体験への入口」 へと、その意味が書き換えられるのです。

そして、この新しい意味を帯びた検索窓を見るたびに、ユーザーは 「知性の拡張」 というポジティブなブランドイメージを無意識にも抱き、新しいパーセプションはさらに強化・定着していきます。

まとめ


今回は、Google の検索と AI の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にまとめです。

  • ブランドとは顧客の心にある信頼の証。ブランドとは、顧客が体験を通じて感じる好き・共感・満足・誇り・憧れ・応援などのポジティブな感情や信頼の総体

  • ブランドは良い体験の積み重ねでつくられる。一貫した良質な製品・サービスの体験こそが、顧客の中に 「このブランドらしさ」 という独自の価値イメージ (知覚価値) を形成する

  • ブランディングは価値を思い出したり忘れられないための活動。一度生まれたブランド価値を、顧客が忘れずに思い出し、再び選んでもらうためのコミュニケーション活動がブランディングの役割

  • 生活者環境やビジネス環境、顧客の変化に対応し、自社製品・サービスへの 「価値イメージ」 を意図的に書き換えることで、新たな 「選ばれる理由」 をつくり出せる

  • 新しい価値イメージはロゴなどのブランド資産に新たな意味を与える。そして、新しい意味を帯びたブランド資産は、その認識や価値イメージを定着させ、ブランドをさらに強くするという好循環が生まれる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。