#マーケティング #顧客理解 #価値創出
お客さんの 「想定外の行動」 にこそ、まだ見ぬ成長のヒントや新しい価値創造のチャンスが眠っているかもしれません。
カレンダー予定共有アプリの TimeTree は、「ユーザーの推し活」 という意外な使われ方を発見し、事業成長へと変えました。今回は、TimeTree の事例から、売り手の想定外を顧客価値につなげる秘訣を探ります。
固定観念に縛られず、顧客の声なき声に耳を傾けることで、どのような新しい可能性が開けるのでしょうか?
TimeTree
カレンダーアプリの 「TimeTree」 は、家族、恋人、友人同士など複数人で予定を共有できるアプリです。
TimeTree が2025年2月に提供開始した 「公開カレンダーウィジェット」 という機能が、アイドルなどの推し活をするファンの間で人気を博しています。
この機能は、TimeTree の既存機能である公開カレンダー (個人や企業がスケジュールを公開し誰でも閲覧できる機能) を拡張するものでした。
2023年以降、ライブに出演するアイドルグループやそのファンコミュニティで、公開カレンダーの利用が急増しました。TimeTree はこうしたユーザー行動をてこに、2025年2月に 「公開カレンダーウィジェット」 として正式にリリース。スマホのホーム画面で推しの予定を確認できる有料サービスへと発展させました。
TimeTree ユーザーは月額料金を支払えば、好きな公開カレンダーのウィジェットをスマホのホーム画面に追加できます。
では、TimeTree の事例から学べることを掘り下げていきましょう。
潜在ニーズの発見とすみやかな価値向上
TimeTree の 「公開カレンダーウィジェット」 の機能は、ユーザーの実際の行動から生まれた顧客起点のサービス開発事例です。
想定外のユースケースの発見
もともと公開カレンダー機能は、企業や店舗などがイベント情報を広く告知するためのものでした。TimeTree は大々的に機能のアピールはしておらず、知る人ぞ知るという存在でした。
しかし、実際には 「アイドルとそのファン」 という特定のコミュニティで、コミュニティ運営側が公開カレンダー機能を積極的に使い、ファンがそれを熱心に追いかけるという、TimeTree の当初の想定とは異なる形で活用されていたのです。
ライブ中心で活動するアイドルは、イベント数が多く、すべてをファンに SNS だけで伝えるのは難しいという状況にありました。そこで、ライブの情報解禁前の段階から 「ライブ予定」 とだけ TimeTree の公開カレンダーに書き込み、ファンが早い段階から休みを取るなど予定しておけるようにしたわけです。
特に集客が重要なライブにはカレンダーに 「動員重要」 のように注釈をつけたり、終了したライブのスケジュール内に当日のセットリストを書き込み記録に残したりするなど、様々な工夫がされていました。
こうした事象を発見をした TimeTree は、捉えた兆候を調査によって裏付けました。約400組のアイドルグループが利用しているという具体的なデータを得て、ニーズの確からしさを把握したのです。
ユーザーの熱量を取り込み、正式機能へと昇華
TimeTree の公開カレンダーは、ファンにとっては 「推しのスケジュールを簡単に把握したい、見逃したくない」 、アイドル運営側にとっては 「効率的に情報を届け、ファンとのエンゲージメントを高めたい」 という双方のニーズに応えるものでした。
TimeTree は、この熱量を見逃さず β 版だった機能をブラッシュアップ。「公開カレンダーウィジェット」 という形で正式に提供し、ユーザーにとってのサービス価値を高めました。
TimeTree が行ったのは、作り手が想定していなかったサービスの使われ方を発見し、ユーザーからの学びを得て正式な機能として実装し、お客さんへの価値を高めたということです。
顧客の実際の行動を取り入れる 「発想の転換」
TimeTree の事例は、「顧客の実際の行動を取り入れる発想の転換」 というコンセプトを見事に体現しています。
売り手の固定観念より、消費者の実際の行動を優先する
企業は、自社の商品やサービスについて 「こう使われるだろう」 「こういう価値があるはずだ」 という固定観念に縛られがちです。これはプロダクトアウト的な発想です。
しかし、実際には、作り手の想定とは全く異なる方法でお客さんが使っていたり、売り手が想定していなかった層に受け入れられたりすることも珍しくありません。
TimeTree の事例では、ライブを中心に活動するアイドルとファンがヘビーに使っている 「ユーザーの実際の行動」 を目の当たりにしたことがきっかけになり、ユーザーの実態を優先して正式な機能リリースへと舵を切りました。自社の思い込みよりも市場の現実を重視するマーケットインの発想への転換です。
"だったらいっそのこと" の姿勢で新たな価値を追求する
お客さんの想定外の行動や使い方を発見した際に、「それは本来の使い方ではない」 と切り捨てるのは簡単です。一方で 「それならいっそのこと、その使い方をもっと便利に、もっと楽しくできるようにできないか」 と考えたのが、TimeTree の発想でした。
TimeTree は、アイドルファンが公開カレンダーを使っている現状を認識した後、「いっそのこと、もっとファンの熱量に応えられるような機能を追加しよう」 「もっとアイドル側が情報を発信しやすく、ファンが受け取りやすい機能にしよう」 と考え、ウィジェット機能という形で実現しました。
「新しい使われ方 × 自社の強み」 のかけ合わせで価値をつくる
お客さんによる 「新しい使われ方 (= 潜在ニーズの表れ) 」 を発見しただけでは、持続的な競争優位性につながるとは限りません。
重要なのは、「新しい使われ方」 と 「自社の強み (コアコンピタンスや既存技術) 」 をかけ合わせることです。他には真似できない独自の顧客価値をつくりだせます。
TimeTree の場合は、新しい使われ方として、 アイドルファンによる、推しのスケジュール共有・追跡ツールとして活用されていました。
ここに自社の強みとなる、安定したカレンダー共有プラットフォーム、アプリ開発技術、既存ユーザーベースを組み合わせたわけです。
かけ合わせた結果、スマホのホーム画面でいつも推しの最新情報を確認でき、限定コンテンツも楽しめるという、ファンにとっては魅力的な価値が生まれました。また、アイドル運営側にも、情報発信の効率化と新たな収益機会の創出 (ウィジェット収益のシェア) という価値がもたらされました。
汎用的な示唆
では最後のパートでは、TimeTree の事例から、私たちは得られる汎用的な示唆を整理してみます。
ユーザーの "裏ワザ利用" は金脈の兆し
ユーザーが開発者の想定を超えた使い方、裏ワザ的な利用方法を見つけ出している時、それは尖ったユースケースではないかもしれません。
もし想定外の使われ方を発見したら、異端と切り捨てずに検証をしてみる姿勢が大事です。最初はニッチに見える利用方法でも、実は多くのユーザーが潜在的に求めている 「金脈の兆し」 となる顧客体験かもしれないからです。
TimeTree は SNS をきっかけに、約400組ものアイドルグループの利用実態を把握したように、定量的に兆しを検証しました。ミクロな顧客理解から得た洞察を、マクロなビジネス機会へとつなげられるかというミクロ視点とマクロ視点の複眼思考が大事です。
企業は 「これは本来の使われ方ではない」 といった最初から固定観念にしばられるのではなく、「それならいっそのこと、その使い方を前提にして新しい価値を提供できないか」 というゼロベースの思考が、既存の延長にはない価値を生み出せます。
自社の資産を再定義してレバレッジをかける
自社が既に持っている技術、ノウハウ、顧客基盤といった事業資産を、新しい顧客ニーズや利用文脈に合わせて再定義することで、新しい可能性が見えてきます。
TimeTree はすでにリリースしていた公開カレンダー機能を、アイドルへの推し活という新しい文脈に適用し、ウィジェットという形で価値を増幅させました。
ノウハウなどの自社の資産を異なる文脈へ横展開することによって、価値へのレバレッジ効果が期待できます。
観測手段を持ち、意思決定までを短いサイクルで
お客さんの環境、置かれた状況、その状況下でとっている行動、価値観や嗜好は少しずつでも常に変化します。
そうした変化の兆候を見逃さないためには、例えば SNS のモニタリングやエゴサーチ、アプリの利用ログの分析、ユーザーインタビューなど、複数の方法でお客さんからのシグナルを継続的に把握し、環境変化や消費者・顧客理解にもとづいての意思決定をする仕組みが重要です。
変化への察知、解釈と意思決定、改善と検証をスピーディーに繰り返すことにより、変化へ適応力を高めることができます。
まとめ
今回は、予定共有アプリの TimeTree を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 想定外の使われ方を金脈と捉える。ユーザーの裏ワザ的な利用や開発者の想定を超えた使い方は、異端ではなく未開拓の価値創出の機会として積極的に検証するといい
- 固定観念よりも顧客の実際の行動を優先する。プロダクトアウト的な 「自社商品はこう使われるはずだ」 「このカテゴリーでは昔からこのように使っていた」 という思い込みを捨て、お客さん現実を重視するマーケットインの発想が大事
- 自社が保有する既存の技術、ノウハウ、顧客基盤といった資産を、新しい顧客ニーズや利用文脈に合わせて再定義し、かけ合わせることで、独自の価値を生み出せる
- 従来の固定観念にとらわれず、「それならいっそのこと、この使い方を前提に新しい価値を提供できないか」 というゼロベースの思考で、スピーディーに新たな価値創造に挑戦する組織や文化が、競争優位性を生み出す
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