#マーケティング #フレームワーク #本
3C 分析や SWOT 分析の各項目を埋めただけで満足してしまい、顧客獲得や売上への成果につながらない…。
問題は、そのフレームワーク自体にあるというよりも、使い方に原因が潜んでいるのかもしれません。
書籍 「マーケティングフレームワークの功罪 - 成果を生む戦略策定のための独自プロセス獲得法 (菅恭一) 」 は、フレームワークを 「借り物の型」 から 「自社独自の武器」 へと変える実践的な方法論を教えてくれます。
この本をもとに、フレームワークの本質的な価値と、フレームワークを日々のマーケティング活動に根づかせる方法を考えます。
本書の概要
本書は全四部構成で、マーケティングフレームワーク導入の現状と課題から、自社独自の戦略策定プロセスを構築する方法までを段階的に解説します。
数多のマーケティングフレームワークが導入されているにもかかわらず、必ずしも具体的な戦略的成功や組織能力の向上に結びついていないという現実に、正面から向き合う一冊です。
本書の中心的な主張は、フレームワークそのものを断罪するのではなく、むしろその一般的な誤用や表面的な適用方法を問題視する点にあります。問題の中心は、組織がこれらのツールにどのように向き合っているかにあると提起します。
この本はフレームワークの使い方に光を当てます。
フレームワークは万能の解決策ではないものの、広く使われているフレームには実績に裏打ちされた普遍的価値があります。問題は、それらを自社で使いこなせるよう磨き上げ、組織に定着させるプロセスが不足している点にあるわけです。
この課題を乗り越える方法論として、日本の伝統的な上達法になぞらえた 「守破離」 というプロセスに沿って解説されます。本書はフレームワークの導入マニュアルではなく、 「マーケティング組織が他社から借りたフレームワークに依存せず、自社独自の競争力を獲得するための思考法と実践プロセス」 を提示するものです。
フレームワーク導入に成功する組織と、形だけ導入して終わる組織の違いを明らかにし、読者が次の一歩を踏み出す指針を提供する内容になっています。
フレームワークの功罪
本書のテーマは、タイトルの通り 「マーケティングフレームワークの功罪」 というフレームワークを使うことのメリットとデメリット、そしてどうすればメリットを最大限に享受できるかです。
著者は、フレームワーク自体に善悪があるのではなく、どう使いこなすかによってビジネスの成果が決まると主張します。
フレームワークの功 (メリット)
フレームワークを適切に使いこなせば、マーケティングの古典理論や実務家の知見が凝縮されたフレームワークから大いに助けられます。汎用的なフレームワークには広く実証された普遍的な有用性があり、戦略や施策を体系立てるの役立つからです。
例えば 3C 分析や STP 、マーケティング 4P といった定番のフレームも、正しく使えば市場環境への洞察や顧客理解、戦略立案に有効な指針を与えてくれます。
フレームワークの罪 (デメリット)
一方でフレームワークを導入してもいつのまにか形骸化してしまい、期待した成果が出ないケースも多々あります。導入しただけで現場で活用されない、部分的・個人的な施策にとどまり組織全体で共有されないというふうにです。
これらはフレームワークの誤用や過剰な期待による幻滅が影響し、フレームワーク導入が組織力強化につながらない状態に陥っています。フレームワークは魔法の杖ではありません。そのまま使えば自動的に成果が出るものではないのです。
フレームワークは "永遠のベータ版"
フレームワークの功罪を分けるカギは、利用者である私たち自身の姿勢と関わり方にあります。
著者は 「フレームワークは永遠のベータ版」 だと言います。フレームワークは完成された完璧な型などなく、使い続けて参入市場・事業・自社組織やカルチャーに合わせてチューニングをし、磨き上げていくことによって、初めて生きたものとなるからです。
ただフレームワークを導入して満足するのではなく、積極的な活用から失敗と試行錯誤を重ねてフレームワークに魂を込める (血肉化する) ことが重要です。そうして初めてフレームワークは実践で機能し始め、成果を生み、成果のフィードバックによってさらにフレームワークの使い方が上達するという好循環が生まれます。
フレームワークが有益な武器となるか無用の長物となるかは、利用者がどれだけフレームワークを主体的に扱い、自社向けに進化させられるか次第です。
フレームワーク導入による恩恵 (功) と弊害 (罪) はコインの表と裏のようなものです。使い手の成熟度によって表れる結果が変わります。逆に言えば、借り物のフレームワークに振り回されるのではなく、使い倒して自社の武器に昇華することが大事なのです。
フレームワークを実践知にする守破離
本書では、マーケティングのフレームワークを習熟するための方法論として、守破離に沿って解説されています。
守破離は、武道や他の古典芸術 (道) に由来する日本の伝統的な概念です。
師匠を見つけて基本を徹底的に学ぶ 「守」 、自分なりにアレンジをして応用していく 「破」 、そして、最終的には型から離れて独自のものにする 「離」 という流れです。
[守] 既存の型を徹底的に学ぶ
まずは定番のフレームワークや基本原理を、生まれた背景も含めて正確に理解し、実務での自社案件に当てはめて使ってみます。3C や STP 、カスタマージャーニーなどを教科書どおりに実施し、自分の仕事の中で行うことで基礎を体得します。
ここでのポイントは、守の段階では中途半端に独自流儀に走らないことです。まず型通りにハマってみること重要で、型を徹底して守ることにより初めて見えてくる課題や足りない点を把握します。
[破] より良い型を模索して改良する
基本の形を一通り試していくと、そのままでは合わない部分や不足点が生じます。
そこでこれらを補うためにアレンジや拡張を施します。例えば、既存フレームに独自の視点 (業界特有の構造要因など) を組み込んでみます。
守破離の破の段階では、現場の知恵を活かし、フレームワークを自分たちに適応させます。
外から借りてきたフレームワークをそのまま健全な批判的精神なしに鵜呑みにするのではなく、自社の実情に合わせてカスタマイズするわけです。時には複数のフレームワークを組み合わせるなど創意工夫も大切です。
[離] 型から離れて自在になる
守破離の最終段階である離は、特定のフレームワークに縛られずとも一連の思考プロセスが個人や組織に染みつき、独自の戦略策定メソッドが確立できる状態です。
ここまで来ると、もはや 「○○ 分析」 というフレームの名前を意識せずとも、組織メンバーが共通する武器として自社フレームワークで状況を捉え、議論や意思決定ができているといった域になります。脱フレームワーク依存の境地となり、これが本書でいう 「独自プロセス獲得」 の完成形です。
フレームワークに魂を込める
「フレームワークに魂を込める」 とは、借り物のフレームワークを単なるチェックリストで終わらせず、自社の文脈で生きた意思決定エンジンに変えることです。
フレームワークに魂を込めるには、以下の実践が大事になります。
マインドセットの転換
フレームワークを完成されたものとしてではなく、常に改善し続けるべき道具であると捉えることが魂を込める第一歩です。
本書が示す 「フレームワークは永遠のベータ版」 という考え方にも通じます。フレームワークの各項目を埋める作業に陥らず、なぜこのフレームを使うのか、もっといい当てはめ方があるのではないかという、目的や問題意識を持ち続ける主体的な姿勢が重要です。
フレームワーク完成を目的にするのではなく、顧客価値の創造という本来のビジネスの目的を見失わないことです。
守破離のプロセスの追求
フレームワークに自分たちの魂を宿らせるのは一朝一夕にはできません。
守破離の守で型の基本を学び、破で自社の事業や顧客、社内文化といった固有の文脈を加えてカスタマイズし、そして離で自社の勝ち筋につなげるという独自のフレームワークへと昇華させるプロセスが不可欠です。
この過程が、借り物の道具に自社の経験と知恵という魂を吹き込む行為に他なりません。
試行錯誤の歓迎
フレームワークを血肉にするには、現場でのリアルな実感との往復が必要になります。
机上の論理で終わらせず、顧客の声、競合の動き、自社の強みというビジネスの生きた情報や洞察を絶えずフレームワークに反映させ、血の通ったフレームワークにすることが大切です。
理論を実務に反映するには 「なぜ」 を問い続ける姿勢も重要です。
例えば SWOT や STP を埋める前に 「なぜこの分析が今必要なのか」 、「顧客にどんな価値を届けたいのか」 という本質的な問いから始め、そのための有用な道具としてフレームワークがあるという順番です。
フレームはあくまでツールなので、試行錯誤を歓迎するくらいの気持ちでフレームに向き合うといいでしょう。
フレームワークに魂を込めるとは、組織の情熱、顧客への想い、市場での勝利への執念を注ぎ込み、生きた戦略として機能させることです。
まとめ
今回は、書籍 「マーケティングフレームワークの功罪 - 成果を生む戦略策定のための独自プロセス獲得法 (菅恭一) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティングのフレームワークは、理論や実務家の知見が凝縮され汎用化されたもの。功罪は表裏一体の紙一重。うまく使えば戦略思考やマーケティング活動を支えるが、誤用や形骸化すれば逆効果になる
- フレームワークの完成を目的化しない。顧客価値の創造という本来の目的を見失わず、フレームワークはあくまで思考を助ける道具
- フレームワークを完成品ではなく 「永遠のベータ版」 と捉えるといい。完成された型など存在せず、自社の市場・事業・組織に合わせて継続的にチューニングすることが必要
- 守破離のプロセスでフレームワークを血肉化する。基本の型を徹底的に 「守」 り、次に自社流にアレンジして 「破」 り、最終的に型から 「離」 れて独自のプロセスを確立する
- 問い続け、試し続けることで借り物のフレームワークに魂を込める。机上の論理で終わらせず、顧客の声や競合動向など生きた情報を反映させながら、組織独自のツールへと昇華させる
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