投稿日 2015/08/22

書評: 憲法主義 - 条文には書かれていない本質 (南野森 / 内山奈月)


日本国憲法原本


憲法主義 - 条文には書かれていない本質 という本をご紹介します。



本書の内容


著者は憲法学者の南野森氏と、AKB48 メンバー (2014年時点) の内山奈月氏です。南野氏が講師、内山氏が生徒で、2人での講義形式で書かれています。以下は本書の紹介からの引用です。

もしも国民的アイドルが、日本国憲法を本気で学んだら……。

日本武道館のステージで憲法を暗唱して聴衆を沸かせた高校生 (当時) アイドルが、気鋭の憲法学者による講義をマンツーマンで受けた結果、日本一わかりやすい憲法の入門書ができました!

とはいえ、「人権論」 から 「統治機構論」 へと展開する本書の内容は、かなり本格的なもの。「表現の自由」 が憲法全体に果たす役割の重さには驚きを禁じえません。また、恋愛の自由、パパラッチの問題など、アイドルなら気にせずにはいられない事象についても、真正面から論じています。


憲法が対象としているのは国家権力


本書からは現代の憲法についての基本的な考え方を学ぶことができました。基本にもかかわらず、これまで理解していないことにあらためて気付かされました。

そのうちの1つが、憲法の 「名宛人」 は国民ではなく国家権力であることです。

名宛人、すなわち、憲法によって規定される対象は、政治家などの国家権力です。憲法の内容を守らなければいけないのはあくまで国家権力であり、国民が守らなければいけないのは法律です。

憲法の名宛人が国家権力であることは、日本国憲法の第10章 最高法規における第99条で、以下のように謳われています。

第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。


憲法の目的は国民の人権保障


そもそもの憲法の目的は、国民の人権を保障することにあると本書では指摘されます。

歴史的な経緯は、国民を支配する最高権力 (国王など) を憲法によって縛りをかけたことです。憲法の範囲で制限をかけ、国民の人権を守りました。

本書のタイトルは 「憲法主義」 です。意味は、憲法を政治の根本に据えることです。本書では別の表現で 「立憲主義」 とも言っています。憲法の範囲で国家権力を制限し、国民を守り、憲法によって国家を運営していくという考え方です。


改憲するべきか


本書で取り扱われているテーマで最後に議論されていたのが、日本国憲法を変えるべきかどうかでした。

本書では次のように議論されています。

  • 確かに2015年現在の日本国憲法は、GHQ が草案をつくり、日本側で修正をされてできあがった経緯があり、日本国民がつくったとは言えない
  • 改憲派の意見は、GHQ から押しつけられた憲法ではなく、日本人が自分たちの憲法をつくるべきという考え方が紹介される
  • その一方で、著者の1人である憲法学者の南野氏は、憲法の価値を次のように指摘
    • 2015年現在でほぼ70年を今の憲法でやってきている
    • 憲法が根付いており国民の多くが憲法を受け入れている
    • 何より、憲法に従って実際に日本という国が運営されている


改憲について思うこと


ここからは私の考えです。

上記の本書での指摘はそうだとして、思うのは、論点として1つ大事なことが抜けていることです。

日本国憲法を誰がつくったか、現在において憲法が受け入れられていることの他に、今の憲法が 「当時どのような国の状況でつくられたか」 という論点です。

日本国憲法が施行された1947年5月3日当時、敗戦国である日本は連合国軍の下で占領化にありました。憲法が占領という国として主権がなかった状態でつくられ、施行された事実です。


前文に見る占領が前提の憲法


日本国憲法は占領が前提となっていると見ることができる文言があります。象徴的なのは、日本国憲法の前文です。引用します。

日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。

前文の後半にある 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」 です。

平和を愛する諸国民とは、アメリカやイギリスなど第二次世界大戦の戦勝国である連合国を指していると読めます。これら諸国民に自国の平和を依存することを、憲法の前文で宣言しているのです。


他国に国の安全を委ねるとともに、第九条の第二項では 「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」 と、日本の国家権力を縛っています。


占領下の憲法で今なお国家権力が縛られている


草案を GHQ がつくり、現在の日本国憲法は GHQ 草案をベースにしています。これが意味するのは、GHQ が日本の国家権力を縛り、それが2015年の今現在も続いているということです。

本来は国民が主権を発動し、自分たちの人権を守るために憲法によって国に制約をかけるべきものです。しかし、日本国民ではなく、GHQ がそれをやった状態が今なお継続されています。

日本が国として主権がなく占領された状態を前提にしてつくられた憲法は、その前提を見なおすところから始めるべきだと思います。

もちろん、今の憲法の内容の全てを変える必要はないでしょう。本書で指摘されているように、今の憲法をもとに各種法律がつくられ、憲法と法律をもって現実に国が運用されています。いったん憲法を無効にし、あらためて新しい憲法としたとき、その中身の多くがこれまでと変わらないことでよいと思います。

ただし、少なくとも占領が前提となっている部分は、独立国家を前提にしたものに変えるべきです。



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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。