2017/02/13

サービスが先。クロネコヤマトの宅急便の歴史に見る、経営戦略の優先順位


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小倉昌男 経営学 はおすすめの本です。



エントリー内容です。

  • デパート配送業務が構造的な 「儲からないビジネス」 に
  • 小倉が見出した個人宅配業務の可能性
  • 2016年の年末から年始にかけての配達遅延。今後のヤマトの対応は?


本書の内容


以下は、内容説明からの引用です。

 「儲からない」 といわれた個人宅配の市場を切り開き、「宅急便」 によって人々の生活の常識を変えた男、小倉昌男。

本書は、ヤマト運輸の元社長である小倉が書き下ろした、経営のケーススタディーである。


デパート配送業務が
構造的な 「儲からないビジネス」 に


ヤマトが個人宅配である宅急便を始める前、デパートの配送業務を取り扱っていました。しかし、デパート配送業務は徐々に儲からない事業になっていきます。

なぜなら、デパート配送業務は取り扱う配送量が増えるほど、利益率が減るという構造的な問題を抱えていたからです。

背景は、お中元とお歳暮の配送量が日本の経済成長にともなって増え、繁忙期以外と取り扱う配送量の差が大きくなったことです。

お中元とお歳暮での拡大する業務量に対応するため、倉庫など自前の設備を増やした結果、デパート配送業務は固定費の高いビジネスになります。お中元とお歳暮の時期は黒字である一方、、それ以外の1年のほとんどの時期は固定費が収益を上回り、赤字になりました。


小倉が見出した個人宅配業務の可能性


小倉が目をつけたのは個人宅配業務でした。


個人宅配業務の可能性


個人宅配の特徴は、季節による配送量の差はデパート配送業務に比べると小さかったことです。当時の役員全員から個人宅配市場への参入に反対される中、小倉は本当に個人宅配で事業は成立しないかを深く考えました。

個人向け宅配サービスの特徴は、以下の3点でした。

  • 偶発的:どこの家庭から出荷されるかわからない
  • 非定型:どこに行くかも決まっていない
  • 少量的:1口からのサービス

小倉の思考が秀逸だったのは、ここで考えることをやめず、個人宅配業務でどうすれば儲かる仕組みにできるかを突き詰めて考えたことです。

確かに個々では偶発的で、世帯ごとに見れば集荷や配送先はバラバラです。ただし、視点を大きくして、例えば東京から大阪へ送られる荷物の流れを見れば、季節によらず一定のボリュームがあるのではと小倉は考えます。


小倉の仮説


取り扱い量を増やしていけば、どこかで損益分岐点を超え、個人宅配は事業として成り立つのではないかという仮説を持ちます。

ポイントは 「荷物の集荷密度」 でした。

事業として成立させるためには、配達ネットワークをどう構築し、取り扱う荷物の総量をいかに増やすかでした。エリア単位における荷物の集荷量を増やし、そのためにトラック一台当たりの集配個数をいかに増やすかにかかっていると小倉は考えました。


絶対に儲かるという確信


荷物の集荷密度を上げれば、いずれは損益分岐点を超えるというのが、小倉の読みでした。小倉は 「個人からの荷物の宅配は絶対儲かる」 という確信に至ります。

集荷密度を上げるための優先順位は 「サービスは先、利益は後」 でした。

利用者を増やし、取扱荷物を増やすために、お客に宅配サービスを買ってもらうことを優先しました。利益よりもサービスを優先させた例として、翌日配達、全国一律の配送料金、時間指定配達などでした。


2016年の年末から年始にかけての配達遅延


ここ数年、年末年始の時期に起こる配達の遅延が話題になっています。ヤマトからも自社サイトで情報発信をしています。

参考:年末年始における宅急便等のお届けについて (2016円12月22日) - ヤマト運輸


ヤマトのウェブサイトで年末年始の遅延のお知らせは、2016年だけではなく、2014年2015年 も出ています。2014年と2015年では 「交通渋滞」 と 「悪天候」 が理由でした。2016年には 「荷物の増加」 が追加されています。


クロネコヤマトはどう対応するのか?


年末年始での一時的な需要増は興味深いです。


需要増に対応できずサービスの質を落としてしまった


というのは、ヤマトが個人宅配業務に参入する前の、デパート業務でのお中元・お歳暮シーズンに発生していた需要増と同じ状況だからです。個人宅配でも業務に支障をきたすほどの、一時的なキャパ超えです。

配達遅れは、実際に年末年始で起こりました。上記リンク先のように事前に利用者に伝えてはいたものの、サービスの質を落とすことになりました。


 「サービスが先」 に見る優先順位


かつて小倉は 「サービスは先、利益は後」 という明確な優先順位を示しました。

個人宅配業務はいかに集荷密度を高めるかでした。サービスを充実させ利用者が増え、利用者当たりの利用回数が増えれば、集荷密度は高まります。損益分岐点を超えれば、自ずと利益は後から付いてくるという考え方です。

本書 小倉昌男 経営学 には他にも、「車が先、荷物は後」 や 「人が先、荷物は後」 という優先度も書かれています。車とは宅急便の配送車、人はセールスドライバーです。

車と人が荷物より先というのは、現実に荷物配達量の増加が起こる前に配達の体制を整えるという意思です。決して、配達荷物が増えるという需要増が先に起こり、後から配送車や人員を補強するという順番ではなかったのです。


今後のヤマトの対応は


難しいのは、起こっているのが年末年始の一時期のみの需要増という点です。単純にこの時期だけ増員をしたり、倉庫や配送センターなどの固定費を年末年始のピーク時に合わせれば、かつての 「デパートの集荷業務は構造的に儲からなくなった」 と同じ構図になります。

クロネコヤマトが、今年の年末年始シーズンにどのように対応するのか注目です。



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書いている人 (多田 翼)

ベンチャーから一部上場企業の経営・事業戦略を支援。マーケティング、コンサルティング・アドバイザー・メンター、プロダクトマネジメント。前職は Google でシニアマーケティングリサーチマネージャー、現在は独立 (詳細は LinkedIn または Facebook をご覧ください) 。

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1981年 (昭和56年) 生まれ。名古屋出身、学生時代は京都。現在は東京23区内に在住。気分転換は毎朝の1時間のランニング。