#マーケティング #価値定義 #顧客設定
長年ファミリー向けハンドソープとして親しまれてきたライオンの 「キレイキレイ」 。
生活者環境や市場の変化に合わせて、価値を再定義し、注力顧客を拡大するという取り組みから、成果をあげています。
キレイキレイの事例を詳しく見ながら、マーケティングに学べることを読み解いていきます。
ハンドソープ 「キレイキレイ」
1997年発売のロングセラーブランド
ライオンのハンドソープ 「キレイキレイ」 は1997年に発売され、ハンドソープ市場で20年以上連続で売上1位 (2004年 ~ 2024年シリーズ累計販売金額 インテージ SRI+ ハンドソープ市場 (ボディ用せっけん除く) ) を誇るロングセラーブランドです。
パッケージや CM でも見かけるキレイキレイの家族イラストは、多くの人が一度は目にしたことがあることでしょう。
キレイキレイは誕生以来、家族みんなで使える殺菌力のあるハンドソープという点を打ち出してきました。子どもに手をしっかりと洗ってほしいという親の気持ちに応え、手を洗う習慣を家族に浸透できるブランドイメージを確立しています。
ファミリー層をメイン顧客とし、安心・安全への訴求を長きにわたる CM 展開などを中心に、「ハンドソープ = キレイキレイ」 というポジションを目指してきました。
時代の変化がもたらした同質化の危機
2020年から新型コロナウイルスが広がったことにより、手洗いの重要性があらためて消費者から注目を集めました。ハンドソープをはじめ、さまざまな衛生用品が殺菌や除菌を前面に押し出すようになり、消費者の関心もどの商品がどれだけ殺菌できるかに集中したわけです。
また、こまめな手洗いが消費者の間で習慣化したことにより、手の乾燥や荒れに悩む人が増えました。
それにより、手洗い石鹸で殺菌できればいいだけにとどまらず、「手肌に優しい」 「香りに癒される」 「洗面所に置いていておしゃれ」 など、多彩なニーズが顕在化。ファミリー向けだけでなく、単身者や子どもなし世帯がハンドソープを選ぶ際にも 「デザインや香り重視」 といった新しい軸が表面化しました。
これまでキレイキレイの強みであった殺菌力。しかし、他社商品も殺菌消毒と商品パッケージに記載し始めると、消費者からは 「どれも同じように感じる」 と思われます。
ブランドは 「誰のどんなニーズに応えるのか」 を明確にしなければ、存在感が埋もれてしまいます。長年にわたって培ってきたキレイキレイの独自性が薄れ、ファミリー用という特徴だけでは選ばれる要因にはなりにくい状況になったのです。
キレイキレイの価値の再定義
市場での同質化と埋没への危機意識から、ライオンは 「キレイキレイのお客さんは誰か」 を捉え直しました。
キレイキレイの顧客価値を再定義し、注力顧客を拡大する戦略に舵を切ります。具体的には、家族を守る殺菌に 「うるおい」 「香り」 「デザイン」 を加えました。
ライオンは、キレイキレイのコアバリューである殺菌力を保ちつつ、保湿や香り、デザインといった要素をプラスしました。その象徴的な商品が 「キレイキレイ薬用ハンドコンディショニングソープ」 です。手荒れを防ぐために、洗浄後も手肌の潤いをキープしやすいのが特徴です。
また、パッケージにあるコピーをわかりやすく刷新しました。
従来のキレイキレイのパッケージには、「ウイルス細菌 + うるおいバリア」 と表記されていました。これを 「うるおいベール処方でしっとり手肌へ」 とシンプルなコピーに変え、しっとり感を直感的に伝えられるようリニューアル。殺菌力はもちろんあり、さらに潤いという新たな付加価値を明確に打ち出しました。
他には、単身層・子どもなし世帯への訴求を強化しました。
家族イラストを前面に出していた従来品とは異なり、ボトルデザインにくすみカラーや丸みを取り入れ、おしゃれさを意識しました。香りはアロマのようなシトラス & ラベンダーを追加し、リラックス感を打ち出しています。
こうした取り組みによって、キレイキレイは単身層・子どもなし世帯にも 「自分向けの商品」 として認識されることを目指しました。
成果を示したブランド拡張
キレイキレイはこのような施策を展開し、特に香りとデザインを強化した 「キレイキレイ薬用ハンドコンディショニングソープ あたたかな木漏れ日の香り シトラス & ラベンダー」 を発売。
発売後の2024年10月 ~ 2025年1月に、前年比約 140% という売上増を記録しました (参考記事) 。ファミリー世帯だけでなく、単身世帯や若年夫婦世帯からの支持も高まり、購入者全体の約半数を占めるまでに至っています。
実売価格が600 ~ 700円程度と、ハンドソープの中ではやや高めの設定です。しかし、保湿や香り、ボトルデザインといった付加価値が認知されれば、多少高くても 「これが欲しい」 と思ってもらえることを証明した形です。
学べること
ではライオンの 「キレイキレイ」 の事例から、学べることを掘り下げていきましょう。
コアバリューを守り、多角的な価値を提供
キレイキレイにとって、消費者が安心して使えるハンドソープの 「殺菌力」 は外せないコアバリューでした。よって、いったん根幹の強みを捨ててしまうと、既存顧客の支持を失う可能性があります。
そこでライオンは、付加価値で新たなお客さんに響くことを目指しました。保湿、香り、デザインを組み合わせ、今まで取りこぼしていた消費者層にも興味を持ってもらいやすくしたわけです。元々のコアバリューを活かしながら価値を足していくアプローチです。
キレイキレイの看板である 「キレイキレイファミリー」 は、子どもに手洗い習慣をつけられる、安心・安全なハンドソープというイメージを想起させる存在です。
もしこのイメージをガラリと変えてしまえば、既存顧客を失う可能性が生まれます。ライオンは 「コアバリューは維持しながら、デザインや香り・保湿機能を拡張する」 という道を選びました。
注力顧客を拡張し、市場全体から選ばれる確率を高める
マーケティングで大切なのは、市場全体の中で自社商品がより多く選ばれる状態をどうつくるかです。すなわち、対象とするお客さんを広げ 「自社商品が選ばれる回数や確率を増やす」 ということです。
今回のキレイキレイの事例では、ファミリー向けとしてのイメージが確立していたブランドを、単身者や子どもなし世帯にも刺さるよう再設計し、同時に家族向けの安心感も守りました。
多様なライフスタイルに応じ、結果としてファミリーも、そうでない層も商品を手に取る可能性を高め、市場全体で選ばれるチャンスが増えたのです。
顧客価値をわかりやすく伝える
それまでのキレイキレイのパッケージにあった 「ウイルス細菌 + うるおいバリア」 という表記を 「うるおいベール処方でしっとり手肌へ」 に変えたことで、潤いが実感できそうという印象を直感的に伝えることを狙いました。
消費者がお店でキレイキレイを見かけたときに、これなら自分に合いそうと直感的に思える訴求が、選ばれる確率を高めます。
どんな表現をすれば相手 (重点顧客) が興味を持ってくれるかを意識するだけで、伝え方は変わるものです。自分が何を伝えたいかだけではなく、相手が何を望んでいるかを理解し、言葉やデザインでわかりやすく示すことが重要です。
マーケティングの本質に通じるキレイキレイの事例
では、キレイキレイの事例が示すマーケティングの本質を考えて締めくくりにします。
マーケティングの本質
あらためてマーケティングとは何でしょうか?
私の結論から言うと、マーケティングとは、お客さんから 「選ばれる理由」 をつくり、選ばれるための活動をあらゆる顧客接点で実行していくことです。
市場での同質化の波が押し寄せる中でも 「自社の強みは何か」 というコアバリューを見失わず、さらに付加価値を高める続けることによって、消費者やお客さんから選ばれる確率を上げることができます。
ライオンは、ファミリー向けの殺菌力という揺るぎないコアバリューを軸にしながら、手肌のケアや香り、ボトルデザインという多面的な特徴を加え、単身者や若年夫婦といった新しい消費者層にもアピールしました。
お客さんに選んでもらう理由をつくりだし、ハンドソープ市場での選ばれる確率を高めようという狙いを見て取れます。お客さんから選ばれる活動というマーケティングの本質の実践です。
顧客理解からの価値実現
重要なのは、消費者や顧客がどんな状況にあり、その状況下でどのようなニーズが生じているのか、既存の商品・サービスでは満たされていない未充足ニーズは何かなど、大切にしたい人を深く理解することです。
そして、顧客理解にもとづいて自社の強みとなるコアバリューを定義します。
キレイキレイの事例からは、あなたが担当する商品やサービスにおいて 「誰に、どんな価値を、どうやって届けるか」 をあらためて考えてみるヒントと機会が得られます。
まとめ
今回は、ライオンのハンドソープ 「キレイキレイ」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- マーケティングは、お客さんから選ばれる理由をつくること。選ばれるための活動を、あらゆる顧客接点で実行していく
- 顧客基盤を広げ、市場全体で選ばれる機会を増やす。既存の顧客層に加えて、新たな生活者層にも響くように商品やブランドを設計することで、市場全体での選ばれる確率を高める
- コアバリューを守りながら進化させる。自社商品の既存の強みを維持しつつ、新たな価値を加えることにより、既存顧客を保持しながら新規顧客を獲得できる
- 顧客価値をわかりやすく伝える。製品の特徴や魅力を売り手視点ではなく、顧客目線から顧客が直感的に理解できる言葉やデザインで表現する
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