#マーケティング #起業 #本
今の仕事に追われる中で、自分は社会にどんな価値を残せるのか、ふと立ち止まってしまうことはないでしょうか?
ご紹介したいのは 「松岡まどか、起業します - AI スタートアップ戦記 (安野貴博) 」 という本です。
人生を詰んでしまったような状況に陥った主人公が、AI を武器に自らの価値を懸けて起業の荒波に飛び込みます。
この物語は実際の起業家が描いたリアルな起業小説です。ビジネスをつくっていく過程から、起業に必要な知識と心構えが学べます。
本書の概要
本書は、AI エンジニア兼起業家、そして現在は躍進を続ける政党 「チームみらい」 の党首でもある安野貴博さんが書いたビジネス小説です。
主人公の松岡まどか (22歳の女子大生) は、大手企業 「リクディード」 (モデルはリクルート) のインターンに参加し、卒業後の内定を得ていましたが、突如内定を取り消されてしまいます。
その直後、怪しげなスタートアップ・スカウトにそそのかされ、「1年以内に時価総額10億円の会社を作らなければ多額の借金を背負う」 という理不尽な契約を結んでしまうところから物語が始まります。
追い詰められたまどかは、リクディード社のインターンで自分を指導してくれた先輩・三戸部歩 (みとべ あゆむ) から助力を得て、三戸部とたった2人で AI スタートアップを立ち上げる決意をします。
まどかは、5体の AI エージェント (ミツナリ, ノブナガ, ナガマサ, シンゲン, マサムネ) を自宅で独自に構築し、自在に AI を操る 「AI ネイティブ」 でした。各 AI は戦国武将 (石田三成, 織田信長, 浅井長政, 武田信玄, 伊達政宗) をベースとした性格設定で、まどかは24時間音声記録による AI 学習システムを構築していました。
三戸部と2人で立ち上げた AI スタートアップでは、まどかは自分の得意分野を、三戸部はまどかの強みを活かした事業アイデアを模索しながら、会社を設立します。たどり着いた事業領域は 「AI × HR」 というAI 技術で人材業界を変革するサービスでした。
まどかは他にもメンバー集めにも奔走します。
企業派閥争いで燻っていた有能な女性 (元リクディード社員) を COO に迎え、SNS で話題の AI 研究者 (東北大ポスドクのインフルエンサー) を CTO にスカウトするなど、優秀な仲間を増やしていきます。
その後、日本最大級のピッチイベント 「アンリミテッド・ベンチャーズ・サミット (UVS) 」 への参加や、プロダクト開発・資金調達に向けたプレゼンなど、スタートアップの立ち上げ初期の山場が次々とリアルに描かれます。
物語の後半に入ると、会社の成長とともに試練も本格化します。資金繰りが厳しくなり資金ショート (資金繰りの悪化) というヒリヒリする恐怖を疑似体験できる描写や、急成長の裏でのメンタル負担、さらにはチーム内の裏切りが発生します。
起業未経験や社会人としての経験もない主人公が、ゼロから仲間と事業を立ち上げていく起業の過程がスピーディーに展開されます。本書は読み応えのある 「AI スタートアップ成長物語」 です。400ページ近いボリュームながらテンポが良く、一気に読み終えました。
本のテーマと学べること
この本のテーマは大きく分けて 「令和時代のスタートアップ挑戦」 と 「AI と共存する未来」 のふたつです。
主人公まどかの奮闘を通じ、起業の意義と現実、そして AI との向き合い方が物語全体に描かれています。
起業と成長の物語
主人公のまどかは元々 「働くことが好きではない」 という人物として描かれます。
しかし、内定取消しという挫折と、人生を詰んでしまうような契約に縛られ追い詰められた状況に陥り、自らリスクを取って起業に挑むことで人間的にも成長します。
途中には大きなプレッシャーで眠れなくなったり、信頼していた仲間に裏切られたり、資金繰りに奔走するなど数々の苦難が降りかかりますが、その度に彼女は悩み、時に落ち込みながらも決断を下し前進し、経営者としての器を広げていきます。
主人公の人物成長が丁寧に描かれ、当初は受け身で自信のなかったまどかが、物語終盤には自らビジョンを掲げて仲間を鼓舞するリーダーへと変貌します。
スタートアップのリアル
著者自身がスタートアップ経営者である経験を活かし、本書には起業にまつわる現実的な知識・知見が随所に織り込まれています。
例えば、大企業の社内政治に新卒が巻き込まれる理不尽さ、資金調達の方法と難しさ、急成長に伴う組織運営の課題、株主との契約の落とし穴などが物語の中で描かれます。
まどかが直面する出来事の多くは著者の実体験にもとづくものと思われ、現実に近い舞台で話が進むためリアルです。読者は物語を追体験しながら、スタートアップとは何か、現実に起こり得る困難とは何かを学ぶことができます。
特に資金繰りの逼迫した状況での緊迫感や、投資家との駆け引き・株主総会で詰められるシーンなどは、生々しい臨場感を持って描かれます。胃が痛くなるような起業のリアルを疑似体験できます。
「世界に君の価値を残せ」
「世界に君の価値を残せ」 というこの言葉は、物語の中で登場するものです。小説全体の羅針盤として機能し、主人公のまどかを突き動かす原動力でもありました。
本書は 「価値」 と 「世界」 という言葉を独自に定義しています。当初、世界を変えるような壮大な野心はなく、まどかにとっての 「世界」 とは、引きこもりの自分の兄と一緒にいる世界であり、「価値」 とは兄を救う可能性のあるサービスを創り出すことでした。
本の物語が示唆するのは、起業につながる原体験は、個人的で具体的な問題を解決することから始まる、ということです。
そして、この個人的なテーマ (苦しんでいる兄を助けること) が、やがては世の中に価値をもたらすという、より広範な使命へと拡大していく過程が描かれます。
AI との共生と倫理観
本書のもうひとつの主題は、AI との向き合い方です。
AI が世界をどう変えるのか、また、AI と人との共生も読者に突きつけられる問いです。
主人公のまどか自身、複数のチャットボット AI を育成し、バーチャル彼氏のように調教して楽しんでいたというストーリー設定で、デジタルネイティブならぬ AI ネイティブとして描かれます。
彼女は勉強や就活でも AI を賢く使いこなしてきました。実はそれが仇となり内定取り消しになるのですが、これは旧来型の企業と AI ネイティブ世代のギャップを示します。
物語の中盤では、まどかが自作の複数の AI エージェントを日常生活で使い分け、例えば、彼氏役の AI (マサムネ) にお小遣いを与えておいて、サプライズでプレゼントを贈らせる等の使い方をしている描写があります。
亡くなった人の人格を AI で再現するという踏み込んだ試みも登場し、AI の倫理や今後の社会実装について考えさせられる展開となっています。
本書は 「AI をどうつくるかではなく、どう使い倒して価値を生むか」 というメッセージを発しています。AI の時代において、人間が AI と協働しながら自分の価値をいかに社会に残していくことの大切さが、小説の物語に出てくる 「世界に君の価値を残せ」 ともつながります。
起業やビジネスへの教訓
本書は、フィクションとはいえ現実のスタートアップ経験に裏打ちされた内容が多く、起業を志す読者に役立つ示唆が散りばめられています。
契約への注意と落とし穴
まどかが陥った 「1年で企業価値10億円達成できなければ負債」 という契約は極端な例ですが、スタートアップ界隈では強引な投資契約や不利な条件での起業提案が存在し得ることを示します。
安易にうまい話に飛びつかない、契約の条項を慎重に確認する大切さが教訓になります。
作中の悪意のあるスカウトは学生の社会経験のなさに付け込み搾取しようとした人物設定であり、まどかは人生を縛る契約を結んでしまいました。このエピソードから、起業家は自分の身を守るため法務や契約の知識を持つこと、信頼できるメンターや専門家の助言を受けることの重要性を学べます。
仲間選びとチームビルディング
起業の成功のカギを握るのは 「誰とやるか」 であることが実感できます。
まどかは一人では何もできませんでしたが、前職の三戸部先輩との出会いを皮切りに、有能な COO や CTO をスカウトしチームを拡大することで事業を推進できました。
業界大手出身の改革派人材や著名な AI 研究者など、多様な才能を持つ仲間を集める過程とその難しさが描かれます。得られる教訓は、ビジョンを示して人を動かすリーダーシップと、 SNS 等も駆使した戦略的なリクルーティングです。
まどか達は Twitter (現 X) で転職活動中と発信していた研究者にアプローチしスカウトしました。現実の起業でも、人材獲得には情報発信力とネットワーク活用が不可欠でしょう。
後半のエピソードから、メンバーの信頼関係の醸成や権限と情報の適切な分配も教訓として得られます。裏切りが起きた背景には、組織内コミュニケーションの不足や利害の対立があったと示唆されるため、創業メンバー間でのビジョン共有と誠実な対話の大切さも学べます。
メンタルヘルスと持続可能な挑戦
読んでいて、胃が痛くなる起業のストーリーをリアルに追体験できます。
本書のスタートアップ描写は苛酷です。極限状態の連続はエンタメとしてはスリルのある展開ですが、実際の起業家にとってメンタルヘルスの維持は大事な課題です。
本書の物語でも、まどかが抱える重圧や孤独感、新卒 CEO ゆえの未熟さから来る不安がリアルに表現されます。私たちへの教訓は、無理な急成長には代償が伴うということです。
著者は巻末の所感で、できればスモールスタートで着実に一歩ずつ進める方が健全だとも示唆します。読者は物語から 「起業 = 楽して成功」 というものではなく 「短期で成功しても燃え尽きる危険」 があることを学べます。
起業に憧れる人ほど、本書の描く過酷さを知ることで心構えができるでしょう。
主人公のまどかはメンタルの支えとして AI や先輩の助言に救われました。現実の世界でもメンターや仲間、テクノロジーを上手に頼ることでストレスを軽減し乗り越えるヒントになります。
以上のように、本書 「松岡まどか、起業します」 からはビジネスへの教訓が幅広く得られます。
一言で表現をすれば、ビジョンを持ち、良いチームを作り、学びながら走り抜くことがスタートアップ成功のカギになると本書は教えてくれます。
まとめ
今回は、書籍 「松岡まどか、起業します - AI スタートアップ戦記 (安野貴博) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 著者のビジネスでの実体験にもとづくリアルな起業描写。AI エンジニア兼起業家の著者が、スタートアップの現実的な困難 (資金調達, チーム運営, 契約の落とし穴など) を生々しく描いた教育的な側面もあるビジネス小説
- AI ネイティブ世代の新しい価値観。複数の AI エージェントを使いこなす22歳の主人公を通じて、「AI をどう作るかではなく、どう使い倒して価値を生むか」 という AI 時代の働き方を提示する
- 個人的な動機から社会的価値への発展へ。「世界に君の価値を残せ」 をテーマに、引きこもりの兄を救いたいという個人的な想いが、より広範な社会貢献へと拡大していく成長過程を描写した
- チームビルディングとリーダーシップの重要性。起業の成功を分けるのは 「誰とやるか」 。ビジョンを示して人を動かすリーダーシップと、SNS を活用した人材獲得の必要性などが教訓として得られる
- メンタルヘルスと持続可能な成長の重要性。極限状態での起業の過酷さをリアルに描き、無理な急成長の代償とスモールスタートの健全性、メンターや仲間の支え、持続的な成長の重要性を示唆する
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