投稿日 2026/02/10

meito 「つくってたべよう! 幼虫 3D ゼリー」 に学ぶ、ヒット商品をつくるデザイン思考の実践

#マーケティング #商品開発 #デザイン思考

あなたの業界で 「絶対にやってはいけない」 とされているタブーはあるでしょうか?もしそのタブーこそが、次の大ヒット商品の種だとしたら――。

食品メーカーの meito は、業界最大の天敵である 「虫」 を商品化するという前代未聞の挑戦をしました。

その裏側には、常識を覆すデザイン思考の実践がありました。事例から、タブーを価値に変える逆転の発想法を紐解きます。

つくってたべよう!幼虫 3D ゼリー


出典: @Press

2024 年 3 月、食品メーカーの名糖産業株式会社 (meito) から 「つくってたべよう!幼虫 3D ゼリー」 という知育菓子が発売されました。

カブトムシの幼虫をリアルに再現したゼリーを自分で作れる、食品業界の常識を覆すような挑戦的な商品です。その後には幼虫だけではなく 「さなぎ」 のゼリーも登場しています。

出典: @Press

リアルな幼虫を再現

特徴はリアルさです。カブトムシの幼虫の本物そっくりの大きさと重さ (直径約 5cm, 重さ約 35g) のゼリーができあがります。

作り方は、水だけで簡単にできます。



味は、幼虫の黒い部分がコーラ、白いところがヨーグルトソーダ風味です。幼虫のぷるぷるな質感が再現されています。

開発の背景と経緯

開発の発端は、食品開発部企画課の担当者の幼少期の記憶でした (参考情報) 。

小学生の頃、テレビで見た海外の先住民の人たちが虫の幼虫を食べるシーンに衝撃を受け、 「カブトムシの幼虫はどんな味がするんだろう?」 という純粋な好奇心を抱いたといいます。2022 年夏、カブトムシ採集に出かけた際にその記憶が蘇り、商品化のアイデアが生まれました。

しかし社内会議では猛反対を受けました。「食品会社が天敵である虫の形をしたお菓子を作っていいのか?」 「保護者が嫌いだったら買ってくれない」 。食品メーカーとして当然の懸念が噴出します。

それでも担当者は諦めませんでした。開発課のメンバーと共に、本物そっくりの大きさや気門、内臓まで忠実に再現。味は見た目を裏切るコーラ & ヨーグルトソーダ風味という意外性のある設計にしました。

結果は大成功でした。YouTuber たちがこぞって制作過程を配信し、年間売上額は自社の他の子ども向け菓子の約 3 倍を記録。2025 年 3 月には第 2 弾となる同じくカブトムシの 「さなぎ 3D ゼリー」 (コーラ & レモンソーダ味) も発売され、シリーズ化が進んでいます。


* * *

では meito の 「つくってたべよう!幼虫 3D ゼリー」 の事例から学べることを掘り下げていきましょう。

この事例は、商品開発における 「デザイン思考」 の実践に学びが得られます。

デザイン思考


デザイン思考は、人間中心のアプローチで問題解決や新たな価値創造を行う手法です。


デザイン思考を実践するフレームは5つの要素からなります。

  1. 共感 (Empathize) 利用者の潜在的なニーズを理解し共感する
  2. 問題定義 (Define) 本質的な解決すべき問題を明確にする
  3. 創造 (Ideate) 多様なアイデアを生む
  4. 試作 (Prototype) 試作品で形にする
  5. 検証 (Test) 試作品を使ってもらいユーザーからフィードバックを得て改善していく


5つのステップは一方向で進むというよりも、何度も行き来しながらブラッシュアップを繰り返し、最終的にユーザーが本当に求める解決策を導き出します。

幼虫 3D ゼリーの開発に学ぶ 「デザイン思考」 


幼虫形ゼリーの開発プロセスは、デザイン思考の実践でした。

企画者の原体験から始まり、業界のタブーに挑戦し、人々の深層心理を捉えた商品開発の裏側を紐解いていきます。

共感 [Empathize]

始まりは、企画担当者自身の幼少期の原体験にありました。

カブトムシが大好きだった小学生時代、テレビで見た海外の先住民の人々が虫の幼虫を美味しそうに食べる姿に、強い好奇心を抱いたそうです。

 「カブトムシの幼虫って、どんな味がするんだろう?」 

子どもならではの純粋で、少し背徳的な素朴な疑問でした。

デザイン思考における 「共感」 とは、誰か他人のためだけにあるのではありません。自分自身の内なる声、忘れかけていた過去の体験に深く耳を澄まし、そこに眠る普遍的な人間の欲求を掘り起こすことでもあります。

meito の 「幼虫 3D ゼリー」 の場合は、開発担当者はこの好奇心が自分だけのものではないと気づきました。多くの子どもたち、そしてかつて子どもだった大人たちが、心のどこかで共有している普遍的な感情ではないかと。

虫が好きな子はもちろん、苦手な子でさえ 「怖いもの見たさ」 で惹きつけられるはず。また、地球グミのような見た目にインパクトのあるお菓子が流行る背景にも、同じような 「食べるところを他の人に見てほしい」 というニーズもあるのではないか。

根源的と言える知的好奇心への共感が、「幼虫 3D ゼリー」 を開発する原動力になりました。

問題定義 [Define]

ここでは 「問題」 から 「課題」 に置き換えて見ていきます。

定義された本質的な課題は、幼虫の形をしたゼリーを作ることではありませんでした。真の課題は 「自分が子どもの頃にあった純粋な好奇心を今の子どもにも持ってもらうか」 、そして 「食品業界のタブーをいかにして価値に転換するか」 でした。

食品会社にとって虫はいわば 「天敵」 です。異物混入の象徴であり、商品イメージや食品会社としての企業イメージを根底から破壊しかねない存在だからです。幼虫とはいえ、虫を、しかもリアルな形で商品にすることは、業界や社内の常識では狂気の沙汰と見られたことでしょう。

しかし meito の担当者たちは、「いかに虫を商品から遠ざけるか」 ではなく、 「いかに虫というタブーを逆手にとって、子どもが知的好奇心をくすぐられ、おもしろいと感じる体験価値を創出するか」 へと課題を転換したのです。

このリフレーミングこそ、デザイン思考の要諦です。

ネガティブな要素をそのまま排除するのではなく、魅力に変える。この視点の転換が、後のプロセスを飛躍させました。

創造 [Ideate]

本当の課題が設定されたことで、アイデアは一気に加速しました。

中心として軸になったのは、 「昆虫のリアルさ」 と 「知育菓子の作る楽しさ・美味しさ」 という、本来なら決して交わることのない要素のかけ合わせでした。

このアイデアがユニークだったのは、業界の常識という大きな重力に真っ向から逆らっているからです。

食品に虫のリアルな形を取り入れて忠実に再現するという行為は、メーカーが築き上げてきた安全・安心のイメージを揺るがしかねない禁じ手です。そのタブーを破ること自体が、最高のスパイスとなり、子どもたちの心を強く惹きつけるお菓子を生み出しました。

アイデアは形状だけにとどまっていません。

商品の袋を開けて粉を取り出し、水と混ぜる。型に流し込んで、幼虫を 「育てる」 という体験プロセスを組み込む。子どもたちは 「消費者」 ではなく 「実験を行う科学者」 へと役割が変わります。

作る楽しみ、見る驚き、食べる意外性という三重の体験デザインが、キワモノ商品で終わらせない深みを与えたのです。

試作 [Prototype]

アイデアを形にする試作段階では、「どこまでリアルに、どこまで食品として許容範囲にとどめるか」 という繊細なバランス調整が繰り返されました。

本物の幼虫を徹底的に研究し、大きさ・重さ・体の節の数・艶感など、あらゆる要素を忠実に再現。直径 5cm 、重さ 35g という実物大サイズとし、左右 9 個ずつの気門、腐葉土が透けて見える内臓まで、細部にわたる作り込みから徹底的に本物感を追求しました。

一方で、味はカブトムシの幼虫という見た目を完全に裏切る爽やかなコーラ & ヨーグルトソーダ風味です (さなぎはコーラ & レモンソーダ風味) 。

見た目と味の強烈なギャップこそが、食べた瞬間の驚きと笑いを生み出す重要な仕掛けとなりました。もし味が土のような風味だったら、それは単なる罰ゲームになってしまったことでしょう。

何度も試作を繰り返し、「気持ち悪い!でも、ちょっと作って食べてみたいかも…」 と思わせる絶妙な着地点を探るための試行錯誤が、商品の完成度を高めました。

検証 [Test]

検証を続けて、そして発売後の反応も、開発者の狙いを証明した形でした。

 「うわ、キモい!」 「でも、なんか気になる」 「SNS にアップしたら絶対ウケる!」 などの反応こそが、求めていた答えでした。

得られたのは、美味しい / まずいという評価ではありませんでした。商品が持つ 「体験を共有したくなる力」 の確信でした。

食べる人だけでなく、それを見る周囲の人 (例: 親や友だち) をも巻き込むコミュニケーションの道具としての機能したのです。共感の連鎖が起こることを確認できた瞬間、meito 社内の機運は 「リスク」 から 「勝機」 へと変わったはずです。

YouTube での制作動画の拡散、メディアでの紹介、そして売上が meito の他の子ども向け菓子の 3 倍という結果を生み出しました。

得たフィードバックは、パッケージデザインや学びの要素の強化にもつながり、さらに 「さなぎ 3D ゼリー」 という後続商品へと発展していったのです。

* * *

今回の 「つくってたべよう!幼虫 3D ゼリー」 の事例は、デザイン思考が人間の感情に深く寄り添い、常識や固定観念を打ち破って新たな価値を創造するための方法だということを示します。

嫌悪感を好奇心に、タブーを遊び心に、そして食品会社の天敵を最高のヒット商品に。この変換を可能にしたのは、人間の根源的な感情への深い理解と、それを形にする勇気です。

私たちの業界にも、きっと 「天敵」 と呼ばれるものがあるはずです。それを価値に変えることはできないでしょうか?

常識という見えない壁を壊し、タブーを魅力に変えるという挑戦が、次のイノベーションを生み出すのかもしれません。

デザイン思考は、そんな不可能を可能にするための、強力な武器となってくれるはずです。

まとめ


今回は、meito の 「つくってたべよう!幼虫 3D ゼリー」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  1. 共感 (Empathize) 利用者の潜在的なニーズを理解し共感する
  2. 問題定義 (Define) 本質的な解決すべき問題を明確にする
  3. 創造 (Ideate) 多様なアイデアを生む
  4. 試作 (Prototype) 試作品で形にする
  5. 検証 (Test) 試作品を使ってもらいユーザーからフィードバックを得て改善していく


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。