#マーケティング #価値転換 #弱みを強みに
自社商品やサービスが持つ 「弱み」 を、どうにか克服しようと苦労していないでしょうか?
もし、その欠点こそが他にはない強力な武器になるとしたら――。
福島県には 「日本一飲みにくい」 と評されながら、40 年以上も熱狂的なファンに愛され続ける飲むヨーグルトがあります。
なぜ飲みにくいのに選ばれるのか。そこには、弱みを強みに変えるマーケティングの本質が隠れています。
会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト
出典: 会津中央乳業
出典: 会津中央乳業
福島県会津地方に、不思議な飲むヨーグルトがあります。
飲むヨーグルトなのに 「飲みにくい」
それは会津中央乳業の 「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 。パッケージには 「のみにくい」 「よく振ってお飲みください」 と書かれています。
30 回振ってもまだ固体のヨーグルトです。両頬がへこむくらい力を入れて吸ってもヨーグルトは出てきません。会津中央乳業いわく、腕が痛くなるくらい 3 分間ほど振るのがおすすめとのことです。
実際に飲んだ人からは、こんな声が上がります。
- パックを開けたら四角く固まっていた
- ストローで吸い出すのに苦労する
- 強く吸うのでほっぺたが痛くなる
- 飲み物とは思えないほどの濃度
通常なら商品の欠点となるはずの飲むヨーグルトの 「飲みにくさ」 。しかし 「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 は 1981 年の発売から 40 年以上も愛され続けるロングセラーです。
開発ストーリー
会津中央乳業の二瓶孝也社長は、こう説明します。
通常の飲むヨーグルトは、タンク内で発酵させてから砕いてパックに詰める 「前発酵」 という方法を取ります。しかし 「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 は、菌を入れてパックに詰めてから発酵させる 「後発酵」 という独自の製法を採用しているのです。そのため固く濃厚になります。
開発のきっかけは 1970 年代まで遡ります。
当時、大手メーカーが飲むヨーグルトを発売し始めた頃でした。会津中央乳業も参入したかったのですが、製造機が高額で購入できなかったそうです。
そこで考えたのが 「食べるヨーグルトを柔らかくする」 というアプローチでした。飲むヨーグルトを作る機械がないなら、食べるヨーグルトを飲むヨーグルトにしてしまおうと。
公式には 「ストローで飲める限界の固さまで発酵しています」 と説明されています。飲める限界という表現が、この商品の姿勢を物語ります。
変えない決意
二瓶社長は、「飲める限界で、かつおいしく飲める濃さを考えて作りました。当時からまったく同じです」 と語ります。当初は飲むヨーグルトなのに飲みにくいとクレームがありましたが、昭和 56 年から変わらぬ製法を守り続けています。
あるラジオ番組のインタビューで、アナウンサーから 「今後、飲みやすくしようという考えはないか」 と尋ねられた二瓶社長の答えは明快でした。「まったくないです」 と笑いながらも、その言葉にはブレない頑固さと一途さ、そして何よりも信念が感じられます。
ヨーグルトの濃さと飲みにくさがクセになると打ち出し、飲みにくさを隠すどころか、むしろ前面に押し出しています。
飲みにくさが話題を生む
では消費者の反応はどうでしょうか。
SNS では 「飲めない… 飲むヨーグルト 皿に出してみたらかたまりだった」 「想像の倍は飲みにくい。心してかかれ」 といった投稿が見られます。
一方で、味への評価は高いです。「濃厚」 「クリーミー」 「まるでクリームチーズ」 「生命の躍動を感じるような力強さ」 。そして 「これはクセになります」 という声。
本当に飲みづらいけど、めっちゃおいしい。飲みにくい、でもおいしい。
この矛盾した評価こそが 「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 の本質を表しています。
会津中央乳業は、飲みにくさを逆手に取ったイベントまで開催しています。その名も 「のみにくいヨーグルト早飲み世界大会」 です。
応募者は 1,200 人。抽選で 30 人が参加でき、早い人は 1 分かからずに 1 パック 180ml を飲み干すそうです。「うちでしか作ってないので世界大会」 という遊び心も素敵です。
飲むヨーグルトの飲みにくさという一見ネガティブな特徴が、イベントに、話題に、そして体験価値に変わっているのです。
ポジショニングと価値創出
マーケティングの視点で整理してみましょう。
飲むヨーグルト市場では通常、「飲みやすさ」 「軽さ」 「さらっとした流動性」 が顧客価値となるでしょう。大手メーカーはそこで競争しています。
しかし会津中央乳業は、その土俵で戦っていません。
飲むヨーグルトというカテゴリー内において、軽さ、飲みやすさで勝負する大手とは戦わず、あえて 「飲みにくさ」 「濃厚さ」 「ご当地」 「体験系」 などの領域を選んでいます。
想定する消費者は、「飲みやすい飲むヨーグルトを求める人」 ではないのです。むしろ 「濃厚な味わい」 「体験としてのユニークさ」 、他には 「ご当地乳製品」 に価値を感じる人たちです。
提供価値も、他社の飲むヨーグルトとは異なります。
- 一般的な飲むヨーグルトよりも明らかに濃厚なヨーグルト感、コク、存在感
- 体験価値として、一生懸命に振り、ストローで飲む限界に挑戦するという飲みにくい体験。そこから得られる達成感と、誰かに伝えたくなる話題性
結果として、直接競合となる飲むヨーグルトはほとんどありません。
飲むヨーグルトの 「飲みにくさ」 を自らはっきりと認め、むしろそれをブランド化している商品は他にないのです。
「弱み」 を 「強み」 へ転換する
会津中央乳業の 「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 の事例から学べるのは、「一見ネガティブに見える特徴も、視点を変え、価値として再定義することで、他にはない "選ばれる理由" に転換できる」 という、マーケティングの本質です。
4 つのステップ
転換プロセスを整理すると、4 つのステップが見えてきます。
[Step 1] 弱みを認め受け入れる
製品紹介やパッケージで 「のみにくい」 「よく振ってください」 「ストローで飲める限界の固さ」 という言葉を隠さず表現しています。
これは自らが自社商品の弱みと言える側面を認め、正面から受け入れているということです。そして、消費者に対して飲みにくいという前提を素直に共有するという誠実な姿勢を会津中央乳業は示しています。
[Step 2] その弱みを顧客価値と結びつけ強みに転換する
飲みにくいけど、おいしい――。
紹介文として 「この濃さ、この飲みにくさがクセになる」 と謳う。SNS で話題になる 「吸い込むのに力が要る」 「振りまくるとようやく飲める」 。早飲み大会のように、飲みにくさを体験、チャレンジの場を用意する。
弱みを認め、それを特徴として打ち出し、お客さんにとって 「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 でしかできない価値体験をつくり出しています。
[Step 3] 弱みが顧客価値になる理由を裏付ける
製造における低温濃縮、後発酵という製法や、地域生乳使用などから、「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 の濃厚さ、粘度の高さが味わいとして根拠づけられています。
飲みにくいことの理由としてだけでなく、「飲みごたえ」 「コク」 「存在感」 という独自性の根拠にもなります。飲みにくさはもはや欠点にはなりません。
[Step 4] 戦場をずらす
「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 は、通常の飲むヨーグルトの 「軽く飲める」 「毎日一本サラッと飲む」 などのタイプとは競争していません。
他にはない 「体験重視」 「味わい重視」 「話題になるご当地乳製品」 という別の舞台を選んでいます。
飲みにくさという、以前は文句を言われるような弱みを受け入れ、決して変えることなく、そこを楽しめる消費者にフォーカスしているのです。
飲みにくさという一見すると弱みとされる特徴が、むしろ 「唯一無二の独自性」 「他社とは違う選ばれる理由」 へと転換されました。
弱みへの認識を変える
商品やサービスの弱みを抱えたままでは欠点になりますが、設計、顧客、伝え方を変えることで強みにもなり得ます。
会津中央乳業は、飲むヨーグルトの飲みにくさを隠さず前面に出しました。そして製法の裏付けを示し、体験価値に変換し、それを楽しめるお客さんに届け続けました。だからこそ、飲みにくいのに選ばれる商品になったのです。
どんな商品やサービスにも、一見すると弱みに見える特徴があることでしょう。しかしそれは本当に弱みでしょうか。
商品への光の当て方や伝え方次第で、それは他にも真似できない強みになるかもしれません。競争の舞台をずらし、唯一無二のポジションを築くきっかけになるかもしれないのです。
まとめ
今回は、会津中央乳業の 「会津の雪 ソフトクリーミィヨーグルト」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 弱みをそのまま放置すれば欠陥になるが、商品設計・顧客設定・伝え方や見せ方を変えることで 「強み」 になる
- 一見するとネガティブな要素も、発想と視点を変えて顧客価値として再定義することで、お客さんからの 「選ばれる理由」 に変えられる
- 弱みを強みに転換する 4 つのステップは、
① 弱みを認め受け入れる
② 弱みを顧客価値に結びつけ強みに転換する
③ 弱みが価値になる理由を裏付ける
④ 戦場をずらす

