#マーケティング #体験設計 #目的の手段化
今回は、福岡のサウナが提唱し実践する、あるユニークな試みをご紹介します。
それが 「サウナ 3.0」 なのですが、この事例からマーケティングにも学べることを掘り下げます。
グリーンランドの 「サウナ 3.0」
出典: PR TIMES
福岡でサウナとカプセルホテル施設を運営する 「グリーンランドグループ」 。
グリーンランドが提唱する 「サウナ 3.0」 です。
サウナ 3.0 とは
2024 年に中洲店を全面リニューアルした際、グリーンランドは発想を大きく転換しました。サウナを 「目的」 に据えるのではなく、「体験全体を高めるための入口」 と位置づけたのです。
お客さんの体験として 「サウナ → マッサージ → ビールで一杯 → 休憩」 という一連の流れをデザインし、グリーンランドでの体験の全体を 「整う時間」 として再構築しました。
一般的にはサウナは 「整うこと」 を目的にします。それに対してグリーンランドが見つめたのは、「整った後に何を感じ、どう過ごすか」 という、体験全体の心地よさでした。
グリーンランドはサウナの位置づけを、「時間を過ごす」 「出会いがある」 「滞在を楽しむ」 「コミュニケーションが生まれる場」 と捉え、これを今までのサウナとは違う 「サウナ 3.0」 と打ち出したのです。
ちなみに、グリーンランドによれば、「サウナ 1.0」 は、体を洗い体を温め汗を流すことができるという整うことを楽しむこと、「サウナ 2.0」 は、サウナに入る習慣をつけることで、自身の健康意識に目を向けて、自分自身の中から整えることです。
リニューアルの成果
グリーンランドはサウナ 3.0 を実現するために施設をリニューアルしました。暗く閉鎖的だったリクライニングルームを廃止し、明るく開放的な休憩空間を導入しました。
また、価格体系も 60 分 900 円から 90 分 1000 円 、その後は 1200 円に変更しました。滞在時間が 60 分から 90 分の設定になり 1.5 倍に増えたことが来店客の満足度向上につながり、入館者数は 2 倍に増加しました。
このように、施設全体でお客さんの居心地を重視した空間に変えた結果、新しい顧客層が増え、客単価も約 1 割上昇したとのことです (参考情報) 。
「目的の手段化」 という発想の転換
サウナという 「目的」 を、滞在体験全体を高めるための 「手段」 に変えたことが、サウナ 3.0 の本質です。
一般的によく見聞きするのは 「手段の目的化」 のほうでしょう。
マーケティングの実務においても起こり、例えば、
- SNS 運用をすること自体が目的化してしまう
- 公式ページのリニューアルをすること自体がゴールになってしまう
- 施策の実行が目的になり、本来の価値創出から離れてしまう
こうした状態では、活動が本来の意図から離れ、価値を生まないケースも少なくありません。
一方で、グリーンランドの 「サウナ 3.0」 は逆のアプローチを取りました。それが 「目的の手段化」 という発想です。
より大きな価値を生む 「手段」 と捉える
目的の手段化とは、いま 「目的」 だと思っているものを、より大きな価値を生むための 「手段」 と再定義することです。
考え方の本質にあるのは、視野を広げることです。見ている領域を広げ、時間軸を短期から長期に伸ばし、より上位の目的から全体を眺めたとき、これまで中心だったものが 「手段」 として再構成され、ビジネスの構造が変わります。
サウナを 「目的」 から 「入口」 へ
グリーンランドは、これまで 「サウナに入りに来る場所」 として位置づけていた施設の目的を見直しました。
サウナを中心に据えながらも、「心身をリセットし、1 日を通して楽しめる場所」 「好きなものを自由に行うことができる場所」 「新しい仲間との出会いや、自分を取り戻すことができる場所」 へと拡張したのです。
ここではサウナは 「体験の主役」 ではなく、「体験の入口」 となります。サウナからマッサージや飲食、休憩、イベント、コミュニティへの帰属感へと自然につながることでしょう。
サウナのことを手段にするという 「目的の手段化」 への発想の転換により、サウナで整うという感覚も変わります。従来はサウナで汗を流して終わりだったものが、いまは 「整って、心も開き、人とつながり、日常がほどけていく」 という連続的な体験になるわけです。
サウナ 3.0 が生んだ 「体験の再構成」
サウナ 3.0 で注目したいのは、サウナを使って顧客体験全体を良くしたことにあります。
サウナで体を温め、マッサージで心身をほぐし、ビールでリラックスし、静かなカプセルで眠る。それぞれが単発のサービスではなく、一つのストーリーのように連なります。
価格設計や動線、スタッフの動きまでが、すべて体験価値を支える仕組みとして機能します。たとえば、マッサージ後にスタッフがそのままレストランへ案内し、無料のドリンクを提供するという流れが心地よいリズムを生み、利用者の満足を積み重ねていくことでしょう。
お客さんは、「流れの心地よさ」 や 「終わった後の余韻」 にまで満足感にひたれ、心も体も整っていくのがサウナ 3.0 です。
体験の再構成への学び
ではグリーンランドのサウナ 3.0 の話から、汎用的に学べることを整理してみます。
「目的の手段化」 を実現した 3 つの変化
グリーンランドの挑戦を支えたのは、3 つの変化でした。これらが 「目的の手段化」 の実現につながりました。
1 つ目は、目的の再定義です。
サウナそのものを目的にせず、「 1 日を通して心身を整える」 という上位目的を設定したことで、提供できる価値の範囲が広がりました。
2 つ目は、体験を線で結ぶ設計にする発想です。
サウナ、マッサージ、食事、音楽、宿泊といった個々のサービスを点ではなく線でつなげ、流れの中で意味づける。利用者の時間につながりのある体験が生まれます。
そして 3 つ目は、変える部分と残す部分の見極めです。
今までにあった 「サウナ → マッサージ → ビール」 という顧客動線は残しつつ、グリーンランドは空間デザインや価格体系など、変えるべき部分を思い切って刷新しました。守るべき 「体験の中核」 を保ちつつ、顧客ニーズに合った変化を遂げたのです。
他の業界にも通じる 「目的の手段化」
目的をあえて手段と捉えるという発想は、他の業界にも応用できます。
- 飲食業なら、「食べること」 ではなく 「人と時間を共有すること」 を目的にする
- 家電メーカーなら、「機能の高さ」 ではなく 「暮らしの心地よさ」 を目的にする
- 教育ビジネスなら、「学ぶこと」 ではなく 「自分が変わること」 を目的にする
いずれも既存の 「目的」 を 「手段」 として再定義することによって、提供価値の重心が移動し、ビジネス全体の設計が変わります。
目的を手段化することで、ビジネスは深さと広がりを得る
グリーンランドのサウナ 3.0 は、サウナという 「目的」 を心地よい 1 日の体験やコミュニティへの入口にするという 「手段」 に変え、お客さんの体験全体を再設計した実践例です。
これはマーケティングにおいても同じです。「広める」 「集客する」 「売る」 といった目的を、「お客さんにより良い体験を届けるための手段」 として再定義できると、マーケティングの位置づけが変わります。
目の前の施策を 「手段」 として見直すことで、新しい景色が見えてくるはずです。
まとめ
今回は、サウナとカプセルホテルのグリーンランドが提唱する 「サウナ 3.0」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- 目的の手段化とは、目的をより大きな価値のための手段と再定義すること。いま目的としていることを、より広い価値や上位目的を実現するための 「手段」 として見直す
- 部分最適から全体最適へ視野を広げる。見る範囲や時間軸を長くするなどの視野を広げ、より上位の視座から全体を眺めることで、目的の手段化が促される
- 目的の手段化はマーケティングにも通じる。認知獲得、集客、販売などは通常はマーケティング施策の目的になるが、お客さんにより良い体験を届けるための手段として再定義する
