#マーケティング #戦略 #本
今回は、マーケティングの本をご紹介します。
タイトルは 「戦わずして売る技術 - クリック 1 つで市場を生み出す最強の WEB マーケティング術 (木下勝寿) 」 です。
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本書の概要
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この本は、東証プライム上場企業 「北の達人コーポレーション」 の創業者である木下勝寿さんが、20年以上かけて築き上げた Web マーケティングのノウハウを体系化した一冊です。
上流の戦略思考に重きを置く
本書では広告運用や SEO といったテクニック論には終始していません。そもそも競争が起こらない市場を見つけ、お客さんが自然と買いたくなる仕組みをいかにつくるかという、より上流の戦略思考に重きを置いているのが特徴です。
価格競争や広告合戦に疲弊することなく、安定して利益を上げるための戦わないマーケティングの哲学と具体的な方法論が、豊富な事例と共に解説されています。
多くの企業が陥る消耗戦から抜け出すヒントが、この本には詰まっています。
戦わずして売る
本書のタイトルにもなっている 「戦わずして売る」 が、本書が一番言わんとするメッセージです。
これは戦いを避けるという消極的な意味ではありません。むしろ、「戦う必要がないほど有利な状況を、ビジネスを始める前に自らつくり上げる」 という、能動的で賢明な戦略を指します。
マーケティングの本質を、競合他社とのシェア争いではなく 「棲み分け」 であるとします。
自社の強みが最も活かされ、かつ顧客の満たされていないニーズが存在する、ニッチな市場を見つけ出すこと。そして、お客さんに 「これが欲しかった」 と思ってもらうことこそが、戦わずして売る技術のポイントであると説きます。
たとえば、競合と同じ土俵で 「価格が安い」 「性能が高い」 と叫び続けるのではなく、「あなたのその深い悩みを解決できるのは、世の中でこの商品だけです」 と提案する。比較される軸そのものをずらし、お客さんにとっての唯一無二の存在になるアプローチを本書は教えてくれます。
* * *
本書で語られるテーマの中には、これまでのマーケティングの常識を心地よく覆してくれるものもあります。ここでは興味深かった 5 つの視点を紹介します。
プレブランディング戦略とアフターブランディング戦略
本書では、現代の Web マーケティングにおいて、ブランドとプロダクトの関係性が逆転したと指摘します。
ブランドの前にプロダクト
従来の考え方は 「プレブランディング戦略」 でした。
これはインターネットが普及する以前からの話ですが、マーケティングコミュニケーションではまず広告などでブランドの認知度や信頼性を高め、そのブランド力で商品を買ってもらうというアプローチが主流でした。テレビ CM で知名度を上げ、その信頼で売る方法が典型です。
それに対して、これからの Web マーケティングを主流とするマーケティングでは 「アフターブランディング戦略」 をとります。消費者は初めての商品やサービスの購入には、ブランド名よりも商品・サービスというプロダクトそのものの価値や実際の使用体験を重視します。
そのため Web マーケティングでは、まずプロダクトの魅力で顧客に購入してもらい、その優れた体験を通じて商品がブランド化され、ブランドのファンになってもらうという逆転の発想 (アフターブランディング) が有効だと述べられています。
アフターブランディング戦略の流れ
アフターブランディング戦略の具体的なプロセスは、4 つのステップで進みます。
- 商品に興味・関心を持つ
- 購入する
- ブランドに興味・関心を持つ。ファンになっていく
- そのブランドの他の商品にも興味・関心を持つ
Web マーケティングは、ひとりのお客さんを獲得するためのコストを低く抑えられます。よって、まず 「購入」 という商品体験の入口に立ってもらうことが可能です。
届けた優れた商品体験こそが、他のどんな広告よりも雄弁なブランディングツールとなります。購入者を熱烈なファンへと昇華させてくれます。この考え方は、マス広告が主流だった時代には実現困難でした。
9 つのニーズ
よく 「顧客のニーズを理解しよう」 と言われますが、本書は顧客ニーズの解像度を上げてくれます。お客さんの悩みや関心には、温度差があるのです。
本書では、顧客ニーズの 9 段階での分類を提唱しています。
- 第 1 段階: 対策の必要性に気づいていない人
- 第 2 段階: 対策の必要性に気づいているが、その悩みは一時的なものだと思っている人
- 第 3 段階: 対策の必要性を自覚してはいるが、まだ何もやっていない人
- 第 4 段階: 対策を色々と検討し始めている人
- 第 5 段階: 対策を色々と検討してかなり詳しくなっている人
- 第 6 段階: 対策の手を打ち始めた人
- 第 7 段階: すでに対策用のお気に入りの商品を使っていて、それに満足している人
- 第 8 段階: お気に入りの商品はあるが、他にもっといいものはないか探している人
- 第 9 段階: 色々試したが、結局満足するものはなかった人
ニーズを細かく分けることにより、注力顧客の状況と状態に合わせた最適なメッセージを届けることができます。
例えば、顔のシワやシミについて、第 1 段階のそもそも 「対策の必要性に気づいていない人」 に商品の詳細を説明しても響きません。しかしこれが 「対策を色々と検討し始めている人」 という第 4 段階になっていると、美容への興味関心や検討していそうなキーワードにフィットするように提案することになります。
そして、第 9 段階のこれまであらゆる商品を試したものの 「色々試したが、結局満足するものはなかった人」 には、この商品で今度こそあなたの悩みを解決できるというメッセージが刺さります。
このように顧客ニーズを細分化することで、マーケティングの精度を高めることができます。同じ商品でも、誰がどういう状況下のときに語りかけるかで、伝えるべき言葉はまったく異なるのです。
4つの USP (Unique Selling Proposition)
USP とは Unique Selling Proposition の略で、独自の売りのことです。
本書では USP を 4 種類に分類します。4 つを目的に合わせて戦略的に組み合わせ使い分けるという 「1 つの商品 × 4 USP」 という考え方を提示しています。
4 種類の USP とは
USP はまずは大きくは 2 つに分かれます。
他社にはない独自のベネフィット (便益) を訴求する USP です。これは本書では 「ユニークベネフィット USP」 と言います。
オンリーワンの USP で、競合商品が提供できない、その商品だけが持つ唯一さを強調する切り口です。
大きく分けた 2 つ目は 「アドバンテージ USP」 です。他社商品と比べて優れている優位性を打ち出す USP で、比較級のベターの要素です。
USP を 4 種類に分けているのですが、このアドバンテージ USP をさらに 3 種類に細分化し、先ほどの 「ユニークベネフィット USP」 と合わせて (1 + 3) で全部で 4 つになります。
- ユニークベネフィット USP : 他社にはない、その商品だけの独自の便益。「国内唯一の 〇〇 成分配合」 など、競合が提供できない唯一性を強調する、最も強力な切り口
- リーズン USP (Reason USP) : 商品の優位性について、「なぜそれが良いのか」 を示す科学的根拠や理論、データ。「研究で有効性を証明」 といった客観的な事実が説得力を高める
- オーソリティ USP (Authority USP) : 専門家の監修、著名人が愛用している、輝かしい受賞歴、Amazon ランキング No.1 といった権威性や第三者評価
- エクストラ USP (Extra USP) : 送料無料、期間限定の割引、全額返金保証、限定特典など、商品の本質的な価値以外の付随的な便益。最後の一押しをし、購入のハードルを下げる
USP の実践的な使い方
4 つの USP は単独で使うのではなく、複数の視点で設計し、状況に応じて使い分けると効果的です。
USP を考える際は、独自の便益があるという主張 (ユニークベネフィット USP) だけで終わらせず、その根拠である 「リーズン USP」 や信頼性を訴求する 「オーソリティ USP」 、そして購入を後押しする付加価値となる 「エクストラ USP」 を組み合わせて訴求することが望ましいです。相手が納得したり共感できる力強い訴求に変わります。
もし商品に唯一無二の顧客価値ない場合でも、他の USP (リーズン, オーソリティ, エクストラ) をうまく組み合わせることで、競合に対する 「比較優位」 を示せます。
また、注力顧客やお客さんの状況に合わせて、USP を変えるというのもマーケティングです。
例えば、お客さんの悩みの深さや知識レベルによって、心に響く言葉は変わります。
媒体による使い分けもあります。商品ランディングページで語る言葉と、SNS で発信する言葉が同じはずはありません。媒体の特性に合わせ、最適な USP を選び抜きます。
あとは、商品のライフサイクルによって使い分けます。商品の成長段階に応じて、主役となる USP を変えていきます。例えば、導入期は 「ユニーク USP」 、成長期には 「オーソリティ USP」 や 「リーズン USP」 、成熟期には 「エクストラ USP 」 を強めるというようにです。
USP への向き合い方
USP に対する大切な心構えを 2 つ。
ひとつは、USP は自ら発掘するものだということです。
優れた USP は、机の上で思いつくものではなく、お客さんや消費者の声に耳を澄ませ、競合を徹底的にリサーチし、過去の実績を深く掘り下げる中で、身体や頭の中にも汗をかいて見つけ出すのが USP です。
もうひとつは、USP は更新し進化させるものだということ。一度見つけた USP も、時間が経てば輝きを失います。
競合の動向、お客さんの反応、市場やビジネス環境の変化という時代の風を感じながら、常に USP を磨き、時には新しいものへと差し替えていく。USP の更新と進化を止めない姿勢こそが、お客さんから選ばれ続けるためのカギを握ります。
最終成果から逆算して戦略を設計する
マーケティング施策を、どれだけ多くの人に届けるかという 「リーチ戦略」 で終わらせてはいけません。
たとえ多くの人に広告や SNS コンテンツが見られたとしても、その後の行動である購入や問い合わせなどの反応 (レスポンス) につながらなければ意味がありません。
重要なのは、広告などの自社からのメッセージに接触した人が具体的な行動を起こす成果までを実現させる 「レスポンス戦略」 です。
そのためには 「どうすれば商品が売れるか」 という最終成果から逆算して、コミュニケーション全体を設計する必要があります。
広告や SNS での投稿で興味を喚起し、検索に表示されるように工夫を入れ、ランディングページで共感・納得してもらい、行動である購入へと導く。リーチからレスポンスまでの全体の流れを一気通貫で設計して初めて、プロモーションは機能します。
マーケティングの前にビジネスモデルを問う
どれだけ優れたマーケティング戦略や戦術を駆使しても、その土台となるビジネスモデルが脆弱では、事業は成功しません。
商品の客単価はどのくらいか。次に買うまでの期間 (購入サイクル) はどの程度か。商品を買う前にどれだけ調べるジャンルか。お客さんはリピート購入してくれるのか。それにより LTV である顧客生涯価値は十分か。利益を確保できる価格設定になっているか。競合が簡単に真似できない構造になっているか。
ビジネスモデルに関するこれらの問いに答えられなければなりません。
マーケティングは、利益を生む仕組みであるビジネスモデルの価値を最大化させるための活動であるというのが前提です。
優れたマーケティングは、良いビジネスモデルの上でこそ真価を発揮します。どれだけ見栄えのいい広告を作って消費者を動かせても、ビジネスモデルという土台が弱ければ砂上の楼閣です。この順序を間違えてはいけないのです。
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本書 「戦わずして売る技術」 は、Web マーケティングの本質を捉えた、実践的な一冊です。
競争ではなく棲み分け、戦うのではなく仕組みをつくる――。この考え方は、マーケターに新しい視点を与えてくれるはずです。
まとめ
今回は、書籍 「戦わずして売る技術 - クリック 1 つで市場を生み出す最強の WEB マーケティング術 (木下勝寿) 」 を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- やみくもに競争するのではなく、戦う必要のない市場やカテゴリーをつくる。既存のパイでシェアで争いをするよりも 「棲み分け」 を実現させる戦略が重要
- Web での情報接触や購買が広く普及する現在は、ブランド構築は先ではなく、良い商品体験を起点にブランドが形成される 「アフターブランディング戦略」 が有効。ブランドイメージを先行させるのではなく、まず優れた商品体験を提供し、購入者にファンになってもらう
- ニーズには、必要性や切迫感の濃淡、カテゴリーの知識や商品使用経験の違いによってなど、顧客ニーズには温度差がある。注力顧客の状態や関心度から、ニーズの各段階に合わせて伝えるメッセージを最適化し、マーケティングの精度を高める
- 商品の USP は 「ユニーク USP」 と 「アドバンテージ USP (Reason, Authority, Extra) 」 の 4 分類がある。顧客層、媒体、商品ライフサイクルに応じて、戦略的に組み合わせて訴求する
- マーケティングコミュニケーションでは 「リーチ戦略」 だけではなく、「レスポンス戦略」 もセットで考える。レスポンスという最終成果から逆算し、注力顧客が具体的な行動を起こすまでのプロセスを一気通貫でつなげる
- どんなマーケティングも、土台となる強いビジネスモデル (事業として利益が出続ける仕組み) があってこそ成果が出るという前提を忘れない
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