#マーケティング #ビジネスモデル

 「いまある資産」 をどう活かすか──。これは企業が直面する共通の課題でしょう。

新しい設備投資をせずとも、発想次第で収益源を生み出せます。

コンビニのローソンが始めたユニークなサービスは、その可能性を示す事例です。注力顧客の困りごとやニーズをとらえ、競合にはない価値をお客さんに提供し、収益化を実現する。このビジネスモデルをマーケティング視点で紐解きます。

ローソン駐車場で車中泊サービス

出典: ローソン

コンビニのローソンが 2025 年 7 月から、ローソンのコンビニの駐車場を車中泊用に提供するサービスの実証実験を開始しました。

車中泊サービスは、千葉県の房総エリアにある一部店舗から始まり、夜間の空いている駐車スペースを有効活用する新しい試みです。

利用料金は 1 泊あたり 2,500 円から 3,000 円 (税込み) に設定されており、1 回の予約で駐車スペース 2 台分の広さを確保できます。利用時間は、夕方の午後 6 時から翌朝の午前 9 時までです。

利用できる条件は、車中泊施設の予約サービスである 「RV パーク」 の会員であることです。RV とは Recreational Vehicle (レクリエーショナル ビークル) の略で、アウトドアやレジャーを楽しむための車を指します。RV パークは、日本 RV 協会が定めた一定の条件を満たし、認定された車中泊ができる有料の駐車場スペースのことです。

ローソンの車中泊サービスは、この RV パーク会員に限定するので利用者の身元が確実にわかり、車中泊のマナーの面でも安心して利用できる環境が整えられています。

ローソンは今後、全国約 3,000 店舗まで駐車場での車中泊サービスを拡大していく方針を示しています。

では、このサービスのビジネスモデルを考えてみましょう。

ビジネスモデルを紐解く

車中泊サービスのビジネスモデルについて、誰に (どんなお客さんに) 、どんな価値を提供し、どうやって収益を上げるかという流れで紐解きます。

注力顧客

ローソンはコンビニ店舗の車中泊の利用者を RVパーク の会員に限定し、さらに次のような顧客層を想定していると考えられます。

1 つ目は、価格感度の高いレジャー客です。昨今のホテル代の高騰は明らかで、以前なら 5,000 円で泊まれたホテルも、今では 8,000 円とか 1 万円というのが当たり前です。旅行の費用を抑えたい旅行者には、ローソンの車中泊の 1 泊 3,000 円程度というのは魅力です。

2 つ目は、短時間滞在や移動をする、例えばイベント遠征や週末の短期旅行、仕事での移動など、宿泊施設を予約するほどではないけれど、数時間安全に休息を取りたい人たちです。

道の駅などで車中泊をするのは不安を感じることでしょう。安心して泊まりたい、夜間のトイレや買い出しに困りたくない。こうした基本的な安心と利便性を重視する層は確実に存在します。

3 つ目の注力顧客層は、翌朝すぐに行動を開始したいという人たちです。例えば、夜明け前のサーフィンや日の出とともに始める釣りなど、早朝のアクティビティを楽しむ人です。房総の海沿いでは、朝 5 時には波に乗りたいサーファーがたくさんいます。ローソンの駐車場で車中泊をすれば前日の夜から現地入りできます。

競合

ここまで見てきたような注力顧客が 「安く宿泊したい」 と考えたとき、ローソンの車中泊サービスの競合にあるのは、彼ら・彼女らが思い浮かべる様々な選択肢です。

例えば、格安ホテルがありますが、こうしたホテルは確かに快適さやプライバシーも確保できますが、料金は 1 泊で 5,000 円以上かかり、ホテルによっては 1 万円以上することも珍しくなくなりました。ホテルはチェックイン・アウトの時間に制約があり、車中泊ならではの自由さもありません。

車中泊を前提にするなら、RV パークやオートキャンプ場が選択肢になります。電源や水道など設備が整った公式施設で安心して利用できますが、1泊 4,000 円から 6,000 円とローソンの駐車場での車中泊と比べてやや値段が高く、市街地や目的地から離れている場合もありアクセス面では不便です。

他には、道の駅やサービスエリアに宿泊するという手もあります。ただ、なかには宿泊を公式に認めていないグレーゾーンもあり、夜中に係員の人が見回りに来て何か言われるかもしれない、朝方には警察に声をかけられるかもしれないといった不安や緊張感を抱えながら休むことになります。

路上や公園の駐車場というのもなくはないですが、タダとはいえ違法行為にあたります。通報や職務質問、万が一の犯罪に巻き込まれる可能性も否定できません。

顧客価値

ここまで見てきた注力顧客の 「宿泊への選択肢」 という競合に比べ、ローソンの車中泊の顧客価値を見ていきます。

1 つ目は安心感と合法性という価値です。ローソンのコンビニの駐車場で堂々と泊まれ、精神的なストレスなく安心して休息できます。駐車スペース 2 台分を確保できるのも、サーフボードや釣り道具など、かさばる荷物を広げて整理できる利用者にとって魅力的です。

2 つ目はコンビニ店舗の真横という利便性です。24 時間営業しているローソンがすぐ隣にあるので、食事、飲料、日用品の買い出し、ATM の利用、そして清潔なトイレがいつでも使えます。

3 つ目は低価格なことです。1 泊 2,500 円から 3,000 円という価格設定は、ホテルより格段に安く、一般的な RV パーク と比較しても手頃な値段です。

価値の源泉となる事業能力

では、顧客価値を安定的に提供できる源泉となる、ローソンならではの事業能力について掘り下げてみましょう。

活用する事業資産 (リソース) には、既にあるものを活かすという方針を見て取れます。

繁華街ではないコンビニ店舗が持つ、夜間は使われていない駐車場が車中泊サービスの中心となるリソースです。日中は買い物客で賑わう駐車場も、夜間はガラガラだったりします。この遊休資産を収益化するという狙いがあります。

コンビニ店内の設備も活用される事業資産です。新たに何かを建設したり、設備を導入したりする必要がありません。全国に存在する店舗のトイレ、商品在庫、電力、水道といったインフラを追加投資なしで使えることになります。

また、ローソンという誰もが知るブランドが利用者に安心感を与えることでしょう。

次に顧客価値を生む源泉になるビジネスの仕組みについてです。

ローソンの車中泊サービスでは、宿泊客の受付や案内を既存の店舗スタッフが担うことで、追加の人件費を発生させずに運営できます。新たにスタッフを雇う必要もなく、特別な研修も最小限で済みます。

予約システムや顧客の身元確認については、RV パークに委託することにより自社でシステム開発するコストを削減します。RV パーク会員限定とするので、トラブル客を招くリスクも最小化しています。

自社店舗の使われていないときの駐車場という貸し出す場所を限定し、特別な設備投資を不要とすることで、低コストかつスピーディーな事業展開を可能にしています。電源や水道の提供、シャワー設備の設置など、余計なサービスを加えないからこそ、このビジネスは成立します。

収益モデル

ここまで見てきた注力顧客、提供価値、価値を生むリソースと仕組みを踏まえ、ローソンはどのように収益を上げるかの 「収益モデル」 について整理をしておきましょう。

直接の収益は駐車スペース利用料で、利用者にとって宿泊料金です。遊休資産と既存人員で運営するため、この売上はほぼそのまま利益に近いものとなります。追加コストがほとんど発生しないことが、この事業の財務面での魅力です。

ローソン全体で見たときには間接的な収益も得られます。

宿泊客は滞在中にローソンで食事や飲料、日用品などを買うことでしょう。通常のローソンの1回の来店での平均客単価は 815 円ですが、車中泊の宿泊客はその 3 倍から 4 倍という 3,000 円前後の購入があったとのことです (参考情報) 。宿泊料金と同程度の買いもの額です。

車中泊ができる駐車場という集客装置で来てもらった利用者が、コンビニ店舗本体の利益を押し上げるというクロスセルが成立するわけです。しかも、宿泊客は通常客足が少ない夜間に確実な売上をもたらしてくれます。夜間の駐車場という遊休資産が、二重の収益を生み出すという構図です。

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ローソンの車中泊サービスは、自社の事業能力を最大限に活用します。注力顧客のニーズに応え、広く見た競合にはない価値を提供し、収益化を狙う挑戦的な取り組みです。

すでに持っているリソースを見直し、新たな使い方を考える。想定するお客さんの困りごとに目を向ける。追加コストを最小限に抑えながら、新しい収益源をつくる。そして何よりお客さんに価値をもたらす。

ローソンが日本全国の店舗の約 14,000 店舗のうち 3,000 店舗に設置余地があると見込んでいるように、この事業はまだ始まったばかりですが、今後の展開が期待されます。

まとめ

今回は、ローソンの車中泊サービスという事例を取り上げ、学べることを見てきました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • 注力顧客: 顧客は誰か?注力顧客の設定がすべての戦略的思考の出発点となる
  • 競合: 注力顧客が想定する選択肢 (自社以外の候補) 。必ずしも同じカテゴリーとは限らない。その状況で、お客さんが何かを解決したいと思ったその瞬間に、頭に思い浮かぶ全ての選択肢が競合となり得る
  • 顧客価値: 注力顧客にどのような独自の価値を提供するか。競合よりも相対的に優位な強み
  • 事業能力: 顧客価値をどのようにして提供するか?必要な内部資源 (リソース) とプロセス (オペレーション) を包含する
  • 収益モデル: 生み出した顧客価値をどのように利益として獲得するか?収益モデルは持続可能性を確保する財務的な論理