#マーケティング #新規顧客獲得 #CEPとBEP
今回は、ポケモンが新しい知育ゲーム 「ボケモンフレンズ」 によって、新しいユーザーを獲得するマーケティングを紐解きます。
ポケモンフレンズ
出典: ポケモンフレンズ
2025 年 7 月にリリースされた 「ポケモンフレンズ」 は知育ゲームです。パズルや迷路を解いていき、ポケモンのぬいぐるみを作っていくというカジュアルゲームです。
ポケモンフレンズはスマートフォン版と Nintendo Switch 版があり、登場から 1 カ月で 100 万ダウンロードを突破しました。
基本的な遊び方は、一筆書きや迷路、立体パズルなどの問題を解いていきます。1 回 5 分程度で気軽に遊べます。
出典: PR TIMES
問題を解くと 「イトダマ」 がもらえます。イトダマを 「ぬいマシン」 に投入すると、バーチャルなぬいぐるみができあがります。
出典: PR TIMES
用意された問題数は無料版でも 1200 問以上、全てのダウンロードコンテンツを購入すれば 7000 問以上になります。
解いていく問題はプレイヤーの習熟度に合わせて難易度が自動調整されるアダプティブラーニングが採用され、子どもから大人まで楽しめる知育ゲームです。ポケモンフレンズを開発したのはポケモンと、300 万人が使う知育アプリ 「シンクシンク」 を手がけるワンダーファイの協業チームです。シンクシンクは算数の偏差値や IQ が伸びたという実証実験の結果を持つアプリで、その知見がポケモンフレンズにも活かされました。
* * *
では、ポケモンフレンズの事例から学べることを掘り下げていきましょう。
この事例は、マーケティングにおける 「エントリーポイント」 という概念を理解する上で、示唆に富みます。
2 つのエントリーポイント
マーケティングでは、お客さんが商品やサービスを選ぶまでには、2 つの 「入口」 があると考えます。
カテゴリーエントリーポイント
カテゴリーエントリーポイント (Category Entry Points (CEP) ) とは、人が特定の商品カテゴリーについて、「必要かも」 「ほしい」 と思う特定の瞬間や状況を指します。文字通り、そのカテゴリーへの "入口" が開く瞬間です。
例えば、飲料カテゴリーであれば 「喉が渇いたとき」 「運動をして汗をかいたとき」 といった状況が CEP にあたります。
ブランドエントリーポイント
カテゴリーの入口をくぐった後、次に登場するのがブランドエントリーポイント (Brand Entry Points (BEP) ) です。「どのブランドの商品を買うか?」 と具体的に検討が始まる、ブランドを選ぶ瞬間の入口を指します。
人が何かを買おうと思った時、頭に思い浮かべるブランドの数は、せいぜい 2 つから 3 つと言われます。
この候補のリストを 「想起集合」 と呼びますが、CEP というカテゴリーへの入口をくぐった後に、次にブランドレベルで思い浮かべてもらう段階で自社ブランドが想起集合に入れなければ、その後のブランド間の比較検討の土俵にすら上がれないということになります。BEP はこの想起集合に入るための、ブランドにとっての入口なのです。
カテゴリーエントリーポイントとブランドエントリーポイントの関係
2 つを簡単に言えば、CEP は 「ブランドを思い出してもらうための舞台設定」 、BEP はその舞台で 「いかに自社ブランドを目立たせるか」 という関係です。
- CEP: 見込み顧客があるカテゴリーを思い出す 「状況」 や 「瞬間」 。ブランド想起の 「機会」 を生み出す
- BEP: そのカテゴリーエントリーポイントにおいて、特定のブランド名を真っ先に、あるいは上位に思い出してもらうこと
この 2 つのエントリーポイントを戦略的に設計することが、マーケティング成功のカギを握ります。
ポケモンフレンズのマーケティング
2 つのエントリーポイントという視点で見ていくと、ポケモンフレンズの巧みな戦略が浮かび上がってきます。
新たな CEP の創出 - 「知育・学び」 という入口
従来、子どもや大人がポケモンのゲームを遊ぶ動機は、主に次のようなものでした。
- 娯楽や暇つぶし: ちょっとした空き時間に楽しみたいとき
- コミュニケーション: 友だちや家族と一緒に盛り上がりたいとき
- 世界観への没入: キャラクターや物語に浸りたいとき
これらは主に 「娯楽」 という大きな文脈の中にありました。
それに対してポケモンフレンズは、「子どもの勉強に活かしたい」 や 「遊びながら頭が良くなりたい」 という、全く新しい 「知育・学び」 という利用のきっかけを提示しました。これまでポケモンに触れる機会が少なかった層への入口が大きく開かれるわけです。
- 親が子どもに安心して遊ばせられる教育的なゲームを探すとき
- 子どもがゲームをしながら達成感・成長を感じたいとき
- 大人がちょっとしたスキマ時間で頭を使いたいとき
ポケモンフレンズが新しい CEP を設けることで 「ゲーム = 娯楽」 という文脈だけでなく、「ゲーム = 教育的な価値のあるツール」 という入口から、新たなユーザーを呼び込むことが期待できます。
BEP の強化 - 「知育ゲームならポケモンフレンズ」 と思い浮かぶ仕掛け
とはいえ、新たに 「知育」 という CEP (舞台設定) を創り出しただけでは、ポケモンフレンズ (ブランド) が選ばれるとは限りません。
ポケモンフレンズは、舞台で自らが主役となるべく、ブランドエントリーポイント (BEP) の強化にも注力しています。
人が 「遊びながら頭が良くなりたい」 という CEP の入口をくぐり、次に 「何か知育ゲームはないか?」 と考えたとき、数ある選択肢の中からポケモンフレンズが想起集合の筆頭に上がるための BEP への仕掛けが、随所に散りばめられています。
ポケモンへの信頼感
まず何よりも、ポケモンフレンズには 「ポケモン」 という絶対的な信頼感と魅力があります。
ピカチュウなどの長年愛されてきたキャラクターが持つ親しみやすさや安心感は、特に親が子どもに与えるコンテンツとして、他の無名な知育アプリに対する強力な優位性となります。「知らないキャラクターのゲームより、ピカチュウのゲームなら安心だ」 という心理が働くことでしょう。
楽しさと学びの融合
ポケモンフレンズには 「楽しさ」 と 「学び」 が見事に組み合わさっている点も、選ばれる理由になります。
例えば、出題された問題を解くと 「イトダマ」 がもらえ、それで 「ぬいぐるみ」 を作ってコレクションできるという仕掛けがそれです。学ぶことへのモチベーションを、ポケモンならではの 「収集と育成」 の楽しさと結びつけています。
他にも、
- プレイヤーの習熟度に合わせレベルが自動調整される 「アダプティブラーニング」 により、常に 「あと少しがんばればクリアできる」 心地よい挑戦が続く設計
- 他人と競うのではなく、昨日の自分との対比によって成長を感じてもらうことを重視し、ベストスコア更新などで自己効力感を高める仕組み
- カレンダー機能があり、カレンダーに問題を解き終わったときにスタンプ表示され、続けるモチベーションが生まれる
- 大人向けの問題も多数用意され、子どもだけの知育ではない懐の深さ
制限時間内にパズルや図形問題を解いてスコアが出るというシンプルなゲームを毎日楽しく遊んでいたら、自然と考える力が身に付いていたという要素が、知育ゲームの中におけるポケモンフレンズの魅力を際立たせます。
過度な演出の排除
過度な演出を意図的に見せない工夫も、親がポケモンフレンズを子どもに使わせたいと思える安心材料になります。
派手なエフェクトや音はなるべく使わない、思考の邪魔にならないようにポケモンが目立ち過ぎないといった配慮は、運営側が本当に子どもの思考力を伸ばすことを真剣に考えているという、誠実なメッセージとして伝わるはずです。
1 回 5 分程度で気軽に遊べるという手軽さも、日々の生活に取り入れやすいポイントです。
開発背景のストーリー
ポケモンフレンズの開発のきっかけが 「ポケモンで子どもたちの成長に貢献していきたい」 という純粋な思いである点も、利用者の共感につながります。
他には、ユーザー数 300 万人を誇る知育アプリ 「シンクシンク」 の開発ノウハウを持つワンダーファイ社と協業し、「算数の偏差値や IQ が伸びた」 という実証実験の結果という客観的な信頼性を担保している点も、ポケモンフレンズの BEP をつくる柱となっています。
エントリーポイントの創造がもたらす市場拡大
こうして見てみると、ポケモンフレンズは CEP を増やし BEP とつなげることにより、ポケモンへの新規ユーザーを獲得し、ポケモンで遊ぶ人の裾野を広げるという戦略があることがわかります。
もしポケモンが 「娯楽」 という既存の CEP の中だけで競争を続けていれば、他のゲームやエンタメとの可処分時間の奪い合いとなるでしょう。
しかし 「知育」 という新しい CEP をポケモンに加えることで、これまでの枠組みの外側に目を向け、全く新しい市場との接点を生み出します。
今までにポケモンに興味がなかった 「子どもの教育に熱心な親」 や、「脳トレに関心のあるシニア」 までもが、新しくポケモンに触れ、ポケモンファン以外への認知を広めることが期待できます。
ポケモンの他のスマホアプリに 「ポケモンスマイル」 がありますが、ポケモンスマイルが 「歯磨き」 という生活習慣の市場に切り込んだように、ポケモンフレンズは 「知育」 に本格参入しました。
既存のパイを奪うのではなく、ポケモンと学ぶという新しい価値を提供することによって、市場そのものを活性化させる可能性を秘めています。
また、ポケモンフレンズを息の長いタイトルとして育てるという発想も見て取れます。
年齢の小さい幼少期にポケモンフレンズで学ぶ楽しさを知った子どもたちは、大きくなってからもポケモンというブランドに愛着を持ってくれることが期待できます。一過性のヒットを狙うのではなく、ブランドと顧客の長きに渡っての良い関係を築くための長期的な視点に立った戦略です。
ポケモンフレンズは、これまでのポケモンゲームの 「娯楽」 という CEP にとどまって安住することなく、「知育」 という新たな CEP を自ら創造し、市場の枠組みを拡張しようとしています。
そして、CEP という新しい舞台においてポケモンという強力な IP と知育の本質を突いた設計を掛け合わせることで、競合が追随しにくい強力な BEP を構築しているのです。
まとめ
今回は、知育ゲームの 「ポケモンフレンズ」 の事例を取り上げ、学べることを見てきました。
最後にポイントをまとめておきます。
- カテゴリーエントリーポイント (CEP) は需要への入口。消費者が特定の商品カテゴリー (例: 飲料) の必要性を感じる具体的な 「瞬間」 や 「状況」 を指す
- ブランドエントリーポイント (BEP) はブランドを選ぶ入口。カテゴリーの必要性を感じた後、消費者・顧客がどの具体的な 「ブランド」 を購入候補として思い浮かべるかという段階。比較検討される少数のブランド群 (想起集合) に入ることが重要
- CEP とBEP は連動する。CEP はブランドを思い出してもらうための 「機会」 や 「舞台設定」 、BEP はその舞台で自社ブランドをいかに目立たせ、最初に思い出してもらうかという関係
- CEP の開拓と創造が市場を広げる。新たな CEP をつくり出すことで、これまで自社商品・サービスを使わなかった層にもアプローチできる
- BEP の強化がブランド指名を促す。各 CEP において、自社ブランドが持つ価値や便益を的確に伝える。信頼性や好感度を高められれば、消費者や顧客の頭の中で 「◯◯ (カテゴリー) といえばこのブランド」 という結びつきをつく、指名買いされる確率を高める



