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投稿日 2013/05/26

ネット広告の今後の課題:広告本来の目的を実現するために




インターネット広告の何が画期的だったかを知るには、従来のマス広告と比べてみるとよくわかります。


マス広告と比べたネット広告の特徴


ネット広告では広告媒体がネット上であるため、広告スペース (在庫) はマス広告よりも多いと言えます。従来のマス広告ではテレビ・新聞・雑誌内の時間やスペースなど限られています。

ネット広告は、広告測定にも特徴があります。どれくらい広告が表示されたのかのインプレッションや、クリック数、コンバージョンを測れるようになりました。

広告の課金体系も実際にクリックに応じてが主流です。一方、マス広告は広告を出稿した分の課金でした。
投稿日 2013/05/19

書評「リスティング広告 プロの思考回路」

「リスティング広告 プロの思考回路」という本をご紹介します。ネット広告の1つであるリスティング広告(ユーザーの検索結果に連動して広告が表示される)の基本的な考え方と、実践的な内容もバランスよく書かれています。

■リスティング広告のプロが持つ2つの視点

リスティング広告で大事な3つ視点は、
  • 自社(広告主)を知る:ランディングベージ(LP)に訪問者に本当に伝えたいことが書いていない
  • 競合を知る:そのキーワードで出稿しても、(同じキーワードで出稿している)他社に勝てない
  • お客を知る:その広告文で本当にクリックされるのか
まさに3Cのフレームそのものです。

リスティング広告のプロたちが実践している2つがあって、
  • 「お客さまは必ず自社(広告主)と競合他社を比較している」ことを念頭に置く
  • 「比較されたときに勝てる武器は何か」を理解している
検索結果に連動されるリスティング広告は、ユーザーが自分のニーズを検索キーワードという形で表現し検索した時に初めて広告が表示されます。ほとんどの場合、競合他社の広告も出ます。これはリスティング広告の特徴。

つまり、比較されることになるので、他社と比べられても自社が選ばれる「武器」がなければ、自社広告が上位に表示されても他社に取られるか、自社広告をクリックされるだけで終わってしまいます。よって、「比較された時に勝てる武器は何か」を理解することが非常に重要。

■リスティング広告の3つの要素

リスティング広告は、①キーワード、②広告文、③ランディングページ(Webサイト)の3つが一体となって初めて大きな成果が出るもの。リスティング効果が高い時は3つのバランスがいいし、効果が出ていない時はバランスが崩れている。

3つの要素それぞれに対して、比較された時に勝てるかという視点が大事だと理解しています。

広告出稿前にキーワードを深掘りする際には、候補となるキーワードについてどんな広告主が入札しているか調査してみます(例:Googleで検索)。その時に広告表示される数(広告主)が多いほど、そのキーワード市場の競争が激しいことがわかる。見方を変えるとその市場はお客ニーズも多いとも言えます。

リスティング広告として表示される広告文も「比較されている」視点は大切です。本来、広告文には自社商品/サービスの特徴が端的に書かれてものであるべき。巧みな広告文で集客できても(クリックされても)、サービス内容と広告文が乖離しれていればコンバージョンされません。いくら広告文で競合と差別化されていても、最終的には正しい情報(ユーザーのニーズにあったもの)につながらないと意味がないのです。

ランディングページでも、ユーザーやお客の立場で考えることが大事。ランディングページの目的は、サービスの特徴を一目でわかりやすく伝えること。そのためには、ランディングページでは自社の強みをまず訴求し、その強みがお客様の役にも立つ・メリットがあることを伝える。お客さまに安心感を与えて納得してもらいコンバージョンにつなげる。大切なのは、ターゲットの具体的な想定と、お客にとって「買わない理由が見つからないページ」にすることです。結局のところは、このランディングページは、お客のニーズに本当に答えているか。

★  ★  ★

本書がおもしろかったのは、小手先の技術やテクニックではなく、リスティング広告運用でどういう考え方をすればよいかまで踏み込んで書かれている点です。単にクリック率や広告スコアを上げるにはどうすればいいかではなく。

一通り読むことでリスティング広告の理解も進むし、ケース例とともに説明されているので、具体的なイメージも持てます。タイトルにあるように「リスティング広告のプロの思考回路」が学べます。




投稿日 2013/05/12

YouTube 有料チャンネルを開始した Google の狙いを、ビジネスモデルから考えてみる




YouTube が有料チャンネルを開始


YouTube が、月額課金制でチャンネルを開設できる新サービスを開始しました (米国時間 2013年5月9日) 。


まずはパイロットプログラムとしてのスタートのようです。チャンネルに登録 (サブスクリプション) したユーザーから課金できるもので、最低料金は月額99セントからです。

全てのチャンネルに14日間の無料トライアル期間がつけられ、年間契約でディスカウントもされるとのことです。

今回の YouTube 有料チャンネルが、Google のビジネスモデルにどう影響するかを考えてみます。
投稿日 2012/06/16

テレビでターゲティング広告は実現できるのか:理想と現実のギャップ

ネット広告の世界では人によって見せる広告の内容を変えるターゲティング広告は当たり前のように使われています。具体的には、そのユーザーが過去にどのウェブページを見たか、何の広告が表示されたかや実際にクリックしたか、どんな検索をしたか等の、行動データから機械的にその人に最も適切であろう広告を表示させています。広告を見せる人を絞り、より広告の効果を高めるやり方。

つい最近見た記事でもフェイスブックのターゲティング広告の話題があり、このへんの話は日進月歩という感じです。このフェイスブックの広告システムはクッキーを使ってユーザーの行動履歴を取っているとのこと。
Facebook Tests Real-Time Ad Targeting Based on Web Browsing Activity|HubSpot Blog

■ターゲティングが弱いマスメディアの広告

一方、それに比べてテレビなどのマスメディアでは広告のターゲティングはできていないのが現状です。ネットでは同じウェブページを見ていても、見る人により表示させる広告が違いますが、テレビは見る人によってCMが異なることはありません。今、日テレで流れているCMは視聴者全員が同じものを見ているのです。

視聴者全員に同じものを見せるというのはメリット/デメリットがあって、メリットとしては一度に多くの人に広告を見せることができます。専門的にはリーチ率と言いますが、テレビでは一般的に視聴率1%で100万人が見ているとされているので、単純計算では視聴率10%の全国ネットの番組にCMを流せば1000万人にCMを見せることができる。(もちろん、CMは流れていても見ていない、トイレとかで離れていることもあったり、そもそも視聴率1%は普通は世帯ベースなので、100万人という人ベースに置き換える計算も正確ではないのですが)

デメリットは、全員に見せるということは、広告のターゲットができていないということなので興味のある人にもない人にも一様に見せるので、どうしても無駄が発生します。TVCMを放映するのに大きなお金をつぎ込みますが、無駄があるほど費用対効果が悪くなります。

■ターゲティング広告配信機能を持つインテルのTVセットトップボックス

Mashableの記事によればインテルがテレビCMのターゲティングを可能にするセットトップボックスを開発したとのことです。
Intel Set-Top Box Uses Face Recognition to Target Ads to You [VIDEO]|Mashable

機能としては、インテルのセットトップボックスに搭載された顔認識技術により、TVを見ている人の性別や大人/子どもを判定し、そこからより適切なテレビ広告を表示させるようです。記事によれば認識するのは性別とか大人か子供かくらいのレベルで、個人までは特定しないとあります。おそらく技術的には事前のユーザー登録と顔認識技術でもっと詳細に個人を特定できる気はします。例えばセットトップボックスに性別・年齢・趣味・興味のあるジャンル(美容/ダイエットとか)、などに加えて顔写真を登録するイメージ。が、あえてそこまでしないのでしょう。

インテルのセットトップボックスのメリットとして、広告主には広告のターゲティングができること、視聴者にはセットトップボックスを買って使ってもらうことで、テレビや番組視聴の料金が下がるようです(なお、アメリカでは日本と違いケーブルテレビが主なので有料でテレビを見るという感覚が強いです)。

記事の最後の方に少しだけ触れていたのが、このインテルのセットトップボックスはニールセンの視聴率調査とも何かしらの連携があるようで、アメリカではニールセンのテレビ視聴率調査は日本でいるビデオリサーチのような存在なので、個人的にはこちらも気になる動きです。

■テレビでターゲティング広告をするには

顔認識で広告を出しわけるセットトップボックスは色々と興味深いのですが、出しわけが性別と大人or子供というのは切り口としてはまだまだ不十分です。これだけだと2×2マトリクスの4象限しかないので、絞っていると言ってもターゲティングとしては粗い。どこまで効果的な広告を表示できるか。

方向性としては、テレビもネットの世界と同じように今後はターゲティング広告に進んでいくはずです。テレビでもターゲット広告を実現するにはどうすればよいか。ちょっと考えてみると、

1つはインテルの顔認識のようなテクノロジーで見ている人を識別すること。前述のようにもっと細かく「その人が誰か」を判別できるようになれば、その条件に合う広告表示も可能になってくるかもしれません。ただし、これ系の技術は高度なテクノロジーを使うほどコストもそれだけ上がるので費用対効果の制約が大きくなるように思います。研究やアカデミックには色々とできるのですが、ビジネスとしてやる場合はコスト感が全然合わないという状況です。

2つ目、ネットで行動履歴データから表示広告を出しわけることをテレビでも応用する。実際にこうした技術があるのかあまり詳しくないのですが、過去に見た番組からその人の嗜好性を判定し、より興味のありそうな広告を表示させることです。いずれテレビもパソコンなどと同じように将来的にはネットにつながるのが普通になると思うので、テレビの過去視聴情報だけではなく、ネットの過去履歴も色々と統合すると、ターゲティング精度はもっと上がるかもしれません。よく「つづきはWebで」というテレビ-ネットを連動させるクロスメディアで広告を出す例がありますが、実際にテレビとネットがつながることでシームレスな広告展開ができるようになるのかもです。

3つ目、テレビにフェイスブックやツイッター、その他SNSの情報を統合して、その人に刺さるような広告を表示する。これをやる場合は2つ目同様にプライバシー/個人データ利用とかでハードルは高そうですが、SNSからその人の興味関心を導き出したり、友人おすすめ商品を広告として表示させる。おそらく上記2つ目も同時に実現される気もするので、今よりもターゲティング精度は上がります。

これら以外にも、テレビと手元のスマホを連動させて、スマホサイドでターゲティング広告を出すというダブルスクリーンを活用することも考えられます。個人的にはこちらも興味があるのですが、ちょっと長くなりそうなので割愛。

■あらためて広告について少し

テレビCMについて色々と書いてきましたが、個人的な問題意識としてはTVCMに無駄が発生している点です。ムダというのは、興味のある人にもそうでない人にも一律に見せることでせっかく広告投資をしてもどうしても捨て金が発生すること。視聴者にとっても興味のない広告を見せられるほどつまらないものはないので、結果どうなるかというとCM中はチャンネルを変えたり、録画視聴であればCMスキップされてしまう。

広告をつくること、広告枠を買うこと、広告を流すこと、それぞれにお金がかかっていて、これらの広告コストはめぐりめぐって商品/サービス価格に反映されます。つまり、広告コストは結局は消費者が負担する構図。考えてみれば、普段の生活で朝のスマホから始まり出かける前のテレビ、移動中の電車内の広告、該当広告、PCで見るネット広告・・、とそれこそ1日中、私たちは広告に接触しています。それだけ見た広告の中で印象に残る広告はどれだけ少ないことかがよくわかります。これだけ広告があるのに、ほとんどがスルーされている状況は社会全体で見た場合にそれだけ無駄が発生しているのではないでしょうか。

TVコマーシャルでも、いくつかは見ていておもしろいCMがあると思っています。広告自体がおもしろいクリエイティブに優れたもの、思わず興味が湧くCM、買ってみてもよいかなと思わせるCM、店頭でそのCMを思い出して手に取ってみる、以前に買ったもののCMを見るともう1回買ってもいいかなと思ったり。

理想論の世界ですが、自分の見るCMが興味関心があるものばかりで、TV番組と同じくらい見ていておもしろい状況が本来あるべき姿なのかなと思っています。



※参考情報
Facebook Tests Real-Time Ad Targeting Based on Web Browsing Activity|HubSpot Blog
Intel Set-Top Box Uses Face Recognition to Target Ads to You [VIDEO]|Mashable
Insight: Intel's plans for virtual TV come into focus|Reuters
日テレ、TV番組の盛り上がり表示できるスマホアプリ-Twitter連携「wiz tv」。過去番組や他局対応も|AV Watch

投稿日 2011/12/23

「我が事化」がカギだったソーシャルメディア進化論

昨日はJMRX勉強会に参加してきました(11年12月22日)。講師として招かれたのは「ソーシャルメディア進化論」の著者である武田隆氏(エイベック研究所代表取締役)。この本は今年読んだ中でもベスト5には間違いなく入るもので、最初に読んだ時にブログに書こうとしたものの下書き状態で残ったままでした。JMRX勉強会に参加し著書本人から直接話を聞いたこともあり、あらためて「ソーシャルメディア進化論」から考えたことをエントリーとしてまとめておきます。

■「心あたたまる関係」と「お金もうけ」を両立させる企業コミュニティモデル

本書の主題を一言で表現すると、「ソーシャルメディアでの心あたたまる関係」と「お金もうけ」をどうやって両立させるか。すなわち、ソーシャルメディアのマネタイズ(収益化)です。そして、著者が提示する解は、企業サイトでコミュニティをつくり企業と消費者の絆をつくること。エイベック研究所の知見が凝縮された企業コミュニティを活用したマーケティングモデルで、大きくは2つの柱があります。プロモーションとマーケティングリサーチ。各プロセスを簡単に書いておくと以下の通りです(詳細が気になる方はぜひ本書をご覧ください。一読の価値あると思います)。

引用:書籍「ソーシャルメディア進化論」
  1. 参加者の意識の向上:企業サイト上のコミュニティで参加者の発言が投稿され、参加者同士のコミュニケーションが活性化してくると、参加者の我が事化とコミュニティへの帰属意識が向上
  2. 企業サイトへの掲載:コミュニティの発言内容を企業サイトの他のページにも掲載することで、企業サイト訪問者の態度変容を促す
  3. 広告・PRへの転用:他のPRや店頭施策と組み合わせ、ファンの声を外部にも広く表出
  4. 外部の検索サイトからの閲覧者増加:発言内のワードが検索サイトで引っかかるようになり、閲覧者が増加
  5. ユーザーを把握:コミュニティ参加者を趣味や発言、影響力などで細かく把握する。特徴で参加者をグループ化
  6. オンライブループインタビューへ:特に深く知りたいグループに対してオンライン上でグループインタビューを実施
※実はこのモデルには7があるのですが、それは後述します

プロモーションとマーケリサーチの2つと書きましたが、1~4までがプロモーション、5と6がリサーチに該当します。このモデルは、プロモーションという企業から消費者に伝えることと、リサーチという消費者が企業に伝えるというコミュニケーションのキャッチボールであり、本質的には市場との会話であると武田氏は言います。1~6をPDCAサイクルでまわし、企業と消費者(参加者からファンへ)のコミュニケーション履歴が蓄積することで、お互いがお互いのことを理解するようになる。最終的にはロイヤリティの高いファンを獲得し、結果として自社商品・サービスやブランドの売上や利益が得られる。これが本書で提示された「企業と消費者の心温まる関係」と「お金儲け」の両立なのです。

■なぜFacebookではないのか

ここまでで、なぜ場が企業コミュニティなのか、あるいはフェイスブックではないのか、という疑問が出てくるのではないでしょうか。武田氏は自らの知見も踏まえた上で、フェイスブックを企業が使う場合の位置づけは「メールマガジン」がいいのでは、と昨日のJMRX勉強会でおっしゃっていたのが印象的でした。

フェイスブックは実名での参加が基本です。実名であるが故に、知人を越えたコミュニケーションが発生しづらく、お互いに実名や背後に自分の人間関係を背負っていることで、知人以外とのいきなりのコミュニケーションに不安やリスクを感じるそう。もちろん、コメントを投稿する人やいいねを残す人もいると思いますが、コミュニケーションのハードルが高いことで活性化しにくい。武田氏曰く、フェイスブックでのコメントは1~2行くらいの「言い切り」のコメントで終わるケースが多く、一方の活性化している企業コミュニティではコメントは「質問」や「呼びかけ」で終わっている。つまり、コミュニケーションが活性化しやすいコメントが続くそうです。

ただし、企業にとってフェイスブックが使えないかというとそうではなく、有効な使い方もあり、例えばANAのフェイスブックページでは、キャビンアテンダントや航空整備士など色々な立場の人がウォールに書き込んでいて、そこにユーザーがいいねやコメントを付けています。このように「人が出る」ようなコンテンツは有効だそうです。とはいえ、企業のフェイスブックページではユーザー同士の横のつながりが起こりにくく、どうしても企業と消費者の1to1のコミュニケーションになりがちで、これは企業担当者の負担も大きく、コストがペイできなくなる側面もあるようです。おそらくこれはツイッターも同様なのではないでしょうか。

■企業コミュニティを活性化させる「我が事化」

昨日のJMRX勉強会の武田氏の講演では、ポイントとなるキーワードは「我が事化」でした。ちなみに武田さんは我が事化のことを「レリバンシー」という言葉で表現されていて、これはrelevancy:関連性、つまり自分に関連があること=我が事化という使い方だと理解しました。我が事化は企業コミュニティをいかに活性化させるかに直結し、ここがそもそも非常に難しいというお話でした。あらためて冒頭のモデル図を見ると、①参加者意識の向上がきますが、コミュニティが活性化してこないと、①で止まってしまいとてもマネタイズどころではなくなります。

当然のことながら、始めから我が事化している参加者は多くありません。企業サイドから無理やり関与を求めても引かれるだけでしょう。ここは時間をかけてじっくりと関係性を醸成することが大事だそうで、例えば、共感するコメントに拍手をするような仕組みを設けておくなど、軽い行動から始めるよう促す。拍手をすれば、その後も気になるので返信コメントを付けたり、自ら投稿するようになる。このように関与レベルを段階的に上げていき、参加者の我が事化を育んでいくそうです。

我が事化を持ってもらう施策で大切なのは2つ。参加者にあるテーマを投げかけ投稿してもらいそれに拍手するなどのコミュニティ内での「役割の設定」(ご自由にどうぞ、だと逆に行動しづらくなる)、誰かのコメントに拍手したり投稿することにポイントを上げるなどの「報酬の設定」(インセンティブになるとともに参加する「言い訳」を与える意味もある)。思ったのは、役割や報酬の設定とともに、コミュニティ参加者同士での共感、そこで生まれる信頼関係をいかに構築するかなど、企業コミュニティとはいえ非常にリアルな人間味あふれる空気をいかにつくるか、ここが大事だということでした。

「我が事化」に関してなるほどと思ったのは、コミュニティ参加者が「私がいないと成り立たない」と思ってもらうところまで持って行けるか、つまり、そのコミュニティの中で自分が大事な一員だとみんなが思えている状況、そう自覚できるかということ。参加メンバーがこう思う状況になると、場が最も活性化されるのだそうです。

参加者がコミュニティを我が事化し、帰属意識を高める、それが企業へのロイヤリティを向上させるというのは、言うが易し行うは難しだと思います。ちなみに、エイベック研究所はソーシャルメディア(企業運営型BtoCコミュニティサイト)構築市場における売上トップシェア(10年。矢野経済研究所調べ)だそうですが、ここがきっちりとできるからこそだと思います。このノウハウを持っていることが強みだと感じました。「ソーシャルメディア進化論」という本では、企業コミュニティで同研究所が収益を上げるまでの紆余曲折も書かれており、武田氏は最も苦しい頃の1日の食事がみたらし団子1本だったというベンチャーならでは(?)のエピソードもありましたが、そんな状況からトップになった方の説明には説得力がありました。以前のエントリーで我が事化を取り上げた記事も書きましたが、あらためて我が事化って大事だなと。
相手も自分も動かす「自分ごと化」のススメ|思考の整理日記

■企業コミュニティモデルの可能性

心暖まる関係とお金もうけの両立は企業コミュニティを活用したプロモーションとマーケティングリサーチでした。このモデルの可能性として、企業だけではなく他の組織にも活用できるのではと思いました。武田氏が企業コミュニティで企業と消費者をつなげることを思い付いたのは、企業の自社商品やサービスに対する思いが消費者に全くと言っていいほど届いていないと気付いたからでした。実際に当時のお客さんから自社商品への思いを聞けば聞くほど、それって消費者はほとんど知らない現実。そこで、企業と消費者をインターネットらしく結びつけることが一番初めにできたコンセプト。これを具現化したのが企業コミュニティモデルです。ここで思うのが、組織の思いが消費者/生活者に届いていないのは何も企業だけではなく、NPOやNGOなどの組織、自治体や地方団体、政党、病院など、あらゆる組織と生活者に当てはまるのではということ。企業コミュニティで実現されていること、双方向のコミュニケーションが他でも実現されれば私たちの社会はもっと豊かになっていくのではないでしょうか。

ただ、昨日の武田氏の話では、例えば企業コミュニティのモデルを活用した地域の活性化は現時点ではとても難しいとのことでした。このモデルを導入するためには、組織との二人三脚が不可欠です。企業コミュニティの場合は企業サイト運営と連携し、プロモーションやリサーチなどのマーケティングに関わることになります。実際にある市の行政に提案したこともあるようですが、結局担当者に受け入れてもらえなかったエピソードも語っていただきました。

冒頭で紹介した企業コミュニティモデルは6つのプロセスがありましたが、実は7つ目まであり、1~6を繰り返すことで企業と消費者の距離は縮まっていくとしています。

引用:書籍「ソーシャルメディア進化論」

昨日のJMRX勉強会での武田氏の講演では、始めに紹介されたのは「見える人」と「見えない人」の違いでした。見える人とはネットワークを味方にする人で、「スモールワールド」を感じている人という話。武田さん曰く、コミュニティで成功する企業はスモールワールドを肌感覚で理解しているとのこと。

書籍「ソーシャルメディア進化論」で最後のほうに書かれていたのが、スモールワールドへのパスポートは「ありがとう」。昨日の話を聞くと、「心あたたまる関係」と「社会の豊かさ」の両立には期待したいですし、ありがとうという感謝の気持ちがキーワードなのかもしれません。


ソーシャルメディア進化論
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投稿日 2011/07/17

Googleが計画する「ウェブデータ取引所」は、あなたと広告のミスマッチを解消してくれるのか

それにしてもスケールの大きなニュースです。Ad Age DIGITALによれば、グーグルがウェブデータの取引所を創設する構想を持っているとのことです。
Google Readies Ambitious Plan for Web-Data Exchange|Ad Age DIGITAL

■グーグルが計画中のウェブデータ取引所とは

まずは開発中とされるグーグルのこの取り組みについて見てみます。簡単に言うとグーグルがやろうとしているのは、ユーザーデータが売買できる仕組みおよび場(取引所)を提供するということです。ユーザーデータは、ネットでの行動履歴データで例えば訪れたサイトや検索した時に入力した単語(検索ワード)など。このデータが売買されるわけですが、売り手はウェブサイトなど、買い手は広告主となります。

広告主は何のためにデータを買うかというと、広告をどういう人たちに表示をさせるかというターゲット情報を得るためです。広告の基本は、1.人の集まるところに出す(だからTV広告では視聴率が重宝される)、2.広告を見てほしい人に見てもらう、だと思っていますが、この2点を考えるためにターゲット情報が活用されます。ここで言うターゲット情報というのが、上記のウェブサイトなどから提供される「ネットでの行動履歴」に当たりますが、ネットでの行動履歴というのは、言い換えればその人の興味・関心のデータです。というのは、ネットで何かのサイトや動画を見る、検索をするなどは、そこに何かしらの興味があってのことで、上記のAd Ageの記事では「新車を購入しようとしている人」、「旅行を計画中の人」などの例が書かれていますが、行動履歴を積み重ねるとその人が何に興味を持っているのか、さらにはどういう人なのかもある程度はわかるようになります。

グーグルが開発しているこのデータベースが実現すれば、広告主は自分の広告を表示させたいターゲットを抽出することができ、広告を見てもらいやすくなり購入にもつながることが期待できます。ユーザーデータについて需用と供給が成り立つことで、それに対してグーグルの役割は、あらゆるユーザーデータを一つに集約した巨大データベースを構築し、売り手と買い手の間で円滑にデータが売買されるような仲介役なのです。

■あなたにとってどういう意味があるのか

では、仮にグーグルのウェブデータ取引の仕組みが実現されるとして、その場合に私たちに一体何をもたらすのかということを考えてみます。認識としてあらためて考えてみたいのが、自分たちのまわりにはたくさんの広告であふれているものの、それらのうちどれだけの広告に興味・関心を持ち、さらにはその広告の商品・サービスを買うところまで至ったかという点です。ウェブ上でも多くの広告が表示されますが、個人的には大部分はクリックすることはなく、もっと言えば何の広告かの認識すらしていないこともあります。

この状況を冷静に考えてみると、現在の広告は多くの場合でミスマッチが起こっているのではないでしょうか。つまり、広告が表示されていても、見る人にとってその時点で興味関心は持たれていない、本当に見てほしい人(見てくれる人)に表示されないというミスマッチです。これはあらためて考えてみると残念な状況です。とういのも、ミスマッチが発生しているということは、その広告の広告主・消費者・広告媒体の三者それぞれにとっても望ましい状況ではないと言えるからです。広告出稿費を払ったのに広告の効果が出ない、見たくはない広告が表示される、表示広告に効果が見えにくいと広告媒体としての価値が上がらない、といった感じに。

広告というのは必要な人に適切なタイミングで提供できれば、消費者と広告主の双方にメリットがあるものだと思っています。広告の中には関心を抱くものも多少はあるわけで、広告で存在をはじめて知ったり、ちょっと買ってみようかなと思うこともある。あるいは実際に広告の影響で買うこともあります。

少し前置きが長くなりましたが、グーグルの取り組みが実現されるとこうしたミスマッチが解消していく可能性があると考えます。グーグルが提供している検索連動型広告は検索ワードという興味・関心に連動した広告なわけですが、それよりも幅広いネットでの行動履歴をベースに広告を表示させるターゲットを選んでくることができるからです。これにより、広告が必要な人に適切なタイミングで提供されることが期待できます。ふと○○が欲しいと思った時に向こうから知らせてくれたり、自分の中で完全なニーズになっていないことまで提案してくれる、なんてことが実現できるかもしれません。

■独占とプライバシーの問題

一方で、自分のネットでの行動履歴が使われることに対しての反発も当然起こってくるでしょう。このようなウェブのユーザーデータはクッキーという機能を活用することになるのですが(他にも仕組みはあるのですが)、自分のデータが提供されることがわかっていて許諾が得られている場合はいいとして、ユーザーにとっては自分のウェブデータが活用されていることにも気づいていないケースもあり、このあたりは個人情報やプライバシーの問題が必ず出てくると思います。

それにただでさえグーグルは独占禁止法やプライバシー問題で、アメリカやヨーロッパの独禁・司法当局からの監視の目が増している状況です。そんな中、グーグルが個人のウェブデータを集約し、売買できるようなデータベース・仕組みを構築するとなれば、独占禁止法とプライバシー問題の両方で懸念の声が出てきてしまう恐れがある。その実現は簡単ではないというのが個人的な見解でもあります。
フェイスブック・米当局…グーグル支配に包囲網|日本経済新聞(11年7月7日)
[FT]グーグルに独禁法関連の疑い相次ぐ 今度は欧州で訴訟 |日本経済新聞(11年6月28日)

■グーグルにとってなぜこのプロジェクトなのか

それでもなお、グーグルはこのプロジェクトを前に進めていくのでしょう。なぜなのかを整理するために、ここではグーグルの目的を考えてみます。1つ考えられるのは、ユーザーの行動履歴というウェブデータが集まるデータベースが構築できそこにデータを売る/買うプレイヤーが集まる、こうしたプラットフォームをグーグルが支配することです。支配できれば、課金モデルが構築できます。一定の手数料という形でグーグルにとっては持続的な利益を得ることができる。

この可能性はなくはないのですが、個人的にはグーグルの目的はこのビジネスモデルではないのではと思っています。それはグーグルがアンドロイドOSを無償提供し、あくまでアンドロイドの普及を進めているのと同じで、グーグルにとって大事なのはあらゆるウェブのデータが集まることです。グーグルの目的は、データが集まり、広告主がそのデータベースからターゲットを抽出できる、本当に必要な人に広告が表示でき広告のマッチング精度・効果が上がる、そしてオンライン広告の価値がより向上すること。これがグーグルが描いていることなのではないでしょうか。

冒頭で引用したAd Ageの記事はタイトルにAmbitious Planという表現が入っており、さらに記事ではこのプロジェクトに詳しいグーグルの幹部によれば「one of the most ambitious in Google's march to become a brand advertising giant.」と表現し、グーグルがブランド広告の巨人になるためは最も重要なプロジェクトの1つと指摘しているのです。グーグルの目的はウェブデータ取引所で広告主にデータを活用してもらい、オンライン広告へこれまで以上に投資してもらうこと、ひいてはそれが広告媒体としてグーグルの収益に結びつくという構図です。

■個人データ活用への期待

最後に、このニュースについて自分はどう思うかを少し書いておきます。ウェブのデータ活用にはメリット/デメリットがあるものの、結論としては期待のほうが大きいと思っています。マイナス面としては自分のウェブ上の行動履歴がデータとして誰かに(知らないところで)活用されるという不安がありそうですが、一方でウェブを使い以上はある程度の自分のデータが提供されてしまうのは不可避だと考えます。自分の個人情報をウェブ上に預けることで、利便性を享受できている面もあります。であるならば、データが提供されることを受け入れ、そこから個人データをいかに活用し、どうすれば世の中をもっと豊かにできるかを考えたいというのが個人的な思いです。

※参考情報
Google Readies Ambitious Plan for Web-Data Exchange|Ad Age DIGITAL
データが通貨になる Googleが「ウェブデータ取引所」機能構築へ=米報道【湯川】|TechWave
フェイスブック・米当局…グーグル支配に包囲網|日本経済新聞(11年7月7日)
[FT]グーグルに独禁法関連の疑い相次ぐ 今度は欧州で訴訟 |日本経済新聞(11年6月28日)


投稿日 2011/07/03

グーグルが新SNSのGoogle+をリリースする2つの意味とわくわく感

ついにGoogleも動いてきました。同社が世界に発表した新しいSNSであるGoogle+です。(11年7月2日現在まだパイロットテスト段階で、一部のユーザー限定で使用が可能)

参考:Introducing the Google+ project: Real-life sharing, rethought for the web|The Official Google Blog

今回のエントリーでは、Google+について以下のような論点で書いています。

  • Google+とは何か?Facebookとの違いは?
  • なぜGoogleはSNSに取り組むのか?
  • Google+が普及するとどうなるのか?そして期待すること
投稿日 2011/06/18

相手も自分も動かす「自分ごと化」のススメ




メールを送って仕事の依頼を伝えたつもりが、こちらの意図が正しく伝わっていたなかった。仕事をされている方であれば一度は経験があることです。

■「伝える」と「伝わる」は同じではない

このような「伝える」と「伝わる」ことが必ずしも同じではないということを、マーケティングや広告の世界でも起こっているのではないか、という問題意識で書かれいてたのが「どう伝わったら、買いたくなるか」(藤田康人 ダイヤモンド社)という本でした。

著者は、消費者が得られる情報が今ほど多様ではなかった時代では、メディアや企業から得られる情報が多くを占め、「伝えること」とはそのまま届くことであり、「届くこと」と同じ意味だったと言います。

しかし、今や情報を伝えても、簡単には消費者に届かなくなり、届いたとしても伝わったことにはなりません。そして、買ってもらうという行動につなげるのが、以前よりも難しくなったという問題提起です。

では、伝えるためにはどうすればいいのでしょうか。

本書のポイントは2つです。1つ目が消費者が本当に聞きたいことを把握すること、そのためには消費者を観察し彼ら/彼女らのことを深く知る消費者インサイトの重要性が挙げられています。

2つ目が伝えたい相手(ターゲットとなる消費者)にとっていかに「自分ごと」として受け取ってもらうかという発想でした。

今回のエントリーでは、2点目の自分ごとをテーマにして書いてみたいと思います。

■ そのためには「自分ごと」として受け取ってもらうこと

自分ごとについての著者の主張をもう少し見てみます。

「自分ごと」というのは、その情報が自分にどれだけ関係あると思うということを指しています。確かに自分のことを思い返してみても自分には関係ないと思った瞬間に興味・関心は薄れてしまうものです。

いかに自分ごと化できるかは、その情報にどれだけベネフィットがあるかがポイントです。ベネフィットには2種類あります。その情報を得ることでトクをするという 0 → プラスのものと、それを知らないと損をするというマイナス → 0 の2つです。

広告やマーケティングでは、消費者に自社のモノ・サービスを買ってもらうことが目的です。そのためにはベネフィットを伝え、消費者にどれだけ自分に関係する情報だと認識してもらう、それができなければ「伝わる」までには至らないということです。

受け手側にいかに「自分ごと化」してもらうか、この視点はマーケティングや広告以外にも応用できそうな考え方です。本書を読んだ中であらためて気づいた点でした。

冒頭でメールの例を挙げていますが、メールを書く際にもこちらの言いたいことを書くだけではなく、相手の立場で文章構成がつくれるか、相手のメリットやマイナスになる事態を防げるなどのベネフィットがあれば、読んだ相手に伝えたかった内容が伝わりやすくなるのではないでしょうか。

ビジネスにおいてはメール以外にも、上司への報連相や、プレゼンもこの考え方は活かせそうです。

プレゼンでは受け手側の視点で見ると、資料がオーディエンスにとって自分ごと化されている構成になっていれば、プレゼン自体もそのような形になります。

■ 日経も自分ごとで読む

ここまではいかに受け手側で自分に関係があると思ってもらえるかという送り手側からの発想でした。

自分が受け手側になった場合も、自分ごととして捉えるような意識が大事です。関連するのが以下のブログで書かれていた内容でした。

正しい日経新聞の読み方。(特に新社会人へ)|My Life After MIT Sloan

この記事の内容を簡単に整理すると、ビジネス界にいる人が新聞を毎日読むのが大事であり、そのためには日経を例にどう読めばよいかがわかりやすく書かれています。

具体的には、それぞれの記事から「意味合いを考える」ことであり、

  1. 記事内の事実
  2. 解釈
  3. 自分は何を考えるべきか

という3ステップで構成です。

例えとして、空・雨・傘が使われています。カーテンを開けると曇り空という事実から、雨が降るのではないかと解釈し、今日は傘を持って出かけようというものです。

一般化すると以下になります。

  • 「空」 = 「事実」は何かを見極め
  • 「雨」 = そこから得られる自分の業界への影響を考え
  • 「傘」 = 何をすべきか、どう手を打つべきか

2つ目の解釈、3つ目の自分は何を考えるか・行動するかという視点は、今回の記事のキーワードである「自分ごと化」と通じます。

新聞記事を漠然と読むのではなく、事実をつかみ、そこからいかに自分に関係のある情報として得られるかです。

情報収集という意味でも、あるいは記事から連想することで世の中の流れをつかむためにも、このような読み方は意識するかしないかで、得られることが違ってきます。

■ 最後に

上記のブログ記事では、新聞を読む理由として、「理由は世の中で何が起こっているか、最新情報を捉え、それがどのように自分たちのビジネスに影響するか、どうすべきかを毎日考えなくてはならないから」と書かれていました。

これには同意で、そのためには新聞に限らず、ネットでのブログやツイッターなどで情報を得る時、仕事でまわってくる資料やメールに触れる時にも、こういった発想が有効です。

そのためのポイントがいかに「自分ごと化」ができるかです。


どう伝わったら、買いたくなるか
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投稿日 2011/05/15

テレビとこれからの視聴率を考えてみる


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日本でテレビ放送が開始されたのは1953年 (昭和28年) でした。1953年2月1日に NHK が、その後の1953年8月28日に日本テレビ放送網が放送を開始しています。放送開始当初の NHK の受信契約は866件だったようです。

テレビ放送開始|NHK
日本放送協会|Wikipedia
日本テレビ放送網|Wikipedia


テレビのビジネスモデル


テレビのビジネスモデルは50年前も今も基本的には変わっていません。

1953年当初から、NHK は視聴者から受信料を受け取る有料モデル、日本テレビ放送網はスポンサー企業の CM を入れる広告モデル (受信料は無料) でした。ちなみに、日本での初めてのテレビ CM は、日本テレビ放送網の放送初日に流された精工舎の時報だったとのことです。

セイコーホールディングス|Wikipedia


スポンサー企業は50年前も今も、多くの予算を投入しテレビ CM を流しています。スポンサーにとってテレビはそれだけ広告媒体としての価値を見出しています。一つの情報を一度に大量の視聴者に届けることができるという価値です。テレビはこの点で、新聞・雑誌、ラジオ、ネットと比べても優れています。
投稿日 2011/03/05

AISASとSIPSから考える検索連動型広告とこれからの広告の方向性

ネット広告の代表的な手法の1つである検索連動型広告について、おもしろい記事がありました。
検索連動型広告がもたらした「悪しき」広告観|Adver Times(アドタイ)

■AISASモデルで見る検索連動型広告の位置づけ

ここで言う悪しき広告観とは、(マスメディアの広告に比べ)検索連動型広告は効果がはっきりと分かり費用対効果がちゃんと出せることだと記事では指摘しています。ネット広告ではクリック数が分かり、検索連動型広告では検索キーワードに連動する広告が表示されることから、一見すると広告効果が高いように思えます。しかし記事では、ここに落とし穴があると言います。

それは何か。落とし穴とは消費者の興味・関心・要求が生まれるプロセスの見落としですが、これを理解するために、AISAS(図1)という消費者の購買行動モデルで考えてみます。なお、AISASとは、Attention(注意)=>Interest(興味・関心)=>Search(検索)=>Action(行動)=>Share(共有)の頭文字をとったもので、電通が考案したマーケティングにおける消費行動プロセスを表す考え方です。具体的には、消費者がある商品を知ってから購入に至るまでは、注意が喚起され、興味;関心が生まれ、関連する情報を検索し、その商品やサービス購入し、そのことを共有する、というプロセスのこと。


話を検索に戻すと、当たり前ですが何かを検索するためにはキーワードが必要です。これはつまり、この時点で自分の興味・関心はそのキーワードに落とし込めているということです。これをAISASで見ると、すでに3番目のプロセスまで進んでいるのです。前述のように、検索連動型広告では、このキーワードに関連する広告が検索結果のページに表示されます。要するに言いたいのは、検索連動型広告で効果があるのは、すでに興味・関心が生み出された後の段階だということなのです。

これは、逆に言うと検索連動型広告では「知りたい」とか「欲しい」といった欲求を生み出すことができないことになります。そこで大事になるのが、記事が最後で問題提起するように「なぜ検索が起きているか」を考えること。AISASで言えば、Searchより前のAttentionやInterest。これが、消費者の興味・関心・要求が生まれるプロセスを見落とす落とし穴なのです。

■広告は目的により役割が違う

広告のその目的により役割が異なります。例えば、商品・サービス・ブランドのことを知らない人に知ってもらうこと(認知)、おいしそう・使ってみたいと興味を持ってもらうこと、機能を詳しく伝え買ってもらうこと、一度買ってもらった人にリピーターになってもらうこと、まわりの友達に進めてもらうこと、などなどです。これらの例はAISASの流れで挙げてみましたが、広告は5段階のそれぞれで役割が異なります。

ここから導かれる考え方として、検索連動型広告も手法としては有効であるが、かと言ってそれだけでは不十分ではないということ。すなわち、すでに検索キーワードレベルで興味・関心を持っている人への広告としての役割を持っている一方で、興味・関心を生み出す役割の広告が別に必要になる。

■セレンディピティと共感

最近読んでおもしろかったキュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる(佐々木俊尚 ちくま新書)にセレンディピティという言葉が出てきます(p.175)。これはserendipityという「偶然に素晴らしい幸運に巡り合ったり、発見をすること」を意味する英単語のことですが、著者の佐々木氏によれば、ネットの世界でのニュアンスとしては、「自分が探していたわけではないけれども凄く良い情報を偶然見つけてしまう」ことだと説明されています。

広告の視点で考えると、従来はこのセレンディピティを生み出していたのは、ブランド露出に貢献するマスメディアが担っていたように思います。TVCMで思いがけないモノを初めて知り(セレンディピティ)、店頭で見つけついつい買ってしまったみたいなプロセスです。個人的に思うのは、日本の広告費:5兆8427億円(日本の広告費2010|電通)のうちTV広告は依然として30%近い1兆7321円を占め、一方のネットは増加傾向とはいえ13%程度(7747億円)なのは、ここにも要因があるのではということです。

となると、ネット広告において、検索連動型では捉えられない「興味・関心を生み出す」ための広告、セレンディピティを生み出すような広告が今のところ足りない要素となります。ここに対するヒントは、同じく電通が2011年1月に発表したSIPSモデル(図2)にあるのではと思っています。

Source:SIPSモデル|電通から引用

電通によれば、SIPSモデルはAISASから進化したソーシャルメディアの視点を重視し、生活者の行動を深掘りした概念と説明されています(注.電通によればSIPSはAISASにとって代わるものではなくAISASはなくならないとしている)。ヒントとはSIPSの、特に「共感する(Sympathize)」の部分。先ほどセレンディピティとは偶然に凄く良い情報を見つけると書きましたが、自分にとってセレンディピティなことは共感につながると思っています。であればいかに消費者の共感を生み出すか、それを広告でできるかが検索連動型広告にはないピースとなります。

ただ、共感を生むのは必ずしも広告である必要はなく、それは前述の佐々木氏の言う、膨大な情報から選び意味づけをしてくれるキュレーターかもしれず、単に友人のお勧めなのかもしれません。そういえば、「フェイスブック 若き天才の野望 (5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた)」(デビッド・カークパトリック 日経BP社)という本にはこんな記述がありました。『グーグルのアドワーズ検索広告は「要求を満たす」。対照的に、フェイスブックは要求を生み出す。(ザッカーバークたちの)グループはそう結論を出した。』(p.379)。AISASのモデルに当てはめると以下のイメージです(図3)。


要求を生み出すためには多数ある広告手法をどう組み合わせるか(クロスメディア)、あるいは従来の広告の概念とは違う、例えばソーシャル性を取り入れていくのか、企業側だけではなく消費者をどう巻き込んでいくのか(SIPSの「参加する(Participate)」)。このあたりは個人的にもとても興味がありますし、今後どう進化していくのかが興味深いところです。


※参考情報

検索連動型広告がもたらした「悪しき」広告観|Adver Times(アドタイ)
日本の広告費2010|電通
SIPSモデル|電通


キュレーションの時代 「つながり」の情報革命が始まる (ちくま新書)
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投稿日 2010/12/27

Googleと「個人データ」を考える

「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすることである」。これはGoogleが掲げるミッションです。

■Googleが無料サービスを提供できるワケ

グーグルは多くのサービスを提供しています。ウェブ検索、Gmail、グーグルドキュメント、カレンダー、グーグルマップ、YouTube、等々、ここで挙げきれないほど。そして特徴的なのは無料でユーザーに提供していることです。

なぜ無料で提供しているのでしょうか。別の表現をすればどこでお金を取っているのでしょうか。その答えは広告にあります。アドワーズという検索結果連動型の広告やアドセンスというコンテンツ連動広告がそれです。グーグルの考え方は、自社のサービスを使うユーザーが増えれば増えるほど、そこで表示される広告価値が上がる。よって、ユーザーには無料で提供してくれるのです。

■個人データの取得と活用

実は広告以外に、無料で提供する別の目的があると思います。それがユーザーの利用情報である「個人データ」の取得。

例えば、グーグルで検索に使われた検索語(クエリー)は履歴として蓄積され、別のユーザーの検索に活かされています。グーグルの検索ボックスに入力していくと、検索語の予測が複数表示されますが、あれが活用例です。このように多くのユーザーが使えば使うほど、グーグルの検索精度も向上していきます。グーグルにとっては個人データの取得、ユーザーにとっては利便性の享受という、ウィン-ウィンの関係が見えてきます(図1)。


個人データ活用のわかりやすい例がグーグルのブログ上で公表されていました。「Google 年間検索ランキングで、2010 年を楽しく振り返ろう」という記事がそれです(以下は記事から一部引用)。

出所:Google Japan Blog

■データから情報へ

個々人がグーグル検索を使って知りたいことは千差万別です。しかし、ユーザーの利用履歴という個人データを積上げることで、上記の例では今年の流行が見えてきます。個人データという状態では必ずしも整理されておらず量も膨大ですが、蓄積し体系立てることでデータは「情報」となります。

このことに関して、ドラッカーは著書「明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命」で次のように述べています。「整理して体系化しないかぎり、データは情報とならず、データにとどまる。意味をなすには、体系として把握しなければならない」。

個人データについて思うのは、ネットがありモバイルも含め個人の情報発信が普及しなければ、可視化できないものであったということです。

例えば、SNSやツイッターで発信される情報の多くは、昔は個人の中でしか存在しないようなものでしたが、今ではネット上に乗せることで情報が共有されます。個人データが価値を持つような有効活用される背景には、こういった技術の進歩に加え、データ収集システムやデータハンドリングなど、データから情報体系への仕組みができてきつつある点も大きいように感じます。

■Android OS普及と個人データ取得

グーグルに話を戻しますが、前述のようにグーグルが提供するサービスのユーザー数が増えれば増えるほど、また使用すればするほど、グーグルには個人データが集まってきます。PCでの使用に加え、アンドロイドOSのスマートフォンが普及していくことで、ますますその傾向が強まる可能性があります。

ちなみに、asymcoというハイテク市場分析系ブログで企業アナリストであるDediu氏が2011年末までのスマートフォンの普及動向を予測しています(図2)。

出所:asymco

左のブロックは米国調査会社ニールセンの調査データが出所です(2010年12月現在の最新の調査結果はこちら)。そして右側はDediu氏による推計で、緑色のアンドロイドOSシェア(人数ベース)が伸びているのがわかります。

■個人データ独占という課題

このように、グーグルはこれからも個人データの取得を拡大させる可能性がありますが、それは同時に、グーグル1社が独占的に個人データを収集するという課題も抱えることになります。その例がグーグルとヤフーの検索技術提携により、両社の日本での検索シェアは9割になることで、これに対しては反対する声や適切な競争環境を損なうことへの懸念もあります。

個人データが有効に活用されること自体は、世の中がより便利になる方向にあると思っています。ただ、よりよい世界になるには一方で課題も存在するのが現状です。


※参考情報

Google 年間検索ランキングで、2010 年を楽しく振り返ろう|Google Japan Blog
http://googlejapan.blogspot.com/2010/12/google-2010.html

Half of US population to use smartphones by end of 2011|asymco
http://www.asymco.com/2010/12/04/half-of-us-population-to-use-smartphones-by-end-of-2011/

U.S. Smartphone Battle Heats Up: Which is the “Most Desired” Operating System?|Nielsen
http://blog.nielsen.com/nielsenwire/online_mobile/us-smartphone-battle-heats-up/

経済教室|日本経済新聞2010年12月24日(金)朝刊


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投稿日 2010/12/18

グルーポンの大幅割引の目的と課題

ビデオリサーチインタラクティブから、グルーポンなどの「クーポン共同購入サイトの動向」が発表されています。自宅PCからの2010年10月度の推定訪問者数は306万人で、わずか2か月前の8月から2倍の規模になったそうです(図1)。8月:159万→10月:308万人。なお、集計対象のクーポン共同購入サイトは、グルーポンやポンパレを含む計92サービスです。

 クーポン共同購入サイト全体の推定訪問者数 時系列推移(2010年4月~10月)(自宅PC)

 出所:ビデオリサーチインタラクティブ

■グルーポンとモラタメ

クーポン共同購入サイトの仕組みは、一言で表現すると「みんなでクーポンを買って割引を共有する」というものです。

グルーポン(Groupon)の語源はGroup+Couponです。もう少し詳細を見ると、各クーポンは締切期限や規定人数が設定されており、期限内にその人数が集まらないとクーポン購入が成立されません。

そこで、購入希望者は成立されるようにクーポン情報を宣伝することになりますが、そこで威力を発揮するのがツイッターやブログなどの個人による情報発信ツール。ある程度まとまった人数で買うとディスカウントが効くこと自体は目新しいものではありませんが、それにネット上にあるツイッターなどのリアルタイム性+ソーシャルがうまくマッチした仕組みだと思います。

クーポン共同購入サイトとはやや仕組みが異なりますが、自分の欲しい商品・サービスが割引されて利用できるサイトに、モラタメサンプル百貨店などがあります。

例えばモラタメは、モラえる+試(タメ)せるからきている名前で、新商品などの商品を無料でもらえたり、送料のみの負担で試せるのが特徴です。送料が有料でもその商品の定価よりは安いので消費者にとっては割引と同じことと言えます。モラタメやサンプル百貨店の特徴は、使用した後にその商品の感想をブログやコメントを通じてモラタメに返す点にあります(図2)。


■なぜ大幅割引や無料なのか

ではなぜグルーポンには大幅な割引があり、モラタメは無料(一部送料のみ負担)なのでしょうか。

まずグルーポンについて、なぜクーポンが大幅に割り引かれる(50%OFFなど)のかを考えてみます。思うに、共同購入クーポンを発券することが、広告やプロモーションとして位置づけられているからではないでしょうか。つまり、大幅な割引で興味関心を引き立たせ、自分たちのサービスや商品を利用してもらう。仮に赤字であっても、その顧客が自分たちのことを認知してくれる、さらにはまた来てくれる(リピート)を期待してのことです。

一方のモラタメ。無料であることのカギは、使用後の商品のフィードバックにあります。つまり、無料の代わりに感想・評価を教えてね、という仕組み。企業にとっては実際に使った消費者の声が手に入るわけで、少なくともモラタメで提供する商品の価格以上に価値があると判断しているからではないでしょうか。消費者からの評価を商品改良の参考にしたり、ターゲットの検討、販促・プロモーション等々に活かしていくのだと思います。

■それぞれの課題を考えてみる

次に考えおきたいのが、グルーポン系とモラタメ系の目的が本当に達成されるのかという点です。

まずモラタメの場合ですが、目的は消費者の声を集めることです。企業にとって価値があるのは実際に使ってくれた人の評価が得られる点にあります。しかし、そもそも評価を送ってくれた使用者が単に無料だからその商品をもらった・試したことも考えられ、時には商品のターゲットとはズレている人たちの評価を集めてしまうかもしれません。つまり、その商品を買ってほしい人の感想が集まらなければ、その評価を次の商品施策に活かしたとしても有効とは言えず、時には逆効果となってしまうことも考えられます。

そしてグルーポン。これはあくまで推測ですが、グルーポンの場合はクーポンを利用するお客が、単にお得だからという理由だけということが考えられます。共同購入クーポンを発券する目的は自社サービスの認知を広げること・リピート顧客を増やすことにあると思っていますが、このようなお客さんはその目的が達成できない可能性があります。であれば、クーポンを提供することは収益を下げる要因にもなり兼ねません。

もう一つ課題。グルーポンなどのクーポン共同購入については、プレイヤーの淘汰および独占による弊害も出てくる可能性があります。日経ビジネスには、市場参入企業は100社を超え競争が激化し、早くも、勝ち組・負け組の構図が鮮明になりつつあるという記事も見られます(図3)。

 出所:日経ビジネスオンライン

そして日経ビジネス(2010.12.20・27号)には、「グルーポンも独占禁止法違反?」という記事が掲載されています。記事によれば、同誌が以前に入手したというグルーポンが飲食店と結んだ契約書の「パートナー義務」規約内に、パートナーは契約期間の終了後24カ月間において、「理由の如何を問わず、国内企業におけるグルーポンと類似のウェブサービス(Piku、KAUPON、ポンパレ、Qponを含むが、これらに限られない)において出稿、掲載等をしない」とする旨の条項が含まれていたそうです。なお、日経ビジネスの取材後にグルーポン側では急きょ規約を変更し現在はないとのこと。これは、公正取引委員会の立ち入り検査があったDeNAと同じ構図です。

モバゲーやグリーなどのゲームやグルーポンなどの新興ネットビジネス市場は先行優位性が大きいと思います。つまり、先行し顧客を取り囲んでしまえば独占して利益を得られる構造なのではないでしょうか。ユーザーにとっては自分の知らないところでいつの間にか独占状態が起こっており、お得だと思っていてもそれによる負担が発生しているのかもしれません。

※参考情報

さらに拡大を見せる、クーポン共同購入サイトの動向|ビデオリサーチインタラクティブ
http://www.videoi.co.jp/release/20101115.html

グルーポン市場、大手寡占へ|日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101126/217291/

グルーポンも独占禁止法違反?|日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20101216/217577/


投稿日 2010/10/16

次世代ネットTVとこれからの視聴率

TV番組の人気を知る指標の1つに、視聴率があります。

■視聴率の意義

日本では2000年3月以降、「ビデオリサーチ」(以下、VR)の調査結果がそのまま世帯視聴率となっており、同社のHPには視聴率を調査する意義として、以下の点が挙げられています。
・スポーツ番組や大事件が起きた時の特別番組などの視聴率から「国民の関心の高さを探る」
・視聴率の移り変わりから「社会の動きを知る」
・テレビ局や広告会社等が広告取引をする際に、テレビの媒体力や広告効果を測るため
・視聴者がテレビをよく見る時間帯やよく見る番組を知ることで、番組制作・番組編成に役立てる

■VRの視聴率調査

視聴率には「世帯視聴率」と「個人視聴率」の2つがあり、VRが集計をしているのは世帯をベースにした世帯視聴率です。例えば、視聴率が10%の番組というのは、テレビ所有世帯のうち10%の世帯でそのテレビ番組がつけられていた、ということになります。

少し専門的な話になりますが、視聴率の調査方法は大きく3つあります。1.PM(ピープルメータ)システム、2.オンラインメーターシステム、3.日記式アンケート(詳細はビデオリサーチHP)。現在のVRの視聴率調査仕様は以下の通りです(図1、表1)。







なお、VRでは視聴率の対象となるのは、地上波放送、BS放送、CS放送、CATVなどのテレビ放送で、VTRやDVRの録画・再生、テレビゲーム、パソコンによるテレビ放送の視聴などは視聴率に含まれません。

■Apple TVとGoogle TV

今年になって、アップルとグーグルのネットTV発売が話題になっています。アップルTVの特徴は、保存機能をなくしストリーミング放送に特化している、本体価格は99ドル、コンテンツレンタル料金はHD映画を4.99ドル・テレビ番組を99セント、などにあります。

一方で、グーグルTVの特徴は、TVとWebの融合で、TV番組から提携コンテンツやネットまでキーワードで検索できるという点にあります。例えば、TV番組を見ていて、最近気になる商品のCMが流れたので、関連情報をYouTubeや商品のウェブサイトをチェック。あるいは、ブログ、アマゾンや楽天市場、比較サイトなどで口コミや価格を調べる。場合によっては、ツイッターやSNSで友達にシェアしたりなどが、グーグルTVで全部できてしまいます。

おそらく、アップルTVとグーグルTVはそれぞれiOSとアンドロイドOS(あるいはクロームOS)で動くので、モバイルなどの周辺端末とも相性がいいはずです。具体的には、リビングで見ていた番組の続きを、外出先でモバイルで見ることなどの連携ができそうです。

■次世代ネットTVのコンテンツ

このように、特にグーグルTVにおいては従来のTVで視聴できるよりもコンテンツの種類が大きく増えます。動画系のコンテンツとそれ以外のコンテンツに分けて整理してみました(図2、図3)。



 

それぞれ、ぱっと思いついたままに挙げていますので厳密な意味ではないかもしれませんが、ここで強調して言いたいのは、グーグルTVのような新しい価値を提供する次世代ネットTVでは、従来のテレビで見られる番組と比べ多様なコンテンツを楽しむことができるという点です。

■これからの「視聴率」

日本の広告費は約5億2000億円で、うちテレビが約1兆7000億円、一方のネット広告は7000億であり、まだまだテレビのほうが1兆円ほど大きい状況です(2009年の電通調べ)。上記のように、ネットTVが普及し、テレビとネットの広告費は2つの相乗効果が認められればこれらの数字を単純に足し合わせた水準にとどまらず、合計額以上の規模になるかもしれません。

そう考えた時に、上記のような幅広いコンテンツを楽しむことを前提にした場合、冒頭で触れた視聴率では正しく知る指標としては物足りないような気がします。あるいは、前述の視聴率の意義を十分に果たせなくなるように思います。視聴率もまた変わらなければならないのではないでしょうか。

例えば、視聴「率」ではなく、視聴人数や視聴回数などの絶対数のほうが広告効果を測りやすいかもしれません。あるいは、視聴者はどういうリンクをたどり情報を得たのかも気になるところです。多くのコンテンツがオンライン上にあり、また各端末がアンドロイドなどのOSがベースになれば、現在の視聴率調査とは全く異なる新しい手法によりこれらのデータが得られることが期待できそうです。


※参考情報

○視聴率関連

視聴率について (ビデオリサーチ)
http://www.videor.co.jp/rating/wh/index.htm

視聴率 (Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%96%E8%81%B4%E7%8E%87

消費動向調査 - 平成22年3月実施 (内閣府)
http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/2010/1003honbun.pdf

○Google TV / Apple TV

今度こそテレビとWebの統合なるか 「Google TV」は従来のWebテレビと何が違うのか? (@IT)
http://www.atmarkit.co.jp/news/201005/21/tv.html

グーグルTVでテレビはどう変わる? 広告主は歓迎、安いコストでテレビ広告が可能に (日経ビジネスオンライン)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100528/214662/

Apple TVなんて目じゃない、ソニーが「Google TV」採用した理由 (Tech Wave)
http://techwave.jp/archives/51511941.html

早く日本にもやって来い! 新発売のApple TVに驚きの絶賛評価が続出中... (GIZMODE)
http://www.gizmodo.jp/2010/10/apple_tv_review.html

やはりアップルはインターネットテレビを出してきた (大西 宏のマーケティング・エッセンス)
http://ohnishi.livedoor.biz/archives/51124653.html

Apple TV対Google TV、勝つのはどちらか (ITmedia)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1009/10/news011.html

○広告

2009年の日本の広告費 (電通)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2010/pdf/2010020-0222.pdf


投稿日 2010/07/24

書籍「新聞消滅大国アメリカ」

新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)「新聞消滅大国アメリカ」(鈴木伸元著 幻冬舎新書)という本を読みました。気になった部分を中心に、自分なりに整理してみます。


■新聞消滅大国アメリカ

アメリカでは新聞が想像を絶する勢いで消滅しているそうです。「新聞消滅大国アメリカ」はこのような書き出しで始まります。具体的をそのまま紹介すると、「新聞消滅大国」とした状況が見えてきます。
  • 04-08年の5年間で、廃刊になった有料日刊紙は49紙(アメリカ新聞協会)
  • 同5年で発行部数は5460万部から4860万部に減少。10%超の600万部の落ち込み
  • 09年の1年間で同水準の46紙が廃刊(調査機関ペーパーカッツ)
  • NYタイムズ・メディアグループは、06年からの3年で全社員の3割の約1400人を削減
  • ワシントン・ポストは全ての支局を閉鎖

上記のような状況について、オバマ大統領は、「新聞のない政府、活力あるメディアが存在しない政府は、アメリカの選択すべき道ではない」と語りました。大統領がこのように発言するほど、アメリカの新聞業界は危機的な状況にあるようです。


■日本の状況は

「新聞消滅大国アメリカ」ではその大部分をアメリカの新聞やメディアについて書かれていますが、最終章では日本の新聞についても言及されています。

まず挙げているポイントは、アメリカと日本では新聞社の収益モデルが異なるという点です。具体的には、アメリカは収入の8割を広告から得ているのに対して、日本は3割のようです。日本の場合は残りの7割は新聞の販売収入、つまり、新聞代を読者が支払うことで成り立っています。2つ目のポイントとして、戸別宅配率の違いを挙げています。アメリカの74%に対して日本は95%(それぞれ日米の新聞社協会の発表による)。これらの数字を見ると、日本の新聞社の収入は安定しているようにも見えます。

しかし、新聞協会の「新聞研究」による新聞社41社(サンプリングにより抽出)の営業利益を見ると、
  • 06年度:955億円 (対前年比 -4.4%)
  • 07年度:672億円 (対前年比 -29.6%)
  • 08年度: 74億円  (対前年比 -89%)「新聞消滅大国アメリカ」p.183から引用
という減益傾向が見られます。

また、電通が発表した「日本の広告」によれば、09年のメディアの日本の広告費および対前年比は以下のようになっています。
  • テレビ:1兆7139億円 (対前年比 -10.2%)
  • インターネット:7069億円 (対前年比+1.2%)
  • 新聞:6739億円 (対前年比-18.6%)
  • 雑誌:3034億円 (対前年比-25.6%)

広告収入はアメリカの8割に比べ日本は3割とはいえ、09年に新聞はついにインターネットに抜かれた状況です。


■新聞がなくなったら何が起こるのか

では、もし新聞がなくなってしまうとどうなるのでしょうか。本書では、新聞廃刊に関するある調査結果が引用されています。プリンストン大学のサム・シェルホファーによる、07年の新聞が廃刊となったある地方選挙についての統計学的な分析です。それによると、以下のような記述があります。
  • 選挙での投票者の数が軒並み減少した
  • これは新聞廃刊による情報減少で、有権者の政治への関心低下が考えられる
  • 立候補する候補者の数も減少
  • 競争が起きにくくなり、現職に有利な状況が生まれる

地元の新聞が完全に消滅したケンタッキー州コビントンのある住民は、次のように嘆いています。「とにかく地元のニュースが入ってこなくなった。」


■新しいメディアのかたち

一方で、「新聞消滅大国アメリカ」では新聞に取って代わりつつあるメディアについても紹介しています。以下、4つほど書いておきます。

グーグル・ニュースやヤフー・ニュースでは、様々なニュースの見出しや本文が無料で閲覧できます。アメリカン・オンライン(AOL)は新聞社をリストラされた記者をリクルートし、ニュースの発信を行っています。グーグルやヤフーは自らが取材をしているわけではないのに対し、AOLは自ら取材し情報を提供しています。

ニュース記事などの情報に対して「課金」を行う動きもあります。日本では日経新聞電子版が代表的ですが、アメリカではウォールストリートジャーナルは1996年のサービス開始当初から有料で配信し、課金制の成功事例とされています。

もう一つ、アメリカで議論になっているものとして、新聞社をNPO(非営利団体)とし政府による救済を行うというものがあるそうです。併せて、税制上の優遇措置を与えることや新聞社への寄付についても税制上の優遇を与えることについても議論になっているとのこと。しかし、新聞社のNPO化については反対意見が多いのが現状のようです。理由は政府による支援を受けることで言論の自由が妨げられるのではないか、あるいは、そもそも新聞社を救う必要があるのかというものです。寄付についても同様で、寄付の出資先に対して時には批判的な記事も書くことになりますが、果たして書けるのかどうかという懸念もあります。

アメリカのジャーナリズムの方向性の1つに調査報道があります。これは、長期間に及び取材を重ねることで事実関係を積み上げ、最終的には社会の隠れた問題や政治問題を暴くという取材スタイルです。新聞が衰退する一方で、注目を集めていると本書では書かれていました。


■ジャーナリズムと新聞

本書で印象的だったのは、ジャーナリストの立花隆氏による、新聞が担うべきジャーナリズムの定義についてです。

「もし新聞がただひとつだけの機能しか果たさないものであると仮定した場合、新聞は社会において正義が行われているかどうかということをモニターする、絶えず監視する役目をつとめなければならないということになるでしょう。(中略) 現代社会では、ジャーナリズムが正義の夜警役をつとめなければならないわけです」 (p.190から引用)

個人的には、報道機関が正しく情報を報道し、それが社会における監視役となることは期待したいですが、ただ一方で、その役目は必ずしも新聞でなければいけないとは思わないです。これまでは最も手軽であった新聞が、インターネットによりその立場が難しくなっていると思います。アメリカで起こっている新聞業界の衰退や相次いで廃刊する状況と同じことが日本でも起こるかもしれません。新聞が他の情報媒体との「強み」を再構築する時が来ているのではないでしょうか。


※参考情報

09年「日本の広告費」 (電通)
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2010/pdf/2010020-0222.pdf


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書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。Google でシニアマーケティングリサーチマネージャーを経て独立し現職。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。