先週は1週間の休みを取り、ペルー旅行(メインはマチュピチュやナスカの地上絵)に行ってきました。ペルーは日本から見て地球の裏側に位置し、移動はさすがに長時間になりました。ペルーへ行くだけでも成田-LA-リマ(ペルー)と、乗り継ぎ時間も合わせると24時間を超えます。そんな長いフライト時間だったのであらためてゆっくり読めたのはスティーブジョブズの伝記でした。(スティーブ・ジョブズ Ⅰ、スティーブ・ジョブズ Ⅱ)
■What creative people could do with the computers
ジョブズの生き方、人生観はすでに過去にエントリーしています。
あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観|思考の整理日記
スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及|思考の整理日記
伝記を読みそれ以外で印象的だったのは、アップルがMac、iPod、iPhone、iPadなど世界を変えることになる製品を次々に世の中に送り込んだストーリーでした。私自身が新規事業開発のプロジェクトに参画していることもあり、開発経緯の話がおもしろかったです。本書で、特に印象的だったフレーズがあります。
It was designed to celebrate not what the computers could do, but what creative people could do with the computers.
焦点をあてるべきは、コンピュータになにができるかではなく、コンピュータを使ってクリエイティブな人々はなにができるか、だ。
(英文は原作より。訳は日本語版(Ⅱ)p.74より)
※ちなみに、原作は手元にないのですが、ペルーへの乗り継ぎ地点のLA空港の売店に原作本が売っており、せっかくなので上記の文章をお土産に帰ってきました
この表現はアップルの考え方をとてもよく表していると思います。普通であれば「コンピュータになにができるか」、つまり自分たちがつくったものの機能や特徴をユーザーに最大限アピールすることに注力します。しかし、アップルのやっていることはもう1歩踏み込んだところまで考え、実行しています。それが「コンピュータを使ってクリエイティブな人々はなにができるか」。すなわち、単に機能だけを伝えるだけではなく、どんな人たちが使うかを想定し、そのユーザーがどうやって手に取り、さらには利用シーンや使用目的までも考えるのです。だから、「コンピュータになにができるか」にとどまらず、「人々になにができるか」まで力を注ぐ。言い換えれば、アップルはユーザー体験にまで焦点を当てている。スティーブジョブズの伝記では、ジョブズが「ユーザーのことを考えるから、体験全体に責任を持ちたい」という言葉が紹介されています。おそらく、アップルではプロダクトの設計や開発段階からユーザー体験まで深く議論をしているのではないかと思います。
アップルがユーザー体験を重視する考え方は、例えばiPadのCMでもまさにその通りのメッセージを私たちに訴えています。iPadというデバイスが主役ではなく、あくまでユーザーがiPadを使って何ができるかを伝えようとしているように思います。
iPad2 CM 日本版 2 Apple|YouTube
■アップルのエコシステムとユーザー体験
音楽プレイヤーのiPodの開発でもユーザー体験を重視する姿勢が描かれていました。iPodをリリースする前、ジョブズたちは既存の音楽プレイヤーが複雑でとても使いにくと思っていました。もっとシンプルに、もっと使いやすく。そして結論はPCの中にあるiTunesをハブとし、iPodを同期させることでした。iPodはあくまで衛星的な存在であり、曲のプレイリスト作成などの機能をiTunesのみで可能とし、iPodには同期させるだけ。iPodでできることをあえて制限したのです。ジョブズはこの形を「複雑な部分をあるべき場所に移ってゆけた」と表現します。
PCを「デジタルハブ」とするビジョンをジョブズが描いたのは2001年でした。音楽プレイヤーだけではなく、その後のiPhoneやiPadもPCと同期させるという関係性をつくります。PCを中心としたエコシステムであり、とてもうまくコントロールされているのです。
ところがジョブズ自らがこのエコシステムを壊していくことになります。デジタルハブと置いたPCを他のデバイス同様のレベルに降格させ、替わりにデジタルハブとして位置付けたのがクラウドでした。伝記にはクラウドをハブとする構想は2008年ごろに抱いていたことが書かれ、そして2011年6月のWWDC(世界開発者会議)の講演で新しいサービスであるiCloudとして発表されます。2000年代がPCであり、次の2010年代はクラウドがハブとなるのでしょう。アップルのデジタルハブという戦略はぶれることはありませんが、技術や時代に合わせてPCからクラウドに自らで移行しているのです。それもこれも、より使い勝手のよいサービスにしたいという思いから。ハブをクラウドにするという変化の底にはユーザー体験があるのです。
■「全てが一体となって機能する」というアップルのコンセプト
とはいえ、ハブをPCからiCouldにするという変化はまだまだ移行期にあると感じます。iOS5へのアップデート後に実際にiCloudを使っていますが、アプリの取り込みやバックアップの実行は依然としてPC経由でもやっています。今のところハブはPCとクラウドの2つが併存している。この状況はジョブズの言う「抜群の使い勝手」にはもう一歩という感じです。
iPhone、iPadなどのアップルの製品を使っていて感じるのは、「全てが一体となって機能する」使いやすさです。PCに入っているiTunesを中心にしていた世界では、同期させるのは手動でつなげる必要がありました。これがデジタルハブという中心が完全にiCloudになる時、気づけば全てが一体となっているはずです。勝手に同期してくれる分、人々は「なにができるか」に集中できます。「コンピュータになにができるか」ではなく、「人々になにができるか」。これからのアップルにもこの姿勢を期待したいです。
※参考情報
あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観|思考の整理日記
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iPad2 CM 日本版 2 Apple|YouTube
iCloudで携帯電話以来の大変化が起こる...それは未来のコンピューティング|ギズモード・ジャパン
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スティーブ・ジョブズの死生観とシンプルへの追及|思考の整理日記
伝記を読みそれ以外で印象的だったのは、アップルがMac、iPod、iPhone、iPadなど世界を変えることになる製品を次々に世の中に送り込んだストーリーでした。私自身が新規事業開発のプロジェクトに参画していることもあり、開発経緯の話がおもしろかったです。本書で、特に印象的だったフレーズがあります。
It was designed to celebrate not what the computers could do, but what creative people could do with the computers.
焦点をあてるべきは、コンピュータになにができるかではなく、コンピュータを使ってクリエイティブな人々はなにができるか、だ。
(英文は原作より。訳は日本語版(Ⅱ)p.74より)
※ちなみに、原作は手元にないのですが、ペルーへの乗り継ぎ地点のLA空港の売店に原作本が売っており、せっかくなので上記の文章をお土産に帰ってきました
この表現はアップルの考え方をとてもよく表していると思います。普通であれば「コンピュータになにができるか」、つまり自分たちがつくったものの機能や特徴をユーザーに最大限アピールすることに注力します。しかし、アップルのやっていることはもう1歩踏み込んだところまで考え、実行しています。それが「コンピュータを使ってクリエイティブな人々はなにができるか」。すなわち、単に機能だけを伝えるだけではなく、どんな人たちが使うかを想定し、そのユーザーがどうやって手に取り、さらには利用シーンや使用目的までも考えるのです。だから、「コンピュータになにができるか」にとどまらず、「人々になにができるか」まで力を注ぐ。言い換えれば、アップルはユーザー体験にまで焦点を当てている。スティーブジョブズの伝記では、ジョブズが「ユーザーのことを考えるから、体験全体に責任を持ちたい」という言葉が紹介されています。おそらく、アップルではプロダクトの設計や開発段階からユーザー体験まで深く議論をしているのではないかと思います。
アップルがユーザー体験を重視する考え方は、例えばiPadのCMでもまさにその通りのメッセージを私たちに訴えています。iPadというデバイスが主役ではなく、あくまでユーザーがiPadを使って何ができるかを伝えようとしているように思います。
iPad2 CM 日本版 2 Apple|YouTube
■アップルのエコシステムとユーザー体験
音楽プレイヤーのiPodの開発でもユーザー体験を重視する姿勢が描かれていました。iPodをリリースする前、ジョブズたちは既存の音楽プレイヤーが複雑でとても使いにくと思っていました。もっとシンプルに、もっと使いやすく。そして結論はPCの中にあるiTunesをハブとし、iPodを同期させることでした。iPodはあくまで衛星的な存在であり、曲のプレイリスト作成などの機能をiTunesのみで可能とし、iPodには同期させるだけ。iPodでできることをあえて制限したのです。ジョブズはこの形を「複雑な部分をあるべき場所に移ってゆけた」と表現します。
PCを「デジタルハブ」とするビジョンをジョブズが描いたのは2001年でした。音楽プレイヤーだけではなく、その後のiPhoneやiPadもPCと同期させるという関係性をつくります。PCを中心としたエコシステムであり、とてもうまくコントロールされているのです。
ところがジョブズ自らがこのエコシステムを壊していくことになります。デジタルハブと置いたPCを他のデバイス同様のレベルに降格させ、替わりにデジタルハブとして位置付けたのがクラウドでした。伝記にはクラウドをハブとする構想は2008年ごろに抱いていたことが書かれ、そして2011年6月のWWDC(世界開発者会議)の講演で新しいサービスであるiCloudとして発表されます。2000年代がPCであり、次の2010年代はクラウドがハブとなるのでしょう。アップルのデジタルハブという戦略はぶれることはありませんが、技術や時代に合わせてPCからクラウドに自らで移行しているのです。それもこれも、より使い勝手のよいサービスにしたいという思いから。ハブをクラウドにするという変化の底にはユーザー体験があるのです。
■「全てが一体となって機能する」というアップルのコンセプト
とはいえ、ハブをPCからiCouldにするという変化はまだまだ移行期にあると感じます。iOS5へのアップデート後に実際にiCloudを使っていますが、アプリの取り込みやバックアップの実行は依然としてPC経由でもやっています。今のところハブはPCとクラウドの2つが併存している。この状況はジョブズの言う「抜群の使い勝手」にはもう一歩という感じです。
iPhone、iPadなどのアップルの製品を使っていて感じるのは、「全てが一体となって機能する」使いやすさです。PCに入っているiTunesを中心にしていた世界では、同期させるのは手動でつなげる必要がありました。これがデジタルハブという中心が完全にiCloudになる時、気づけば全てが一体となっているはずです。勝手に同期してくれる分、人々は「なにができるか」に集中できます。「コンピュータになにができるか」ではなく、「人々になにができるか」。これからのアップルにもこの姿勢を期待したいです。
※参考情報
あらためて考えさせられるスティーブ・ジョブズの死生観|思考の整理日記
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