投稿日 2024/10/28

VTuber ファンの 「解釈一致」 が拓く、お客さんとの共創ブランディング

#マーケティング #解釈一致 #ブランド

自社のブランドは、お客さんからの共感や愛着を高められているでしょうか?

現代のマーケティングでは、企業が一方的に発信するだけではなく、お客さんと共にブランドをつくり上げることが求められています。ではどうすればいいのかへのヒントとして、VTuber のファンコミュニティにおける 「解釈一致」 という概念があります。

そこで今回は、VTuber への解釈一致を掘り下げ、その魅力とブランディングへの応用例について解説します。

 「解釈一致」 がなぜ生まれるのか?
VTuber ファンにとって、解釈一致はどのような役割を果たしているのか?
そして、企業やブランドにとって解釈一致という概念はどのような可能性を秘めているのか?

これらの問いに対する答えを、ぜひ一緒に紐解いていきましょう。

VTuber への 「解釈一致」 


VTuber への 「解釈一致」 というカルチャーがおもしろいです。

解釈一致とは

解釈一致とは、特定のキャラクターやコンテンツに対する自分の理解や認識が、他のファンと一致することを指します。この概念は元々、アニメやマンガの二次創作の場で使われており、作品の設定やキャラクターの捉え方が共通していることを表現する言葉です。

VTuber のファンコミュニティにおいては、ファンが描くファンアートや VTuber の言動に対する共通の認識が 「解釈一致」 として認識されます。

VTuber は視聴者との距離が近く、視聴者と一体となって VTuber の概念をつくり上げていくという特徴があります。ここではファンの解釈が重要な役割を果たします。

具体的な解釈一致への行動

では解釈一致の具体的な中身 (行動内容) をいくつか見ていきましょう。

✓ ファンアートの作成と共有
  • ファンが、自分の好きな VTuber を描いたファンアートを SNS に投稿する
  • それを見た他のファンが、VTuber のキャラクター設定やビジュアル、普段の言動にもとづいて描かれていると思えば 「解釈一致」 となる

✓ SNS での議論と共有
  • VTuber の発言や行動について、SNS などでファン同士が感想を語り合ったりなど活発なやりとりが起こる
  • たとえば、VTuber の配信内容や X への投稿に対する解釈が一致する

✓ VTuber とのコミュニケーション
  • VTuber はファンからのコメントやファンアートを取り上げることがある
  • ファンの解釈が VTuber 本人によって認証される形になり、より解釈一致が進む

✓ プロフィール画像やヘッダーへの使用
  • さらに VTuber がファンアートを自身のプロフィール画像やヘッダーなどに正式に採用する
  • ファンアートに対する 「解釈一致」 が公式に認められることになる

解釈一致が起こる背景と要因

では、解釈一致はどのような状況やメカニズムで起こるのでしょうか?

次にこの論点を整理してみましょう。

✓ 共感と連帯感の醸成
  • 同じ VTuver が好きな人同士で SNS やコミュニティを通じてつながっている
  • 推しの VTuber についての解釈が自分だけの認識ではなく他の人たちとも同じだとわかることで、相手への共感や集団での連帯感が生まれ、コミュニティの一体感が強まる

✓ 炎上回避の意識
  • 特に若い世代は SNS での炎上に敏感
  • 自分が炎上しないためには、他者の意見や気持ちに配慮するようになり、解釈が一致することでトラブルや批判を避けやすくなる
  • コミュニティでの心理的安全性が生まれ、安心して自己表現ができる環境が整う

✓ 自己表現と他者配慮のバランス
  • 自己表現を大切にしつつも、他人の感情や意見も尊重したいと思う
  • 特定の対象 (例: VTuber) への解釈一致を意識することで、自分の意見を表現しながらも他者との共通理解を得られ、バランスの取れたコミュニケーションになる

✓ VTuber との双方向の関係
  • VTuber はファンと双方向のコミュニケーションを図ることが特徴
  • 解釈一致を通じて VTuber との関係性を深めることができ、ファンは自分も VTuber と共にキャラクターやコンテンツを育てる一員だという実感を得られる


ブランディングへの示唆


VTuber のファンコミュニティにおける 「解釈一致」 という概念は、マーケティングでのブランディングにおいて示唆を与えてくれます。

ブランドとは

まずはそもそものブランドとは何かですが、ブランドとは、商品やサービスに付随する価値や意味、特有のらしさ、イメージの総称です。

商品・サービスに好意的な感情、たとえば、好き・満足・共感・誇り・憧れ・応援などの気持ちが伴っていれば、高級品ではなくてもそれはブランドです。

商品がブランドになることによって、他の類似商品とは違うものだと識別されます。ブランドは、他の商品とは一線を画す 「らしさ」 を持ち、機能的あるいは感情的な価値をお客さんにもたらします。顧客価値が認識されることで、その商品は特別な存在としてお客さんから選ばれるようになるわけです。

ブランディングとは、商品やサービスをブランドにする活動です。

商品・サービスに対してお客さんからの好ましい感情を抱いてもらうよう働きかけ、商品への良いユーザー体験から良い記憶が残り、ブランドはお客さんの頭の中に 「良い価値イメージの総体」 としてできあがります。

強いブランドはお客さんの心に深く刻まれ、長期的なロイヤルティ (愛着感や絆) を生み出します。

解釈一致からのブランディングへの示唆

ここで VTuber の 「解釈一致」 と話をつなげます。

解釈一致とは、VTuber のキャラクターや世界観、生み出されるコンテンツへの理解と認識が、他のファンと一致することでした。たとえばファンが描くファンアートにおいて VTuber のキャラ設定に沿っていて、皆で共通していれば解釈一致になっている状態です。

これをブランドの観点で当てはめると、売り手である企業がブランドイメージを一方的に世の中に発信するのではなく、受け手であるお客さんと一緒になってブランドの世界観や目指す姿、ブランドとしての 「らしさ」 をつくり上げるということです。いわば売り手と買い手の共創によるブランドイメージの構築となります。

お客さんにとって、その商品やサービスがどんなイメージかをお客さん同士で共有し合うーー。あるいはお客さんからブランドに向けて発信していくことで、ブランドがお客さんからの自社ブランドのイメージを吸収し取り込むーー。

このような事象が起これば、売り手とお客さんでの双方向でのやり取りから成るブランドとなるわけです。

VTuber のファン同士が解釈一致を通じて共感を深め合うように、ブランドもお客さんとの双方向のコミュニケーションによって、強固なブランドイメージを築いていくことができます。

余白を入れる

VTuber の解釈一致から得られるもうひとつの示唆は、ブランドが目指す世界観や 「らしさ」 において、意図的に余白を残すことです。

余白をお客さんとブランドが協同して埋めていくことで、ブランドイメージが共有され、解釈一致の状態になります。いわばプロセスエコノミーのようなもので、ブランドとお客さんが共創する過程自体が価値を持ちます。

ブランディングの解釈一致の実践


VTuber とファンとの解釈一致の活動をブランディング施策に応用すると、次のような打ち手が考えられます。

ブランドストーリーの共創

ブランドの背後にあるストーリーや価値観を、お客さんと一緒に創り上げていく取り組みです。

たとえば、ブランドの歴史や製品開発の背景に関するエピソードを共有し、お客さんからの意見や感想を募ります。集まったお客さんからのストーリーはブランド全体のストーリーをより豊かにするでしょう。

お客さんはブランドの一部になるように感じられ、ブランドへの親近感を高めてもらえることが期待できます。

製品デザインへの参加

お客さんからデザインのアイデアを募集し、実際の製品開発に反映させる取り組みもできます。

具体的には、限定商品のデザインをお客さんから公募し、いくつかの優れたデザインを実際に採用することで、お客さんとブランドの共同制作が実現されます。全員ではありませんが、採用されたお客さんは自分のデザインアイデアが形になる喜びを感じ、ブランドへの愛着が深まります。

ブランドイメージの共有キャンペーン

お客さんがブランドに対して抱くイメージや想いを共有するキャンペーンを実施します。

たとえば、ブランドに関連する写真や動画、エピソードを SNS 上で募集し投稿してもらい、お客さん同士のブランドイメージの共有を促進します。

公式アカウントで 「いいね」 をしたり、リポストから発信すれば、お客さんは自分の解釈がブランドに公式に取り入れられる喜びを感じ、ブランドとの一体感が生まれるでしょう。

製品の使い方の提案と共有

お客さんから製品の使い方や活用シーンのアイデアを募集し、良い提案を公式サイトや SNS で紹介するというのも有効です。

お客さんは、自分の普段の使い方、創意工夫がブランドに認められる喜びを感じ、他のお客さんのアイデアから気づきや刺激を得られます。製品の価値や可能性が広がり、ブランドへの利用意向が高まることでしょう。

ブランドイベントへの参加と交流

別の施策として、ブランドが主催するイベントやワークショップにお客さんを招待し、直接的な交流を図るという方法もあります。

ブランド主催イベントでは、ブランドの世界観を体験しながら、他のお客さん同士の交流を通じて、ブランドへの理解や愛着を深めることができます。また、イベントでのお客さんの反応や意見を、今後のブランディングに活かせるでしょう。

以上のような打ち手から、ブランドとお客さんの解釈一致を促進し、ブランドへの愛着や信頼を高めることができます。

ブランドとお客さんが共に創り上げるブランディングは、強い絆と一体感を生み出し、ブランドの価値を高めます。

まとめ


今回は VTuber への 「解釈一致」 から着想を得て、マーケティングのブランディングへの示唆を考察しました。

最後にポイントをまとめておきます。

  • ブランドとは、お客さんから好ましい感情やイメージが伴った商品やサービスのこと。ユニークな 「らしさ」 を持つことで、他の類似商品とは異なる存在として識別される。強いブランドはお客さんの心に深く刻まれ記憶として残り、長期的なロイヤルティを生み出し、持続的な成長を実現する

  • 解釈一致とは、特定のキャラクターやコンテンツに対する理解や認識が、自分と他のファンとで一致すること。VTuber への 「解釈一致」 の概念は、ブランド構築において企業と顧客の共創が重要であることを示唆する

  • ブランドイメージは企業が一方的に発信するものではなく、お客さんとの双方向のやり取りを通じて形成されるもの

  • たとえば、お客さん同士がブランドに対する意見や感想を共有し、ブランドが取り入れることでブランドへの解釈一致が進む。VTuber のファン同士が共感を深めるように、ブランドもお客さんとの共創により成長していく

  • 具体的な共創でのブランディング施策として、製品デザインへのお客さんの関与、顧客参加型のキャンペーンやイベント、ブランドストーリーや使用方法の共有などを通じて、お客さんとブランドの一体感を醸成できる


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多田 翼 (運営者)

書いている人 (多田 翼)

Aqxis 代表 (会社 HP はこちら) 。マーケティングおよびマーケティングリサーチのプロフェッショナル。ベンチャーから一部上場企業の事業戦略やマーケティングのコンサルティングに従事。

前職の Google ではシニアマネージャーとしてユーザーインサイトや広告効果測定、リサーチ開発に注力し、複数のグローバルのプロジェクトに参画。Google 以前はマーケティングリサーチ会社にて、クライアントのマーケティング支援に取り組むとともに、新規事業の立ち上げや消費者パネルの刷新をリードした。独立後も培った経験と洞察力で、クライアントにソリューションを提供している。

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名古屋出身、学生時代は京都。気分転換は朝のランニング。